ブレークスルーしたベンチャーの肖像
#9
「作るだけの開発会社は淘汰されていく」 技術力重視のIT企業が描く未来図 Sponsoredかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

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「どうすれば利益を極大化できるのか」「どうすれば強い組織ができるのか?」─。こうした悩みを抱えているベンチャー経営者は多いですよね。そこで、M&Aアドバイザリーやデューデリジェンスなどを提供、ベンチャーの成長戦略に詳しい“かえでファイナンシャルアドバイザリー”代表の佐武さんをナビゲーターに、新進気鋭のベンチャーの成長戦略の“裏側”を取材しました。
今回は最先端テクノロジーを駆使したシステム開発で顧客企業から支持を集めるテクノモバイルの代表・播田さんが登場。「BtoC向けのシステムを開発するだけでなく、そのあとの“事業の成功”まで顧客企業を支援する」ことをめざし、サービスノウハウや人財の獲得のためのM&Aを積極的にしかけています。エンジニア社長である播田さんならではの戦略の詳細に迫りました。


<ポイント>

国内IT業界におけるM&A件数はここ8年連続で増加。2018年には1,080件と、初めて1,000件を超えました(株式会社日本M&Aセンター調べ)。創業以来、BtoC向けのシステム受託開発を手がけ、大企業からの直接指名も多いITベンチャー、テクノモバイルも、M&A戦略を積極的に推進しています。ねらいは、新たなサービスノウハウと人財の獲得。その背景には、「Technology x Creative x Marketing」というコンセプトを掲げ、「“技術以上の価値”を顧客に提供できる企業になる」という同社の未来図があります。

【回答する人】

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播田 誠(はりた まこと)

株式会社テクノモバイル 代表取締役社長
1974年生まれ。2006年に株式会社テクノモバイルを設立、代表取締役社長に就任。

 

【ナビゲートする人】

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佐武 伸(さたけ しん)

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 代表取締役
1962年生まれ。2005年に株式会社サンベルトパートナーズ(現:かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)を設立。

人財の活躍の場を増やすためのM&A

──システム開発は競合の多い分野だと思います。そのなかで2017年には売上高が13億2,000万円と10億円を突破。順調に成長できている要因はなんでしょう。

2016年から2017年にかけて、体制強化を推進してきたことです。具体的にいうと、利益のすべてを人財採用と育成に投資する方針に舵を切りました。並行して営業面の強化にも着手。人財が増えるなら、そのぶんだけ案件が必要ですし、「テクノモバイルに入って、この案件に携わりたい」と未来の仲間に思ってもらえるような魅力的な案件や、入社した技術者のスキルアップに適した案件を獲得する必要もありますから。

結果、2016年の売上高8億円から、2017年の13億円と成長できたわけです。社員数も順調に伸び、2017年に100名を超え、2019年4月で150名弱へと増員できました。

──社員数の増加にM&Aが貢献しているのでしょうか。

いいえ。社員数の増加のほとんどは中途・新卒の採用によるもの。人財確保目的での企業買収については、探してはいるものの、まだ成果は出ていません。「なかなか難しいな」というのが、正直なところですね。「われわれと技術面でのシナジーがあるか」「先方の人財を活かせる土壌がつくれるかどうか」といった観点で、マッチする企業が見つかっていません。

合流して仕事をする以上、社風やメンバーの根本的な価値観、企業としてめざす方向性といったところはあわせていきたい。完全に同じ方向を向く必要はないですが、根本的なところでは同じところへ向かっていかないと、単に資本関係のある別会社になってしまいますから。その点、「グループ経営」についての経験や能力が不足していると実感しています。社内で立ち上がった会社であれば、あるべき姿が共有できているはずですし、知っているメンバーなので、成功しても失敗してもサポートできる。失敗しても「いい経験を積めたのだからOK!」と思えるので、グループ経営をするにしてもあまり心配はないのですが。

現時点での当社のM&A戦略の成功例は、「技術者が活躍できる場を増やす」という目的で、事業に魅力を感じて買収したものだけです。

──具体事例をシェアしてください。

2例あげますね。ひとつはテスト管理ツール「Qangaroo」というBtoBサービスです。2017年に、サービスだけを買収しました。システム開発プロジェクトのテストシナリオをつくったり、どういう観点でテストするのかをWeb上で設定・共有できるツールです。買収後は収益を出す方法やプロモーションについての企画運営を、社員にまかせています。たとえ事業として芽が出なくても、テスト工程を効率化したり、不具合を視覚化したりと、受託開発のプロセスのなかで活用できますから、社内でうまく使えればメリットは充分あるかなと考えました。のちのちAIの機能を付加すれば、不具合の分析ツールとしても使えるかもしれない。エンジニアとしてはおもしろい題材です。

もうひとつは、薄毛治療についての情報サイト。こちらは2018年に買収しました。社内のマーケティング部門に、「Webサイト運営」のリアルな体験をしてもらうことが主目的です。ここでの成功・失敗体験を踏まえて、お客さまに対して「成功できるサービス」を提供できればいいなという思いでいます。

信用力が上がるまでは悔しい思いも

──順調にサービス領域を拡大できていますね。創業期から順風満帆だったのですか。

いいえ。技術には絶対の自信があったものの、信用を得る事には苦労しました。社員数が20名ぐらいまでのころは、比較的、小規模の案件の受注が多かったです。当社は私自身も含め、エンジニアの集団。創業から8年間くらいは特別な営業活動はせず、紹介だけで案件を受注していました。つくった“作品”が営業ツールになって新案件を受注し、そこでつくった“作品”が次の営業ツールになり…の繰り返し。大規模なサービスや重要度の高い案件でも、依頼してもらえればよいものをつくる自信はありました。でも、会社の信用力が及ばず受注できなかった。とくに新規のお客さまだと、そうした悔しい思いをするケースが多々ありましたね。

しかし、社員数が50名を超えた頃に、転換期が訪れました。大きな案件での実績ができてくると、その“作品”を見て、依頼が来るように。「こういうものをやってるなら、ぜひウチの案件もお願いしたい」と声が掛かり始め、信頼が勝ち取れず受注できない、ということがなくなりました。

──営業活動をせずに業績を伸ばせるのはすごいですね。

ノウハウを積み上げられるように、創業以来、一貫してたくさんのエンドユーザーが使うBtoC向けのシステムに拘って手がけてきたのが功を奏したのかもしれません。今でもBtoBのシステムは原則として受注していません。業界や業務によって技術や身に付く知識が大きく違うので、ひとつのシステムをつくりあげても、次に活かせるノウハウが少ないからです。

現在では体制を整えて、営業活動も行っています。やっぱり我々は技術者集団なので、自分たちもワクワクするような案件を手掛けたい。2度目の転換期といえるかもしれませんね。

企画から開発後の支援までワンストップで

──体制を整えたうえで、今後、どのような成長戦略を描いていますか。

「システム開発後のサービスの成功」まで責任をもってお客さまを支援する事業をやっていきたい。「依頼されたものをつくる」という仕事の枠にとらわれず、つくったあとにそれを使ってビジネスをどう仕掛けていくのかまでをお客さまと一緒に考え、成功を生み出す。当社を選んで依頼をして頂くからには、そこまで貢献していきたいですね。

たとえば「ネットビジネスをやりたい」というお客さまには、「どんなサービスにするか」というアイデア検討のステージから、サービス設計やUI/UX、システム開発を経て、運用し、「成功が見えている」という段階まで一緒につくり上げる。そんな事業ができる体制を、今後3年間くらいで固めていきたいたいですね。

──より利益率の高いコンサルティングと運用に進出して、徐々にシステム開発から、そちらへシフトしていくのでしょうか。

システム開発やデザイン制作などの「ものつくり」から軸足を外すことはありえないですね。われわれは利益率を追求する会社ではなく、「ITのものづくりに携わる技術者を活かす」ことを追求する会社です。「ものづくり」という軸は変えず、その前後のフェーズ─戦略プランニング・運用・改善─まで手掛ける事で、お客様によりよいサービスの提供ができると考えています。

また、携われる業務範囲の拡大が、ものづくりに携わる技術者にとってのやりがいにもつながると信じています。

──なるほど。よくわかりました。その理想像に近づくために、どんな手を講じていきますか。

自社でWebサービスの運用を実践して、そこでエンジニア、マーケター、クリエイターに「つくったあと」の成功・失敗体験を積んでもらい、お客様のサービス開発に活かせる土壌をつくろうと考えています。そのためにWebサービスをもっている会社のM&Aを、さらに積極的に推進します。

人材確保目的のM&Aについても、探索は続けます。もしかしたら、「優秀なエンジニアがいる企業を、そのエンジニア目的で買収する」、というのもアリなのかもしれませんね。ヘッドハンティング代わりのM&Aというわけです。エンジニアが転職する必要はなく、ストレスが少ないのではないかと。まあ、そんな話はなかなかないと思いますが(笑)。

必要性を感じるまでIPOは考えない

──出口戦略を教えてください。

現時点では、具体的なことは考えてはいません。「将来的には株式上場したほうがいいのだろうな」という思いはあります。でも、現時点では上場の意義を見つけられていない。たとえば「上場しなければ事業が跳ねない」とか「やりたいことできない」とか。そういう局面になったら考えたいです。若いメンバーたちが今後、変化の激しいIT業界でずっと第一線で働き続けることを考えると、「上場して、安定した体制で活躍してもらうのがいちばんいいだろう」とは思っています。

──「社員のモチベーションを上げるためにIPOをめざす」という経営者もいます。

当社の場合、現場から「ウチも上場会社になってほしい」という希望はあがってこないんですよね。当社は7割がエンジニア、2割弱がデザイナーなどクリエイター、残りの1割弱がマーケティング担当。職人肌のメンバーが多く、当社を“やりたいことができる場所”としてとらえているようです。会社の成長に期待はしているでしょうが、それが特段、上場に紐づいてはいない印象です。

──では、播田さん自身は「IPOをして創業者利益を得たい」とは思わないのでしょうか。

疲れているときに一瞬、心によぎるくらいですね(笑)。それでお金を手に入れたとして、それを使ってなにをしたいのか。となると、また「なにか、ものづくりをしたいな」となりそうで。「それなら、いまと変わらないよな」と(笑)。経営をまかせられる人材が育てば、バトンタッチして、私自身はまたものづくりの現場に戻ることもありえます。

──播田さんは根っからのエンジニアなんですね。後継者づくりは進んでいますか。

まだまだですね。「2代目の社長は社内のメンバーから」と思ってはいますが、経営についての教育はあまりできていないのが現状です。とはいえ、売上や利益ばかりを追求する経営者がいる会社にはしたくない。ものづくりのノウハウをしっかりもったうえで経営ができる人財を育てたいです。テクノモバイルの社長は、テクノロジーの理解者であるべきかなというのが持論です。

──職人肌のトップが導くテクノモバイルは将来、社会のなかでどんな存在になっているのでしょうか。

システム開発の会社というより、事業開発の会社になっていたらいいですね。私は、「お客さまにいわれた通りにものをつくる」という仕事のやり方はは将来なくなると思っています。極端ないい方をすれば、言われ仕事をするだけでは社会的な価値が認められなくなる。「つくるだけ」で良ければ、グローバルレベルで、より低価格でつくれるところを探す時代となりつつあります。そうなると国内のシステム開発会社のほとんどは立ちゆかない。

また、プログラミング教育が普及してくる10年後20年後は、どこの会社にもプログラミングができる人財は所属していて、「社内でつくればいい」となるのではと予測しています。システム開発だけを手掛ける会社が今後も発展するのか、というのは、いわば「英語が話せる“だけ”の人財が、今後社会で需要があるか?」という話と同じですね。システム開発そのものよりも、「できあがったものによって結果、サービスがどうなるのか」という“期待値”のほうに価値が出てくる。それにこたえられる会社として、真っ先に名前があがるのがテクノモバイル。そんなふうになったらいいと思います。

<解説>成長の潮流
社員重視の経営をするなら
「あえて上場しない」が今後の潮流に

システム開発業界で、テクノロジー、デザインセンス、ビジネスセンスの三拍子がそろっている会社はそう多くはないと感じています。3つをあわせもっている会社は、多くのユーザーが求めている。「つくったシステムがどう使われ、業務効率や収益にどう貢献しているのか」までを担ってくれる会社があれば、「天下を取れるのでは」とさえ思います。反対に「開発して終わり」という会社は残っていけないでしょう。そういった意味で、播田さんがめざしている方向性には非常に共感しました。ぜひ、やりとげていただきたいですね。

エンジニアの成長のために、経験を積む機会を提供することを重視している点にも賛同します。医者の腕が手術数に比例するように、エンジニアの成長においても、携わる案件の絶対数の確保は不可欠ですから。このように「将来のために技術者によい学びの機会を与えたい」と考えている企業さんの場合は、あえて上場しないのも有効な選択肢。上場すれば、社員に経験を積ませるために赤字の案件を受注することがやりにくくなるからです。上場を再検討している企業は増えてきています。IT系はとくに多いですね。上場の主目的はブランディングで、人財採用のためのブランディングのために上場を続けている企業さんも少なくない。しかし、東証が上場基準の見直しを始めており、今後数百社「東証一部」から外れる可能性がある。上場維持コストを考えれば、「東証一部でなければブランディング効果が薄い」と、上場廃止を判断する企業も出てくるはず。「あえて上場しない」という選択をする企業が増えるのは、今後の潮流といっていいでしょう。

佐武 伸
佐武 伸(さたけ しん)
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 代表取締役
1962年生まれ。2005年に株式会社サンベルトパートナーズ(現:かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)を設立。

株式会社テクノモバイル
設立/2006年8月
資本金/3,000万円
売上高/13.3億円(2018年10月期)
従業員数/ 150名
事業内容/ コンシューマー向けのWebサイト開発、スマートフォン・タブレット向けアプリ開発 、クラウドコンピューティング・インフラストラクチャ構築・運用 、システムおよびサービスの運用保守サービス、クリエイティブデザイン・UIUXの設計、デジタルマーケティング支援、ITコンサルティングサービス
URL/https://www.tcmobile.jp/

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
設立/2005年1月
資本金/2,000万円
事業内容/
1. M&Aアドバイザリー
2. 事業再生コンサルティング
3. 組織再編コンサルティング
4. 企業・事業評価
5. 財務調査 (デューデリジェンス)
URL/https://kaedefa-ma.com/venture/


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