ブレークスルーしたベンチャーの肖像
#11
「食品流通のOSをつくる」 最先端Techで成熟した業界を最適化 Sponsoredかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

イメージ写真

「どうすれば利益を極大化できるのか」「どうすれば強い組織ができるのか?」─。こうした悩みを抱えているベンチャー経営者は多いですよね。そこで、中小・ベンチャー企業のM&Aアドバイザリーや資金調達支援などを提供、ベンチャーの成長戦略に詳しい“かえでファイナンシャルアドバイザリー”代表の佐武さんをナビゲーターに、新進気鋭のベンチャーの成長戦略の“裏側”を取材しました。
今回は、「食品流通の分野で、世界中によりよい仕組みとより大きな価値を届ける」という、いずみホールディングスの代表・泉さんが登場。「漁船の上や畑の中からの動画中継を視聴しながらネットで食材を注文できるサービス」など、最先端テクノロジーを駆使した新機軸で、食品流通を最適化。成熟産業に革新を起こしています。「食品流通のOSをつくり新しいインフラで世界中に豊かさを届ける」というミッションを高く掲げる、同社の成長ストーリーに迫りました。


<ポイント>

物流費の高騰や消費税値上げ、人口減少による需要縮小などの脅威にさらされ、足元では若手人材が不足し、とくに経営層の高齢化が進行している卸売業界。そんななか、40代の若き起業家・泉さんが率いるいずみホールディングスが、「漁網にセンサーを取り付け、網の中にどんな魚がいるかを検知して購入者に提示。水揚げ前に案内できるようにする」といった斬新な流通方式などで話題を集めています。しかし、じつは、こうした最先端テクノロジーを使った方法を打ち出す前に、「まず10年間は地力を徹底的に付ける」という方法で基盤を築いてきたのです。

【回答する人】

泉 卓真(いずみ たくま)

株式会社いずみホールディングス 代表取締役
1977年生まれ。2004年に北海道で水産卸会社を創業。2012年に株式会社いずみホールディングスを設立、代表取締役に就任。

 

【ナビゲートする人】

H17DI-248_USB

佐武 伸(さたけ しん)

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 代表取締役
1962年生まれ。2005年に株式会社サンベルトパートナーズ(現:かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)を設立。

まず流通業をサービス業へ

──グループ 7 社で2017年の売上高が38億円、2019年には60億円と、急成長を遂げていいます。その要因をどう分析していますか。

「10年間、基盤づくりと経済圏の拡大に地道に取り組む」という創業時に決めた成長戦略が実を結び、築き上げた基盤と経済圏にITをはじめとするテクノロジーを適用した結果、よりよい仕組みとより大きな価値を生み出すことができるようになりはじめたのだと思います。とはいえ、私自身に「急成長している」という感覚はまったくありません。

業界全体で20兆円の市場規模のなか、生鮮流通で現在トップの会社はシェア1.5%。創業時からずっとそれを追い抜く事を目標としています。ですから、まだまだ途上ですね。

──最初の10年間、どのような取り組みをしたのでしょう。

強い基礎を構築する10年、というところでしょうか。「ITをはじめテクノロジーを用いなくても、業界でしっかり勝てるだけの地力をつけよう」と考えました。基礎力が高いほうが、ITなどのテクノロジーを用いたときに、より大きな成果を生めると考えていましたから。基礎力の高い企業とは、誰にでもできる当たり前のことを、誰にもできない高いレベルでやる企業。

私たちが創業から10年かけて実行したのは、「徹底的に仕入網を構築し、徹底的に販売網を構築して、その間を徹底的に合理化する」という、当たり前のこと。それをどこよりもしっかり行った、ということです。

漁師はもちろん、漁協や漁連、地方市場、出荷会社、中央市場の荷受や仲買人まで、仕入網をしっかりと構築しました。北海道の魚介類からスタートして、エリアは日本全国、あつかう食材は肉類や野菜類にも拡大。

あわせて、販売領域が細かくわかれている生鮮流通業界のなかで、全国の卸売市場、量販店、飲食店、ECなど、ひろい販売領域をもつことをめざしました。その際、テーマとしたのは「食品流通の最適化」でした。

──できる限り、中間業者をなくす“中抜き”をしていくわけですね。

いいえ。中抜きをしても、大きな価値は生み出されません。本当に必要なのは最適化です。たとえば、東京のレストランが小樽の漁師さんから直接、ウニを仕入れるとしましょう。中抜きができているので、ウニの鮮度が上がり、価格は下がると思われがち。

しかし、実際にはそうはなりません。なぜかといえば、私たちが流通に介在することで、レストランが発注する量の何十倍ものウニの注文を、その漁師さんにできる。漁師さんにとって私たちは大口顧客ですから、品質の高いウニを優先して提供してくれます。

私たちはそれをいちどに東京に運ぶので、輸送コストは低い。結果、高品質のウニを低価格で東京のレストランに提供することができるのです。

そうした食品流通をめぐる構造を理解したうえで、「お客さまの規模や状況、状態や要望に合わせて、生産者、組合、市場など、流通のスタートを最適な場所から選択し、食材の種類や規格、数量や加工度を、お客さまに合わせて提供できる」という体制をつくることで、ひとつの経済圏を築きあげていったのです。

創業当時は「私たちは右から左へと食材を移すだけの流通業ではなく、生産者から消費者への食品の流れを最適化するサービス業」ということを大切にしていました。お客さまが求める食品を探して仕入れる時間を削減し、「よい食品を消費者に届ける」という本業に専念していただく。つまり、お客さまの可処分時間を増やすことに徹底したわけです。

この業界には勝機がある

──なるほど。ですが、いま、グループ会社の日本卸売市場が手がける「漁船の上や畑の中からの動画中継を視聴しながらネットで食材を注文できるサービス」が脚光をあびています。そうしたITを駆使した新しい流通方法を最初から打ち出せば、より「可処分時間を増やしてくれる存在」として認知されたのではありませんか。

めざしている規模や場所によってはそうかもしれません。でも、私たちは「そこで楽をしたら絶対に大きく育たない」「めざしている規模に耐えられるだけの基礎を築けない」と考えていました。

ですから、最初の10年間は、社内業務の効率化を目的としたもの以外では、ITをいっさい使わず、生産者やお客さまのところに足を運び、直接取引を徹底。それは流通の現状認識を徹底して深めていくプロセスでもありました。

──10年にわたる地道な戦いを、意図して続けられる経営者は少ないと思います。泉さんが戦い抜けた理由を教えてください。

それが「勝つために必要な事」だと確信していたからです。よく「人口減少が食品業界の脅威」といわれますが、輸出も増えているので、需要はそんなに減っていないと体感しています。一方で、卸売業者は高齢化が進み、事業者数がどんどん減っているんです。

そうなると、勝ち残っている企業に顧客は集まり、必ず「業界内が最適化」される動きになります。その流れの先頭に立つことで、大きなビジネスチャンスを獲得できるとみたのです。

食品流通は地場産業化している側面もあり、地域の経済圏のなかでやっていくことができる業界。「新しいことをやってみよう」という気運がとぼしかったきらいはあります。そのなかで、私たちは「プレイヤーであると同時に、“プラットフォーマー”としてよりよい仕組みとより大きな価値を提供する」という矜持をもっていました。

だから、まずはすべての業界関係者に「プロフェショナル」と認めてもらうための姿勢を貫きました。ときには競合他社であっても、「こんな食材はないか」というリクエストがあれば、それにこたえてきました。業界内では、私は“新参者”で“若造”ですが、私たちの姿勢を業界のみなさんが応援してくださったからこそ、続けられていると思っています。

「まだ網の中にいる魚」も売れる仕組み

──よくわかりました。では、基盤を整えた11年目以降、どのようなことに注力してきたのでしょう。

ITをはじめとするテクノロジー業界で、すばらしい技術をもった企業と組むことで、さまざまなチャレンジや取り組みを開始できました。動画を活用した入札サービスのほか、『オーシャンスコープ』というプロジェクトにも取り組みました。

IoTを応用し、漁網にセンサーを設置。いま網の中にどんな魚がいるかを検知。その情報をお客さまと共有すれば、水揚げ前に注文を受け付けることができると思ったからです。

──すごい…。これ以上はない鮮度の高さですね。

これができれば、さらに発展させて、周辺の環境データも取り、網の中の情報をビッグデータとして蓄積・分析することで、「近い未来であれば、どんな魚が網に入ってくるかを予測できる」というところまでいくはず。

「1年のうちのこの時期、この天候で、この海域ならば、こんな種類と量の魚が網にかかる」と、高い精度で予測できるようになると思っています。そんな漁業ができれば、漁業者はより効率的な漁ができて利益が増え、消費者はもっと安く魚を買えるようになりますよ。

──なるほど。よくわかりました。その理想像に近づくために、どんな手を講じていきますか。

自社でWebサービスの運用を実践して、そこでエンジニア、マーケター、クリエイターに「つくったあと」の成功・失敗体験を積んでもらい、お客様のサービス開発に活かせる土壌をつくろうと考えています。そのためにWebサービスをもっている会社のM&Aを、さらに積極的に推進します。

人材確保目的のM&Aについても、探索は続けます。もしかしたら、「優秀なエンジニアがいる企業を、そのエンジニア目的で買収する」、というのもアリなのかもしれませんね。ヘッドハンティング代わりのM&Aというわけです。エンジニアが転職する必要はなく、ストレスが少ないのではないかと。まあ、そんな話はなかなかないと思いますが(笑)。

──ほかにITを用いた新機軸があればシェアしてください。

さまざまな開発やチャレンジをしていますが、いまはあまりいえません(笑)。近々、フィンテック領域の新しいサービスをリリースできるのではないかと考えています。

また、ほかにもさまざまな企業と連携し、さまざまなテクノロジーを用いたサービスの開発や導入を進めています。よりよい仕組みとより大きな価値をお届けできるものは、業界内で横展開できればいいなと思っています。

キラリと光る会社を仲間にしたい

──食品卸業界は利益率が低いと聞いています。IT活用で、どんな変化がありましたか。

業界平均の4~5倍の利益が出るようになりました。それをもとに、さらなるテクノロジー開発を進めていくと同時に、M&Aを積極的に推進しています。2018年は5社程度、グループ入りをしていただいたり、出資をさせていただきました。

グループ入りしていただく企業は規模が大きい事に越したことはありませんが、業界には「規模は小さいけれど、魅力的な商品をもっている」といった会社もたくさんあります。たとえば、「売上高3億円しかないけれど、地域でいちばんおいしいハムをつくっています」とか。そうした会社にも、ぜひ、当グループの仲間になってもらいたいですね。

──M&Aの売り手側からみたとき、いずみホールディングスの魅力はなんでしょう。

経営力を強化できることでしょう。2018年の10月に当グループにジョインした会社が、半年で利益が大幅に増加している例もあります。当グループには「利益をあげられる仕組み」があるので、それをインストールするだけで、大きく業績を伸ばせるんです。

私たちの出す条件は、絶対ではありませんが3つ。「直近3年、PL上の黒字であること」「ある程度の規模感があること」「内部昇格で社長をつくりたいので、事業部長クラスの方がいること」。後継者難におちいっている会社に当グループに入ってもらうことで事業継続を果たし、業界全体を伸ばしていくことに貢献したい、という想いもあります。

──将来のビジョンを聞かせてください。

ミッションを達成する為に必要だと思うことを、その実現から逆算して考え、粛々と実行するのみ、です。そこまでいけば、「生産者の収入を1.5倍にして、日本の食卓の食費を半分にする」というビジョンを実現できているはずです。

<解説>成長の潮流
“「ヒトではなく仕組み」の経営が卸売業界のM&Aを促進していく

私が多くのM&Aを手がけてきたなかで、「卸売業は一般的に承継が難しい業種」と実感しています。社長個人の能力と人脈に依存した経営をしているところが多いからです。その社長が引退しようとして、「社内に後継者が見当たらないから」と、ほかの企業に承継してもらおうとしても、なかなかいい買い手がみつからないケースも散見される。そのなかで、泉さんのM&Aへの姿勢は破格といっていいでしょう。

「当社のツールを導入してもらいさえすれば、顧客も仕入れ先も社員もそのままでいい」「経営がわからなくても、運営はできる中間管理職が社長へと昇格してくれればOK」。このような条件でM&Aを実現させられるのは、自らつくり出した仕組みに自信があり、「その仕組みを業界内に広げるためのM&A」「業界を発展させるためのM&A」という意識があるからでしょう。

「市場は堅調に推移している」といわれる食品卸業界ですが、物流費や人件費の高騰などで利益率が高まることはあまり期待できません。また経営者の高齢化も進むなかで、業界全体の士気は上がっていないのが実情。

今後、M&Aによる食品卸業界の再編が進んでいくのは確実でしょう。その主役のひとりとして、若き改革者である泉さんが活躍されるのを期待しています。

佐武 伸
佐武 伸(さたけ しん)
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社 代表取締役
1962年生まれ。2005年に株式会社サンベルトパートナーズ(現:かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)を設立。

株式会社いずみホールディングス

設立/2004年1月

資本金/5億1,000万円(資本準備金含む)

売上高/約60億円(2019年1月期 グループ全体)

従業員数/70名(グループ全体)

事業内容/グループ内の事業会社への経営指導・経営管理

URLhttp://www.izumi-hd-izm.co.jp/

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

設立/2005年1月

資本金/2,000万円

事業内容/
1. M&Aアドバイザリー
2. 事業再生コンサルティング
3. 組織再編コンサルティング
4. 企業・事業評価
5. 財務調査 (デューデリジェンス)

URLhttps://kaedefa-ma.com/venture/


【 そのほかの記事 】