“売上3年連続3倍成長”ITベンチャーの 管理体制づくり奮闘記
暗号資産やスマートフォン決済が話題になり、ITによる変革がおカネの世界にまで押し寄せていることは誰の目にも明らか。資金繰りに日々、アタマを悩ませる経営者にとっても、無関心ではいられません。そこで本特集では、成長企業の経営者や支援者に「新しい時代の資金繰り術」を聞いてみました。
第4回はYappliのCFO・角田さんを取材。Yappliはアプリ活用を目指す全ての企業向けに、プログラミング不要でアプリを開発・運用・分析できるプラットフォームをクラウドサービスとして、ワンストップで提供している。アプリ隆盛の時代の追い風を受け、急成長を遂げている同社を、管理部門の強化という側面から支えてきた角田さんに、資金調達の考え方、組織の育て方について語っていただきました!

IPOを視野に入れ、管理体制を整備

私がYappliに入った当初は、たとえば月次がぜんぜん締まらないなど、管理面の体制はまったく整っていませんでした。3ヵ月くらい締まらないこともあり、「ひょっとするとこれ、永遠に締まらないんじゃないか…?」と不安になったほどです(笑)。

締まらない要因の1つは、社内に「証憑をタイムリーに残す」というカルチャーがないことでした。創業当初は口約束に基づいて、書面に不備がある取引があったのも事実です(今は改善され必要な証憑などについては修正済み)。お客さまは「契約書の締結前だけどとりあえず入金しとくね」、当社の営業は「入金しているからOK」と(笑)。

コーポレート機能は全般的に未成熟でしたが、会社としてのYappliは、地に足を着けつつも急成長を始めていました。むやみに大風呂敷を広げたりせず、着実な目標をもって事業展開をしていて、メンバー全員が目標に向かって走っていた。そんななか、IPOを視野に入れるなど、もっと大きな目標を追うために組織を整えていく方針が決まり、それが私のジョインにもつながったわけです。

とはいえ、社内文化を変えるのは、私ひとりでは至難の業。管理部門のメンバーを増やす際にも、そこをゼロイチで担える人材の採用を意識しました。経理財務チームが機会あるごとに「請求書を○日まで出してください」と全社員に告知したり、ワークショップを開いて啓蒙することで社内文化が醸成されていきました。

会社の管理部門で難易度が高いその理由をひとことでいえば、経営管理の機能が多岐にわたるため「一人のエキスパートでまかなう事が不可能だから」です。 管理部は経理、財務、人事、採用、労務、法務、さらに総務とすごく多機能です。特定の分野で優秀な人がいても、すべてをカバーすることはできない。

マネージャーレベルを各分野で採用しないといけない。これが他部署と大きく違う点です。例えば営業などであれば、協調性などは大前提として「営業力のある人材の集合体が優秀な営業チーム」というようにスキルセットにおいて同質性の高い組織といえます。他方で管理部には、高いスキルをもったマネージャー層の人材が複数必要で、その採用が最重要課題でしたね。よい人を採用できるまでは、部署として不足しているリソースは機能ごとに外部のコンサルタントに入ってもらうなどして補っていました。

トップラインを伸ばすために30億円の資金を調達

こうした努力が結実して、管理部門の体制はだいぶ整ってきました。そのかいもあって、2019年6月には融資など含め約30億円の資金調達をしました。最近は日本のスタートアップも大型調達が増えているので、飛びぬけて大きな金額ではないと思います。

ただ、私たちは赤字企業なので、資金調達を成功させるには赤字がコントロールされたものであり、ユニットエコノミクスがきちんと成立していることを証明しなければいけません。そのあたりはしっかりやってきたつもりです。

顧客生涯価値と顧客獲得単価をしっかりとデータとして把握したうえで、売上を増やすために、いま、どこまでお金を投入することにアクセルを踏み込むのか。それを考慮しながら経営をしてきたので、投資家・金融機関との話も比較的スムーズに進んだのだと思います。

現状での基本の姿勢としては、ブレーキをかけるよりも、アクセルを踏み込むほうを選択しています。当社は現在「トップラインをいかに早く伸ばすことができるか」が大事なフェーズになっています。

逆にいま投資せずに売上が立てられなくなる機会損失のほうが、マイナスが大きいのです。

ファイナンスには時間の概念が大きく作用します。会社が創出するバリューとして「何年間でどれくらいの価値が提供できるか」ということです。資本と売上高などが同じでも、例えば10年かかって売上100億円になるのと、5年で100億円とを比べたら、5年のほうが発射角度も高く中長期的に遠くに行ける可能性が高い。よい価値が高い会社ということになります。要するに成長率という話ですが「会社の価値を向上したい」という文脈で考えると、スピードはきわめて重要です。

今回の30億円の資金調達では、株式による第三者割当増資の他に、銀行からの融資なども活用しています。スタートアップは株式による調達コストが高いので、資本コストを下げると同時に、株の希薄化が起こらないように配慮しています。

いろいろ工夫しているおかげで、「Yappliは資本効率がいい」とよくいわれます。じつはそれほど増資していない。借入の割合が多いので、投資家からみたときのキャピタルの効率がいいのです。

スタートアップファイナンスは、日本でもかなり選択肢が豊富になってきました。種類株も研究されてきています。融資についても、銀行がすごく積極的になっていて、Yappliも赤字であるにもかかわらず大手の銀行と取引させていただいています。融資自体も当座の枠だけとっておくなど、いろいろ工夫できる状況です。

法人カードは短期借入の選択肢になる

大型調達をするとか、IPOに向けた準備というフェーズに来たとき、多様な資金調達方法を知っておくことは非常に有益だと思います。一方で、時期によっては人的リソースなどを鑑みてよりシンプルな資金調達が望ましいケースもあると思います。

そんなとき、「法人カードを短期借入の代替手段として活用する」というのは、ひとつの選択肢として持っていても良いと感じます。これは、反省の念を込めてのアドバイスです。「Yappliでそんなふうに法人カードを活用すればよかったな」と(笑)。

私がジョインした当時も、カードは使っていました。でも、取締役4名あわせて限度額が上限100万円というカードでした。一人25万円ですね(笑い)。会社で使ってるサービスなんか支払ったらすぐ上限。ネット広告などの支払いをカードで行っていたんですが、すぐ「支払いが通っていません」とメールが来る。「上限100万だから、そりゃ止まるわな」という話です (笑)。

もしこの時期、ちゃんとした法人カードをもっていたら、ずいぶん助かったことだろうと思いますね。「この1~2ヵ月間、キャッシュがあればしのげる」という緊急時に、法人カードをもつことでクリアできるのなら、小さな会社のフェーズではアリだと思うのです。

すべてのスタートアップの会社に推奨できることかはわかりません。でも、選択肢の1つとしてそなえておくことは悪いことではないでしょう。

また、法人のクレジットカードを活用すれば、口座にお金がある分がリアルタイムに引き落とされてしまうデビットカードに比べ、より統制の効いたお金の使い方ができると思います。

いい人材をいかに集めるかが管理部強化のカギ

スタートアップ企業に経営管理部門の整備についてアドバイスするなら、「いかにいい人材を集めるか」だと思います。とくに速いスピードで成長している企業は、いい人材をプールしておくことが採用の勝負です。

すぐには転職してくれない人材でも、現職での仕事がひといきついたり、あるいは会社のステージが上がって転職先としての魅力がアップしたタイミングで声がけすれば、ジョインしてくれる可能性が出てくるので、リストアップしておくことは大事です。

初期から経営管理部の組成を任せるなら、採用するCFOは「会計士」や「投資銀行」、「PE」といったキーワードより会社の魅力を熱量を持って伝え「タレントを集めることができる」といった能力の方がはるかに大事です。

また、これからのスタートアップでは、IRの重要性が叫ばれ、CFOが前に出て行かないといけない局面が増えると思います。ですから、CFOが経営メンバーとして当事者意識をもち、ビジョンや会社のミッションを自分の言葉で語れることも必要です。そうでないと投資家を説得することができないですから。

とくに、海外投資家からの出資を受け入れる選択肢が出てきたことが大きい。これまで上場株だけを相手にしていた海外のファンドが、非上場株にも出資するようになってきました。ふだん上場株をあつかっている投資家に未上場の時から入っていただくと、上場後も長期間保有してくれる。

また「こんなに有名な投資家が入っています」とアピールできるので、IPOを有利に進めることができます。さらには上場後の株価形成においても、短期的な利益より中長期の成長戦略を基に株価をリードしてくれるなどメリットは非常に大きい。

…と、エラそうなことをいいましたが、私自身はどちらかというとマイペースにやりたいようにやるのが好きなタイプです(笑)。責任範囲が曖昧で自由にできる環境でこそ自分のバリューを出せると確信していますし、Yappliという他にないプロダクトを武器にわがままできるなんて、個人的にはこれ以上無い会社だと感じています。そんなYappliをさらに大きな会社へと飛躍させていくことに貢献していきたいですね。

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