IPOを果たすまでの8年間 社長である私が毎日、預金残高をチェックした
暗号資産やスマートフォン決済が話題になり、ITによる変革がおカネの世界にまで押し寄せていることは誰の目にも明らか。資金繰りに日々、アタマを悩ませる経営者にとっても、無関心ではいられません。そこで本特集では、成長企業の経営者や支援者に「新しい時代の資金繰り術」を聞いてみました。
第3回はベンチャー起業家・弁護士・国会議員という3つの肩書きをもつ元榮さんに登場してもらいましょう。「専門家をもっと身近に」という理念のもと、ネット上で弁護士を検索・相談できる『弁護士ドットコム』という画期的なサービスで支持を集めた元榮さん。弁護士らしく手堅い資金繰りに徹したのかと思いきや、創業資金が底をつき、生活苦から知人の家に寝泊まりさせてもらっていたこともあるとか。そこから、どうやって会社を軌道に乗せていったのか、ざっくばらんに語っていただきました!

たった200万円の元手で起業した

2005年7月、弁護士ドットコムを設立したときの資本金は500万円。そのうち200万円は私個人が用意した資金。300万円は銀行から借りました。いま思えば、もっと多くの資金を用意するべきでしたね。

でも、お金を貯めるだけの期間がなかったんです。起業しようと思い立ってから独立、起業するまで1年強。当時、私は大きな法律事務所に在籍する弁護士で、それなりに収入があったとはいえ、独立を決心してから短期間で多額の資金を用意するのは簡単ではありません。

起業を意識したのは弁護士になって丸2年が経った2003年の暮れのこと。とあるネット系の上場企業が証券会社を買収する案件を手がけるチームにアサインされました。私はそのときに初めて、ベンチャー企業というものを間近に見たのです。それまでは歴史のある大企業やグローバル企業のクライアントが多かった。

そのなかで、まだ設立して10年にもならない新興のネット企業が次々に大きなM&Aをしかけて、ダイナミックに成長している。インパクトのあるスケール感に感銘を受け、人生で初めて「起業」という選択肢に関心をもちはじめたのです。

そこから大急ぎで創業資金を貯めはじめました。そして、ちょうど1年後の2004年、事業アイデアを思いついたんです。それが、『弁護士ドットコム』というWebサービスでした。当時は、製品の価格を比較できるようなサイトはあっても、サービスを比較できるサイトはなかった。

「弁護士業はサービスなのだから、インターネット上で弁護士を比較・検討できて、困ったときに相談できるような場所をつくったら、もっと世の中が便利になるんじゃないか」と。もう、熱いたぎりが止まらなかったですね。

会社を退職したのが2005年1月。当時、目の前には夢のような世界が広がっていました。「売上がすぐに立って、3年後には株式上場だ!」という、とてもステキな事業計画書をつくっていました(笑)。

湯水のようにおカネが消えていく恐怖

それが絵に描いた餅だったことは、すぐに明らかになりました。そもそもWebサービスというのは、収益化するまでに時間がかかるものです。先行のサイトでいうなら、『クックパッド』が9年間、『食べログ』も4~5年の赤字期間を経験している。要は、「足が長い」ビジネスなんです。

また、急いで収益化しようとすると、ユーザーに対する価値が壊れてしまいがち。社会的意義よりも「儲けたい」という気持ちが前に出ると、社会の共感が得られません。まして、弁護士ドットコムが土壌にしていたのは弁護士業界。伝統的で誇り高い。「一見さんお断り」という風潮が長く続いていた世界です。

そんななか、「一見さんと弁護士がネット上で気軽につながれる場所」をつくったわけです。丁寧に丁寧に進めていかないと、先輩弁護士たちにも温かく応援してもらい、快く参画していただけるサービスに育たないでしょう。

…と、いうようなことは、今だから言えることです(笑)。当時の私はそこまで思い至っていなかった。ただただ、毎日、資金が手元から出ていくのを見ているばかりでした。思いのほか、減っていく速度が速かったんです。2005年の年末には、創業資金の500万円は底をついてしまった。

当然、自分自身の収入はなく、生活費を切りつめるために、友人の家に寝泊まりさせてもらったりもしました。29歳の誕生日には大手法律事務所の弁護士として東京タワーを眺めるオフィスで仕事していたのに、たった1年後、30歳の誕生日には生活すらままならない――。究極のピンチを迎えてしまいました。

そこで、あらためて目を向けたのが、自分の生業として手がけられる弁護士業。「弁護士が起業する」というのは極めて珍しいケースでしたから、メディアがよく取り上げてくれました。それを見た企業経営者が「ベンチャー起業家の気持ちがわかる弁護士がいる!」と認知してくれて、仕事の依頼が来るようになったのです。

弁護士として立ち上げた元榮法律事務所(現:弁護士法人 法律事務所オーセンス)の収益が増え、それを弁護士ドットコムに投下することができました。法律事務所のネットマーケティング業務を弁護士ドットコムに委託したり、法律事務所のオフィスを弁護士ドットコムに貸し出したりして、弁護士ドットコムの資金難を乗り切っていったのです。

資金管理には法人カードを活用

弁護士ドットコム単体の黒字化見通しがついたのは、そこから8年後の2013年。外部資本も受け入れ、いよいよ上場に向けたアクセルを踏み始めるタイミングでしたが、社長の私自身が毎日、残高チェックをすることは続けていました。2014年に弁護士ドットコムがIPOを果たしたあたりで、ようやく月1回の定点観測だけで済むようになりました。

資金の管理面でいえば、アメリカン・エキスプレスは創業当初からカードをつくることができたので、会社設立当初から決済に活用していました。ビジネスでの支払いの明細を一覧で確認できるので、管理面でのメリットが多いからです。

また、個人での支払いとビジネスでの支払いを使うカードによって簡単に、かつ明確にわけられます。税務調査が入った際も法人カードで明確に公私の支払いを分けて管理・見える化をしていることで、公私混同がないことを税務署にはっきり示せます。

その他にもカード決済は様々なシーンで使うことができます。例えば、カード決済は大事な商談相手との会食の席で、キャッシュレスで支払うことができます。現金を出して会計をする姿は所作としてもスマートではありませんよね。

また、今はオンラインやスマホのアプリ上で支出を素早く把握・管理できる利便性の高さもあります。法人カードの有用性の一つだと思います。

「貧すれば鈍する」を忘れずに経営せよ

「貧すれば鈍する」という成句があります。経営するうえで、キャッシュフローの見える化や改善などの資金的な安全性とゆとりは大事です。最近は「ブリッツスケーリング」なんて言葉が出てきて、「赤字が続いても事業を急速に成長させる」という手法がもてはやされています。

でも、これは相当ハイテクニックな成長方法だと思います。原理原則でいえば、安全に経営するのが良いと私は思います。たとえば、「従業員の給与〇ヵ月分」などと自分なりに目安をつくって、その資金を確保したうえで成長投資を検討することをおすすめします。

私自身は、創業当初は、そのゆとりをもつことができませんでした。でも、“貧しても鈍さず”にいられた。それは、起業家の方々の自伝をたくさん読んでいたからかもしれません。そこには、いろんな苦労話が書かれている。その苦境を乗り切って成功をつかんでいく物語にグッと引き込まれながら、自分自身をそこに重ね合わせていました。

山あり谷ありだからこそ人生ストーリーは共感性の高いものになる。「“30歳の誕生日に住む家がなかった”なんて、こんなおもしろい話はないぞ。自身のヒストリーのなかで、いちばんおいしい部分だ」とか(笑)。

つねに前向きでいられるのは、「仕事に全力で取り組んでいる」という部分で、誠実であり続けているという自負があるからでしょう。私は弁護士ドットコムという企業の経営者、オーセンスという法律事務所を経営する代表弁護士、そしていまは参議院議員と、3つの肩書きをもっています。「どの仕事の比重がいちばん大きいんですか?」という質問をいただくこともあります。

「全てが100%」というのがいつわらざる答えです。海外に目を向ければ、Amazonのジェフ・ベゾス氏も、テスラのイーロン・マスク氏も、Twitterのジャック・ドーシー氏も、1社のCEOにとどまっていませんよね。一度きりの人生、「複業」というパラレルキャリアに挑戦するのもよいのではないでしょうか。

アメリカン・エキスプレス®・ビジネス・ゴールド・カードで
公私の支払いを明確化し、業務効率化を

◎ビジネスの支出を常に把握、税務処理も簡単に
ビジネスに必要な支払いをすべてビジネス・カードに一本化することで、公私の支払いが完全に分けられます。さらに、随時ウェブサイト上やスマートフォンのアプリでカードのご利用状況や過去のご利用代金明細書が確認できますので、お金の流れが明確に管理でき、その結果、経理作業や税務処理の効率化ができます。