社長は“いちばんエラい人”ではない。 新世代起業家の「勝てるチーム」づくり
Sponsoredかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 2019/10/7
中小・ベンチャー企業に特化したM&Aアドバイザリーサービスを提供、ベンチャーの成長戦略に詳しい“かえでファイナンシャルアドバイザリー”代表の佐武さんをナビゲーターに、新進気鋭のベンチャーの成長戦略を紹介する本シリーズ。
今回は、特別企画として、佐武さんと弁護士の小名木さんとの対談をお届けします。小名木さんは、1,000社を超えるベンチャー企業の法務サポート実績をもつGVA法律事務所のパートナー。ベンチャー経営者が成長戦略を推進するとき、見落としがちな法務リスクについて、豊富な知見があります。ベンチャー企業の会計と法務、2つの分野のエキスパートが、とっつきにくい法務領域の落とし穴について、わかりやすく解説してくれています。
ベンチャー企業の成長戦略推進に、資金調達は欠かせません。首尾よくVC(ベンチャーキャピタル)などから出資を受ける話がまとまれば、投資契約書をとりかわします。しかし、その条項をよくよく確認しておかないと、出口戦略の推進に大きな壁となって立ちはだかることもあるのです。たとえば、経営者はIPOをめざしているのに、出資者のうち複数のVCがバイアウトを提案。経営者は反対しますが、投資契約書の規定によって、その提案を拒否できず、経営者自身の持ち株も強制的にバイアウト先に売却することに──。そんなケースもありえるのです。出資を受けることを意識した段階で、専門家の助言をあおぐべきでしょう。
【回答する人】
小名木 俊太郎(おなぎ しゅんたろう)
弁護士/GVA法律事務所パートナー
1986年生まれ。2016年にGVA法律事務所に入所。2018年から同事務所パートナー。
佐武 伸(さたけ しん)
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 代表取締役
1962年生まれ。2005年に株式会社サンベルトパートナーズ(現:かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)を設立。
佐武 先日、設立から3年、売上高4億円のミドルステージにあるベンチャー企業の経営者から、「第三者の出資を受け入れようと思うんですが…」という相談を受けました。IPOをめざしていて、「営業力強化のための資金が必要だ」というんですね。私は会計的観点からのアドバイスはできますが、法務面でも注意するべきポイントがあると思います。小名木さん、解説をお願いします。
小名木 それでは、「投資契約書の規定のために、IPOができなくなる」ケースがある、という話をしましょう。具体的には「ドラッグ・アロング条項」。これは、「優先株主の過半数の同意」といった一定の条件を満たせば、その同意した株主たちが第三者に持ち株を譲渡するにあたり、ほかのすべての株主たちにも同じ相手に譲渡することを強制できる、という条項です。
佐武 特定の株主の意向だけでバイアウトできる、ということになりますね。経営者がIPOをめざしていても、契約に規定されている以上、さからえない…。
小名木 はい。IPOへ向けて順調に成長しているミドルステージのベンチャー企業ならば、経営者とVCの足なみがそろっていることが多く、「ドラッグ・アロング条項」が発動されることもないでしょう。しかし、よいタイミングでIPOできず、時間がかかってくると、バイアウトを模索するVCが出てくることがあります。
佐武 確かに。自己資金でベンチャー企業に出資するエンジェル投資家ならばいざしらず、VCの場合、多くの投資家の資金をあずかってファンドを組成しているケースが大半。ファンドには投資家への償還期限がある。「IPOまで、まだまだ時間がかかりそうだ。ならば、いますぐバイアウトして資金を回収したい」と考えるのは当然のことですね。
小名木 ええ。でも、経営者のほうは「あともう少し、がんばればIPOできるのに…」と。それなのに、“気がついたらバイアウトされていた”ということにならないように、「ドラッグ・アロング条項」については慎重に検討してください。経営者側に不利な規定が盛り込まれそうなら、VC側と交渉して削除するなり、ほかの条件をくわえるなり、しっかりと交渉するべきでしょう。
佐武 その通りだと思います。とはいえ、現実的には困難ではないでしょうか。たいていの場合、契約書のひながたをVC側が提示して、それをもとに経営者側とVC側が交渉する。日本に多い金融系のVCは、柔軟性に欠ける傾向があり、リスクを回避する姿勢が強い。「VC側の担当者がサラリーマン思考で、ベンチャー経営のことをよく知らない」という経営者側の不満もよく耳にします。そうなると、交渉によって経営者側に有利な方向に修正するのは、至難のわざのように思います。
小名木 ええ。ファイナンスの契約書は複雑で分量が多く、専門性が高いので、経営者の方が内容を理解して的確にリスクヘッジの交渉を行うことは極めて困難です。そこで、私たちのような専門家に相談することをおすすめします。当然、一定の弁護士費用は発生します。しかし、弁護士に相談せずに不利な契約を締結するほうが、結果として高くつくことは少なくないです。最近では、会社を設立する前や設立直後のシードの段階から弁護士に相談するベンチャー経営者も増えていますよ。条件交渉が終わって、最後に契約書を作成するだけという状況になってからご相談いただいても、できることは限られてしまいますからね。
佐武 「最後に契約書を作成するだけという状況」とは、たとえば、おもな契約条件をまとめた「タームシート」を作成したあと、といった段階でしょうか。
小名木 はい。「タームシート」作成後は、定められた条件にもとづいて契約締結を進めるだけです。交渉することができる事項が限られてきます。そのため、手遅れの状況だったことが何回もあります。少なくとも「タームシート」を取りまとめる前、できるだけ早い段階でご相談いただきたいです。
佐武 投資契約書の内容をめぐる交渉を、小名木さんのような専門家にまかせると、どんなふうに修正されるのですか。
小名木 たとえば「表明保証条項」の修正があります。「会社が提供した情報がすべての点において真実かつ正確です」とか「財務諸表に記載されていない隠れた債務はありません」といったように、会社の現状について経営者が投資家に向けて保証するものです。この表明に相違する事実が明らかになると、一般的には経営者が投資家の持ち株を買い取る義務が発生するように設定されています。ですので、無制限に保証するわけにはいかない。一例ですが「会社が提供した情報がすべての“重要な”点において真実かつ正確です」とか「“知る限り” 隠れた債務はありません」といった文言を入れるなど、表明する事項ごとに細かく修正をくわえるように交渉していきます。
佐武 なるほど。
小名木 ほかには、いわゆる「ストックオプションプール」を確保できるように交渉したります。ストックオプションの付与はIPOに向けてメンバーのモチベーションを高めたり、優秀な人財を採用するのに非常に有効な手段です。しかし、法的には「新株予約権」というものですので、一般的に、株主間契約などによって、発行する場合に投資家の事前承諾が必要だったり、投資家が自らの持ち株比率を維持するために新株予約権を発行するよう請求したりする権利を保有していたりします。もっとも、これらの手続や権利によってストックオプションが出せなくなったり、すばやい意思決定ができないとなると、会社の成長を阻害することになります。そのため、一定の割合については、会社の判断で自由に出せるようにしたほうがいいのです。そのための仕組みが「ストックオプションプール」。以前は発行済株式の10%程度とされていましたが、最近では15%まで会社の裁量でストックオプションを出せるようにしているケースが多くなってきています。
佐武 出口戦略として、IPOではなくバイアウトを選択するベンチャー企業も増えてきました。「創業者利益を得る」という側面を考えた場合、一般にIPOのほうが株価は高くなりますが、大株主である経営者が多くの持ち株を売り出すのには制約があります。ほかの株主にとっては株価が下がる要因になるからです。バイアウトであれば経営者がより大きなキャッシュを手にしやすい。それを元手に再度、起業にチャレンジするシリアル・アントレプレナーは、バイアウトを出口戦略にする傾向があります。そこで小名木さんにお聞きしたいです。IPOではなくバイアウトを意識した場合、投資契約書はどんなところに注意する必要がありますか。
小名木 「みなし清算条項」の規定をよく検討するべきです。これはバイアウトを会社清算と同様のものと「みなし」て、バイアウトによる利益を株主間で分配する条項です。ベンチャー企業の場合、一般的に、優先株を保有する株主は普通株を保有する株主に優先して会社清算のときに財産の分配を受けられる権利をもっています。これと同様に、バイアウトするときも、まず優先株を保有する株主にその利益を分配するというものが「みなし清算条項」です。
佐武 より遅いステージで出資したVCは、出資額は大きくても、出資時の株価が高いので、創業時の株主よりも持ち株比率は少ないのが一般的。IPOなら高い株価で売却できるけれど、より低額なバイアウトだった場合、持ち株比率通りに利益が分配されたら、VCとしては投資を回収できなくなってしまう可能性がありますね。
小名木 はい。低額のバイアウトの場合でも投資家が投資を回収できるように「みなし清算条項」を入れておくわけです。経営者側として注意するべきことは、全株主と「みなし清算条項」が規定された投資契約書を取りかわしておく点です。たとえばVCと経営者は「みなし清算条項」に同意していたとしても、普通株で少額を出資している一部の投資家は同意していないとしましょう。「なぜ、持ち株比率通りの利益が得られないのか」と主張し、当該投資家がバイアウトに対して反対に回るかもしれません。この場合、この投資家に納得してもらうためには、当該投資家の利益を確保する必要があります。しかし、VCの利益を一部、この投資家に回してもらうのは難しい。結局、経営者の利益のなかから確保するほかなく、結果として経営者の利益が減ることとなります。このように、「みなし清算条項」は全株主で締結しておかないと、経営者は損をする可能性があるのです。
佐武 一部の投資家が反対に回って持ち株の売却に応じなければ、バイアウト先は100%の買収ができない。バイアウトの話が立ち消えになってもおかしくないですね。そもそも、買収のプロセスで「相手のなかで、なにかもめているようだ。長引いているな」というだけで、熱が冷めるといいますか、買収金額が下がることもありますからね。
小名木 ありますね。買収金額が下がるまでいかなくても、買い手側からバイアウトの契約に「アーンアウト条項」を入れておきたいという話が出てくる場合もあります。これは買収金額の支払いに、「事業目標を達成したときに」といった条件をつけるもの。経営者にとってはマイナスとなる可能性があるので、アーンアウト条項の内容はしっかりとした交渉をする必要があります。
佐武 もともとIPOをめざしていたベンチャー企業がバイアウトへと出口戦略を変更した場合に起こるリスクとして、従業員の大量退職があります。バイアウト自体に「身売り」のイメージがあり、「沈む船から逃げ出そう」という動機もありますし、大きな企業の傘下に入ることで「自由な社風がそこなわれるだろう」という動機もあります。さらに、ストックオプションが付与され、IPOを果たすことをモチベーションにがんばってきた従業員たちが、やる気を失ってしまうこともある。バイアウト先にとって、買収する企業の従業員は大事な経営資源。ときには「その会社の事業ではなく、その会社の従業員が目的で買収した」ということも。大量退社を防ぐことは、買収金額を下げないためにも必要です。法務的な観点で、なにか打ち手はありますか。
小名木 難しいですね。各従業員と「バイアウト後、一定期間が経過するまで退職しない」という合意書を取りかわすことはできます。もっとも、従業員には職業選択の自由があるので、合意に反して辞めてしまった従業員に損害賠償請求できるような法的拘束力はないかもしれません。そのほかには、IPOを目指すために付与していたストックオプションを会社が買い取るといった手当てを検討するべきでしょう。場合によっては、バイアウト先のストックオプションを付与するように、バイアウト先の経営陣に協力を仰いでもいいと思います。
佐武 それで従業員の大量退職が防げるなら、バイアウト先も協力してくれるかもしれませんね。最後に、ベンチャー企業の経営者に弁護士としてアドバイスをお願いします。
小名木 近年では、VCの投資スキームが複雑化しており、経営者の方にとって「よくわからない」というケースが多いのではないでしょうか。よくわからないまま不利な契約を締結してしまう事態は避けなくてはいけません。投資が実行に移されれば、もうあと戻りはできませんから。とはいえ、法務は経営者の本業ではありません。経営者が本業である経営戦略の立案と推進に集中するために、法務面は弁護士に一任いただきたいと思います。
弁護士法人GVA法律事務所
設立/2012年1月
従業員数/45名
業務内容/ベンチャー企業に対する法的支援、IT企業に対する法的支援、アジア進出企業に対する法的支援、上場企業・ベンチャーキャピタル・その他企業に対しての法的支援全般
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
設立/2005年1月
資本金/2,000万円
事業内容/
1. M&Aアドバイザリー
2. 事業再生コンサルティング
3. 組織再編コンサルティング
4. 企業・事業評価
5. 財務調査 (デューデリジェンス)
URL/https://kaedefa-ma.com/venture/
この記事が気に入ったら
いいねをお願いします!