社歴の長いベンチャー企業には「経験」という武器がある
いま、投資市場はスタートアップ企業に熱い視線を送っています。ただ、「そればかり」になっていませんか? 成長を追求し、そのための出資を求めているのはスタートアップ企業だけではありません。本企画では、設立からの長い戦いを経て、なおベンチャースピリットを失わず、さらなる成長をめざす「大人ベンチャー」を取材。その成長戦略のリアルに迫ります。
ITフリーランスの働き方を支援し、ITフリーランスと企業をマッチングする事業を手がける、ギークス代表の曽根原さんが登場する後編。ベンチャーキャピタルでもなく事業会社でもなく、グロース・キャピタルであるWMパートナーズからの出資を受け入れて、IPOを実現した曽根原さん。12年という時間をかけて、経営者として2度目となる株式上場を果たした曽根原さんに、社歴が長いベンチャー企業がさらなる成長を遂げるための秘けつを聞きました。

出資金の使途変更を許容してもらえた

──ギークスはMBOによって発行株式の大半を曽根原さんが買い取り、独立した経緯があります。新たな出資を受け入れることで、「経営権が脅かされるのでは」という心配はありませんでしたか。

いいえ。むしろ、客観的に外部から会社を見てもらい、意見をいただけるということは、とても有意義だと思っていました。WMパートナーズはIPOを達成したさまざまな会社を見てきた経験をおもちです。会長の松本さんはかつてシリコンバレーでの投資経験をおもちで、社長の徳永さんをはじめゲーム関連のビジネスに明るいメンバーもいらっしゃいます。実際、IPOに精通した徳永さんが、当社の取締役会にオブザーバーとして参加していただき、多くのご意見をいただけたことが、スムーズなIPOの実現に繋がりました。

 

──WMパートナーズさんとのやりとりのなかで、印象に残っているエピソードをシェアしてください。

ひとつあげるとすれば、出資していただいた、その資金の使いみちを当初の予定から変更したことを、こころよく承諾していただいたことです。もともと、ゲーム事業はアップサイドを取りにいくために、パブリッシャーとしての立ち位置でした。そのため、ゲーム制作費用以外にも、リリース後には多額のプロモーション費用が必要となり、資金調達のニーズが発生したわけです。ですが、それだけ投資をしてもヒット率は低く、かなり厳しいビジネス環境になっていました。そこで、大手ゲーム会社などと協業し、その会社の資金力やIP調達力を活用したほうが、はるかに効率がいい。事業の安定性につながると考え、彼らとのパートナー戦略に方針を転換しました。

ファンドの多くは、出資金の使途が当初の予定から変更されることに、いい顔はしません。場合によっては拒絶されることも。しかし、WMパートナーズさんは、ベンチャー企業の経営を熟知しており、ポートフォリオ経営のなかで重要なポイントである事業ごとの採算性、アクセルの踏み方、撤退基準のもうけ方などについてもアドバイスをいただきつつ、協議しました。その結果、「どこにどれだけの資金を投じるか、臨機応変に決めていくことが非常に重要なことだ」と、許容していただけました。

IPOにはメリットしかない

──出口戦略について聞かせてください。最初から「IPOを出口に」と考えていたのでしょうか。

出口というより、私は「IPOはどの会社もめざすべきものだ」と思っています。まったくデメリットはなくて、メリットしかない。IPO後はもちろん、その準備段階から、会社の経営を外部のさまざまな専門家にみてもらう機会が一気に増えます。監査法人しかり、証券会社しかり、証券取引所しかり。そこで組織が大きくなっていくためのガバナンスや、経営者に求められる要素をたくさん学べるわけです。そのうえ、IPOしたことによって挑めるビジネスの規模が格段に大きくなりますし、それに必要な資金も国内外から調達を見込めます。ですから、IPOをめざすことは、最初から考えていたことでした。

 

──なるほど。しかし、会社設立からIPOまで12年かかりました。経営者としてのいちど目の上場時と比べると2倍の時間がかかりましたね。

ええ。ゲーム事業のビジネス形態をシフトチェンジするのに時間がかかり、予定よりもタイミングが遅れてしまいました。しかし、伸びたことが結果的にはよかったと思っています。働き方改革のムーブメントの真っただなかで上場でき、時流に乗れた、いいタイミングだったかもしれません。

 

──今後のビジョンを聞かせてください。

IT人材事業では、当社のサービスに対する理解を、ITフリーランス側・企業側の双方でさらに深めていき、「企業の枠を超えて複数のプロジェクトに携わる」という働き方、「新しい人材獲得の手段としてITフリーランスを活用する」という経営が、当たり前となる人材マーケットをつくっていきたいですね。「派遣社員」という働き方が一般的になったように、フリーランスという働き方が一般的になる時代がくると思っています。そのときには、「フリーランスといえばギークス」というポジションをとっていきたいですね。

当社はIT人材事業以外に、グローバルに活躍できるIT人材の育成を目的とする事業をフィリピン・セブ州のグループ会社で展開しています。IT業界では、さらに人材不足となることは明らかであり、IT人材の育成が急務です。この事業では、エンジニア志望者向けに「IT+英語」を身につけることができるテックスクールを運営していて、卒業生のなかには、大手IT企業へ就職・転職する方もいれば、起業する方もいらっしゃいます。ゆくゆくは、ITフリーランスの道を選ぶ方もいらっしゃるので、ギークス本体のIT人材事業の登録者となることも。IT人材育成事業を強化していくことで、IT人材事業との両輪体制で事業成長が期待でき、業績はより伸びていくと考えています。

また、それ以外の事業として、ゲーム事業・動画事業・インターネット事業も、それぞれ力を入れて業績を伸ばしていきます。事業間のシナジーもあり、ITフリーランス人材の活用を軸に事業領域の拡大を進めています。世の中の変化に合わせて、また新しいことへの挑戦もあるかもしれません。

世の中を客観的に理解するための壁打ち相手をもて

──社歴は長いが、ベンチャーマインドは失っておらず、「もういちど成長の角度を上げていきたい」と考えている経営者にアドバイスをお願いします。

社歴が長いということは、経営者として、さまざまなケースをより多く経験しているはずです。話に聞くのと、実際に自分で経験するのとはまったく違います。豊富な経験は、必ず武器になりますよ。長く会社を継続できているということ自体すごいこと。経営者として才能があるわけです。胸を張って、経験を武器にトライしてもらいたいですね。

 

──曽根原さんにとって、いちばん役に立った「経験」はなんでしたか。

リーマン・ショックでしょう。それこそ天国から地獄、2007年は業績好調でIPOを実現しましたが、2009年にはどん底でした。それまで赤字決算はいちどもなかったのですが、初めて赤字を計上してしまいました。当時は大変でしたが、いまとなればいい経験です。その後は、ある意味なにがあっても動じなくなりましたから。きっと、あれ以上に、ひどいことはない (笑)。

 

──曽根原さんはつねに前向き、という印象があります。そのパワーはどこから出てくるのでしょう。

苦境のときこそ、それを乗り越えることを「楽しむ」マインドが大切です。「どうしたらこの状況を打破できるか」という戦略を考えることを、誤解をおそれずにいうと、ある意味ではゲーム感覚で向きあうようにしています。外部環境・顧客・ビジネスモデルなどのファクトをあらためて客観的に整理することで、多くの課題の次なる打ち手や解決策が見えてくるので、その過程を楽しむようにしています。そのひとつの手段として、「議論の壁打ち相手」をもつようにするのもいいでしょう。私の場合、そのような相手が、WMパートナーさんでした。

ギークス株式会社
設立 / 2007年8月
資本金 / 10億8,002万300円
売上高 / 30億5,041万3,000円(2019年3月期)
従業員数 / 308名(2019年3月末現在、グループ全体)
事業内容 / IT人材事業、動画事業、インターネット事業、ゲーム事業、IT人材育成事業
URL / https://geechs.com/


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