第4回は「人材育成部門」に選ばれた、エーピーコミュニケーションズ(APC)です。同社は最先端技術を駆使し、クラウドを含むインフラストラクチャ―の構築、運用、システム開発までワンストップで提供するエンジニア集団。IT業界の多聞にもれず、離職率の高さに悩んでいたそうです。しかし、「キャリア相談室」という部署をもうけたことで、たった1年で20代社員の離職率を低減させること下げることに成功しました。その秘けつを、同室のキャリアカウンセラーである池田さんに聞きました。
IT業界の構造的な課題に直面していた
──今回の受賞理由となった「キャリア相談室」が設置された理由を教えてください。
20代の若手社員の早期離職という課題に対応するためです。IT業界の人財不足が深刻化するなかで、当社では新卒学生や未経験者の採用も積極的に行なっています。彼らの中長期的な視点での育成は社の将来を担う重要課題。
ですが、「3〜5年後のキャリアプランを描けていない」と自己分析する若手は6割を超える状況。一方で、管理職はほとんどがプレイングマネージャーで、業務や短期的な目標達成のサポートはできても、中長期的なキャリア開発の支援までをする余裕がない状況がありました。
「キャリア相談室」はこの双方の課題を解決するために、2018年1月に立ち上げた組織です。
──「売上に直結しない部署の新設は、社内の合意とりつけが難しい」という話をよく聞きます。エーピーコミュニケーションズではどうだったのでしょう。
最終的には、経営者がゴーサインを出してくれました。そこにいたるまで、約半年かけて企画者がトップに4回のプレゼンをして、納得してもらいました。
同様の制度を導入していた数少ない事例である3社にヒアリングに行き、導入後の変化や導入にあたっての注意点といった情報も集めました。費用対効果だけでなく、起こりうる失敗やリスクなども経営者視点から企画に練りこみ、エビデンスにもとづいた内容を、熱意をもって訴え続けたことが、最終的には響いたようです。
評価をしない第三者が若手の相談にあずかる
──「キャリア相談室」の具体的な取り組みを聞かせてください。
立ち上げ1年目は、20代社員を対象に、3ヵ月、6ヵ月、1年と定期的に1時間程度の面談を行いました。ポイントは面接を「必須」にした点と、人事組織と完全に切り離した点です。他社のヒアリングで、浸透までに時間がかかることは予想できていました。
任意にしてしまうと相談に来てもらえないリスクがあり、まずは「必須」にして、相談室と若手社員との関係性を築いていくことを優先しました。関係性さえできれば、いずれ自発的にも利用してもらえるだろうと考えたのです。
くわえて、人事ではなく教育部門のひとつとして、中立的な組織にしました。「評価に影響する心配があると、場をつくっても相談には来ない」と予想したからです。相談内容に対する守秘義務を徹底し、それをしっかり明文化して通達しています。
また、面接と並行して、キャリアデザイン研修も開始。主体的に仕事に取り組めるきっかけづくりを目的に、個々の強みを診断するツールを使って、ワークを行っています。
──そのような研修内容は、社内で企画しているのですか。
はい。もともと当社では10年以上前から「APアカデミー」という研修制度があり、自己啓発の機会提供を大事にしています。「お客様のビジネスに寄り添い、本気で考えることの出来るマルチエンジニアを育てたい」という考えから、講座の種類や内容を年々充実させており、現在では100以上の独自講座があります。
当社では、約380名の社員のうち8割以上が客先にいる状況。ですから、APCの文化や考え方を浸透させ、会社への帰属意識を育てるためにも、このアカデミーの存在を社長はじめみんなが、非常に重視しています。
──客先に常駐する社員が多いとなると、面談での一人ひとりの状況理解は難しかったのではないでしょうか。
そうですね。詳しく理解したいと思い、事前に面談者の状況を調査して把握してから行なっていたこともあります。でも、固定概念が生まれてしまって逆によくないと実感。いまは「まっさらな状態で本人からまずは状況を聞く」ことを大事にしています。
基本的には帰社してもらって面談していますが、必要に応じてSkypeでの面談や、こちらが常駐先に出向いての面談も行なっています。
面談の内容は書き起こして本人に共有します。言語化された面談内容を事後に確認することで、本人の新たな気付きに繋がる場合があるからです。守秘義務があるので、面談内容は人事にも上長にも一切共有はしません。
「自分では上司に伝えにくいから、池田さんから伝えて欲しい」と本人が希望する場合もあるので、その場合は私から上司に伝えることもあります。
離職防止には上司と部下、両方への働きかけが必要
──若手をマネジメントする管理職には、どのような働きかけをしたのでしょうか。
部下との信頼関係構築の支援と、傾聴スキルの強化に取り組みました。具体的には、まず管理職55人の日ごろの振る舞いについて、全社員にアンケートを実施。部下からのリアルな声をフィードバックし、自身が気づいていないコミュニケーション上の課題を自覚してもらいました。
そのうえで、実際の事例にもとづいた「対人関係の質を向上させるための研修」を管理職全員に実施しました。
部下からのリアルな声は大きな刺激になったようです。「断片的な情報だけで部下を判断していた」「いかに部下に関心をもてていなかったか思い知った」といった声が寄せられています。「20代の育成という視点をそもそも、もっていなかった」と気づいた人も。
研修を経て8割以上が「行動が変化した」と回答しています。若手の離職防止は、若手と管理職、両方に対して行なっていかなければ意味がないこと、研修も含めて全体的な施策として行う必要性があることを、我々もこの1年を通じて痛感したしだいです。
──この1年間の取り組みの手ごたえを聞かせてください。
たった1年で、離職者に占める20代社員の割合を半減させることができました。個別の調査でも、「離職の可能性もあった」状態から「APCでがんばり続けたい」に意識が変わった若手が26人も。離職リスクを回避できました。
「気持ちが前向きに変化した」「自分の強みがわかった」「失敗を恐れる気持ちが減った」という声のほか、「面談で言語化することで、考えが明確になった」という声も多く聞かれましたね。
面談を通じて私自身が経験を積みノウハウを蓄積することで、アドバイスや支援の内容を年々ブラッシュアップして、より個々の状況にあったものにしていけるだろうと考えています。
──ホワイト企業アワード受賞を受けての感想を聞かせてください。
自分たちが「きっと効果がある」と信じて取り組んできたことを、社外の方々の視点から評価いただいたことは非常に光栄です。今後への大きなはげみになりました。表彰式で共有された他社さんの取り組みも非常に刺激になりました。
一方で、受賞は採用面で、求職者にとっての安心材料として大きく響いているようです。
──最後に、今後の目標を教えてください。
相談室設置から2年目になる今年は、面接のわくを35歳にまで広げて取り組んでいます。ライフステージが大きく変わる世代なので、「20代とはまた、よりそい方が異なってくるな」と実感しています。仕事は「人」ありき。
その「人」の気持ちが不安定になると、公私にダメージがおよぶので、できるだけ全社員が“心理的安全性の高い状態”でいられるよう、さまざまなカタチで貢献していきたいですね。
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