おふたりとも、「地方の中小企業を元気にする」という志を共有しています。そのための手段として、M&Aを駆使した成長戦略の有効性を力説しています。対談は、地方の中小企業がM&Aによって成長を加速させた具体例から、地方企業が活性化した先に見える日本経済の復活した姿にいたるまで、盛り上がっていきます。成長への意欲はあるが方法論が見えない経営者は必読です!
東京企業の傘下に入って営業力を強化する
徳永 「M&Aを使った成長戦略」という選択肢を地方の中小企業に広めるためには、優良な事例を広く周知させることが重要になりそうです。そこで、M&Aアドバイザリーとして数多くの案件を手がけてきた牟禮さん、印象に残っている事例をシェアしてください。
牟禮 それでは、ある地域で、通販事業をコアにしながら、システム開発や飲食など、コングロマリット化している企業の事例を紹介しましょう。同社は、通販事業で培ったクリエイティブ能力およびマーケティング能力を活かして、エンタメ領域への進出を考えていました。そのための手段として、東京にあるゲーム開発会社を買収したのです。
その後、ゲーム開発に着手していますが、同社がもともともっていたクリエイティブ能力、マーケティング能力と、買収した会社のゲーム開発能力によるシナジー効果は明らかです。まだゲーム自体は世に出ていませんが、同社は企業の買収後、さらに数億円の開発費を投資しています。かなり楽しみな事例ですね。
徳永 確かに印象的ですね。東京のゲーム開発会社が、地方の企業の傘下に入ることに対して、抵抗はなかったのでしょうか。
牟禮 多少の混乱はあったようです。買収される側のゲーム開発会社にとって、買収側の企業の情報がほとんどなかったので。しかし、買収側の社長がひんぱんに東京を訪れて、ミーティングや交流を重ねるうちに、経営者同士の信頼関係が構築できました。お互いを知ることが、M&A成功の要因となったと思います。
徳永 確かに、M&Aではお互いのコミュニケーションが重要になりますね。それでは、買収される側の企業の視点で、印象に残る事例はありますか。買収される側は「身売りした」というイメージがつきまといますが、それを払しょくするような、買収されることで成長できた事例を教えてください。
牟禮 それでは、わずか2年で従業員数を4倍にまで拡大させた、大阪のシステム会社の事例を紹介します。同社は、従業員数が十数名の会社でしたが、営業力に課題があって、事業を拡大できていませんでした。そこで、東京のより大きなシステム開発会社の傘下に入ります。
すると、親会社の営業リソースを活用することで、事業規模を拡大させることができたのです。いわば「コストをかけずに、むしろお金をもらいながら、東京に強力な営業拠点をかまえた」というわけです。
では、M&Aのための資金を提供するファンド側である徳永さんから、ご紹介いただけるおもしろい事例はありますか。
買収される企業が双方の強みを引き出す
徳永 半導体の基幹部品を開発・製造するメーカーがBtoCのECサイトを運用する会社を買収した事例があります。ECサイトは他社との競合もあり販売価格を上げることは極めて難しい。ECサイトを運用する会社は一部、モノを仕入れて加工する必要があります。その部分で、メーカーの視点に立って工場内を見直すことによって原価を低減することができ、利益率を改善させることができました。
一方、メーカー側はECサイトの買収によって、Webでのマーケティング戦略を学ぶこともできたので、双方にとって、いい相乗効果を生むことができました。
牟禮 どの事例も、買収される側の企業が、買収側企業の強みをうまく引き出しながら新たな成長につなげているのですね。企業がこれらの事例のような成長につながるM&Aを実現するためには、専門家とのコネクションが重要になりそうです。私たちが提供しているM&AアドバイザリーだけではM&A案件は完結しません。
M&Aに精通した弁護士や会計士はまだまだ少ないので、関係性を維持しておくことがM&Aを成功させる重要な要素となりそうです。
徳永 専門家とのコネクションをつくるためにも、小さくてもよいので、まずは1件、M&Aを自社でやってみることをおすすめしたいですね。「あの会社はM&Aに積極的だ」というシグナルを発信することになるので、専門家がコンタクトしてきますし、買収先企業の情報を広く入手しやすくなりますよ。
地方の大人ベンチャーが日本全体を元気にする
牟禮 とにかくM&Aを始めてみて、シグナルを発信するという発想はいいですね。M&Aを普及させるための有効な手段のひとつになるかもしれません。
徳永 そのためにも、経営者に従来とは異なるマインドをもってもらうことが重要だと感じています。労働人口が減少し、人手不足がよりいっそう深刻化するなかでは、企業を存続させるために、ITを活用し生産性を向上させる必要があるはずです。さらに、M&Aも成長戦略のひとつの選択肢とする。そうした会社がどんどんと増えていき、成功事例が身近に感じられるようになれば、M&Aが果たす社会的な役割も大きくなるでしょう。
牟禮 確かに、私が事業を開始したころから比べると、M&Aの認知度はだいぶ上がってきたように感じます。昔は、当社がなにをやっている会社なのかを説明しても理解してもらうことが難しかった。いまは、「M&Aアドバイザリー」といえば、事業内容を理解してもらえます。
この流れはますます加速していき、今後は、地方においてM&Aがますます増加することでしょう。地方といっても、移動手段が発達して2時間もあれば、東京からどこにでも行けるし、テレビ会議が普及しているため、距離的な制約はないにひとしい。地方にある企業をもっと元気に成長させるために、今後も力をつくしたいと思います。
徳永 最後に、M&Aをもっと普及させて、地方を活性化させるために、私たちグロースキャピタルに期待することを聞かせてください。
牟禮 たくさんあります。ファンドのサイズを大きくしてもっとリスクが取れるようにしてほしい。47都道府県のすべてで投資をしてほしい…。もうなにから話をしたらよいのかわかりません(笑)。
ファンドという立場を最大限、活用し、株主として経営者を資金面だけではなく、情報提供やアドバイスなどさまざまな側面から支えてほしいと思います。経営者は安心してM&Aに取り組むことができますし、私たちも安心なので(笑)。
徳永 はい、ありがとうございます。一方で、私たちの側でも、パラダイムシフトさんへの期待値はかなり大きいです。モノを動かすだけの不動産の仲介と違って、企業売買の仲介には、経営者や従業員の想いと向きあう必要があります。その点、牟禮さんはそこへ向かう本気度が違います。
そうした取り組みによりM&Aが増加し、地域の隠れた中小企業が成長を遂げ、地域経済が活性化し、ひいては日本全体が元気になればこれほどうれしいことはありません。
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