人員があまっているほうが働き方改革は前進する
働きやすい職場づくり、すなわち“ホワイト化”は、いまや規模や創業年数に関係なく、喫緊の経営課題。人手不足が深刻化するなか、激しくなる一方の優秀人財の争奪戦に勝ち抜く、決め手ともなりえます。そこで本特集では、財団法人日本次世代企業普及機構が開催する「ホワイト企業アワード2019」の受賞企業を取材。応募総数1091社のなかから選ばれた25社のなかから、とりわけ参考になる取り組みをしている企業の事例を紹介します。
第2回は「ワーク・ライフバランス部門」に選ばれた、ヤマダイ食品です。本社工場をかまえる三重県四日市市を発祥の地とし、「オクラのごま和え」や「茨城小松菜」といった、家庭的なお惣菜を業務用で全国へ提供。最近はアメリカやタイなど海外展開にも注力しています。そんな同社は、独特の方法でホワイト化を実現しているといいます。その中身について、企画系の部署の若手社員、おふたりにお話を聞きました。

仕事を「させない」ほうが成果はあがる

──ヤマダイ食品では徹底して「長時間労働をしない風土」づくりをしているそうですね。

 松本奈々さん(以下、松本) はい。当社は戦前に三重県で佃煮の製造・販売を手がける会社としてスタート。1980年に現在の姿として設立してしばらくは、いまとはまったく時代背景が違いますから、当時を知る役員や社員が“どブラック”と自虐的に振り返るような状況だったそうです。

短期的に見るならば、あるいは同じことをやり続けるならば、長時間労働は経営効率の面からは理にかなっているかもしれません。しかし長期的に、そして変化に対応していくという観点から見るならば、長時間労働からはイノベーションが生まれません。しかも社会の変化に対応できないリスクがあるのです。

結果的に、企業成長が止まってしまいます。「仕事をさせないという制限をつくったほうが、改善やイノベーションが起こりやすくなる」という考えから、徐々に長時間労働をさせないカタチをつくっていったわけです。

石橋みずきさん(以下、石橋) サッカーにたとえてお話ししましょうか。「試合時間は90分」と決められているからこそ、めいっぱいやりきれる。そんなイメージです。時間の区切りがなければダラダラしてしまって成果につながらないことが多い。ですから、「もうちょっと仕事したい」と思うくらいで帰ったほうが、翌朝から健全かつ意欲的に仕事にのぞめると考えています。

──長時間労働をさせないために、どんなルールをつくっているのでしょうか。

松本 帰社についていえば、「18時25分までに全員撤収」を鉄則としています。新入社員ならば18時02分。年次が増すごとに数分だけ遅くしています。若い社員が帰るのを見届けて、いちばん年次の高い社員が最後に帰る、その期限が18時25分というわけです。時間厳守を徹底するために、「最後になった人は一発ギャグをする」なんてルールをつくっていた時期もあるんですよ(笑)。だから、みんな、クモの子を散らすようにサッと退社しています(笑)。

実際そうして帰ってみると自分の時間がもてるので、思いきり趣味などに没頭できる。頭がスッキリして、翌日また前向きに仕事に取り組める。「非常によいサイクルができているな」と、いち社員の立場からも実感しています。

石橋 ワーク・ライフバランスの観点では、有休の100%消化が義務づけられています。さらに、「どんなに重要な会議があっても、家族の事情を優先してOK」というルールもあります。役員でもそれを実践しています。

産休・育休の取得については「取りにくい」という風潮はまったくないと思います。代表の樋口自ら、3ヵ月間の育休を取得したくらいですから。その期間は、今の常務が社長を務めていましたね。

産休・育休取得者が続いて、企画部の社員がひとりになってしまった時期があったとき、樋口が「ぼくが補佐するから。一緒に仕事しよう」と毎日コミュニケーションをとってくれ、支援してくれたことも。とても印象に残っています。

つねに“人員過剰”の状態にしてきた

──理想的なワーク・ライフバランスをかなえつつ、毎年10%以上の企業成長を続けていますね。その秘けつはどこにあるのでしょうか。

 松本 つねに社内を“人員過剰”にしています。つまり、「代わりの人員がいないから、今日は休めない…」という状況をつくらないようにしているわけです。樋口自身が「一人ひとりの生産性は高くないほうがいい」といっているほど。例年、「よさそうだ」と思った学生は、人数の制限なく内定を出し、採用しています。財務部の社員だけはハラハラしているようですが…(笑)。

──なるほど。しかし、“人員過剰”の状態で、利益を出すのは難しいと思います。どのように成立させているのでしょうか。

 石橋 まず、事業面でいえば、薄利多売に走らないことをモットーにしていることです。販売の目的は売上ではなく、利益獲得なので、「売上を増やすために単価を下げて量を売る」という選択はせず、原則として定価販売をしています。また、「競争しない」というのも当社のモットー。

じつは、当社は主力商品であるお惣菜について、惣菜メーカーの定番である「ひじきの煮物」や「きんぴらごぼう」などの売上はほとんどありません。売上のボリュームは大きいでしょうが、競争が激しい商品なので、利益は低くなるからです。利益につながる、独自の創作料理にこだわっています。

 松本 組織面では、社員への利益還元の比率を大きくして、社員の仕事へのモチベーションや会社へのロイヤリティを高めています。そのことで、短い労働時間でも高い成果が出せるので、企業成長につながっています。

「豊かさをどう分配するかしだいで、会社はいかようにも理想的につくれる」というのが樋口の信念。当社は現在、年商30億円超の段階ですが、同じ業界で年商100億円の企業よりも営業スタッフの数が多く、しかも給与水準が高い。

そのぶん、人件費負担は大きいわけですが、樋口が社長に就任した時点から「そもそも会社は株主のものなのか?」という疑問が大前提にあり、「自分がたまたま社長になっているだけ」という考えなので、社員への還元比率が高いんですね。2011年の大震災以降はさらにその信念が強まり、「なによりも、社員の健康と安全が第一」というのが樋口の口グセになっています。

石橋 樋口が社長に就任して以来、新卒社員だけを採用し続けてきたことも大きいのかもしれません。新卒入社から長期にわたって会社に在籍している社員が中心になっているので、“あうんの呼吸”で仕事が進む場面も多く、コミュニケーション時間の大幅な短縮につながっているからです。

樋口が20歳で社長に就任したとき、「世界でもっとも尊敬される会社をめざしてみよう」と志しました。業界の常識にそまっていない、まっさらな新人たちと一緒に「長時間労働しないのが当たり前」という風土をつくりたい。

その信念から、ずっと新卒だけを採用してきました。もっとも、最近は会社の軸が完成してきたので、中途採用の話の出てきていますね。

──とはいえ、新人が利益を生めるようになるまでは時間がかかるのではありませんか。それに、キャリアパスが定まっていないぶん、中途採用よりも離職のリスクが高いと思います。

 松本 はい、樋口は“やせ我慢”しているのだと、よくいっています(笑)。それでも、「世界でもっとも尊敬される会社」をつくるためには、ラクな道ではなく大変な道を行こう、と。

「努力するのが当たり前」が評価された

──「世界でもっとも尊敬される会社」をめざして、今後はどのような展開をしていく予定ですか。

石橋 事業面では、来年、技術上のシンギュラリティ・ポイントと同じレベルのことが、当社にやって来ると考えています。これまで20年間、卵のカラのなかで仕込んできたことが、ようやくかえるという感じでしょうか。

成長率がいままでの比ではないくらいに上がってくる見込みです。最終的には、年間売上高が最低1兆円以上の規模になり、将来的には「世界のトップ1,000社」に入り、「世界経済フォーラムの一員」になることを目標にしています。

松本 「尊敬される会社をつくる」という面では、現状はまだ2合目くらいの意識。会社のありようは、最終的に社長の意識によると思います。樋口は「理想までどこまで近づけるか」にまい進していく方針のようです。

──最後に、ホワイト企業アワードの受賞について、感想をお願いします。

石橋 じつは今回の受賞は非常に驚き。「選ばれる」と思っていなかったからです。なにしろ、選考プロセスのひとつのアンケート調査で、「ホワイト化に向けて努力していますか?」という設問に「NO」とチェックを入れてしまったくらいですから(笑)。でも、それくらい、当社では当たり前の文化として、ホワイト化への努力がすでに根づいていることを評価いただいたのかな、と思っています。

「周囲からよくほめてもらえる」と樋口も非常に喜んでいます。いただいた立派な盾を写真に撮りながら、「透明だからうまくインスタ映えさせられない!」と社長室でひとり奮闘していたこともつけくわえておきます(笑)。

プロフィール
企画開発室
松本奈々 (まつもとなな)
プロフィール
経営企画室
石橋みずき (いしばしみずき)

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