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「新興市場バブル」という狂騒曲が原点

[PART2] インテリジェンス創業メンバーにして楽天副社長を歴任 エンジェル投資家としても成功した「島田亨」の“目利きの秘密”

エンジェル投資家(株式会社U-NEXT 特別顧問)  島田 亨(しまだ とおる)

INOUZTimes編集部
「新興市場バブル」という狂騒曲が原点

「事業ではなく人に投資する」。こうした島田氏の絶対的な行動原理は、どのようして生まれたのだろうか。エンジェル投資家としてイグジットすることの意味、そもそもエンジェル投資家として活動するようになった原点などを聞いた。

「なにをもって成功か」はひとくくりでは言えない

―ところで、島田さんがエンジェル投資をしている目的は「フィナンシャルリターンではなく、若い経営者や企業を育てること」ですけれど、では、どんな状況になったら島田さんのディールは成功した、と言えるんですか。

前回も申し上げたように、エンジェル投資はライフワークなので、ディールという言葉はあまり好きじゃないですけど(笑)僕が考える成功の定義をお話ししましょう。

まず最初に、投資先の企業はほとんどが「株式会社」です。それを前提としてご説明をします。資本主義という枠組みの中における「株式会社」という仕組みが持つ機能を、それぞれの事業に相応しい形で活用できるようになった時が、私の視点から見る成功と言えるのではないでしょうか。

少しかみ砕いて言うと、僕は株式会社の在り方は3つに分類できると思うんです。ひとつは、銀行借入などの間接金融ではなく、市場にいて投資家から資金を直接調達する、すなわち人様から期待と一緒にお金をお預かりし、社会のために寄与する事業に再投資していくべき会社。これはIPOすべきタイプの会社だと思います。

もうひとつは、例えばサービスは素晴らしく、機能性なども優れているのだけれど、長期間にわたって単独のサービスとして生き残っていく事業ではなく、いずれどこかに“機能”として収斂されていくべき事業。これは、買収されるべきタイプの事業です。

そして最後に、上場や売却もせず、プライベートカンパニーであり続け、安定的に高収益を上げ、株主に配当し続けられる事業。これが3つ目のタイプの事業です。非上場会社でありながらその業界を牽引し、イノベーションを起こし続けているリーディングカンパニーや老舗企業は日本にもたくさん存在しますよね。

―なるほど。島田さんが投資する“原石”たちがこの3つのどれかにあてはまったときが成功だと。

先ほど申し上げた3つのどれかのパターンのどれであるかが明確になり、それぞれのパターンに設定されたマイルストーンを通過した時が投資家目線としては成功と言えると思います。

上場すべき会社なら、上場できたときがひとつのマイルストーン。どこかの会社に買収されるべき事業なら、理想的な会社と“お見合結婚”ができたら、それも成功。また、必要以上の資金調達をせずとも、安定的に高収益を生み出せるような状態に到達しても成功。アーリーステージの投資家としては、このような状況を成功として定義してよいのではないでしょうか。

しかし、経営はその先も続くので、本質的に成功したかどうかの結論を出せるのはまだまだ先ですけど。ですから、究極的な意味で「どうなれば成功したと言えるのか」は、ひとくくりでは言い表せません。

投資家としては、3つの到達点に至った段階でエグジットさせてもらいます。ただ、エグジットが目的ではなく、自分がサポートできる、貢献できるタイミングがそこまでだと思っているからです。それ以降になると、今度はまた違う人たちのサポートが必要になってきます。そうなったときに一定の影響力をもつ株主が存在し続けることは、いい場合もあるんですが、そうじゃないケースもありますので。エグジット後に投資先の企業から「違う形でサポートしてほしい」と言われた場合は、顧問などという形でお手伝いすることもあります。

ちなみに、この3分類に当てはまらないのが“つぶれていくべき会社”だと思っています。株主に何も貢献しない、買収したいと思うようなサービスではない、上場する意味もない。だとしたら、ただの自己満足の会社ですから。

インテリジェンス時代の「不義理」を果たすため

―話は変わりますけど、エンジェル投資家として活動をするようになったきっかけを聞かせてくれませんか。

きっかけは、宇野さんなどと一緒につくったインテリジェンスを辞めたことでした。

辞めたのは、ちょうどインテリジェンスが上場した1年後のタイミングで、会社を辞めると同時に持ち株を売却してキャピタルゲインを得ました。34歳の時でしたね。そこまでは迷いはなかったんですけど、よく考えたらインテリジェンスという会社に期待をしてくれた機関投資家、個人投資家の方々が資金を入れてくれたのに、それを1年でボードメンバーが換金して、外に出ていっちゃったということですよね。それはどうなんだろうと。

辞めたこと自体には目的も意味もありましたし、持ち株を売却して会社との関係に区切りをつけることがインテリジェンスの成長にとってベストな選択肢だったと確信しているんですが、上場1年でボードメンバーが換金しちゃったことについては、投資家の期待を裏切る結果になってしまったな…と感じたことがきっかけでした。

それで、キャピタルゲインの3分の1は自分のため、もう3分の1は家族のために使い、残りの3分の1は社会還元しようと決めたんです。自分が得たものを社会還元するという形だったら、投資家の方たちも納得してくれるんじゃないかと思って。じゃあ、なにを通じて社会還元していくのか。そう考えた時、自分がやってきたことはビジネスしかないので、そこで還元していこうと。

ちょうどインターネット黎明期の頃でした。マザーズなどの新興市場ができ、IPOの敷居が低くなった一方で、無茶苦茶な会社がいっぱい出たんです。公開時に創業者利益をガッポリ得て上場直後に業績予想を大幅下方修正するとか。投資と投機の境目はなく、やったモン勝ちの狂騒曲。世の中全体が狂っていた。そうとしか表現できません。

―そんな市場の混乱や不健全な経営者の姿を見て、どう思ったんですか。

「若手の経営者が『ああやったら儲かるんだ』とカン違いしたら困るな」と強い危機感を覚えました。上場・非上場に関係なく、本業の儲けである営業利益をしっかり出して、結果として配当を出すことが会社経営の基本。僕はそう思っています。しかし、あの頃は若手の経営者にそうした本質を教える人はいませんでした。

それで、原則的に自分より若手の経営者を対象に、経営の基本や本質を教えることが社会還元になっていくのではないかと。当時の若い経営者の多くは「資金調達って、銀行からどうやってお金借りたらいいんですか」って、それぐらいしか知らなかった、そういう時代でした。そういう人たちに「資金調達の仕方にも選択肢があるし、適正なやり方もあるよ」など、一つひとつ、教えていきました。

これがエンジェル投資家としての僕の原点であり、フィロソフィーです。「ライフワークとしてやろう」と思ったので、自分の想いを周囲が受け入れてくれるかどうかなどの疑問も不安も恐れもなく、フツーに始めちゃったという感じです。以来、我流でやってきて、今日に至っています。

いまは若い経営者もいろいろ知っていますから、それこそ会社をつくったら、事業のことを語る前から「いつラウンド(ベンチャーキャピタルなどから資金調達すること)しようか」みたいな話から始まるじゃないですか。でも「それは違うよ」と教えなければいけないですよね。そうじゃなくて、まず経営のイロハ、基本をきちんと学ぶべき。その想いはずっと変わっていません。

連載記事

[PART1] 収益リターンのみを目的にした投資はやりません
[PART3] 金髪の自由人から「楽天球団」社長に。そしていま、集大成の新たなチャレンジへ

島田 亨(しまだ とおる)

エンジェル投資家(株式会社U-NEXT 特別顧問) 

1965年、東京都生まれ。1987年、株式会社リクルートに入社。1989年、株式会社インテリジェンスを宇野康秀氏らと創業。インテリジェンス退任後、個人投資家としてさまざまな企業への投資を実施。2004年に50年ぶりのプロ野球新球団となった「東北楽天ゴールデンイーグルス」球団社長に就任する。2008年1月から球団オーナーとなる。球団社長兼オーナーを退任後は、楽天株式会社のアジアヘッドクォーターに就任。「Rakuten Asia」のCEOに就任し、シンガポールに3年間赴任。2012年に帰国し、楽天株式会社代表取締役副社長執行役員に就任。2016年3月、楽天株式会社を退職。2017年1月、株式会社U-NEXTの特別顧問に就任。

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