【対談】いまどきのスタートアップを成功させられる経営陣の条件とは
暗号資産やスマートフォン決済が話題になり、ITによる変革がおカネの世界にまで押し寄せていることは誰の目にも明らか。資金繰りに日々、アタマを悩ませる経営者にとっても、無関心ではいられません。そこで本特集では、成長企業の経営者や支援者に「新しい時代の資金繰り術」を聞いてみました。
第6回は、信託制度を活用することで、従来よりもずっと使いやすくしたストックオプションの導入を支援しているSOICO代表の茅原さんと、人材エージェントとして多くのベンチャー企業の組織づくりを支援してきたキープレイヤーズ代表の高野さんとの対談。いまの時代のスタートアップの「おカネ」と「ヒト」づくりを知りつくすおふたりに、成功のために経営陣がなすべきことなどについて、語りあっていただきました!

茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
SOICO株式会社 代表取締役CEO
クレディスイス証券株式会社を経て2012年Klab株式会社入社。2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEO就任。公認会計士。
https://www.soico.jp/
高野 秀敏(たかの ひでとし)
株式会社キープレイヤーズ CEO/代表取締役
1976生まれ。株式会社インテリジェンス入社。2005年1月、株式会社キープレイヤーズを設立。
https://keyplayers.jp/

最初のチームづくりは失敗がつきもの

茅原 スタートアップの起業直後のチーム作りについて高野さんが見ている点はどのようなところがありますか。

高野 ぼくは人材エージェントのほかに、エンジェル投資家としてもスタートアップと接しています。そのとき、会社を評価するうえで「社長に“巻き込み力”があるかどうか」。そこを重視していますね。

茅原 ああ、なるほど。

高野 たとえば、ほしい技術があるとします。その面で協力してもらいたい相手がいる。そういうとき、「いちど断られたから」といってあきらめるのではなく、断られたことなんか気にしないで、ニコニコしながら、なんどでも相談に行く。

そのうち「仕方ないなぁ」と相手が協力してくれるようになる、とかね。周囲の優秀な人材を味方につけていけるトップなのかどうかは、会社を伸ばすうえですごく大事ですよ。

それは採用についても同様で、社長ひとりでなんでもできるわけはないのだから、戦略上必要な人材を会社に引っ張り込めなければ、次のステップに行けない。社長がひとりでなんでもやっちゃう会社って大きくなれないんです。

茅原 その通りですね。そういう面で、私はスタートアップの経営者として、あまり胸を張れる成績ではないかもしれません。採用で苦戦してしまいましたから。

私たちが始めた『タイムカプセルストックオプション』はストックオプションを信託にプールしておくことで、「誰にどのくらい割り当てるか」を発行した後に決めていけるもの。

株価の低いときに設定したストックオプションを割り当てられるので、権利の行使時の利益が高くなり、人材側にとって大きな魅力。人材採用の決め手にもなりえます。

このサービスを普及させるための人材を採用するとき、「金融商品なので、都市銀行出身など、金融に詳しい人がいいだろう」と。

ところが、実際そういう人を採用してみると、拡散は得意だけれどクロージングが苦手なんです。横の連携も苦手で「ひとり親方」みたいな人ばかり。事業をチームワークで広げていくことができなかったのです。

仕方がないので親方の人数をしぼり、うしろで粛々と事務処理できる人を採用して、チームとして機能するよう組織を入れ替えていかざるをえませんでした。

高野 スタートアップあるあるですね。でも最初のチームづくりって、だいたい失敗するんですよ。だから、茅原さんも、ぜんぜん気にしなくていいです。事業を始めて、人事が想定通りにいった会社というのは、たぶんありません。みんな黙っているだけです(笑)。

去る者への鈍感力と既存社員への敏感力が必要

茅原 スタートアップ支援の第一人者である高野さんにそういっていただけると、安心します(笑)。それでは、理想的なトップのあり方を教えてください。

高野 まず自分がどんな役割を担うのかを決められること。たとえばファイナンスなどでお金を集めてくるのが得意だとしましょう。「それならCFOは必要ないな」と判断できます。

「しかし、株式上場をめざしているから資金調達以外の面を任せられる管理部門の役員は必要だ」「WebサービスをつくるためにCTO的な人が必要」という感じで、組織を固めていく。さらに社外の取締役、ビジネスパートナー、業務委託先など、さまざまなヒューマンリソースを巻き込んで、ミックスして最適化できる人が会社を伸ばせる人だと思います。

茅原 その「最適化」って会社の成長ステージによって変わってきますよね。会社の成長とともに、いったんはジョインしてもらった人材に去ってもらわなければいけないことも出てくるわけでしょう。

高野 ええ。そこは、社長にはある種の鈍感力、「去る者を追わず」のマインドがないとやっていられないですね。

でも、いまいる社員をケアしてモチベーションを維持したり、会社とのエンゲージメントを高めるには、敏感じゃないといけないから、鈍感と敏感、矛盾する能力を経営者はあわせもっていないとね。

ぼくは会社を評価するとき、ビジネスモデルはあまり重視していないんです。それよりも、「この社長は組織づくりができるのか」を見ます。強い組織をつくれないと競合に勝てないので。

プロダクトがちょっと当たったとか、マーケットをつかまえていれば年商5億円くらいの会社にはなりますが、組織化できなければ成長はそこで止まってしまうんですね。

大事なのは管理部門責任者との意思疎通

茅原 社長として「強い組織をつくる」という点では、当社はこれからですね。本格的な組織化をしていく一歩手前のような状況だと思っています。いま2期目で、メンバーは業務委託を含めて10名。

この規模だと営業やコンサルタント業務など外回りは役員陣が担当していて、信託されているストックの管理に業務委託1名、契約書関係を法的に見ていくために弁護士が1名、そして管理部門はCFOに専念してもらっています。

CFOはかなり優秀で経験値も高いのですけど、万能ではありません。それは当たり前の話で、たとえCFO経験者であっても、管理をめぐる、すべての業務を経験してきたわけではないからです。だから彼ひとりにまかせきりにするのではなく、案件ごとに私とミーティングして、知見をあわせながら取り組んでいます。

高野 それはすごくいいことだと思いますよ。スタートアップの会社では、社長と管理部門トップとのコミュニケーションって大事なんです。管理部門の責任者に、運よく優秀な人に入ってもらえたとします。そうすると、その人に「あらゆることをやらせよう」ということになりがちなんですね。

人事や採用をやらせて、総務もやらせて、経理もやって…。でも、その人がもともと会計士だったとしたら、「採用は得意なの?」という話になるわけです。会社に入ってもらう際も、入社後も、オイシイ話ばかりしないで、「どこからどこまでの範囲で、どんな仕事をしてほしいのか」きちんとコミュニケーションをとること。

それができないと「なんでオレがこんなことやらなきゃいけなんだ」って話になっちゃう。そういうケースがとても多いんですね。

茅原 たしかに管理部門というのは仕事が多岐にわたっているので、ひとりでは酷ですよね。得手不得手の問題もありますし。当社のメンバーは投資銀行出身が多くて、CFOもそうなんです。投資銀行出身者というのは、どちらかというと「攻め」が得意な方が多いかと思います。

資金を調達してくるとか、時価総額を上げていくための施策を講じるとか。でも、それ以外の「守り」の管理について、たとえば決算を締めるといったことが、過去の経験の中で機会が少ないこともあり、苦手な面がある印象です。

攻めに集中するために法人カードを活用

高野 いま日本で年間90社ほどがIPOを果たしています。じつはそのうち、管理部門が攻めのスタイルの会社ってごくわずかなんです。むしろ守りの人をきっちり採用して、事実管理をして、内部統制をして、コンプライアンスを順守する。そっちを重視している会社がIPOできている、という傾向はあります。

茅原 管理部門がしっかり「守り」を固めてくれていることは、私たちのような規模の会社では、メンバーが事業に専念するうえで大きな意味があると思うんです。いまは会社の成長の初期段階で、集中して売上をつくっていかなければいけない時期。役員をはじめメンバーの大半を攻めに専念させたいと考えています。

たとえば営業で外に行くことも多いので、経費申請にやたらと時間を取られて、業務に集中できないのはもったいない。だから、経費の決済は法人カードを使っています。業務効率化を図るサービスとして様々なクラウドサービスがあります。

freeeのような会計クラウドはいつでも、どこでも使うことができます。導入ハードルも低いため、手軽に導入するだけで業務に集中できる時間を増やせます。私たちの会社はさまざまなWebサービスを使っていて、基本的にカード決済。

攻めの時間を確保し、管理部門の負担を減らすという意味でも、それは正解だったと思います。

高野 現金をあつかっていると事故や不正が起こりやすいからね。そういう意味でも法人カードをあえて使う意義はあります。

茅原:攻めの時期だからこそ安心して背中をまかせることができる管理部門が必要。とはいえ人材が足りていないので、コンサルティング会社など外部を使いながら固めているのが現状です。会社の成長スピードにあわせて人材を増やしていかないといけないなと考えています。

長期的な視点で資本政策を考えよう

高野 優秀な管理部門の人材をどうやって見つけてくるかは、スタートアップの大きなテーマのひとつですね。「CFOの実績がある人を採用したい」「できれば上場企業の役員をやっていた人に頼みたい」という要望をよく耳にしますが、そういう人材ってめったにいません。ではどうしたらいいかというと、ぼくは優先順位をつければいいんじゃないかと考えています。

会社が成長していく時間軸のなかで、いまのフェーズで、うちにはどういう管理部門の責任者が必要か。資金調達力か、経理能力か、人事や労務の能力か。すべてができる人なんていませんから、優先順位の高い能力の人を探していく。

そこをきちんとやるかどうかは、会社が次のステップに成長するキモになります。キープレイヤーズでは、優秀な人材を紹介するだけでなく、採用活動全般の支援をしていますから、ぜひ相談してほしいですね。

茅原 私たち自身がスタートアップで日々の業務に追われているので、えらそうなことはいえないのですが…。あえて、これからスタートアップを立ち上げる方にアドバイスするなら、長期的な視点で資本政策を考えてほしいですね。

初めて起業された方は、どうしても事業をつくることに一生懸命になってしまって、人事のことや資金調達のことなどを長期的な視点で見ることが難しいものだと思います。「あと半年で資金が切れちゃうからつながなくちゃ」とか、目の前のことだけで資本政策を考える社長がとても多いように思います。

その気持ちは十分わかります。でも、アメリカのベンチャー企業を見ているとマネープランをじっくり練って、「このタイミングだと事業計画上、この数値になるはずだから、オペレーションはこれくらいで…」ときちんと設計しているわけです。

経営者がそこだけに時間をかけるわけにいかないでしょうから、CFOやアドバイザーを使いながら資本政策を立てていくことができれば、会社を長期的に成長させていくことができるだろうと思います。私たちの会社には、Web上で資本政策を簡単につくれるサービスがありますので、ぜひ利用していただきたいと思いますね。

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