個人商店から脱却するために“よき理解者”から出資を受けた
いま、投資市場はスタートアップ企業に熱い視線を送っています。ただ、「そればかり」になっていませんか? 成長を追求し、そのための出資を求めているのはスタートアップ企業だけではありません。本企画では、設立からの長い戦いを経て、なおベンチャースピリットを失わず、さらなる成長をめざす「大人ベンチャー」を取材。その成長戦略のリアルに迫ります。
第5回目は、日本インプラントが登場。抜歯後に人工の歯を入れる治療法のひとつで、急速に施術例が増えているインプラント。保険の対象でないため、患者は高額な治療費を支払います。でも、その負担にあたいする技量をもつ、信頼できるクリニックはどこにあるのか──。このニーズにこたえ、確かな技術をもつクリニックと、患者のマッチングをしているのが日本インプラント。家内工業的にこつこつ積み上げてきた双方の信頼が武器。次の成長ステージにのぼるために、代表の丸山さんが打った手とは、ビジネスモデルを真に理解してくれるパートナーを株主に迎えることでした。その詳細を丸山さんに聞きました。

「医療が選ばれる時代」の波に乗る

──日本インプラントへは、一般ユーザーから年間4万件の問い合わせがあるそうですね。大きな信頼をかちとっている理由はなんでしょう。

 ひとつは時代的な背景があると思います。医療も一般商品と同じように「選択する」という時代がきているのです。私たちのサービスのユーザーは、60歳前後のシニアがメイン。たいていは、かかりつけの歯科医がいる。それは多くの場合、「近所で開院している歯科医院」です。しかし、インプラントのように自費治療をする場合は、「どうせ高いお金を払うのなら専門的にやっている高度な技量をもつ歯医者さんにお願いしたい」と考えます。そうした患者さんのニーズにこたえるサービスを提供しているので、支持されているのだと思います。

 

──保険適用外の治療はほかにもあると思います。インプラントに着目した理由はなんですか。

ひとことでいえばビジネスとしての投資効率の高さです。もともと私は外資系の会社に勤務。その会社は、母国で成功した「歯列矯正を求める方にクリニックをご案内する事業」を日本で展開していました。しかし、歯列矯正の場合、施術を受けるのはおもに子ども。少子化の進行で市場が縮小するのは見えています。一方、インプラントはシニアがメインターゲット。市場として大きな可能性がある。

そこで、私は勤務先の会社のなかでインプラント治療のクリニックをご案内する事業を立ち上げました。その後、MBOによって歯列矯正事業とインプラント事業を買い取り、独立したのが当社の始まりです。ともにMBOをして当社を立ち上げた前代表が、歯列矯正事業を担当。こちらは、既存の提携先クリニックやユーザーの方にご迷惑をおかけしないように時間をかけて縮小していき、最終的には事業から撤退する計画でした。私自身は、インプラント事業を担当。この事業の成長性に賭けていました。

歯科医院の経営力アップのパートナーに

──どんな成長戦略を描いていたのですか。

地に足をつけて、地道に提携先のクリニックとユーザーを開拓していくことです。よくあるマッチングビジネスでは、ポータルサイトをつくり、大量のユーザーに登録させ、スケールメリットを追求します。でも、私たちがあつかっているのは医療サービス。求められる信頼性のレベルが違う。日本には約6万8,000の歯科医院があります。そのなかで、本当に患者さんを満足させられる治療技術・治療体制をもっているところとだけ提携し、患者さんにご案内しています。

そのために私たちが実際にクリニックまで足を運び、歯科医の先生と直接、お話しして、「この先生なら大丈夫」と確信できたクリニックだけと提携しています。さらに、提携した後も、その先生と一緒になって、事業としての歯科医院経営を成長させていく。「来年、当社はユーザーへのPRに投資をして120%成長します。先生は現状の120%増の患者さんを受け入れられますか? 治療日数を増やすのか、保険診療の患者さんの枠を削ってインプラント治療の枠を増やすのか、スタッフを増やすのか。どのような工夫をされますか?」。こんな話し合いを毎年するわけです。いまでも、私自身が全国を飛び回り、提携先と共に勉強し新規提携先を開拓していますよ。年間200日くらいは出張しています(笑)。

優秀なコールセンタースタッフを確保

──クリニックにとっては、経営の相談相手でもあるわけですね。では、ユーザー数を増やすための工夫を教えてください。

きめ細かく、ていねいにユーザーに対応できるコールセンターを独自でもっている点に強みがあります。患者さん一人ひとりの状況をお聞きして、どこに住んでいて、どういうお悩みをもっていて、どんなインプラント治療を望んでいるのかヒアリングしながら、クリニックをご案内しています。ひとりの患者さんをクリニックにご案内するまで、平均8回ほど患者さんとお話ししています。それだけ時間をかけて対応しています。

 

──優秀なコールセンタースタッフを擁しているんですね。

はい。ひとりの患者さんと1回1時間超、計8回もお話しできるようなコールセンタースタッフを、時間をかけて育成してきました。提携先の開拓もユーザーの開拓も、非常に時間をかけて仕組みをつくりあげています。その結果、私たちのビジネスモデルは、もうだれもついてこれないような段階にきているのではないかと思っています。

「いまのやり方を続けてください」

──成長戦略を推進していくうえで、どんな壁がありましたか。

少人数で日本全国のビジネスインフラを整備しなければいけなかったことですね。正社員が10名ほどで、前社長と私の家内工業的な会社でしたから。「年間、10クリニックくらい提携先が増えればいい」というペースでした。次の成長テージに進むためには、個人商店からの脱却が必要でした。

 

──どうやって脱却したのでしょう。

ファンドからの出資を受け入れたのです。徐々に規模を縮小していた歯列矯正事業からの撤退が完了。そのタイミングで、縮小の陣頭指揮をとっていた前社長から、「年齢的なこともあり、リタイアさせてほしい」との申し出がありました。私たち2人は50%ずつの株を持ち合っていた。会社の売上が伸びているなかで株価が上がり、とても前社長のぶんを個人では買い取れない。そこでファンドに買ってもらうことを決めた。資本だけでなく、情報力や人的ネットワーク力など、ファンドのチカラを借りることによって、成長の第二ステージにステップアップできると考えたからです。

 

──丸山さんは前社長とともに、マネジメント・バイアウトによって独立したのですよね。ファンドの出資を受けると、「独立前と同じように、外部の株主に支配され、やりたいことができない」という状況になってしまう心配はありませんでしたか。

そうした心配をしなくてすむように、私たちのビジネスモデルをよく理解してくれるパートナーを探しました。どこのファンドも、口では「いままで通り自由にやってください」といいます。でも、その一方で、たとえば「ポータルサイトを運営している会社と組みませんか」といってくる。「売上が一気に上がりますよ」という理由で。しかしそれはまったく逆。そうしたところと組んだら、築き上げてきたブランド力が終わってしまう。強みがなくなって成長が止まってしまうのです。そうした「ウチのビジネスモデルを理解してますか?」といいたくなるような提案をしてくるところは避けました。

そんななか、「ムリに変なことしなくていいので、いまの日本インプラントさんのやり方のまま、事業を大きく伸ばしてください」といってくれたファンドがあった。それがWMパートナーズでした。これなら私たちは動きやすい。一方で、情報力や人的ネットワーク力をもっていて、それを提供してもらえそうでした。「ここと組めば、次の成長ステージへ上がれるだろう」と確信。出資を受けることを決めたのです。

WMパートナーズさんのように私たちのビジネスを理解してくれるところであれば、100%の株をもってもらってもいいとさえ、思いました。でも、私の持ち株については「全部は買い取らない」と、WMパートナーズさんのほうから申し出がありました。「同じ船に乗り続けていてください。必ず『株をもっていてよかった』と思っていただけるはずです」という理由でしたね。

日本インプラント株式会社
設立 / 2013年10月
資本金 / 5,000万円
売上高 /約15.5億円(2019年12月期 見込み)
従業員数 / 33名(2018年12月末時点)
事業内容 / インプラント治療に関する情報提供、歯科医院に対する経営コンサルタント業、歯科医院と技工所のマッチングサイト『Street』の運営、インプラント難症例オペ依頼・麻酔依頼のサポートサイト『Share』の運営
URL / http://www.anshin-implant.jp/


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