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2016/12/28

「優秀な人材が辞めない会社」は何が違うのか?

転職支援のスペシャリストが語る“優秀な人材が離職するホントの理由”

ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役 黒田 真行(くろだ まさゆき)

「優秀な人材が辞めない会社」は何が違うのか?

採用する→辞める→採用する→辞める→(以下、無限ループ)。
「いつまでこんなことを繰り返すのか」と、ため息をつく中小・ベンチャー企業の経営者は少なくない。採用難の状況が続く中、この悪循環を脱するために、人事評価制度の改革や福利厚生の充実、事業理念の再構築などに乗り出す企業も急激に増加している。「だが、その打ち手は本当に的を射ているのか?」。そう語るのは、国内最大級の転職サイト『リクナビNEXT』の編集長を経て、企業の次世代リーダー採用を支援するルーセントドアーズ代表の黒田氏だ。「優秀人材が離職する真因に対応していなければ、手間やコストが無駄になることもあります」。“採用→退社”の無限ループからの脱出法を同氏に聞いた。

優秀人材がなぜ辞めていくのか?「バケツの穴」を修理しなければ いくら水を注いでも永遠に充足しない

―多くの中小・ベンチャー企業の経営者が採用難に悩んでいます。黒田さんは中途採用支援のプロ。優秀な人材をうまく採用する方法を教えてください。

確かに、私は採用支援ビジネスの仕事をさせていただいていますが、じつは最近、「優秀人材の離職抑止」のほうが重要なのではないかと考えています。いくら優秀な人材を採用できても、その人材がすぐに退職してしまっては無意味ですから。

採用の手間の増大、かさむ採用コスト、教育研修や引継ぎのロス、事業展開スピード鈍化など、エース人材の突発的な離職は、企業にとって想像以上のダメージになっています。辞める人材側から見ても、不完全燃焼な離職経験はマイナスになることが多いので、誰にとっても不幸な離職は減らしていくべきだと思っています。

高価なミネラルウォーターを買ってきても、穴のあいたバケツに注ぎ入れていたら、いつまでたっても満ち足りた状況にならない。多くの成長企業は採用を非常に重視して注力しておられますが、人材を辞めさせないための努力や工夫には意外と手が打てていないケースが多いと感じています。

その結果、採用しては辞められる、骨折り損のくたびれもうけが続いてしまう。私がコンサルタントとして、中小・ベンチャー企業の経営者へ提供しているベネフィットは、採用のROI(Return On Investment、投資対効果)の向上です。その企業にとって優れた人材をご紹介して入社いただいたとしても、すぐ辞めてしまったのでは意味がない。

なので、経営者が自分自身では見つけづらい「バケツの穴」がどこにあるのかを特定し、修理するための「優秀人材の離職抑止サポート」も重要だと考えています。

―しかし、厚生労働省の2015年の統計によれば、国内企業の離職率は平均15.0%。いまは転職市場が人材側に有利な状況で、「ヒトが辞めていく」のはある程度、仕方がないのではありませんか。

これまでの常識は確かにそうでした。一定の割合の離職はやむをえない、とか、この業界はそういうものだから仕方がない、とあきらめが先行している経営者もたくさんいらっしゃいます。

でも、たとえばIT業界や医療・介護など、「なかなかヒトが定着しない」といわれている分野の企業でも、経営者が的確な手を打つことで離職率を制御できている例はあります。

もっとも、ただ単に人が辞めないことだけが健全とは限りません。企業ごとにスタッフが入れ替わる適切な割合、つまり適正な代謝率というものがあると考えています。しかし、多くの企業では過剰な人材流出が悩みのタネになっているのが実情ではないでしょうか。

事業運営にダメージが残る離職は、もっとコントロールできると思っています。

―離職率を下げることに成功した事例を教えてください。

ある大規模な総合病院のケースをご紹介します。

もともと看護師は人材流動性が高く、他の産業に比べて定着率が低い領域ではあるのですが、その病院も人材流出と採用難のダブルパンチで非常に困っており、定着率を向上させるため、昔ながらの打ち手として、福利厚生の充実や育児環境の整備などを進めておられました。 

「医療機関の宿命として、過酷な労働を変えることはできない。でも、リフレッシュできる機会をあげることで、定着率が上がるのではないか」。新しい打ち手を投入するたびにいったんは改善しても、徐々に効果が減衰し、根本的な離職率の改善には至っておりませんでした。

最終的にその医療機関の経営者は、看護師へのインタビュー調査に踏み切ったのですが、そこで意外な事実を発見されました。多くの看護師が「スペシャリストとしてもっと成長したい」と考えていたのです。アンケートをもとに、病院主催の勉強会や資格取得支援などの打ち手を開始し、結果的に離職率は、それ以前に比べて3割程度改善されました。

「風邪をひいているのに胃腸薬を飲む」かのようなスジ違いの打ち手が多すぎる

―確かに。福利厚生の充実で“ガス抜き”しようとする会社は多いですね。

そうですね、福利厚生の充実で従業員満足度を上げるという考え方は、昔から一般的です。

1990年前後のバブル期には、人手不足解消(少しでも応募者を集め、離職を減らす)のために寮や社宅、豪華な社員旅行などを充実させる企業が非常に多かった。
2000年代以降は、それに加えて、人事評価制度の刷新や新人研修、マネジメント研修など実務スキルを高めるための教育研修制度の充実、事業理念やビジョンの構築や浸透など、モチベーションを高め業績向上につなげていくための方法論はさらに多様化しています。また、その方法論を専門にした会社やメニューも増えています。

そのため、経営者ただ一人の思い込みで原因把握が不十分なままに打ち手を投入すると、スジ違いの解決策になる可能性があります。「風邪をひいているのに、胃腸薬を飲み続けて、いっこうに具合が良くならない」というような企業を見かけるのも、それが一因ではないかと考えています。

そんな的外れを避けるためには、まずは包括的な現状把握としてFACTをもとに徹底的に行うことが重要だと思います。

―ほかに「社員が辞めたくなるホントの理由」を調べたことで適切な手を打ち、離職率を下げた例はありますか。

社員約100名規模のIT系ベンチャー企業の例があります。

システムやITプロダクト開発のプロジェクト現場にエンジニアを派遣することも多いため、構造的に求心力が働きにくく離職率の高さに悩んでおられました。経営者がいくら会社を次のステップに進めたいと思っても、採用と離職の繰り返しで、どうしても規模の拡大に進めないという壁にぶち当たっていたのです。

そこで、このIT系ベンチャー企業がまず着手したことは、現場のエンジニアに「会社を辞めたい本当の理由」を徹底的にヒアリングしました。過去6か月以内に辞めた方の中で協力いただける方にもインタビューを行いました。同時に、状況を客観的に可視化するために、カルチャーフィット度合いと人事システムの課題をリサーチするサーベイも実施しました。まさに人間ドックのように、具体的な治療に入る前に、原因を特定する作業です。

その結果、見えてきた離職トリガーになる最大の理由は「不公平感」でした。

その会社のエンジニアの多くは最先端のテクノロジーをあつかえる現場で働きたいという志向を強く持っていました。また、その次に多いクラスターは、マネジメントを習得したいという志向を持つ方々でした。しかし、現実の配属は、適材適所をほぼ取り入れない形態になっていました。

目の前の受注や、取引先からの要望を重視した結果、どうしてもこまめな配属マネジメントに手が届いていなかったのです。自分のキャリアを考えた上での希望がかなわなかったエンジニアは不満を募らせた結果、よりスキルが身につきやすい会社や、自分の力量が活かされる会社に転職してしまうのです。

最終的に経営者は、ジョブローテーション制度と適材適所を実現するための定期的な面談制度、そしてキャリアアップのための教育機会の拡充策を導入しました。実施後まだ間もない状況ですが、四半期段階では前年同時期に比べて、2割程度の改善が見られています。

大切なのは、課題発生要因を客観的に捉えること

―なるほど。まずは社員のホンネに耳をかたむけることが必要だと。

そうですね。なぜ自社の優秀な社員が辞めていくのか、というメカニズムをハード面・ソフト面双方から把握することが第一歩です。

人事評価制度の再構築や、教育研修、ビジョンや理念の策定、人事異動制度の改定、福利厚生の充実など、すべての打ち手は、原因と噛み合ったものでなければ効果を発揮しません。従業員全員が同じ価値観や考え方を持っているわけではありませんが、少なくとも傾向や優先順位は見えてくるはずです。

極端な場合は、そもそもの人材要件や採用段階でのメッセージを変えなければ、改善ができないというケースもあります。そのような場合、かなり長期的な取り組みが必要になりますが、理想の会社を作っていくためには避けられない経営判断だと思います。

でも、実際には、経営者自身の考え方を変えることで、より早期の解決を図れる場合がほとんどだと考えています。

―中小・ベンチャー企業の多くは、根本の要因を把握しないまま「具体的な手法」の実行を優先しているわけですね。

課題が目の前にあるときに、スピード優先で打ち手を打つのは非常に重要なことだと思います。少なくとも何もしないよりは、絶対に前向きな経営スタンスだと思います。

一つの問題を挙げるとすれば、それは課題が発生している要因を客観的に把握できているかどうか、ということに尽きると思います。課題発生要因を、思い込みや経営者単独の決めつけで実施してしまうことで逆にコストと時間が無駄になってしまうリスクも多い。急がば回れ、という言葉があるように、まずは、包括的で客観性のある原因特定に力を注いでいただきたいと思います。

結果的に、不必要な採用コストの高騰や、肝心の事業推進スピードを担保するためにも、それこそが最も近道になると信じています。

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1965年、兵庫県生まれ。1989年に関西大学法学部卒業後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートキャリア)入社。転職サイト『リクナビ NEXT』編集長やリクルートエージェント企画責任者を経て2014年、ルーセントドアーズ株式会社を設立、「成長企業とミドル即戦力世代の適正なマッチング」と「優秀人材の離職抑止」をメインテーマに事業展開している。

会社概要

http://lucentdoors.co.jp/

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