【PROFILE】
岡 隆宏(おか たかひろ)
夢展望株式会社 取締役会長(創業者)
一般社団法人日本スタートアップ支援協会
代表理事
◆PHOTO:INOUZ Times
目次
■上場準備着手から足かけ8年
■金融機関は「いい時」しか声をかけてこない
■おのれの人生を賭けないと誰も本気とは認めない
■淡白な起業家が多いんちゃうかなぁ
上場準備着手から足かけ8年
―2017年のIPO件数は80~90社に達する見通しで、ここ10年でもっとも多かった2015年の92社に並びそうな勢いです。
ええことやね。
―それでもIPOは“千三つ”と言われるほど、高いハードルがあるのも事実。
そうやね、最短距離でIPOできる方法をだれも教えてくれないから。しなくてもいい回り道をしている起業家はいまも多いですね。
ぼくも大変な回り道の末、上場準備を始めてからIPOするまで、足かけ8年かかりました。
―今日は岡さんの波乱万丈の起業家人生を教訓にした“IPOの近道”を聞かせていただきたいな、そう思っています。
ぼくがみなさんの“反面教師”なればええんやね。わかりました。
―いえいえ…。まず最初に、岡さんのことをよく知らない方のために、起業家としてのこれまでの歩みを簡単に教えてくれますか。
ぼくが起業を意識したのは大学生の頃。学園祭の責任者いうのかな、それをやった時に商売のおもしろさに目覚めたんですわ。
大学は関西学院大学。後輩にはベクトルの西江代表(西江肇司氏)、KLab代表のさなちゃん(真田哲弥氏)、サイバード創業者のロバちゃん(堀主知・ロバート氏)、ロックオン代表の岩田(岩田進氏)なんかがおるね。関西学院大学出身者でIPOしたのは十数人くらいいるかなぁ。あの学校には起業欲の強い人間が集まる磁場みたいなものがあったのかもわからんね。
―大学卒業後は一部上場の大手企業に就職されますよね?
母の強い希望で就職しなければならない状況だったんですよ。でも、入ってみると東大を頂点とする完全な学閥社会で、私大出身のぼくは出世できそうになかった。
それに、入社早々の研修で7年後の給与テーブルまで見せられたのがショックでね。将来のレールがガチガチに敷かれているわけですよ。それで、入社半年で会社を辞めて、以来、いろんなビジネスを手がけました。レコードレンタル、ビデオレンタル、ファミコン関連…。12コくらいやりました。
金融機関は「いい時」しか声をかけてこない
―事業意欲が旺盛だったんですね。
起業して撤退して、の繰り返しやね。“たまごっち”のバッタもんをやった時は過剰在庫で危うく死にかけましたわ(笑)
その後、1998年にドリームビジョンを設立し、2008年からEC事業に特化。社名を夢展望に改称して、2013年に東証マザーズに上場しました。この間も紆余曲折があって。ぼくの座右の銘は「七転び八起き」ですけど、実際には10転び11起き以上してるね(笑)。
―IPOを意識したのはいつ頃だったんですか。
ドリームビジョンを設立した頃やね。当時、楽天を創業した直後の三木谷さんがいろんなところで楽天市場の説明会をされていて、話を聞きに行って感銘を受けたんですよ。それがきっかけになりました。
はっきりと上場を意識して、IPOに取り組み始めたのは2006年。VCさんから1億円、資金調達してからです。出資の条件がIPOすることでしたから。
―そこから上場するまで長い時間がかかった理由を教えてください。
大きく2つあります。ひとつはEC事業の成長性が理解されなかったこと。当時はガラケーでしたが、ドリームビジョンがブレークスルーした転換点は靴と洋服のモバイルEC、そこに特化したことなんです。
でも、「モバイルこそ究極のマーケティングツールだ」というぼくの確信とは裏腹に、「ECなんて一時の流行、すぐにすたれる」と世間は思っていた。それで成長投資のための資金調達に苦労したんです。ECビジネスの成長性が浸透しはじめてからは、いろんな金融機関から声がかかるようになりましたけど(笑)。声をかけてもらえるように、成長性をアピールできるメディア露出やピッチに積極的に参加することが必要やね。
もっとも、いちばん大きな理由は最短距離でIPOするやり方がわからなかったことに尽きますわ。簡単に言うと上場準備のリテラシー不足で、大きな回り道をしたんです。
―具体的には、なにがネックだったんですか。
いろいろありますけど、要するに打ち返すことをせずに、全部、丸呑みして言われるがままに対処していたんです。
上場準備を整えて監査法人のショートレビューを受けるわけですが、すると「これがなっていない」「これをしなければいけない」「あそこが懸念だ」と、毎回、いろいろ指摘され、なかなか前に進まない。
後に有能なCFOに入ってもらってわかったことなんですが、本当は監査されやすい体制をまずはきちんと構築してから、丁寧に打ち返さなければいけなかったんですね。「ご指摘の点は今後こうします」とか「足りていないところは、今からこうします」とかね。でも、監査法人さんからいろいろ親身になってレビューしてもらったおかげで社内体制と組織力が強化され、後々非常によかったです。
―そこから足かけ8年の苦節を経てIPOを果たすわけですが、その経験から、なにが上場のための絶対条件だと感じていますか。
3つあります。まず経営者の情熱。絶対に上場するんだという強い想い、それをもつだけではなく周りに感じさせること。次に現場の意識改革より内部管理体制の強化が重要だということ。会社を筋肉質にし、ルール化によって透明化するわけです。そして、優秀なCFO人材。
このなかでひとつだけ挙げるとしたら、経営者の情熱やね。「上場できたらいいな」では、まずできません。「絶対にやるんだ」「命を賭けているんだ」という覚悟をもち、その本気度を周囲に感じさせないといけません。根性論めくけど、最後はそこやね。
おのれの人生を賭けないと誰も本気とは認めない
―そうした強い覚悟を周囲に感じさせるには、どうすればいいんですか。
いまは資金調達環境がよく、「返さなくてもいい」とか「IRが出せる」などの理由でVCから資金調達するのがカッコいいと思われている風潮がありますけど、それだけではよくないと思うね。デッドで資金調達し、経営者がおのれの人生を賭けないと誰も本気だとは思ってくれません。「返さなくてもいい」は「失敗してもいい」「IPOできなくてもいい」につながります。
VCからの資金調達以外に、上場前のぼくの借入総額は17億円。もちろん個人保証つきです。
―それほどまでして、なぜIPOをしたかったんですか。
優秀な人材を確保し、資金調達方法を増やして、信用力を向上させることで会社を成長させたい。そんな想いがあったからです。実際、上場すると景色が激変しましたわ。それまでリーチできなかった優秀人材が入社してくれるようになったし、倒産リスクが減りました。
―IPOを果たすまで、ほかにどんなことが支えになっていましたか。
会社の社員ですね。実はVCから資金調達して上場に向けて動き出した頃に、エライ目に遭いました。コスメ・ダイエットのネット通販で成功したんですが、薬事法の大幅改正で効果・効能を一切、出せなくなった。売上は一気に激減ですよ。すぐに撤退しました。
だけど、撤退したのはいいけれど、次に何をすべきかが見えなかった。こんな八方ふさがりを救ってくれたのが社員と取引先。みんなで「社長、あれをしましょう」「これはどうですか」と知恵を出してくれ、商材を靴に転換したんです。それが当たり、のちにアパレルもくわえ、楽天市場で月間売上1位を記録するまでになりました。そのおかげでIPOへの扉を開くことができたんです。
起業家人生を振り返ると、ぼくはいつも「なにをするか」より「誰とやるか」を選んできました。だからこそ、“10転び11起き”で、すばやく何回もピボットすることができたんだと思います。
淡白な起業家が多いんちゃうかなぁ
―“見切り千両”とも言いますが、岡さんの事業撤退の見極め方を聞かせてください。
ネット通販の前までは社員の顔を見て決めました。社員が疲弊し、気力もモチベーションもなくなっていると感じたら「もう、止めや」と。
「なにをやるか」で事業に妙な思い入れをもっていたら、こうはいかなかったでしょう。誰が見ても船は沈みつつあるのに「まだやれる」「まだいける」としがみついて、やがて消えていった経営者を何人も見てきました。「誰とやるか」「誰にやらすか」を一番に考えてきたからこそ、優秀な社員や取引先がピンチを支えてくれたんです。
―IPOを目指している起業家へのアドバイスをお願いします。
上場を経験した経営者をメンターにもってほしいですね。多かれ少なかれ、経営者は上場するまで失敗をしています。その失敗経験こそ、若い起業家たちにとって、なによりの教訓になります。失敗から得られる学びこそ、活きた実学。僕のように命がけで落とし穴や回り道をすることなく、最短最速でIPOが実現できると思います(笑)。
それと、もっと本気になってほしい。ビジネスモデルにケチをつけられたり、きついツッコミを入れられても「なにくそ」と食らいついてほしいですね。ちょっとダメ出ししただけであっさり引き下がるような淡白な起業家が多いんちゃうかなぁ。