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IPOを目指すベンチャー企業がハマりがちな「6つの落とし穴」

~「反面教師」の事例で学ぶ“IPO虎の巻”~

株式会社うえる 代表取締役 上野 亨(うえの とおる)

INOUZTimes編集部
IPOを目指すベンチャー企業がハマりがちな「6つの落とし穴」

イラスト:INOUZ Times

「IPOするのが夢」。そう目を輝かせるベンチャー企業の経営者は多いですね。でも、業績も財務内容も優良なのに、なかなかIPOできない。こんな残念なケースも珍しくありません。いままで200社以上のIPOに携わってきた株式会社うえる代表の上野さんに、IPOできる経営者とできない経営者では、どこが違うのかを聞いてきました。

目次 ◆「自信過剰な経営者」「覚悟がない経営者」
◆「商売人ではない経営者」「個人商店感覚の経営者」
◆「CFOを必要以上にありがたがる経営者」
◆「言われるがままの経営者」

【PROFILE】

上野 亨(うえの とおる)
株式会社うえる 代表取締役
1973年生まれ。1997年にソフトバンク株式会社(現・ソフトバンクグループ株式会社)に入社し、経理財務部にてソフトバンクの資金調達やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)プロジェクトに従事し、1998年の分社にてSBIグループへ。株式会社SBI証券の立ち上げ、ナスダック・ジャパン上場プロジェクトに参画した。2015年に独立し、IPO全般の支援事業を開始。現在約20社の企業と顧問契約。
◆PHOTO:INOUZ Times

「自信過剰な経営者」「覚悟がない経営者」

―今回は「IPOできない経営者」の共通項を指摘していただくことで、IPOしたい経営者に向けて「ここだけは絶対気をつけて」という注意ポイントを伝えることができればなと思っています。

わかりました。反面教師のケーススタディをお話しすればいいんですね。

その前にまず、簡単に私の自己紹介からさせていただくと、私は、1997年にソフトバンク株式会社(現・ソフトバンクグループ株式会社)に入社し、経理財務部に配属されました。そこで資金調達やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)プロジェクトに従事した後、1998年に分社化されたSBIグループの立ち上げに、55人の創設メンバーのひとりとして参加しました。

立ち上げ時は本当に狭い事務所で、連日のように泊まり込みで働きました。日曜日には北尾(吉孝・現SBIホールディングス株式会社代表取締役執行役員CEO)さんがリポビタンの差入を持ってきて「死ぬなよ」みたいな(笑)。まさに“どベンチャー”でした。

人事、法務、システム、IR、経営企画…。なんでもやりましたね。いちばん思い出深いのはIPO部隊を立ち上げたこと。当時、SBI証券はリテール向けの販売が中心で、ネット証券として引受業務に進出し、シ団営業を中心に活動したんですけど、私はどうしても主幹事をやりたくて、上司に内緒で主幹事営業を軸足に活動し始めたんです。

最初は社内からも「実績もないのに、主幹事なんて取れるのかな」と懐疑的に見られていたんですが、そのうちだんだんと取れるようになって。会社も「これはイケる」と思ってくれて、本格的にIPO部隊の人員増強をしてくれたんです。

もっとも当時のSBIにとってIPO業務は“ゼロイチ”で、それができる人材もリテラシーも、なにもリソースはありませんでした。それで、営業から公開引受、引受シンジケート、審査、IPOにまつわる実務をメンバー全員でゼロからすべて勉強しながらIPOチームをつくっていきました。

通常、証券会社ではIPO実務はそれぞれの業務ごとに“タテ割”でやっているので、私のように横断的にIPO業務を携わった人材はほとんどいません。貴重な経験を積ませてもらいました。

SBI証券でIPO業務に携わっていた期間は、主幹事として20社以上、シ団では200社以上の上場に関与しました。独立後も4社のIPOを支援しています。

―それだけ多くのIPO支援実績があるということは、逆に言うと「陥りやすい落とし穴」にも詳しいのではありませか。

確かに、業績・財務・コンプライアンスなど基礎的条件はまったく問題ないのに、なぜかIPOできない。そんな企業ってありますよね。

そうした企業でIPOの障害となっているのは、自分に自信があり過ぎることですね。「IPOはいつだってできる」と考えて、「今期、ムリしてやらなくても」とか「株価を高くしたいので、市況がよくなるのを待ってから」などIPOを先延ばししちゃう。そんな会社は、まずIPOできません。

「商売人ではない経営者」「個人商店感覚の経営者」

―仕切り直して、また再チャレンジすればいいだけなんじゃないですか。

そう考えちゃいますよね。それが甘い。なぜなら、IPOの基本条件は「増収増益基調であること」だからです。去年は増収増益だった、2年前も増収増益だった。だからと言って今期も、来期も増収増益が約束されているワケではありませんよね。むしろ不確実です。

独自のビジネスモデルなんてすぐに真似されるし、変化の速い時代ですから、商品・サービスが陳腐化するスピードもどんどん加速している。増収増益なんて、そう長くは続かない時代なんです。

「IPOなんて、やりたくなったらいつでもできる」と考えているということは、「増収増益はずっと続く」という幻想を抱いているのと同じ。「ウチは放っておいても増収増益だから」なんてウソぶいている経営者がいたら、「大丈夫かな」「わかってるのかな」と思いませんか。

それに、IPOできそうなのに撤退すれば、社員からも「口ではIPOするとか言ってるけど、社長は本気じゃないんだな」と思われます。その結果、社内も緩む。どんどんIPOから遠のいてしまいます。

IPOを実現させるまでにはいろんな障害があり、長年慣れ親しんだ自社独自のやり方を修正しなければならなくなるなど、痛みも伴います。経営者が「なにがなんでもやるんだ」「あらゆることをはねのけて、絶対にIPOさせるんだ」という強い覚悟をもち、先頭に立ってチャレンジしなければ、到底IPOはできないんです。

「いつだってできるんだ」「だから先延ばししてもいいんだ」なんていう甘い気持ちでIPOできた試しはありません。

―でも、そうした“気合いと根性”よりビジネスモデルや事業計画などを通じて、自社の優位性や成長性を訴える方が効果的なんじゃないですか。

いますよね、投資家受けする素晴らしいビジネスモデルをお持ちで、プレゼン力もすごい経営者って。最近のスタートアップにそうした企業が多いように感じます。

それ自体はいいことです。でも、結局、経営って商売なんですよね。どれだけ崇高なビジネスモデルでも、いくら隙のない完璧なプレゼン資料を用意しても、儲け方を語れない経営者はダメなんです。

「ビジネスモデルはわかりました。でも、どうやって儲けるんですか」と質問した時に即答できない経営者がいたとしたら、私はサポートをお断りすることにしています。でも最近、「この人は商売人ではないな」と感じてしまう経営者の方が増加傾向にある気がしますね。

いつまでも個人商店のような感覚を持っていて、銀行印を握って離さない。そんな経営者にとってもIPOは厳しいですね。

そうした経営者に悪気はないんです。むしろ、「会社のカネは1円たりともムダにはできない」「会社を守るのは自分だ」とお考えになっていて、ある意味、立派な経営者だと思います。

でも、IPOを実現させるためには、経営者が経営に集中できる環境・体制を整備し、決済はCFOにまかせなければいけません。

それに、銀行印を渡さないということは「会社の決済を他人にまかせられない」ということ。周囲を信用していない、個人商店のように会社が組織化していないことを自ら告白しているようなものです。こうした感覚を持っている間は、IPOは難しいと言わざるを得ません。

でも「会社のカネはムダにできない」と強く考えている経営者ほど、自分の給与はそれほど高くなくて、個人口座の管理はいい加減だったりして、“守銭奴”とは対極の“愛すべき人”が多いんですけどね(笑)。

「CFOを必要以上にありがたがる経営者」

東京証券取引所
PHOTO:INOUZ Times

―IPOできない企業・経営者には、自信過剰、覚悟がない、商売人ではない、個人商店感覚といった共通項があることがわかりました。ほかはいかがですか。

IPOできないというワケではありませんが、IPOできたとしても「思ってたのと違った」という残念な結果になるケースが結構あります。その代表例がCFOの問題。

「どこそこの会社をIPOさせました」とかいう実績をぶら下げて、1,000万円とか2,000万円といった高額報酬でIPOを控えたベンチャー企業に招聘されるCFOっているじゃないですか。それです。

本来、CFOのミッションは、読んでの字のごとくファイナンス、つまり資金調達をすることなんですね。

でもIPOは資金調達であることは間違い無いのですが、新規に株を発行しているだけなので、資金調達能力というよりも事務処理能力や書類を整えるドキュメンテーション力の方が重要なんです。

IPO時のCFOの仕事は、むしろ会社のことをよく知っているプロパーの経理部長さんがいいんですよ。少なくとも「何社も上場させました」とかいう方を、高額報酬を用意した上、経営者が三顧の礼をもって迎え入れる必要なんてまったくありません。

デキる経営者は会社のステージに合わせてCFOを使い分けます。私はそれをソフトバンクに学びました。

―どんなことがあったんですか。

上場時は、証券会社出身で株とIPOのことに詳しい人がCFOをしていました。上場時はその程度、と言ったら怒られちゃいますけど(笑)資金調達というよりも株だったり、経理に詳しいだけの人材でいいんです。

でも、上場後はそういうワケには行きません。さまざまなファイナンス手法に通じていて、それを使いこなせる人材が必要になります。

上場前はVCなどからせいぜい10億円単位の資金調達をすればいいんですが、上場によって100億円単位の資金調達が可能になるし、そのくらいの資金調達をしないと飛躍的な成長は望めません。

それで、ソフトバンクの場合、上場後は北尾さんがCFOに就任しました。その頃のソフトバンクは財務状況が良くなく、間接金融に頼ることができなかった。

そんなこともあり、北尾さんは誰でも知っている直接金融のファイナンスはもちろん、株や債券を使った高度かつ専門的な資金調達を次々と行い、資金調達面からソフトバンクの飛躍を支えました。

そんな北尾さんもCFOを交代します。後任は旧安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)の会長などを歴任した笠井(和彦)さん。2000年のことです。

ご存知の通り、ソフトバンクはボーダフォンの買収や海外企業の大型M&Aを行い始めます。そのため1,000億円単位の資金調達が必要。でも、それだけの規模の資金調達をエクイティだけでやっていくのは難しく、直接金融から間接金融、つまり銀行借入に軸足を移さなければならない。銀行出身の笠井さんによるところが大きかったのは想像に難くありません。

このように、CFOを次々と代えていったことが、ソフトバンクが急成長を続けることができた大きな理由のひとつですね。成長ステージにあわせてCFOが交代していく―。経営者とCFOの関係の理想だと思っています。

でも、「未来永劫、自分の懐刀として置いておきたい」と思うのか、上場時に働いてくれたCFOをその後もずっと交代させないで続けてもらっているベンチャー企業が少なくありませんね。

その結果、やれるはずの資金調達ができず、目指す地点になかなか到達できない。そんなケースが多いように感じます。成長したいならCFOは固定化せず、流動化させるべき。そう思います。

イラスト:イラストAC INOUZ Times

「言われるがままの経営者」

―お話を聞いていると、IPOって奥深いなと改めて感じます。

そうですね。これは上場した後の問題なんですが、資本政策やIRについて安易に考えていたり、無防備にしているケースも散見されます。これらについては別の機会にお話ししましょう。

皮肉な言い方をすると、IPOって結婚式に似てると思うんですよね。結婚式って、最初はブライダイル会社から200万くらいと予算を言われていたのに、「あれもやりましょう」「これもやりましょう」と次々にオプションがつき、最終的には400万オーバー。

こんなケースって珍しくないじゃないですか。知らないばかりに余計なコスト、ムダな労力をIPOにかけてしまう。これほどバカバカしいことはありません。

逆に、言われるままに希望していたIPOスケジュールをあきらめてしまうケースもあります。たとえば遡及監査。証券会社や監査法人からは「遡及監査で上場するのは、きわめて難しい」とニベもなく言われることがほとんどだと思います。

でも決算時期であったり、在庫をもっていないなど、ある条件があてはまるように工夫することで、遡及監査が可能となり、希望のIPOスケジュールでチャレンジできるんです。

IPOは誰でもできます。ただし、甘く考えてはいけません。ワナも落とし穴もたくさんあります。でもIPO後の景色は、未上場だった時代とでは全然違います。

お付き合いできる対象も格段に変わり、経営者として成長できる大きなチャンスと自社を飛躍させられる切符を手に入れることができるんです。IPOは、経営者が強い決意をもてば必ず飛び越えられるハードル。ですから、もっとたくさんのベンチャー企業に挑戦してほしいですね。

IPOは誰でもできます。ただし、甘く考えてはいけません
PHOTO:INOUZ Times

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