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腹の底から「やる」と決めろ。景色が変わる

「できたらいいなぁ」ではIPOも成長もなにも実現しない

株式会社オプトホールディング 代表取締役社長グループCEO 鉢嶺 登(はちみね のぼる)

INOUZTimes編集部
腹の底から「やる」と決めろ。景色が変わる

2017年9月、成長企業の経営者約300名が一堂に会する経営者イベントBestVenture100 Conference 2017が開催されました。

設立から10年近くたつのに売上は2~3億円、社員数は20~30人で横ばい―。こうなっちゃうと「これが限界」と考えるのがフツーですよね。でも、そんな長き低迷から猛スピードで一気に“節抜け”した会社があります。オプトホールディング代表の鉢嶺さんが「設立→低迷→IPO→頭打ち」という“苦節の7年周期”にもがき苦しんだ末につかんだ「会社を急成長させるための4つのポイント」をお届けします。とても具体的な経営論。やり切るか、やり切らないかは、あなた次第です…。

[概要]
BestVenture100 Conference 2017
2017年9月13日(水)
主催:イシン株式会社
協賛:SMBC日興証券株式会社/三幸エステート株式会社/有限責任あずさ監査法人/株式会社オービックビジネスコンサルタント/株式会社プロネット/TMI総合法律事務所/新日本有限責任監査法人/住友不動産株式会社/宝印刷株式会社

[セッション]
起業家の軌跡~苦難と飛躍の7年周期~

[スピーカー]
株式会社オプトホールディング 代表取締役社長グループCEO 鉢嶺 登 氏

※「BestVenture100 Conference 2017」(2017年9月)で行われたセッションより抜粋・構成しました。

333計画

創業から7年間は苦しい時期が続きました。7年目の2000年の売上は約3億円。なぜ、業績が低迷していたのか、その理由は後で話します。景色が変わるのは2001年から。この年の売上は13億円超。前年比で一気に4倍増です。以降は、29億円、43億円、94億円と倍々で増えていきます。

なぜ急成長できたのか。それは次の4つのポイントにまとめることができます。

第1に「伸びる市場」を選んだこと。いろいろやっていた事業を整理してインターネット広告市場に特化しました。同じ努力をしても市場が伸びていると会社を急成長させることができる。そんな体験をしました。

私より優秀な社長は大勢います。でも、経営者が優秀なら会社は成長するのかというと、そうではありません。会社の成長性を決めるのは、やはり「マーケット選び」が大きな要素です。

第2のポイントは「明確な目標設定」。

売上が3億円くらいだった2000年に私を含めた役員4人で合宿に行き、目標を決めました。

それぞれの夢を語り合いました。私は当然、オプトが自分の夢。オプトを上場させたい、世の中を変えたい。そんな夢です。ほかの役員はというと、バラバラだったんですね。「将来は不動産業をやりたい」「作家になりたい」「大学教授になりたい」。ほかの役員たちはそんな夢をもっていました。初めて聞いたので、「そうだったんだ」と驚きました。

建前ではみんな「会社を成長させたい」などと言うけれど、本音の部分の夢のベクトルはほとんどの会社でもバラバラなんじゃないでしょうか。

合宿の話に戻ります。それぞれの夢を語り合い、共有した後、私は「じゃあ、みんなの夢を実現するため、とりあえずオプトを上場させようぜ」と言いました。ある種こじつけですが「上場までの過程は、作家であれば小説の材料になる、大学教授であれば教材になる、上場してキャピタルゲインが得られれば不動産業の資金ができる」と。

オプトでの事業が成功すれば自分の夢に近づく。そんな状況をつくりたかったんです。ベクトルを全く同じにすることはできないけれど、方向を一致させよう。そう考えました。

これを「ライフワークとライスワークを一致させる」と私は表現しています。オプトでの仕事というメシを食うための“ライスワーク”と、実現させたい自分の夢である“ライフワーク”。このベクトルを一致させるということです。

そして、上場させるために「3年」で売上「30億円」、利益「3億円」の達成を目指す「333計画」という目標設定をしました。明確な目標設定の重要性は、H.I.S.の澤田さんから学びました。

オプトホールディングの創業から直近までの業績推移

「そんなんで上場できると思ってんのか」

それは上場を目指しているベンチャー企業の経営者を集めたある講演会でのことでした。澤田さんが「このなかで上場を目指している人は手を上げて」と言われ、当然、全員挙手しました。次に澤田さんが「では、何年後に売上はいくら、利益はいくらで上場するか。それ決めている人は手を上げて」と言うと、今度はほとんどの人が手を上げない。私も手をおろしたひとりでした。

すると澤田さんが「お前ら、そんなんで上場できると思ってんのか」と怒ったんですね。

なぜか。澤田さんはオリンピックに出場できる選手とできない選手の違いに例えて、その理由を解説されました。それは、こんな話です。

「オリンピックに出たいなぁ」と思っているスポーツ選手が1万人いたとします。当然、ほとんどの人はオリンピックに出場できません。オリンピックに出れるのは「出る」と腹の底から決め、「オリンピックに出るためには、半年前の選考会でこのタイムを出す」「そのためにはその前の大会で何位に入る」「そのためにはこんな練習をする」。

こんなブレイクダウンした明確な練習計画を練り、それを実行し続けられた人だけなんだ。こんなお話しでした。「オリンピックに出たいなぁ」では絶対に出場できないわけです。

IPOも同じ。逆算して、明確な目標設定をし、それを着実に実行していける経営者しかIPOはできない―。こうした澤田さんのお話は、すごく刺さりました。そこで「333計画」を策定したんです。

実際、大きな効果がありました。新規事業に投資するのか、撤退するのか。どんな人を採用するのか。どこと提携するのか。あらゆる経営判断は「333計画」に沿っているかどうかに照らし合わせ、ブレのない一貫したジャッジができるようになりました。

「フォーカス」と「チーム経営」

冒頭で、設立から7年間低迷続きだったと言いましたが、その原因がこれでした。たかだか売上2~3億円、社員数20~30人の会社で4つも事業をやっていたんです。リソースが分散するので全部中途半端で全部赤字。一方で2001年から急成長したのは、インターネット広告代理業に事業をフォーカスしたから。残りの3つの事業は全部休止しました。

創業社長は新しいことが大好き。アイデアマンも多い。そのため、どんどん新しい事業をやりたがる。でも、当たり前ですけれども、戦力は限られていますし、自分が思いついたアイデアと同じアイデアをもっているほかの経営者はいっぱいいます。そうしたなかで勝つためには一点突破、一点集中しかありません。「フォーカス」が絶対不可欠なのです。

最後のポイントは「チーム経営」です。

それまでは創業者である私が「こっちいくぞ」「あっち行くぞ」と決めていました。でも、創業社長に多いパターンで、言うことは朝令暮改。昨日は「こっち行くぞ」と言っていたのに、今日になったら「いや、別の方向に行くぞ」と。当然、社内は混乱します。

そこで役員4人で役割分担し、ナンバー2のCOOが社内をマネジメントする体制に変えました。CEOの私が直接指示するのではなく、やりたいことはCOOにしか言わない。そしてCOOが社内をまとめ、戦略を遂行する。そんな体制です。こうしたチーム経営を組めたことでオプトは急成長しました。

しかし、一方で私自身は大きな悩みを抱えることになりました。その大きな原因は、皮肉にもオプトが急成長を遂げることになった「チーム経営」の体制に移行したことでした。COOが戦略を遂行し、きっちり勝ち続けてくれる。そのため、自分の存在価値を感じられなくなったんです。

もちろん、COOが悪いと言っているのではありません。パナソニック、ホンダ、SONYなど、錚々たる企業の偉大な創業者のそばには、必ずナンバー2、ナンバー3、右腕、左腕と呼ばれる存在がいます。いろんなベンチャー企業を見てきましたけど、経験則で言うとワンマン社長のチカラだけで経営していてナンバー2がいない会社は、大体、売上20億円くらいで止まっています。

でも、当時の私は自分を見失っていました。その後、私には私にしかできない得意分野があることが徐々に分かり、悩みも解消して行きました。

さて、これまでに述べた4つのポイントを実行したことで、オプトは2001年から急成長の曲線を描き、2004年には目標だったIPOも実現しました。

「大きな落とし穴」はIPO後に待っていた

しかし、無事上場を果たしましたが、今までの長い経営経験における最大の失敗をここでしてしまいます。それは大企業との資本業務提携。2008年のことでした。提携により、発行済み株式の35%を譲り、その会社がオプトの筆頭株主になったんです。私の持ち株比率は20%で第2位の株主。ここを転換点に業績も、株価も、全部低迷を始めます。優秀な社員たちも離れていきました。

1年くらいで提携が失敗だったことに気づきました。しかし、提携解消は簡単ではなく、結局7年間もかかってしまいました。

失敗を招いた最大の原因は、「これをやりたいんだ」という目標をIPO後に見失っていたことです。それまで「333計画だ」「上場するぞ」といった、社内が一致団結しやすい明確な目標がありました。

対外的には「上場は通過点です」とか「次は売上1,000億円を目指します」などと言っていましたが、自分のなかで腹の底に落ちていませんでした。それで、「大企業と提携したらいいことあるかな」と考え、フラフラと提携してしまったんです。

目を覚ましてくれたのが、日本電産の永守さんでした。一緒に食事をする機会があり、永守さんから「お前、売上1,000億円とかを目指しているんじゃないだろうな」と言われたんです。

私が「え、いけないんですか」と答えたら、「目標1,000億円を100%達成して1,000億円企業になるのと、1兆円を目標にして50%達成だけど売上5,000億円の企業になるのと、どっちがいい?」と永守さんが聞かれました。「それは5,000億円です」。そう私が答えると永守さんは「そうだろう。ちっちゃくまとまるんじゃねえよ」と。

ハッとしました。「インターネットは産業革命」「世の中を変えよう」という夢をもっていたはずなのに、売上1,000億円で世の中を変えられるのかと。変えられるワケがありません。1兆円までいかないと意味がない。そんなことに気づかされました。

そこでようやく自分のなかで「2030年までに絶対に売上1兆円をやろう!」という目標ができたんです。これをきっかけに発想がすべて変わりました。それまでは積み上げで将来を考えていましたが、売上1兆円から逆算してどうすべきかを考えるようになりました。

2030年に売上1兆円を達成するにはどうすればいいのか。従来の広告代理店だけでは絶対にいかない。では、どういった手を打てばいいのか。もう、あらゆるところを変えないといけない。そうした発想になれました。腹の底から「やる!」という目標を設定することの凄さを実感しています。

社員数は10人なのか100人なのか。あるいは1,000人、1万人にするのか。売上は10億円、100億円でいいのか、1,000億円を目指すのか、1兆円を目標にするのか。どこを目標にするかで、会社のつくり方はまるっきり異なります。経営者が腹の底から「自分はこれがやりたい」という目標設定できれば、もう9割がた成功なんじゃないか。そう思います。

けれども「なれたらいいなぁ」ではダメ。もう「やる」と決めないと、夢は絶対に実現しません。

BestVenture100 Conference 2017

BestVenture100 Conference 2017セッション記事はコチラ

昨年のBestVenture100 Conference 2016セッション記事はコチラ

鉢嶺 登(はちみね のぼる)

株式会社オプトホールディング 代表取締役社長グループCEO

1967年、千葉県生まれ。1991年に早稲田大学商学部を卒業後、森ビル株式会社に入社。1994年に有限会社デカレッグス(現:株式会社オプトホールディング)を設立、代表取締役社長に就任。2004年にジャスダック上場。2013年に東証一部上場。著書に『ビジネスマンは35歳で一度死ぬ』(経済界)などがある。

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