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優秀人材に「逃げられる会社」の共通項

シリーズ:「ザ・雇い方改革」 #2

ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役 黒田 真行(くろだ まさゆき)

INOUZTimes編集部
優秀人材に「逃げられる会社」の共通項

優秀人材が集まるような「選ばれる会社」は少数―。国内最大級の転職サイト「リクナビNEXT」元編集長で数多くの企業の“HRの現場”に詳しいルーセントドアーズ代表の黒田さんが3,000人以上のマネージャー人材を対象に実施した調査からは、こんな実態が浮き彫りになりました。具体的な“証言”などをもとに「選ばれない会社」の共通項、「選ばれる会社」になるための方策を黒田さんに考えてもらいました。あなたの会社は「選ばれる会社」の条件を備えていますか?

目次 ◆ 「退職理由」は大別すると4種類
◆ 会社への不満が怒りに転化していくプロセス
◆ 「バケツの穴」が開いている会社に優秀人材は集まらない
◆ 面倒くさいが、最良最短の方法はひとつしかない

【PROFILE】

黒田 真行(くろだ まさゆき)

ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役

1965年、兵庫県生まれ。1989年に関西大学法学部卒業後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートキャリア)入社。転職サイト『リクナビ NEXT』編集長やリクルートエージェント企画責任者を経て2014年、ルーセントドアーズ株式会社を設立、「成長企業とミドル即戦力世代の適正なマッチング」と「優秀人材の離職抑止」をメインテーマに事業展開している。2017年5月に『転職に向いている人 転職してはいけない人』(日本経済新聞出版社)を刊行。
◆PHOTO:INOUZ Times

「退職理由」は大別すると4種類

働き方改革ならぬ「雇い方改革」がこれからの企業の成長曲線の角度を決める―。前回の本連載(「優秀人材」に選ばれない会社に明日はない)では、そんな指摘をしました。

企業存続すらも「雇い方改革」の成否にかかっています。今後、優秀人材を“雇用できる企業”と“できない企業”とでは生産性、つまり創出利益の格差は何十倍、何百倍にもなるからです。

これは、遠い将来のことではありません。手を伸ばせば届くような、数年後の現実です。

では、どうすれば「優秀人材を雇用できる企業」になれるのか。そこを具体的に考えるため、会社を辞める決断をした3,000人超のマネージャークラス人材への聞き取り調査から浮き彫りになった「優秀人材が会社を見限るとき」を解説します。

調査対象は当社(ルーセントドアーズ)の転職サービスの登録者約3,200人。「会社を辞めた(もしくは辞めたい)理由」を筆記式で自由回答してもらいました。

この調査結果から次の4つに離職理由を大別しました。回答率が高い項目から順に説明します(自由回答のため合計値は100%を上回っています)。

①“評価への怒り”が退職の原動力となっている「評価不満型」62.8%

②業績悪化などを理由とした「環境変化型」42.3%

③介護などの個人的事情による「プライベート型」14.6%

④起業やIターンなどの「自己変革覚醒型」7.2%

このうち「環境変化型」「プライベート型」「自己変革覚醒型」の3つは、内発的か外発的かの違いはあるものの、環境や考え方が変わったなど、その人に“辞めざるを得ない事情”が生じたゆえの退職です。こんな声がありました。

「業態転換で自分のスキルを活かせる仕事がなくなったので転職したい」(環境変化型)

「親の介護のため休職せざるをえなくなった」(プライベート型)

「違う仕事をしたくなった」(自己変革覚醒型)


こうした退職理由に対して、会社としてできることは限られています。夫婦でいえば円満離婚、もしくは協議離婚といったところでしょうか。

会社への不満が怒りに転化していくプロセス

しかし、トップの「評価不満型」は明らかに様相が違います。「自分はもっと評価されてしかるべきなのに評価されない」などの不満が折り重なり、最終的に「こんな会社、やってられるかっ!」と社員が会社を見限った、そんなパターンです。たとえるなら“絶縁状”に近いニュアンスでしょう。

あらためて集計結果を振り返ってみます。「評価不満型」は2位の「環境変化型」を20ポイント以上も上回っていることから、実は辞めていく社員の多数が、修復できないほどの不満を溜め込んだ末、会社を見限るようにして退職していく―。それが否定しようのない現実であることがおわかりいただけるかと思います。

もちろん、会社側には会社側の論理や事情があります。しかし、会社側の対応やマネジメントが違っていたら、社員が見限ることはなかったのではないかと感じます。なぜ、そう言えるのか。具体的な“証言”を2つ紹介します。

<証言①…40代・BtoBベンチャー>
「地方支社に異動、2年で本社に戻すという約束だったが、“後任がいない”という理由で3年目に突入した。会社側にまったく動きがないので転職を検討している」

<証言②…30代・システム開発ベンチャー>
「新規事業の自社プロダクトのプロジェクトマネジメントを任されていたが、突然、外された。いまの業務は嫌ではないが、会社の理不尽な対応が悔しく、信じられなくなった」


こうした「本人が望まない人事」は、どこの会社でも珍しいことではありません。総合職として勤務している以上、会社の適材適所戦略に従えないのなら、退職もやむを得ないということも当然あります。

また、入社間もない若手の場合であれば、「組織のルールに慣れていない」「若気の至りによる自己評価の高さ」などというケースもあるかもしれません。

しかし、経験豊富で酸いも辛いもかみ分けたマネージャークラスの人材となると、少し話が異なります。会社側も、傾聴に値する部分があるのかもしれません。

先ほどの2人の証言の“深層”を読み解いてみましょう。

会社と自分の“評価のズレ”は20代の頃からあったが、若いうちは「自分は力不足だから」と呑み込んできた、という人は多いのではないでしょうか? 特に、若手は謙遜することが当たり前という同調圧力の強い日本の組織では、その風潮は色濃く残っていると思われます。

しかし、ある程度経験や実績を積み、社外の相場観も少し見えてくるようになると、不当な評価を呑み込むことが徐々に難しくなります。「自分はこれだけ貢献しているのに、なぜ会社は評価してくれないのか?」という不満が顕在化し始めます。

そんな不満が頂点に達している時に、さらなる“評価のズレ”に直面すると、それが発火点となって不満が怒りに転化し、「こんな会社、辞めてやる」というアクションが始まります。表面張力でギリギリもちこたえていたコップの水が最後の一滴をきっかけにどっとあふれだす。まさにその瞬間です。

「バケツの穴」が開いている会社に優秀人材は集まらない

Photo:Pixabay

つまり、証言にあったような地方への転勤、担当職務替えなどの「望まない人事」は、それ自体が動機なのではなく、最後の一撃としてのきっかけに過ぎないのです。

そもそもの根底には「本社復帰の約束が守られない=会社が自分を必要としているのか、わからない」「突然の担当職務替えがあった=自分のキャリアパスを会社が真剣に考えてくれているのか、わからない」。そんな、会社への“不安と不信”が存在します。

会社側から見ると、個人のパフォーマンス評価以外に、若手の登用による活性化や幹部人材の選別、適正な人材代謝など、組織強化のための複合的な判断をしなければいけないという事情があります。「適材適所で、そのほうが会社も個人も伸びるのでは」「むしろ期待されての地方異動、部署異動なのでは」―。こんな反論も聞こえてきそうです。

それも確かに一理あるでしょう。しかし、一理あるだけに、皮肉にも評価ギャップは収めようがない。結果、社員の不安や不信は解消されず、会社側も強い慰留をしないまま、退職が決定的になっていくのです。

不安の奥底にあるのは「会社は自分のことを見てくれていない」「自分の気持ちをわかってくれていない」といった人間的な感情です。こんなスレ違いがある場合、「会社の事情がある」「そのほうが個人も会社も伸びる」といった釈明や激励は相手に伝わりません。むしろ、「やっぱりわかってくれてない」と不信感が深まります。

その場しのぎの説得や苦し紛れの“空手形”は最悪です。「●年後には元の部署に戻すから」などの口約束をして、それが守られなかった場合、不安や不満は容易に怒りへと転化するでしょう。どうにかなだめようと、その人の長所や功績をホメても、怒りに駆られている相手は「ポイントが違う」と受け入れないでしょう。ホメたところで人事や評価は変わらないのですから、「どうせ、ウソだろう」と火に油を注ぐ結果になります。

不安、不満、怒りが生じない環境や風土をつくることこそ、優秀人材を雇用できる「選ばれる会社」に変わるための必要条件です。「会社への怒り」で会社を見限るようにして辞めていく人が大勢いる。フツーの人材からも敬遠されるようなそうした会社に、優秀人材は集まりません。まず 「バケツの穴」をふさぐ必要があります。

面倒くさいが、最良最短の方法はひとつしかない

では、会社としてどう対処すればいいのでしょうか。最終的には1to1のマイクロマネジメントで、信頼感を醸成し続けていく以外の近道はありません。課題を潰していくほうが速く成長実感が持てる人材、得意な部分を伸ばすほうが成長が促進される人材など、やはり人それぞれ「成長のデザイン」が異なるからです。

「成長のデザイン」は十把ひとからげでは描けません。個々の社員と向き合い、それぞれのキャリアプランの実現に寄り添いながら必要な軌道修正を行っていく。そうした、ていねいでキメ細かい打ち手が必要不可欠です。

本当に面倒くさいと思います。でも、最良最短の方法はそれしかありません。

ただし、経営者ひとりですべてのメンバーと向き合わなければならない、と言っているわけではありません。経営者は役員一人ひとりと向き合い、役員は担当部門のマネージャーを1to1で見る、そして部の下の課でも同様に個々のメンバーに寄り添ったキャリアデザインを行う。これにより、組織全体で個々の社員と向き合っていくことができます。

一方で「上長と部下」の面談は、えてして目の前の話に終始しがち。違う視点を入れることで“気づき”をえてもらうような取り組みも効果的です。

私が以前に所属していたリクルートでは全社員、一人ひとりに「人材開発委員会」という、個々の人材のキャリアデザインを徹底的に議論する場を設置しています。ここには、対象者の直属の上長をはじめ、指揮命令系統からすると“ナナメ上”にあたる他部署の役職者なども参加して、対象者の強みや弱み、そして一人ひとりの成長へのプロセスをみっちり議論します。

「このメンバーは、いまはA事業部で仕事をしているけど、本人のやりたいことや適性を考えると将来的にはB事業部でこんな仕事をしたほうが活躍できるんじゃないか」など、「上長と部下」といったタテの系列ではまず出てこない、“ナナメ上”ならではの視点からの率直な意見も積極的にかわされます。

「上長と部下」という限定的で硬直的な場でキャリアデザインを描く場合、どうしても今期や来期といった“短い尺”で考えがち。第三者の視点を入れることで、“長い尺”の成長のデザインを考えるきっかけが生まれるのです。

企業にとって「飛車、角、金、銀」のような優秀人材に突然抜けられると、会社の将来像への道のりを描き直さなければならなくなることもあります。それを阻止するには、従来の「雇用する側が強い」という前提の発想から転換し、「被雇用者に選ばれる会社」になる必要があります。

「評価不満型」の離職が多いという現実は、逆にチャンスかもしれません。明確に存在する「バケツの穴」をふさぎさえすれば、「選ばれる会社」に変化できるわけですから。優秀人材に選ばれ続ける組織づくりを通じて、最重要目標である事業進化を実現できれば、会社にとってこれ以上素晴らしい未来はありません。


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