経営チームのつくり方
―5つ質問をご用意させて頂いております。まず経営者の悩みどころですけど、経営陣の役割分担について、どういう考え方・工夫をされていますか。
真田
僕はKLab株式会社を設立する以前もいくつもの会社をやってきたわけですけれども、毎回だいたい同じ組み合わせでやってます。
僕の場合割とキャラクターがわかりやすくはっきりしてるんです。簡単に言うと大雑把でいいかげん、適当。その代わり意思決定が大胆。こんな性格です。アイデアが止まらないくらいに出続けるという特徴もあります。
別の言い方をすると風呂敷広げる役なんです。「これおもしろそうや、これやろう」って言うのは言うんですけども、ほったらかしになる傾向がありまして。
したがって僕は、実行フェーズで現実に細かく落とし込む実務派のようなキャラクターのメンバーと組んで起業してきました。
―どのようにして実務派のキャラを集めるんですか? 自然と集まる感じですか。
真田
会社を立ち上げる時点で探します。
具体的にはCTOやCFOを探すわけですが、CTOでもいろんなCTOがいるし、CFOでもいろんなCFOがいます。通常は、その職種的役割分担のなかで(スキルや経験がマッチする)CTOやCFOを探すと思うんですけれども、僕の場合はそうではありません。人格的・性格的役割分担の方が重いんですよ。
職種的役割分担は、勉強したら後からでもどうにかなります。けれど、性格的役割分担の部分は、人間、変わらないんで。僕はそこを重視しています。
曽山
サイバーエージェント(以下、CA)では戦略からチームを考えます。たとえば、2008年から続けているCA8もそうした考えです。これは役員の人数を8人としたうえで、2年に1回、2人を入れ替える制度です。経営のゴールと経営の戦略からどういった経営チームにするか。定期的にそれを考えていこうということでスタートさせた制度です。
CA8を開始した頃から営業利益が急速に伸びています。
例えば新規事業に力を入れたい場合は新規事業が得意なメンバーを役員にする、広告に力を入れる場合は広告畑の人の比重を増やすわけです。優秀な人、トップ8人ではない、ということを明確に意識しています。あくまでも役割。役割からいちばん適切な人を決めます。
真田
退任される役員の方は、都落ちというか、ふてくされたりしないんですか?
曽山
第1回の交代のときは、すごく気を使いました。社長の藤田が「今回抜けてもらう役員が2人いるけど、これは降格ではないから」ということを明確に言って、あくまで戦略に合わせて席を譲るだけなんだということを丁寧に説明しました。
実際、今まで10人が交代しているんですけれども、退任後、グループ外に出て自身で事業をしているのが3人、CAグループに残っているのが7人です。僕も6年役員を務め、退任して執行役員になり、去年の10月から取締役に再登板しました。出戻りの取締役は僕が初めてです。
真田
ちなみに退任された方のお給料は減らないんですか?
曽山
メカニズムとしては2年前に戻ります。でも、2年間で成長した分は査定するので、結果的に2年前より上がります。
離職は「おカネ」では解決できない
―次の質問です。今まで経営されてきた中で、どんな組織の危機があり、それをどう乗り越えてきましたか。
真田
2000年当時、もともとKLab株式会社は携帯電話のアプリをつくることからスタートしました。しかし、その頃は全然ビジネスになりませんでした。iPhoneの発売が2007年で、スマートフォンが全盛になるのは2009年くらいからでしたから。
とはいえ食っていかないといけないから、受託開発やセキュリティなど、どんどん違うビジネスを伸ばしていきました。売上は25億円前後、人員数は150人くらいまでは順調に伸び、「IPOしようぜ」となりました。
しかし、受託開発会社って、だいたい従業員100~200人の規模になると、1回目の壁に当たるんですね。それ以上に人数を増やすと技術力が下がり、優秀な人が辞める。それによってさらに技術力が下がり、新規受注が失注する。KLabもそんな壁にぶつかりました。
そのため、伸びが止まり、IPOを断念しました。そこで優秀なエンジニアがダーッと辞めていったんです。これが1回目の危機でした。
そこで、BtoBの受託からBtoCの自社開発型の商品・システム製品に転換していくぞという次のビジョンを打ち出しました。それによって離職も止まりました。壁を乗り越えるためには、次の夢と目標、ビジョンをしっかりもたなければいけない。そう思いますね。
生々しい話で言うと、ストックオプションやインセンティブで優秀な人材を集める場合もあるわけですよ。ですから、IPOを取りやめたことで「期待していた収入がないから」という理由で辞める人もいました。
一方で、上場したことによって大量に人が辞める、ということもあります。僕は、サイバードという会社で1回目の上場をしています。当時の創業から上場までの最短記録を達成しました。その時の社員の平均年齢は23~24歳くらいでした。大学生のバイトがそのまま社員になって、上場したようなカタチです。
ストックオプションをみんなに配っていたので、上場したことによって23~24歳の若者がストックオプションで株を売ったら3,000万円くらいが手に入るという事態が起こりました。ロックアップが解けた瞬間から辞表提出のヤマ。「明日から世界一周に行ってきます」「海外に行ってきます」とか言って、どんどん辞めていきました。それで大量に社員が辞めて一気に危機が訪れる、そういうことも経験しました。
上場しても、取り止めても、結局、人は辞める。そんなことを学びましたね。
もうひとつ、上場前後で人材の質が変わることもわかりました。(上場前は)上場狙いで入ってくる山っ気がある人、(上場後は)上場会社に就職したい人といったように変わります。
実はコンテンツ屋として安定運用に切り替えていかないといけない時期だったのですが、上場によって山っ気がある新しいものをつくりたい人が辞め、安定運用したい人が入ってきたので、ある種、逆に雨降って地固まったかな、というところがありました。
曽山
CAの場合、2000年に上場した後、3年連続で退職率が年間30%という状況でした。従業員100人ところだったところに200人の中途採用をした時期です。
創業期からいた社員は23~24歳で、中途採用で入ってくるメンバーは27~28歳くらい。商社とかコンサルなどそうそうたる大企業から転職された方が多かったのですが。
転職してこられた人たちは、まず業界未経験でネットを知らない。また、27~28歳の大企業の人の場合、マネジメント経験もありません。こうした人たちが大量に転職してきて、創業期を支えてきた23~24歳のメンバーの上に27~28歳の未経験者の人が指揮命令系統の上にくるという状態になりました。すると何が起きるかというと、カオスしか起きないんですよね。
まず、(未経験者の上司の)命令を聞くと若手は結果が出ない。命令を聞かないと怒られる。そのため、まず若手が辞めていきます。経験がある若手が辞めた後は、結局、未経験者の人たちも結果が出ない。それで、この人たちも辞めるというデフレスパイラルに陥りました。
そこで、さきほどのストックオプションの話ではありませんが、藤田が所有していた元株をそのときいた社員に対し、配ったんです。1人2株で当時50万円くらい。将来、もっと高い株価にするために頑張ってほしい、という気持ちですよね。
そうしたら大量に退職者が出ました。50万円くらいでも辞めちゃうわけです。お金で引っ張ると、結局、お金で辞めるというのは、その時すごく学びでした。
―3年間、そのカオスが続いたんですか?
曽山
そうです。入社する人も、退職する人も多く、社員の間にも不安が広がりました。
そこで(こうした危機を打開するため)、3つのことをやりました。
まず、ビジョン、ミッションステートメント、価値観といった“軸”を明文化しました。目指すべき方向はここだよと示したわけです
次に“横のつながり”。社員同士を仲良くさせることを意図的にやりました。たとえば、月に1度、部署で飲みに行く飲み会代を1人あたり5,000円補助するといった具合ですね。これをやったら、社員同士のコミュニケーションが生まれ、いろいろ相談しあうようになった。
3つめは“表彰”です。キーワードは個人への光。それまでは、1人ひとりへの感謝や承認といったことが全然できていなかったので。
「軸の明文化」「横のつながり」「個人への光」、この3つのキーワードで(危機を)打開しました。
「縦と横」「小集団」という指示系統デザイン
―組織が大きくなれば大きくなるほど、経営者は間接的に全社をマネジメントしていくことになります。その際、どういう指示系統のデザインをされているのかをお聞きしたいと思います。
真田
先ほど申し上げたように、以前は受託開発のような業種で、今はゲーム開発をしてます。そこにおける命令指揮系統は、やっているビジネスによってだいぶ違います。
受託開発の場合、クライアントさんに指示された仕様書どおりのものを、決められた納期どおり納品することが絶対なので、上から命令がしっかり下りてくる組織設計をやりました。これ、一般的だと思います。
それに対して、ゲーム開発のように「おもしろいものをつくっていこう」というビジネスの場合、納期や仕様書が絶対なのではなく、いったん決まったことでも「こっちのほうがおもしろいんちゃう?」「じゃあこっちにしようよ」と、クルッとひっくり返せないとダメなんです。
その場合、どういう命令指示系統にしていくかというと、ひとつのプロジェクトが、ひとつの疑似的な会社のような仕組みにして、プロデューサーに一定の権限を渡します。いわば、プロデューサーは疑似的な社長。ゲームをつくりたい人はプレゼンをして、そのプレゼンが通ったら予算を確保でき、一定の権限を渡していく、ということをやってます。
僕は基本、ゲームの内容に口出しはしません。だけど、最終的な拒否権は持っていて、プレゼン内容によっては拒否権を行使してやり直し、ということもあります。やはり、人に説明できるかどうかが大事なんですね。
先ほども申し上げましたが、プレゼンが通ったら一定の権限を持ち、まるでひとつの会社のようにやることができます。ただ、こうなっていくと“王国”ができて、ゲームごとに別々のつくり方、別々の流儀、別々のノウハウが育ち、ガラパゴス諸島がたくさんある、という組織になっていきます。
それに対して、 “縦組織”“横串組織”と社内で呼んでるんですけど、プロジェクトは縦組織。横串組織というのは、たとえばクリエイティブ部に特殊なスキルで絵を描ける人がいた場合、縦組織のプロジェクトには所属せず、横串組織のクリエイティブ部に所属します。そして、その人に絵を描いてほしい場合は、縦組織のプロジェクトは、横串組織のクリエイティブ部に発注する、という仕組みをとっています。
プロジェクト内には特別なスキルがある人材はいなくて、それが必要になった場合は横串組織に発注するというカタチなんですね。
このように、縦と横が交わって初めて動く組織形態になっており、横串組織が全体管理、そのプロジェクトの各段階を管理する仕組みになっています。これが縦組織のプロジェクトが“王国化”する歯止めとなっています。今はこうした組織形態になっています。
―真田さんがそうしたシステムをつくっていく時の“軸”は、どういったものなんでしょうか。
真田
これ難しいんですけど、「任せるぜ」と言いつつ、管理をする。そのバランスですよね。アイデアとかビジョンとかある程度任せつつ、でもその工程管理を横串から管理する。そのバランスをどう取るかが常に課題。
どちらかが行き過ぎるとモチベーションが低下したり、ルーズになる。あるいはそのノウハウが独り占めになるとか、色々な問題が起きます。このバランス調整を微妙にやってますね。今もやり続けてます、バランス調整は。
―指示系統のデザインについて、曽山さんはいかがでしょう。
曽山
経験として、マイクロマネジメントの限界を決めた方がいいと思っています。例えばあるリーダーは100人から200人まで見えるけど、あるリーダーは15人くらいまでしか見えない。そんなことがあるからです。
マネジメント可能な人数が何人かわからないまま急に組織や人員が肥大化して、マネジメント破綻するケースは多い。自分たちが直接見られる人数から逆算して、管理職やチームづくりをするというのは、経営陣のディスカッションの1つのテーマに入れたほうがいいと思いますね。
CAでは“小集団経営スタイル”というのを行っています。小さい集団をつくり、その責任者に裁量権を渡すというものです。子会社を多く設立し、若手を社長にとして抜擢して任せる、ということを意図的にやっています。
1人のマネージャーはだいたい5~6人、1人の事業部長で150人ぐらいが見れる限界かなという感覚をもっています。
#2『「抜擢」は人材を潰す毒薬にも急成長させる良薬にもなる』に続く