投資先の3分の1は「ゼロイチ」で一緒につくった会社
―島田さんがエンジェルとして投資している企業は、どこも新しい、おもしろい事業で成長していて、未来を感じさせるような会社が多いですね。今日はその“目利きの秘密”を暴かせてください(笑)。
お手柔らかにお願いしますね(笑)。
―これまで何社に投資したんですか。
エンジェル投資家を足掛け17年やってきて、通算で67~68社ぐらい投資しました。
―どんな方法で投資先を見つけてくるんですか。
すでに投資している企業の経営者からの紹介がほとんどです。「こういう人が、こんなおもしろい仕事をやろうとしているんだけど、会ってみませんか?」。こんな感じです。毎月5人ぐらい、新規の投資先候補企業の経営者と会っています。
ですから、年間では、60人から70人ぐらいでしょうか。だいたい、朝昼晩の食事は投資先や投資候補先の経営者と一緒にホテルなどでミーティングをしながらとることが多いですね。
会う会わないは、紹介者から聞いた、その会社のおおよその概要、その会社の経営者がやりたいこと、やってきたことから判断します。「自分のポリシーの範疇ではないな」と思ったら、無理してお会いすることはいたしません。
でも、紹介してくれる方たちも僕がどのような投資活動をしているのか、だいたいわかってくれているので、あまり的外れな案件がくることは少ないですね。
―どんなケースだったら断るんですか。
たとえば「シリコンバレーでこんな会社ができたから投資しないか」と誘われることも多いんですが、いくら収益リターンがありそうでも、自分が経営者やマネジメントチームと直接コミュニケーションできる関係でなければやりません。
―リターンが何百倍にもなるユニコーンが現れるかもしれないのに。なぜですか。
一般的に投資の目的はフィナンシャルリターンと言われますが、きれいごとに思われるかもしれませんけど、僕の第一目的はそうではないんです。これまで投資した会社のうち、3分の1ぐらいは、ほぼスクラッチで創業者と一緒にお金を出してつくった会社です。
―まだ事業の実体すらおぼろげなスタートアップ前後に投資することが多いんですね。
大前提で言うと、僕のエンジェル投資家としての活動の意味合いは、ビジネスではなくライフワークなんです。目的は、若手の経営者がちゃんと育成され、力をつけていって正しい会社の経営ができるようになっていくためのメンタリングをしていくこと。ですから、儲かりそうな話があっても、自分の介在価値がない、単なるリターン目的の投資はやりません。
―「お金の損得よりも、経営者や会社を育てることが目的」。そういうことですか。
偉そうな目線で言うとそうなっちゃいますね(笑)。
若い経営者って能力やエネルギーレベルが高い人が多い一方で、会社という組織をマネジメントした経験はほとんどない。ですから、先輩経営者に聞けば簡単に解決するようなことでも、ひとりで悶々と悩んでいたりするんです。そんな、ちょっとした悩みが解決できないために、会社自体が立ち行かなくなることもいっぱいあります。
一番いい例は資金調達。順番や調達先を間違えると、創業者なのに経営権を失ってしまったり、不本意な事業売却をさせられたりなど、大変なことになってしまう。複数の仲間で立ち上げたケースもそうですね。最初は想いや足並みがそろっていても、経営していくにつれて、だんだんと経営者としての力量や目線のギャップが仲間うちで出てきます。ギャップをどう修正するのか、どうやって経営チームをつくり直すのか。そこを間違えると、成長スピードが落ちたり、最悪の場合、会社がバラバラになってしまうこともあります。
そうしたベンチャーの若い経営者が直面しがちな壁や悩みを解決することがエンジェル投資家としての私の役割。そう思っています。
「考える力」「変化を楽しむ力」。そして「事業とお金」に対する感覚を見ています
―これまで投資した会社のうち、こうした業種が多いとか、ある種の傾向みたいなものはありますか。
よく聞かれる質問ですけど、いっさい業種とかは考えてないんですよ。「投資したいな」と思った若者に投資をしています。
新規ビジネスにはその時代のトレンドがありますから、時代変化を背景としたある種の傾向は結果論として現れます。ですから、最近投資している会社ではメディケア分野やエデュケーショナルが多かったりします。きっと15年ぐらい前だとWEBベースのインターネットだったでしょうし、5年ぐらい前だとアプリだったのでしょうね。
―メンタリングだけではなく、事業そのものをハンズオンでサポートすることもあるんですか。
創業者やマネジメントチームと人間的に深く関与しますが、基本的には事業には関与しません。そもそも事業に深く関与しなければいけないような創業者やマネジメントチームには投資しません(笑)。そういう意味ではいちばん重視しているのは、“人の目利き”かもしれませんね。助けを求められない限り経営のオペレーションにはできるだけタッチしません。
ちなみに、もうひとつポリシーがあって、それは「マイノリティーでしか出資しない」こと。大株主がその会社の経営者よりも経験や年齢が上だった時に、あれやこれやと口出しされたらやりにくいですよね。ですから、少数株主の立場を守り、経営者がやりやすいように気を配っています。よっぽど何か具体的な相談があって、困っているというなら別ですけれど。
―“人の目利き”では、どんなところを見ていますか。
シンプルに3つなんですよ。ひとつは「考える力」。偏差値ではありません。コンピュータで言えばAI×CPUであって、メモリではない。どんな事業をやっていても、考える力がない人は会社を伸ばすことはできません。
次に「変化を楽しむ力」。変化に巻き込まれて楽しめるかどうかです。“変化に対応すること”は多くの人がそれなりにできるんですけど、変化を喜々として楽しめるかどうかは、それとは別の能力なんですね。
そして3番目に「人として真っ直ぐかどうか」。事業目的やお金に対して、どのような感覚を持っているか、ですね。金銭に汚い人は、大抵、経営者としてはうまくいきません。
―お話を聞いていると、起業後に経営者になってから獲得する知見や経験よりも、起業以前に人としてどう生きてきたかが起業の成否を決める要因だと島田さんは考えている。そう感じます。
そうですね。起業する段階での確率はある程度見える気がします。
経営者になってから後天的に必要な能力を開発されていく人はもちろんいますが、そのような人も結局は、生まれてから起業するまでに、どんな経験をして、どんな人と出会って、どんなことを感じてきたのかによって、後天的に能力を伸ばしていけるのかどうかも大きく影響されている気がします。
―これまで騙されそうになったことはありませんか(笑)。
幸い、ないんです。僕自身の事業を創ったり戦略的に伸ばしていく力は人並み程度と思っているんですけど「人の目利きをする力はかなり高い」と自負しています。
それは、ある時期に集中的に鍛えたものではありません。生まれ育った環境、リクルートで培ったこと、インテリジェンス創業時に宇野(康秀・現U-NEXT代表取締役社長/USEN取締役会長)さんと一緒に時間を過ごしたことなど、自分が経験してきた一連のことが作用しながら長い時間をかけて身についたものなのだと思います。人材業界に長くいたことも影響しているでしょうね。自分の会社の社員の面接だけじゃなく、いろんな人の面談をしないといけませんから。
明確な定義はできないけど、いろんな情報がインプットされ、人の目利きについては“曖昧模糊とした、でもズバ抜けて蓄積された”人材Profilingのデータベースが自分のなかにあるんでしょうね。