今回は、営業や物流などの"現場業務"を、「働くを、もっと楽しく」するビジョンで、位置情報システムを活用して効率化するアプリ、『cyzen』を展開するレッドフォックスが登場。設立30年目を迎える2019年までに、同社は事業内容や成長戦略をいくどもピボットしてきました。そのなかでも、今回は株主構成のピボットについて、同社代表の別所さんに聞きました。
管理者ではなく現場のためのアプリ
──業務アプリ『cyzen』の導入企業が1,300社を超えました。支持されている理由はなんでしょう。
『cyzen』が掲げている「働くを、もっと楽しくする」というコンセプトが、BtoB向けクラウドサービス市場で受け入れられているからです。『cyzen』と同じく、営業や物流などの外回り仕事を対象とするSFAなどのITサービスのほとんどは、現場データを集計し分析して中間管理職が上司に報告するために必要なツール。最前線で働く人たちからすると、ツール導入前よりも「無意味でめんどうな入力が増え、仕事の楽しさが減った」というケースも多い。この点、『cyzen』はまったく逆。『cyzen』を使えば、現場の人たちがもっと楽しく働くことができるようになります。その結果として、残業が減り売上が上がる。ほかにはない、こうした特徴が市場で評価されているのでしょう。
──『cyzen』を導入して効果のあった事例をシェアしてください。
たとえば、病院向けにジェネリック医薬品を販売している会社。あるジェネリック医薬品を売りたいときにオリジナルの医薬品の病院ごとの売上リストを買います、このリストをみて売上が大きい病院を訪問すれば、確度の高い営業ができるわけです。以前は、エクセルのリストをプリントアウトして営業スタッフに渡していたそうです。営業スタッフはそのリストにある所在地を見て、地図情報で場所を調べて、訪問計画を立て──という手間をかけていました。
『cyzen』の導入後、営業スタッフがもつスマートフォンの画面に、地図上にプロットされた病院と、その病院の医薬品売上データが表示されるように。簡単に訪問計画を立てられるようになり、訪問件数が劇的に増えました。営業スタッフは手間が減り、成績も上がる。仕事が楽しくなるわけです。その結果として、企業としての売上は、『cyzen』の導入から約1年で倍増したのです。
──そんな短期間に効果が出るものなのですね。
ええ、導入に成功したお客さまのほぼすべてで売上向上、残業削減が実現しています。それにくわえ、長期的な企業成長にも大きく貢献します。というのも、現場で働く人材を、「ノウハウがあるか」「やる気があるか」という2軸でわけたとします。『cyzen』の導入が短期間で効果が出るのは、「ノウハウは豊富だが、やる気にとぼしい」層の行動を変えられるから。「もう若くないんだし、ガツガツ行くこともないな」と考えがちな中高年のメンバーでも、『cyzen』を使うことで行動量を自主的に増やしてくれます。ひとめ見てわかるユーザーインターフェイスと、直感的に動かせる操作性をそなえているアプリだからです。
彼ら・彼女らの行動量が増えると、その行動パターンが『cyzen』に蓄積されます。どんな訪問先で、どんな役職の人に会い、どんなトークを展開し、どんなフォローをしているのか。経験豊富なベテランの行動を、いつでも、どこでも参照できる。これが、「ノウハウはあまりもっていないが、やる気は十分にある」という層にとって、最高の教科書になるんです。つまり、ノウハウの社内伝授が可能になる。結果、やる気のある人材たちがノウハウを獲得。成績がグンと伸びるわけです。これが、長期的な企業成長の大きな原動力になるんです。
事業シナジーを求めて事業会社の傘下に
──なるほど、よくわかりました。では、そうしたメリットを市場に浸透させた方法を教えてください。
いえいえ、まだ浸透しきってはいませんよ(笑)。『cyzen』の拡販には困難が多いことは、当初からわかっていました。第一に、大企業が「○×」で機能比較をした表つきの稟議書を回して決めようとするとき、使ってもらえればよさがわかる「体感メリットの大きいサービス」は表では伝わりません。役員に使ってもらうまでのハードルをどうやって突破するかが課題になります。
第二に、中間管理職には導入メリットが少ないサービスであること。業務アプリの導入で実質的な決定権をもっているのは中間管理職である場合が多い。従って、管理職を飛び越えて、直接、経営層にアピールする必要があります。とはいえ、大企業の社長へのアポイント取得は高度な営業ノウハウが必要です。
第三に、中小企業なら社長にアポが取りやすいのですが、『cyzen』は自社における働き方をゼロベースで「発明」してもらわなければ最大限の効果が得られません。しかし中小企業には経営企画や営業推進などの専任の担当者がいないためそれができません。
これらの理由から、『cyzen』の拡販は長期戦を覚悟。お客さまに業界ごと、業務ごとの新しい働き方を発明していただき、それらのケースをデータとして蓄積する必要がありました。
──長期戦を戦い抜くには、資金が必要ですね。
その通りです。まず検討したのは、ベンチャーキャピタル(以下、VC)からの出資を受け入れることでした。しかし国内のVCは事業が計画通りに進まなかったときに、創業経営者の権利を制約する投資契約がある。融資のように償還期限が設定され、優先分配の利率などの点でも、サインできるものではありませんでした。私たちは世の中にない画期的なサービスを提供しているので、たとえばアメリカのような先進市場で流行しているサービスをそのまま日本で展開するタイムマシン経営とは違い、必ずしもVCファンドの寿命にあわせた株主還元を保証できません。長期戦を覚悟しているのに、これでは矛盾します。
──確かに、数年で軌道に乗り、IPOを果たせるような事業であればVCからの出資を受け入れるのもいいのでしょうね。そうではなかったレッドフォックスは、どうしたのですか。
2014年に、事業会社であるオプトグループからの出資を受け入れて、その傘下に入ったのです。資金を調達すると同時に、マーケティング分野のリーディングカンパニーである同社から販売や宣伝での支援を期待していました。『cyzen』というBtoB向けのサービスを世に出したばかりの私たちにとって、宣伝広告も販売方法も、それまでのシステム開発事業での経験とは縁遠く、未知のものでした。具体的な支援はなくても、ノウハウだけでもノドから手が出るほどほしかったのです。
一方、オプトグループも、私たちが『cyzen』を販売することで得る、さまざまな情報を共有することで、マーケティングや広告の事業に活かすことができます。しかし、いざ、グループ入りしてみると大きな壁にぶつかることになりました。
設立30年でもベンチャー精神は健在
──なにが起きたのでしょう。
まったく新しい市場を開拓しているベンチャー企業であるレッドフォックスと、上場企業として株主に対して予実を合わせることを約束しているオプトグループと、両社のズレが顕在化してしまったのです。
たとえば、彼らは四半期決算を開示するために、各四半期のP/Lを重視します。しかし、私たちはSaaS型のビジネスモデルを展開しているので、私たちのステージではP/Lよりもキャッシュフローを重視しています。そして「年度を通して、そのキャッシュをどう使って成長戦略を推進するか」という発想なのです。「えんえんとかみ合わない議論が続いてしまい、双方疲れてしまう」というようなことが、ひんぱんに起きてしまいました。
──レッドフォックスがスタートアップ企業であれば、オプト側はそんな対応をしなかったかもしれません。「設立30年になろうという企業なので、安定した経営をしているはずだ」と思い込んでいた可能性もあると思います。
そうかもしれませんね。でも、私たちは「ザ・ベンチャー企業」。『cyzen』というプロダクトにいきつくまでに、なんども事業をピボットしてきたことと、『cyzen』の拡販に時間をかけていることから、社歴が長くなっているだけ。ベンチャー・マインドはどの企業よりもおうせいだと自負しています。
スタートアップ企業がゼロから事業を立ち上げていくための資金を求めるケースや、中小企業が経営基盤を安定させるための資金を求めるケースとは違うのです。レッドフォックスは長距離マラソンを走ってきて、「いざ、スパートをかけよう」というときの資金を求めているわけです。
──そんな長距離ランナーのベンチャー企業ならではの株主が必要というわけですね。
ええ。株主構成をピボットする必要性を感じていました。そんななか、外部の専門家を介してWMパートナーズを知ったのです。WMパートナーズは、社歴のあるベンチャー企業への支援に力を入れており、「当社と相性がいい」と思いました。また、会長の松本氏がかつてシリコンバレーのベンチャーキャピタリストとして活躍した大御所であり、一流の人脈をもっていることにくわえて、代表の徳永氏がSaaS型ビジネスに造詣が深く、パートナーとしては最適であると考えました。オプトグループからWMパートナーズへの株式譲渡の話がまとまり、株主構成のピボットに成功したのです。
設立/1989年5月
資本金/3億6,041万500円
従業員数/30名
事業内容/営業やメンテナンス、輸送などすべての現場作業をスマートフォンで革新する 『cyzen』の世界展開
URL/https://www.redfox.co.jp
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