「ダイエー哲学」に感銘を受ける
―低価格をうたう飲食店の多くが苦戦するなか、鳥貴族の2016年7月期売上高は245億円超。2017年7月期には300億円突破を視野に入れています。好調の要因はなんでしょう。
焼き鳥という単一メニューにこだわってきたことです。低価格路線を掲げる飲食チェーンは多いですが、そのなかには「デフレだから仕方なく」という理由で渋々、価格を下げたところもチラホラあるようです。しかし、私たちは違います。「焼鳥屋で世の中を明るくしたい」。そうした想いが最初にあって、たどりついたのが「全品280円(税抜)均一」のモデルと、それを
実現させている独自の仕組みや取り組みなのです。
創業前に、私が感銘を受けたのは流通革命を起こしたダイエーです。ダイエーは私の出身地である大阪が発祥ということもあり、大きな衝撃を受けました。ダイエー創業者の中内(功)さんは「価格破壊」をスローガンに、それまであたり前だった「定価」の概念を覆しました。「よいものを安く買いたい」という消費者の願望をかなえるため、スーパーをチェーン展開し、大量仕入れの圧倒的なバイイングパワーで価格決定権をとりメーカーから奪い取る事業モデルをつくりあげたのです。
その頃、私は焼き鳥屋で働いていました。働きながら「経営」について勉強をするなかでダイエーの経営哲学に出会いましたが、「流通革命」「価格破壊」は、私にとってとても大きな衝撃でした。中内さんが実践したチェーン・ストア理論。これを焼き鳥店の経営に応用できるはず。そう思ったのです。
―なるほど。だからデフレも消費不況も鳥貴族には関係がない。創業以来、独自のビジネスモデルを追求してきた結果、いまの好業績がある、というわけですね。
ええ。また、私は大衆を相手にした商売にこだわりたかった。そのほうが社会に大きなインパクトを与えられるし、市場規模も大きい。なにより、より多くの喜びを社会にお届けすることができます。まず「大衆ありき」が、私たちの大原則なんです。
店舗オペレーションにおいても、その思想は貫かれています。たとえば、鳥貴族では串打ちを各店舗で行っています。セントラルキッチン方式で、工場で串打ちして各店舗に配送したほうがコストダウンは図れます。しかし、それでは各店舗へ配送する間に鮮度が落ち、味が落ちてしまう。「おいしい」「安い」と、味も価格も大衆に愛されるものでなくてはなりません。
だから、鳥貴族は各店舗で串打ちをしているんです。価格を安くするためなら、セントラルキッチンで大量生産すればいい。でもそれはプロダクトアウトの発想。鳥貴族のやり方ではありません。
「鳥貴族はみんなの会社」
―ほかに焼鳥という単一メニューにこだわることのメリットはありますか。
店舗スタッフが接客に集中することができ、顧客満足度を高められる、というメリットがあります。過剰労働を減らし、スタッフのモチベーションを高めることもできます。
「デフレだから仕方なく」低価格路線を採用したところは、スタッフのモチベーション維持に悩んでいる企業が多いでしょう。コストはかけられず、でも多くのメニューをつくって顧客満足度を高めなければいけない。いきおい、過剰な長時間労働といったスタッフの犠牲によってなんとか両立されることになります。これでは、モチベーションがあがらないのは当然でしょう。
スタッフが生き生きと働ける労働環境の整備にくわえ、経営理念を浸透させ、自分たちの仕事に誇りをもってもらうことも大切。鳥貴族には「たかが焼鳥屋で世の中を変えたいのです」との文言で始まる理念があります。これが浸透しているあかしでしょうか、「鳥貴族大好き」という社員が多いですね。休みの日に、お客として鳥貴族に来て、一杯やっている社員がよくいますよ。
外食企業なのに、社員が休みの日に自社の店舗に寄り付こうともしない会社はよくありません。社員が仕事に誇りをもち、会社を好きでいることがお客さまにも伝わるので、お客さまも明るい、楽しい気持ちになってくれる。だから、「また来たいね」と思ってもらえる。こうした好循環を生んでくれるのは、やはり現場で接客しているアルバイトを含めた鳥貴族の現場の人材、ヒトのチカラなんです。
―どのようにして理念浸透を図っているのですか。
私が言い続けるしかありません。そして、「きれいごとを言っている」と思われないように、私自身が言動を律してみせることが大切です。“グレー”な領域のことにも絶対に手を出さない。つねに正しい人間であろうと意識しています。
それと、つねに「鳥貴族はみんなの会社」というメッセージを社員に向けて意識的に発信しています。私の言動から「鳥貴族はオレの会社だ」という意識が少しでもすけてみえたら、社員たちは理念を信じられなくなるでしょう。
2014年にIPOを果たしたのも、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーになることによって、より「みんなの会社」であることを示したいという想いからでもあるんです。
たかが1本の焼き鳥でも
―IPOの翌年には東証2部、そして2016年4月には東証1部に上場しました。今後の成長戦略を教えてください。
出店ペースを上げます。現在、東名阪約500店を出していて、2017年7月期中にさらに100店舗を出したい。2021年7月期までに東名阪エリアで1000店舗を出すことが目標です。その後は、長期目標である国内2000店舗と、海外進出にチャレンジしていきます。2000店舗のなかには国内の東名阪以外のエリアも含まれます。
海外でも“点”ではなく“面”でのチェーン展開をしたい。進出先は未定ですが、現地の人々から支持される店舗展開をして、焼鳥という日本の文化を海外に輸出できたらいいですね。
―外食産業のみならず、消費低迷、人手不足、人口減少などに企業を取り巻く問題は山積しています。どうすれば鳥貴族のように、難しい時代でも会社を羽ばたかせることができますか。
トップがなにごともプラスに考えることだと思います。こんな時代でも、伸びている企業はたくさんあります。「消費税が上がったから」「少子化が進んでいるから」と他責にしていても、経営課題の解決策は見つけられませんよね(笑)。
私は昔から、それこそ子どものときからものごとのプラス面、人のいい点にしか目が行きませんでした。外食に惚れたのは、高校生の時にアルバイトしたのが、たまたま飲食店だったから。いい接客をすればお客さまに喜んでもらえる。それがうれしくて、「外食産業っていいな」と思ったのがきっかけだったんです。
仕事が楽しくて、2年ほど同じ店で働き続けました。一緒にアルバイトを始めた人たちは「店長がうるさいから」「お客さまから怒られたから」などの理由で、みんな私より先に辞めていきました。
プラス面を見ているからこそ、そのものの本質的なよさに気づくことは多いのではないでしょうか。人の動かし方も同じ。その人のいい点に注目するから、ついてきてくれるんだと思います。口を開けば「あなたのここはダメ、あそこもダメ」とダメ出しばかりするリーダーに、人はついて行かないと思います。
私たちには「鳥貴族のうぬぼれ」という理念があります。たかが焼鳥屋ですが、されど焼鳥屋。世の中を明るくすることもできるんじゃないかと。
私たちの店の入り口に、営業時間中は「うぬぼれ中」という札がかかっています。普通の店なら「営業中」です。焼鳥屋として、お客さまに楽しんでもらい、少しずつでも世の中を明るくしている時間だからです。こんなふうに企業で働く全員がプラス思考でいたら、業績はついてくるものです。