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人望の厚い社員が部下を連れて 独立しちゃいました…

「HRの名医」サイバーエージェント・曽山氏が社長の悩みを解決 #2

株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山 哲人(そやま てつひと)

INOUZTimes編集部
人望の厚い社員が部下を連れて 独立しちゃいました…

PHOTO:INOUZ Times

今回の相談はとても深刻な内容です。「社内の人望が厚い社員に責任あるポジションを任せたところ、部下を連れて独立しちゃったんです」。それは大変!! 会社として手痛い損失だし、社員が激しく動揺しそうです。裏切られた社長の心のなかにも「許せない!」という恨みが渦巻きそう。こんなときの対処法、そもそもこうしたサプライズを起こさないHR施策やマネジメント方法を、HRドクター「ソヤマン」に聞きました。

「残った社員を守る」ことを最優先

―ドラマみたいな話ですけど、ベンチャーの場合、ありがちですよね。

そうですね、珍しい話ではないですね。でも、自分の会社でこういうことが起きたらと、けっこう大変だなと思います。

―こんな裏切りにあったとき、経営者はどう対処すべきでしょう。

起きてしまったことは仕方がありません。まず「起きたことをチャンスに変えることでリカバリしよう」と考えてください。

その上で、対処のポイントはふたつあります。ひとつは、会社に残ってくれた社員に対し、経営者自らがあらためて寄り添い、信頼関係を構築することです。「会社に残った社員が報われること」「会社が社員を守ること」を示し、社内基盤がぐらつかないようにするんです。

ふたつめのポイントは、出ていった社員への対処です。

―後ろ足で砂をかけられたワケですから、社長としては腹のなかが煮えくり返っていると思います。どうやって返り討ちにしますか。

その気持ちはわかりますが、感情的になるのはマイナスです(苦笑)。毅然とした対応を坦々とすべきです。

例えば、出ていった社員が同業他社をつくったとしましょう。会社の就業規則に「競業避止義務」が定められているなら、彼らは企業内の秘密を持ち出したことになり、明らかなルール違反を犯しています。その場合、会社内の約束を破ったことに対して、文書を送って警告したり、適切な法的措置をするなど、厳しい対応をとる必要があります。

注意点もあります。外に対する厳しい対応が強調されすぎると、残った社員の間に恐怖感が生まれます。「このまま社内にいて、自分がなにか間違ってしまうと、同じ目に遭うのではないか」と怯えてしまう。

―残った社員に「ウチの社長、怖い」とか「怒らせたら血も涙もない」などと思わせたら、それはそれで後がやりにくくなりそうですね。

僕は人事制度設計をする上で、挑戦と安心はセットだと考えています。安心という要素が削られると、社員はチャレンジしなくなります。当然ですよね。「失敗してクビを切られたら」「うまくいかなくて給与が下がったら」と心に不安を抱えた状態だと、思い切って挑戦できるはずがありません。

―では、どうすればそうした不安を取り除くことができますか。

理想は一人ひとりに事情や意図を事細かに話すこと。それが難しい場合、せめてマネジメントクラスの社員には、ていねいに説明すべきです。

―どんな言葉で説明すればいいでしょう。

「出ていった社員に対しては、こういう対応をした。それはこういう思いからだ。でも、これからは残った皆でがんばっていこう」という風に、余裕を感じさせる伝え方をするのが大切ですね。

―そもそも、こうした悪い意味でのビッグサプライズを防ぐ方法を教えてください。

若手のキーマンや活躍している人材とは、日頃からしっかりコミュニケーションをとり、その人がなにをしたいのか、どういう状態を目指しているのかを知っておくことが大事です。ちょっとした違和感を拾えていたら、なにか決定的な変化が起きる前になんらかの手を打てますからね。

とくに、人数の少ないスタートアップ企業の場合、社員がひとり抜けるだけでもインパクトは非常に大きい。マイクロマネジメントができるなら、経営者が社員全員と月1~2回、15分だけでも直接話をするのがよいでしょう。

日頃の雑談がサプライズの芽を摘む

―社員数が多く、経営者が一人ひとりと面談することが厳しい場合はどうしましょう。

管理職やキーマン的な社員と面談をしつつ、他の社員の声を間接的に拾う方法があります。雑談のなかでキーマンと距離が近い社員の名前を具体的に挙げて、「◯◯サンは最近どうなの?」みたいな質問をしてみるんです。そうすると、気づかなかった情報を得られることがあります。雑談には重要な情報が埋まっています。

―ちょっとしたコミュニケーションをとることが大切なんですね。

そうですね。以前、サイバーエージェントにも「バージョンアップ委員会」という“雑談する会”がありました。役員や各事業部の部長、若手リーダーなどメンバーは全部で7~8人。月に1~2回集まって、会社にまつわるいろんなことを話す委員会です。ほかの社員から挙がっている声について話し合うこともありました。

―「この前、◯◯クンがああいうことを言っていた」「そういえば、◯◯サンは最近どうなの?」みたいな、特定の社員の名前も出てきそうですね。

ええ。個人名も挙がるので、ちょっと気になるなという社員には後でフォローすることもできます。「自分から直接近づくと構えてしまってホンネを言ってくれないかもしれないから、誰か軽く話を聞いてみてくれないかな」というように、適切な人間にフォローをお願いすることもありました。

―なんらかの違和感を察知して、ある社員と面談したとします。その社員は会社としては辞めてほしくないキーマンです。すると「実は独立したいんです」「起業を考えています」と言われてしまった。こんな場合、どうすればいいでしょう。

そんなときは、独立することでなにを得たいのかをまず尋ねます。次に、それを得たらなにが起きるのか、なぜそれを得たいのか、もう一段深堀って、聞いてみてください。ワクワク感、お金、自由…。その社員がなにを求めているのか、ホンネの部分に踏み込み、論点を探るんです。

論点が明確になれば、例えば「直近で役員に任命するのは難しいけど、来期はチャンスがある」「近い将来、◯◯のポジションを任せたい」など、こちらが余裕を持った状態で、会社を辞める以外の選択肢を提示することができます。

―シンプルな方法として、たとえば給与を倍にするといった方法もありますよね。こんな引き留め方はダメですか。

本人が金銭面で豊かになるのを望んでいて、かつ会社としても業績を上げ続けられる組織になっているのなら、お金で解決するのはアリ、だと思います。

ただし、その場合、本人の給与を上げても組織内に矛盾が生じないようにしなければ、「不満を言えば給与が上がる」「辞表をチラつかせれば給与がアップする」といった間違ったメッセージを社内に送ることになってしまいます。誰の給与を上げたか下げたか、といった話はすぐに広まりますから。互いに話し合って納得した上で、結果として給与が上がるような役職につけることが、組織にとっても一番いいカタチですね。


編集協力/池田園子

本連載の回答ドクター「ソヤマン」ことサイバーエージェント取締役 人事統括の曽山さんが主宰する「強い人事」を生む会員制コミュニティ、HLC(Human Resource Learning Community)がスタートしました。
詳しくはコチラ

曽山 哲人(そやま てつひと)

株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括

1974年、神奈川県生まれ。株式会社サイバーエージェント取締役 人事統括。人事関連の著書・共著書多数。最新刊は2017年7月に刊行した『強みを活かす』(PHPビジネス新書)。

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