徳永さんはベンチャーの壮年期の成長を支援。千葉さんは誕生期の成長を支援することで、ニッポンのベンチャー・エコシステム全体を充実させるために奮闘しています。じつは「旧知の仲」だという2人の対談は、出会ったときのエピソードからスタート。ベンチャー企業の成長ステージの違いによって、必要な支援はどう変わるのかについて語りあってもらいました!
子会社からベンチャーへの脱皮を支援
徳永 千葉さんといえば、国産ジェット機のホンダジェットを日本ではじめて個人で共同購入して、“話題の人”になりましたね。Drone Fundを立ち上げ、日本発で世界へ羽ばたくドローン企業を支援するといった、進取の精神にとんだ投資活動を展開しています。そうした「新しいことにチャレンジして、実現に導いていく」という千葉さんのスピリットは、出会ったときから変わっていない。私はそう思っています。
千葉 徳永さんとはじめてお会いした当時、私はケイ・ラボラトリーという会社の事業推進担当の取締役でした。いま東証一部上場企業として、世界的なヒットゲームを生み続けているKLabの前身です。
徳永 ええ。千葉さんはトップの真田さんのビジョンを、具体的な事業戦略にまとめあげ、さまざまな課題をクリアして実行していくNo.2という立場。「トップがすぐれたビジョンをもっているが、それを実行フェーズにもっていき、事業を推進するチカラが弱い」というベンチャー企業は少なくない。そんななか、千葉さんの存在は光っていました。「ああ、この会社の競争力の源泉のひとつは、千葉さんなんだな」と思いました。
私のほうは日本アジア投資に在籍していた時期。ベンチャーキャピタルとして、ケイ・ラボラトリーに出資するかどうかを判断するため、経営幹部にヒアリングをして、情報収集をしていました。そのヒアリング対象のひとりが千葉さんだったというわけです。
千葉 そうでしたね。「私のところにヒアリングに来てくれた!」と驚いたのをよくおぼえています。投資ファンドのヒアリングは通常、社長から事業面について、CFOから資金面について聞いて終わり。でも徳永さんは、事業推進担当の取締役だった私にもヒアリングしました。一次情報をより多くの人から得ようとする姿勢が、とても印象的でした。
そんな徳永さんのことを、私たち経営陣はもろ手をあげて歓迎していました。というのも、もともとケイ・ラボラトリーはIT企業・サイバードの子会社として設立。その後、親会社はUSENに変わりましたが、「経営権に制約を受ける子会社」という立場に変わりはありませんでした。でも、私たち経営陣はベンチャー精神にあふれていて、独立性を確保し、IPOをめざそうとしていました。スタートアップとして出発したのではなく、子会社として設立された会社を、だんだんスタートアップらしくしていったというか(笑)。
ですから、ベンチャーキャピタルである日本アジア投資さんに出資してもらうのは大歓迎だったのです。ケイ・ラボラトリー、つまり現在のKLabが2011年に東証マザーズ、翌年に東証一部に上場できたのは、徳永さんをはじめとする「ベンチャー企業を深く理解するベンチャーキャピタリスト」の応援があったからこそです。もっとも、上場時には私はもう在籍していませんでしたが(笑)。
スタートアップに必要なのは“社長の心の支え”
徳永 ええ、ゲーム会社であるコロプラの設立に参画、エンジニア社長である馬場さんを支えるNo.2として、コロプラを株式上場へと導いた千葉さんの手腕は、ベンチャーの世界では語りぐさです。そして、その実績をひっさげ、エンジェル投資家へと転身。最近はドローン関連に特化したファンドを立ち上げ、新しい領域を切りひらくスタートアップを応援していますね。
千葉 はい、徳永さんの同業者になりました(笑)。ただ、日本アジア投資を経て、社歴の長いベンチャー企業を支援するグロースキャピタルファンド、WMパートナーズを設立した徳永さんと違い、私はスタートアップ専門。いわば、ベンチャー企業の“誕生期”を支援するのが私の領域で、“壮年期”を支援するのが徳永さんの領域。そんなふうにいえるかもしれません。
徳永 確かに。では、“誕生期”だからこそ必要となる、ベンチャー企業への支援には、どんなものがありますか。
千葉 社長の心の支えになることです。スタートアップ時の会社というのは、“ほぼ社長”です。社長の能力と意欲だけで存在がたもたれているといっていい。社長の心が折れてしまうと、もう存続できません。そこで、そうならないようにサポートすることが重要です。たとえば私の場合、そのために起業家コミュニティ『千葉道場』を運営しています。
これは、起業家どうしが助けあい、ともに成長していくことを目的としたプラットフォーム。社長というものは、社員に対しては「がんばろう」とハッパをかけ、株主には「順調です」と胸を張る必要がある。ときには、それが演技や虚勢であっても。だから、本当につらいことがあっても、ひとりで抱え込んでしまいがちです。そこで社長という立場の方だけが集まって、心の底を開示しあい、悩みを語りあえるコミュニティを立ち上げたわけです。
徳永 おもしろい取り組みですね。どこからそんなアイデアが出てきたのですか。
千葉 ベンチャー企業に在籍していたときの経験が大きいですね。ケイ・ラボラトリーでもコロプラでも、私のポジションはトップをサポートするNo.2。「社長がやりたいことはなんだろう」と、社長を日々観察して察知し、その「やりたいこと」を実現するために人を採用したりお金を工面したり――。投資家になったいまも、じつは、やっていることは同じ。トップである起業家たちが働きやすいように環境を整えること。そして、トップの夢を全部かなえられるように手助けすること。
現在、私の投資対象は計84社。つまり84人のトップがいる。「彼ら・彼女らがやりたいと思っている夢を、どうやってかなえていくか」と、つね日ごろから考えています。
徳永 なるほど。会社に所属していると、サポートできるトップはひとりだけ。でも投資家であれば、一挙に84人ものトップをサポートするNo.2になれるわけですね。「No.2のプロフェッショナル」とでもいうべきでしょうか(笑)。
大人ベンチャーに必要な“ギアチェンジのサポート”
千葉 それでは、こんどは徳永さんにお聞きします。ある程度の業歴をもつベンチャー企業が求めている支援はどのようなものですか。
徳永 ギアをチェンジしていくサポートですね。大人ベンチャーは、成長できるポテンシャルはあるし、技術・サービスについてもいいものをもっている。お客さんもいる。しかし、十分にそれらを活かしきれていない――という段階にあります。
千葉さんが先ほどいっていたように、スタートアップのときには“ほぼ社長”で回っていた会社でも、大人ベンチャー段階ではたくさんのリソースがそなわっている。それらをうまくまとめあげることができれば、さらなる企業成長が可能。でも発進段階、つまりスタートアップのときには有効だった軽いギアでは、もうスピードが出ない状態なんです。より重いギアにチェンジして、再加速する必要があるわけです。たとえば、社長の経営手腕。「ゼロイチは得意だが、組織化して会社を大きくするのは苦手」という社長も多いのではないでしょうか。“発進時に適したギアしかない”状態なのです。
私たちWMパートナーズは、ギアチェンジのためにできることはすべてやっています。たとえば私たちのメンバーが、出資先企業の取締役会や経営会議に出て経営面をサポート。経営課題を整理し、優先順位をつけるお手伝いなどをしています。また、さらなる成長に必要なアライアンスパートナーや人財と出会う機会を提供することも。ときには、株主構成を整理することもあります。
千葉 なるほど。そうしたドラスティックな変革の提案は、会社の内部からは出しづらいこともありますよね。WMパートナーズさんのような第三者だからこそできる…。
徳永 そうなんです。たとえば、「新規事業にアクセルを踏みたい、事業をピボットしたい」というとき。社長も社員も次に進むべき方向はわかっていることが多い。しかし、「せっかくもうかっている事業部門の収益や活躍してくれている優秀な人材を、もうかるかわからない新規事業に投入してよいのか?」という壁にぶつかります。私たちが新たに株主として参画することで、会社としての次の方向性が明確になりますし、社長もリーダーシップを発揮しやすくなり、改革をより推進させやすくなります。
また別のケースでは、赤字事業について社内へのヒアリングを進めるうちに、「この事業の目的はイマイチわかりません」という声が出てきた。それでホンネを探っていくと、「社長が乗り気だから、仕方なく取り組んでいます」などということもある。でも、部下の立場では社長に進言するのは難しい。そんなときは、私たちがトップに「この事業をやめませんか」と提案するわけです。
千葉 スタートアップ段階のベンチャー企業なら、「社長のやりたいことであるなら、とりあえずチャレンジしてみましょう」とアドバイスするかもしれませんね。なるほど、大人ベンチャー段階になると、支援のあり方がだいぶ変わりますね。
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