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社員が喜ぶ「事業売却」の進め方

売却側から見た“M&Aのリアル”

ジェイ・エス・シー株式会社 元代表取締役社長 青木 茂(あおき しげる)

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社員が喜ぶ「事業売却」の進め方

M&Aの多様化が進んでいます。そのひとつが、事業承継の手段として活用する事例。そのケーススタディとして、愛知県に拠点を構えるジェイ・エス・シー株式会社(JSC)の“M&Aストーリー”をご紹介しましょう。車載マイコン向けの組込ソフト開発をメイン事業としている同社がM&Aにより事業売却に踏み切ったのは2016年8月。東証1部上場企業であるイノテック株式会社のグループ企業、三栄ハイテックス株式会社への株式譲渡を決めました。JSC側で先頭に立ち、M&Aを進めたのが同社社長を務めていた青木さん。当時の“舞台裏”を青木さんに取材しました。売却側から見た“M&Aのリアル”が詰まった貴重な証言です。売却先候補企業との面談シーンから、話は始まります。

「キャッチャー」の姿勢が大切

最初に面談がセッティングされた売却先候補企業は、A社とB社の2社。A社との面談では、私の方は「ここと一緒になれば、ウチの会社って伸びるよね」と感じたんですが、どうも先方は私が感じたようなイメージはもっていない。そんな印象を受け、話が進むことはありませんでした。

B社は拠点の場所が離れていたことから、あまり気乗りしませんでした。さらに、買収後の青写真をたずねたのですが「これだ」と納得できる言葉もいただけず、お断りすることにしました。

そして3社目に会ったのが三栄ハイテックスさん。初回の面談時から「こういう理由で御社をM&Aしたい」と言っていただき、明確な理由と積極的な想いが伝わってきました。「ここだな」と直感的に確信することができ、あとはトントン拍子で株式譲渡まで進めることができた。そんな印象です。

ただ、売却先候補を探す面談では、売却先候補(買い手側)にとって売り手は未知の相手だし、それは売り手側(自社)にとっても同じ。野球にたとえるなら「キャッチャー」の振る舞いが必要だな、と感じました。

「埋められない平行線」は避けられない

というのも、売却後、自社の事業や従業員がどのように扱われるかについて、詳しい情報が入って来るのは基本的に最終合意の後になるためだからです。それを事前に把握するためには、面談するなかで、売り手から出来るだけ売却後の情報を引き出すことが必要です。

「ここに投げてほしい」とキャッチャー(売り手)がピッチャー(買い手)にサインを出す。そして投げられたボールが構えたところにくるのか、全然、違うコースにくるのかで、買い手側の真意をつかめることができます。それによってM&Aの成功確率も上がってきます。

ですから、売り手はキャッチャーの振る舞いで買い手にサインを出し、ボールの軌道を確かめる。そんな、いい意味での“駆け引き”をやっていかなければならないと思います。

売却先候補にも、それぞれ作戦やアプローチがあります。お断りした2社のうちの1社とのやり取りでは「困っているなら助けてあげましょうか」と読み取れる言葉が出てきました。直接的な表現ではなかったけれども、そういう意思が感じられた。それでお断りしたのですが、これもサインを出して、ボールの軌道を確かめたから、わかったことです。

ただ、買い手側にも事情があり、どうしても埋められない平行線が出てくるのは避けられません。投げるボールがすべて、キャッチャーの構えたところにおさまることはありません。その場合、多少、構えたところから外れていても、なるべく歩み寄ってくれる相手を選ぶという割り切りも必要です。

社員への説明は慎重な事前準備が必要

社員や取引先にM&Aの情報開示をするのは、買い手との最終契約の締結を終えた後になります。社員や取引先の反応は、想像していたよりも冷静でした。

ただ、社員への開示、説明は準備をして慎重に行うべきだと思います。少なくとも、買収後の青写真を描き、M&Aを行う意味やメリット、そしてM&Aで社員にどんな影響があるのかを説明できるようにしておかなければなりません。

「よくわからない」では経営者として情けないし、社員を先行き不透明な状況に立たせることになります。そうなると不信が芽生える端緒になりかねません。社員への説明をていねいに行うかどうかが、やっぱり“落とし穴”になるんじゃないかなと思いますね。

会社を大きくするためにM&Aに踏み切ったという想いが社員に伝われば、反発や抵抗といった混乱は生じないと思います。実際、当社の場合はそうでした。

ジェイ・エス・シー株式会社元代表取締役社長の青木さん(左)と三栄ハイテックス株式会社代表取締役の間淵義宏さん(右)

情報開示のタイミングに細心の注意を

最終契約の締結前後に取引先や社員への開示のスケジュールを組みますが、どちらが早くてもおそらく問題になります。社員の耳に「オタクの会社、今度、M&Aするんだってね」という話が取引先から入れば、疑心暗鬼が生まれるでしょう。逆に会社から説明していないのに、社員から情報が取引先に伝われば、うわさ話に尾ひれがついて、ヘンに拡散するのが世の常ですから。

当社は技術系の会社で、社員や取引先に説明する前に意図しない形で情報が広まることで社員を不安にさせ、それに乗じる形で競合から人材の引き抜きを受けるリスクもありました。

肝心なのは、主力社員の動向です。エース級の社員がきちんと買収後も残ってくれるのかどうかは、買い手も大変に気にするところです。私は「売却後も自社の社員が活躍できる場をつくったうえで、売却する」ことを第一に考え、社員が今以上のキャリアを実現できる環境整備を、絶対に外せない売却の希望条件としていました。

でも、後で気づいたんですが、買い手が買収先の社員に接触するのは、最終契約の後になります。それ以前の口頭ベースでの約束は、あくまで話しのひとつ。“口約束”なのに「必ず実行してくれる」と早合点し、開示した際に社内に話した内容と実際の買い手の考えに隔たたりがあるのはマズイ。「話が違う」と社員は動揺しますし、人材流出を招きかねません。

難しいところですが、確実に実行される内容と“口約束”は明確にわけて社員には説明する。それでいて、売却後のキャリアプランが広がることをイメージしてもらえるように伝える必要があるでしょう。

「M&Aで成長軌道に乗った」との手応え

M&Aを終えてから1年以上が経過しました。M&Aをすると会社の規模が平均で10倍くらい違ってくるといわれますが、まさにそのとおり、想像を超える成果が出ています。

いま私の肩書は「元社長」で、外部から会社の様子をうかがうしかありませんが、成長軌道に乗ったとの手応えを感じています。また、親会社のサポートを受けられることで社員の士気も高まっているように感じます。

M&Aに関連した社員の退職者もゼロ。個人の想いをすべて把握しているわけではなく、それぞれの感慨はきっとあるでしょう。けれども、ここまでの結果を総括すると、成功だったと言えるのではないでしょうか。

M&Aによる売却によって自社の可能性が広がり、社員も喜んでくれている。M&Aをしてよかった、と本当に思っています。

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