第2回目は、マーケティングオートメーションの分野で外資系企業の攻勢をものともせず、国内No.1シェアを続けるシャノンが登場。まだ世の中にマーケティングオートメーションという言葉がない時代から実績を着実に重ね、2017年にマザーズ上場を果たしました。そこにいたる10年以上の間、「資金不足による営業力不足⇒営業力不足による資金不足」のループに悩まされたそうです。それを乗り越えた新発想の資金調達とはなにか、代表の中村さんに聞きました。
「MA、なにそれ?」時代からのパイオニア
──『シャノンマーケティングプラットフォーム』が、統合型マーケティング支援SaaS市場7年連続シェア1位となっています。支持を集めている理由を教えてください。
ひとことでいえば、先行者であることです。マーケティングオートメーションが注目されるようになったのは、この3~4年のこと。外資系のベンダーが入ってきて、プロモーション活動を大々的に展開した影響から、ハイスピードで市場が拡大しました。
しかし当社がこの分野に取り組み始めたのは2007年。「マーケティングオートメーション? なんですかそれ?」という時代から、コツコツやってきました。「いつかはマーケティングオートメーションが注目される時代がくる。そのときにはリーディングカンパニーになるぞ」という想いで歩んできたわけです。早い時期から実績を積み重ねてきたことが、7年連続シェア1位という結果につながったのだと思っています。
──現在は競合がたくさんあらわれています。先駆者ゆえの強みはどこにあるのでしょうか。
「シャノンになら全部相談できる」という部分です。競合するITベンダーさんにありがちなのは「製品のライセンスを提供します」と、モノだけ渡しておしまい、というパターン。システム導入は別の会社にやってもらい、踏み込んだコンサルティンングはコンサルタント会社に頼む。コンテンツはまた別途手配して…となってくると、お客さまがすべてをコントロールするのは大変です。シャノンの場合、導入からコンサルティング、コンテンツ制作まですべて提供します。長年、多くのお客さまの導入事例・活用事例を蓄積してきたからこそ、導入でもコンサルティングでもコンテンツ制作でも、豊富なノウハウをもっているわけです。
もうひとつ、つけくわえるならば、デジタルとアナログ両方のマーケティングに対応できる点も支持されている理由だと思います。一般的にはマーケティングオートメートメーションといえば「デジタルマーケティングを効率的にするツール」というイメージでしょう。しかし、たとえば「展示会に出品する」とか「お客さま向けのセミナーを開催する」といったアナログマーケティングも重要です。シャノンのプロダクトは、両方の活動を一括で管理運営できるため使い勝手がいいのです。
売上がどうしても目標に届かない
──2007年にいまの主力プロダクトをリリースしてから、成長戦略を推進していくなかで、ぶつかった壁はどのようなものでしたか。
売上が思うように伸びなかったことです。私たちはクラウド型のサブスクリプションビジネスです。月額でお客さまから「薄く・細く・長く」利用料をいただく。電力やガスといったインフラビジネスをイメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。まず、個々のユーザーへの供給網を整備してから、そのコストを、利用料金を徴収することで少しずつ回収していく。電力会社やガス会社のような大資本の企業ならではのビジネスモデルなのです。
これを私たちのようなベンチャー企業がやろうというわけですから、けっこうきつい。「売上が上がらず、キャッシュが足りなくなって予定通りに製品投資ができない」とか、「拡販するためにコストをかけて営業したいけれど、資金がつくれない」といった状態がずっと続きました。結局、2007年にはじめてベンチャーキャピタルの投資を受けてから、上場するまで10年かかりました。これは当初予定の2倍の時間でした。
──時間がかかった原因はなんでしょう。
簡単にいえば営業力不足です。2007年からの5年間はブルーオーシャン。そういえば聞こえはいいですが、実際には「マーケティングオートメーションってなに?」というところから営業しないといけない状況だったわけです。ニーズを喚起するところから営業活動が始まるので、スピードが上がらなかったのです。
──営業スタッフの育成にチカラを入れれば克服できるのではありませんか。
確かにそうですが、現実には組織づくり、人づくりの壁は厚かったですね。よくベンチャー企業で「100人の壁」といいますよね。当社では「壁に挑むぞ」と思ってから、「超えたな」と思えるまで5年くらいかかりました。
学生時代に起業したため、私には会社組織に属した経験がありません。だから、組織というものを知らない。組織化しようとすると、部長がいて課長がいてと上下関係ができます。プレーヤーとして優秀でもマネジメントが得意とは限らない。「プレーヤー時代はあいつのほうが、成績が下だったのに、なんであいつが上司に…」と、人間関係がこじれる。私が組織づくりに無知だったために、そんなケースをたくさんつくってしまった。不満が積もり積もって、大量に人が辞めたことも。悩んで先輩社長さんに相談したら「辞めるより早く人をとるんだ。もっと人をとれ」っていわれましたね(笑)。
期限切れファンドをカバーする救世主
──なかなかIPOにいたらないなかで、出口戦略を変更することは考えませんでしたか。
いいえ。2007年当時はベンチャー投資の出口といえばIPOのみでしたから、おのずとIPOをめざすことになりました。そして「メガベンチャーにバイアウトする」といった出口戦略も「アリだ」となってきたころ、マーケティングオートメーション市場が外資系の参入により一気に盛り上がったんです。その外資系の状況はといえば、この分野でトップランナーだったエロクアをオラクルが買収。パードットはセールスフォースに買収され、マルケトもアドビが買収しています。
このようなグローバルの巨人たちと国内で戦わなければいけなくなった。そんななか、「シャノンってなに? ベンチャーなの?」では明らかに立場が弱いわけです。「上場している会社だよ」といえなければ外資系の競合と同じ土俵に立てない。だから結論としては、「IPOをめざす」という出口戦略に変更はありませんでした。
──しかし、ファンドにとっては、「シャノンさんなかなか跳ねないね」という感じだったのではありませんか。
突き上げをくらったりすることはありませんでしたよ(笑)。毎年20~30%は伸びていましたから。ファンドがいちばん困るのは、成長がストップしてしまうことですからね。でも2014年ころにはベンチャーキャピタルのファンドの期限が迫っていました。「次の資金対策をどうするか」と考えていたとき、あるファンドの方から、WMパートナーズを紹介してもらったのです。
──期限切れのファンドの投資を引き受けてくれたわけですね。
ええ。そして、「上場まで支援する。事業の状態をちゃんと評価したうえで、追加投資も考える」と。既存の株主さんたちは投資してからだいぶ時間がたっているので、「追加投資をお願いします」という話になりにくかったのです。ほかにはない、ありがたい話だと感じましたね。
じつは同じ時期、コーポレートベンチャーキャピタルから資金提供の話もあったんです。でも、そちらをとると「シャノンは〇〇系の会社だね」といわれてしまいます。私たちの事業領域はマーケティング。非常に幅広いクライアントさんがいます。「○○系」とカラーリングされると、クライアントさんとの関係がうまくいかなくなる恐れもあるわけです。上場を見すえるなら、それはまずい。その点、WMパートナーズならカラーリングされることもなく、フラットに振る舞える。そこで、ベンチャーキャピタルでもコーポレートベンチャーキャピタルでもなく、グロースキャピタルであるWMパートナーズを選択したわけです。
設立/2000年8月
資本金/3億8,688万9,000円
従業員数/150名(2018年10月末現在)
事業内容/マーケティングクラウドの提供ならびにソリューションの企画・開発・販売。マーケティングに関連するコンサルティング・アウトソーシングサービスの提供。
URL/https://www.shanon.co.jp
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