今回は、ITフリーランスの働き方を支援し、ITフリーランスと企業をマッチングするビジネスでIT業界に新潮流をもたらしたギークスが登場。“働き方改革”を追い風に業績を伸ばし、2019年3月20日、東証マザーズに上場を果たしました。代表の曽根原さんは、以前に共同創業した会社を設立6年目に株式上場へと導きました。ギークスは2度目のIPO。しかしそれは、設立から12年目と、1度目の2倍の時間がかかったのです。長期戦を戦い抜けた裏にあるものを、曽根原さんに聞きました。
ITフリーランスの働き方を支援する“働き方改革銘柄”に
──ギークスの主力事業である、ITフリーランスと企業のマッチングは、登録者数1万6,000人、取引実績企業数3,000社に達しているそうですね。支持されている理由はなんでしょう。
働き方の多様化で「フリーランス」という働き方が注目され、雇用にとらわれないフリーランス人口が増えてきたこと。それにプラスして、政府が推し進める働き方改革が追い風となっているかもしれません。ここ数年で「フリーランス」というワードがポジティブなものとしてとらえられるようになりました。昔は“正社員として雇用されない働き方”はネガティブに受けとめられていましたが、いまは「フリーランス」という働き方が選択肢のひとつになりつつあります。
また、需要の高まりという要因もあります。国内では、「2030年にはIT人材が最大80万人ほど不足する」といわれています。その解決策として、ITフリーランスのスキルや経験を、リソースとして活用しようという考え方が企業に定着しつつあります。私たちが創業以来、企業に啓蒙してきた考え方が広がってきていると思います。
一方、ITフリーランスの働き方支援として、私たちは営業機能やリーガルチェック・事務手続きを含めたバックオフィス機能を担っています。さらに、ITフリーランスが長く安心して働けるために福利厚生プログラムも提供していており、ご活用いただいています。企業側とフリーランス側のニーズ、両方にこたえていることで、支持してもらえたのだろうと分析しています。
──ギークスを立ち上げた2007年には、「働き方改革」というワードは存在しませんでした。いまの状況を予想して事業を立ち上げたのでしょうか。
そうですね。「インターネット産業の成長スピードに必要な人材数が追いつかず、深刻な人材不足となるに違いない」と。そう考えたのは、当社の設立よりもさらに前のこと。じつは、ITフリーランスと企業をマッチングする事業は、以前、私が仲間と共同創業した会社の事業として、2002年に私自ら立ち上げたものでした。
2007年に、その会社が上場することになり、ブランディングの観点から、この事業を子会社化することになりました。それが、当社の前身になります。ところが、新体制になって、「さあ、これから」というとき、大きな壁にぶつかりました。
ネット企業の隆盛による需要増に「賭けた」
──なにが起きたのですか。
リーマン・ショックです。企業がシステム開発投資をひかえることで、人件費や外注費を削減するといった影響が徐々に広がり、私たちの取引先の大部分を占めていた業務系の開発案件が激減し、売上が半減してしまいました。そこで「子会社を売却するか清算するか」という話になりました。しかし、この状況下では事業売却は話が進みにくく、社員を50名ほど抱えていたので、簡単には清算もできません。
そこで、「私が子会社を引き受け、リスタートする!」と独立を決意。2009年にMBOが成立しました。ここが当社の本当の意味でのスタートということになります。
──ちょっと待ってください。目の前で業績が悪化しているわけですよね。なぜ、「事業を継続させられる」と確信できたのですか。「この事業はもうダメだ」と思う経営者のほうが多数派だと思うのですが。
確かにそうです。でも、「いまは厳しい状況であっても、将来必ず伸びる会社だ」と判断したのです。リーマン・ショックの影響が広がる一方で、当時はスマートフォンが普及しはじめたタイミングで、インターネット関連のBtoC系のサービス企業は、あまり影響を受けずに業績を伸ばしていました。ガラケー時代のキャリア公式コンテンツを提供するモバイル事業の経験があったので、「スマホの時代がくる」という確信もありました。これからはBtoC系のインターネットサービスの開発案件が急増するだろうと、そこで取引先をこれまでの業務システムなどのBtoB系からBtoC系へ大きくシフトしました。
──上場企業の経営者の座を捨てて、業績が悪化している事業の未来に賭ける。大胆な行動だと思います。
そうでしょうか。私の場合、「やりたいこと」が先にあって、それを事業化するタイプの起業家ではありません。「世の中にニーズがあるものを、ビジネスとしてつくっていく」という感覚です。「これはマーケットとして伸びるだろう」と、ビジネスの観点での有望性を感じました。だから、そこに賭けたということです。
柱となる事業を複数もつ「ポートフォリオ経営」へ
──そこまで思い入れてリスタートしたのですね。業績は順調に伸びましたか。
ええ。ITフリーランスと企業をマッチングするIT人材事業は創業事業として、徐々に業績は伸びていきました。ただ、リーマン・ショックを経験したことで、単一事業だけで経営することの危うさを学びました。そこで、私たちの強みであるITフリーランスのデータベースを活かして、「BtoC事業を自らもちたい」と考えたのです。当時、SNSプラットフォーマーが台頭してきていて、モバイルゲームが盛り上がっていました。そこに可能性を感じ、2012年にゲーム事業を立ち上げました。柱となる事業を複数もち、ポートフォリオ経営の体制をとることで、経営の安定をはかるねらいです。
──ゲーム開発とは、思い切った挑戦ですね。
一般的に、人材系の会社が突然、ゲーム事業を立ち上げようとしてもできるものではありませんよね。しかし私たちは、ITフリーランスとチームを組むことで立ち上げることができました。
そして、その実績は「ITフリーランスを活用する」という新しい考え方を企業へ啓蒙するのに役立ちました。私たち自身がそのモデルになったからです。採用から活用へ。この考え方の有用性を示すために、私たち自身が率先してITフリーランスを活用して成果を出していこうという気持ちもありましたね。
イグジットへの回り道を応援してくれた
──なるほど。しかし、開発にせよ販促にせよ、ゲーム事業には多額の資金が必要になりますね。
その通りです。当時はIT人材事業で得た利益から、開発とプロモーションの費用をまかなっていました。しかしながら、通信環境やデバイス機能の向上により、高い品質のゲームづくりが求められるようになり、ゲーム事業をさらに成長させるには、ある程度資金が必要。そう思い、外部からの資金調達を考えました。
──最終的にWMパートナーズからの出資を受け入れました。事業会社やベンチャーキャピタルという選択は考えませんでしたか。
いいえ。事業会社からの出資については、「どこかの色に染まってしまう」ことを懸念しました。IT人材事業は多くの企業を顧客として獲得することが生命線。「ギークスさんは○○会社系だから、ちょっと…」となるのを防ぎたかったのです。
また、ベンチャーキャピタルの場合は、単一事業に専念する企業を好む傾向があります。限られたリソースをひとつの事業にすべて投入するほうが、成長スピードが速く、早期にイグジットできるからです。ギークスは「ひとつの事業で成長するのではなく、柱となる事業を複数もち、それぞれを成長させる」という考えでしたので、ベンチャーキャピタルの出資先のイメージにそぐわないでしょう。実際、IT人材事業だけに専念していたら、ギークスはもっと早くIPOを実現していたかもしれません。
──たとえIPOまでの時間がかかるとしても、景気変動の波に左右されない基盤をつくったうえで、「新しい働き方を世の中に生み出す」という大きな絵を描き、そこにチャレンジする。そんな経営のあり方を理解し、応援してくれる出資者が必要だったわけですね。
ええ。最近は、複数の事業をもつ会社が、改めて評価されるようになってきています。メガベンチャーと呼ばれる企業は、単一事業にこだわらない経営をしているところが増えています。ただ当時は、私たちと同様の考えで、資金調達を成功した事例がほぼありませんでした。
そのなかで、縁あってWMパートナーズさんと出会い、私たちのポートフォリオ経営の考え方を深く理解してもらえました。WMパートナーズさんからすると、過去にIPOの実績をもっている経営者が、IT人材事業という安定的な収益基盤をもったうえで大きな挑戦をするということに、可能性を感じていただけたのだろうと思います。数億円という、まとまった資金を事業の進捗に応じて段階的に出資することをコミットしてくれました。
ギークス株式会社
設立 / 2007年8月
資本金 / 10億8,002万300円
売上高 / 30億5,041万3,000円(2019年3月期)
従業員数 / 308名(2019年3月末現在、グループ全体)
事業内容 / IT人材事業、動画事業、インターネット事業、ゲーム事業、IT人材育成事業
URL / https://geechs.com/
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