楽天球団をゼロイチでつくった経験もいまに活きている
―連載の最後は、島田さんのこれまでのキャリアや今後のことについても聞きたいと思います。インテリジェンス辞めたあと、エンジェル投資家として活動を開始したこと以外に、楽天球団の社長に就任したことも島田さんにとっての転機だったのではないかと思います。この時の経緯を聞かせてください。
34歳でエンジェル投資家になり、38歳ぐらいの時に、ふと寂しいというか、アセリを感じ始めていました。宇野さんなど同年代の人たちが最前線で活躍しているのに、自分は髪を金髪にして毎日起きる時間もまちまち(笑)。「いいんだろうか、こんなことしていて」と思っていたんです。
すると、不思議なもので、いろんなオファーが舞い込んでくるようになりました。楽天の三木谷(浩史・楽天代表取締役会長兼社長)さんからの「楽天球団の社長をやってくれないか」という突然の電話も、そのひとつだったんです。
その電話は「この場では決められないので、またご連絡を差し上げます」と言って切ったのですが、その場で目の前にいたオールアバウトの江幡社長には「球団経営のことはわからないし、絶対にやらないよ」って言ったのを覚えています(笑)。
けれど気になってその後いろいろと調べてみたら、球団買収は近年でもいろいろ事例があるけれど新球団の設立は50年ぶりだということを知りました。「ゼロから球団をつくるんだ」と思ったら、起業家として興味をもって。それで球団社長をやっちゃったんですよね(笑)。
―その経験は投資活動に活きていますか。
インテリジェンスから数えて2度目の起業でしたので、インテリジェンスで当時経験したことの追認と検証ができたのはよかったですね。実際に私の投資先の会社がぶち当たる課題を、この体験をもってより深く理解できたと思います。エンジェル投資家としては、より自信を持って投資先にアドバイスができるようになったと思います。
―その後、楽天本体で海外展開などに関わり、2016年3月に辞めるまで、12年間、楽天グループで活躍されました。この先もずっと楽天でやり続ける、という選択肢もあったのではと思いますが、なぜ再びエンジェル投資家専門として活動を再開しようと思ったのですか。
楽天の仕事はビジネスマンとして物凄くおもしろかったです。トップマネジメントとしての立ち位置で、あれほどの規模の会社を日本から世界に展開していくという経験はなかなかできませんから。
でも、60歳までが一番踏ん張って仕事ができる年代だと思っていて、52歳になり「残り8年をどう使うか」を考えたとき、そろそろ次のステップに行くべき時期かな、と考えていました。
―楽天を辞める時に、いろいろオファーがあったのでありませんか。
「会社をやってくれ」というのが多かったですけど、基本的には、もしやるんだとしたら自分も最低限のオーナーシップを持って経営をしたいという思いがあります。また資本上マジョリティのオーナーがいたとしても、プロ経営者として意思決定ができる環境があり、なおかつ自分がおもしろいと思う仕事だったら、自分で起業しなくてもやってみたいですね。
60歳まではまだ現役として仕事をするつもりです。エンジェル投資家はライフワークなので、私の環境がどのように変化しても続けていきます。2017年はどこかでプロ経営者としてやろうかなとも考えています。60歳を過ぎた後のことは、何も考えていません。おもしろそうなことがあれば何かをやるかもしれないし、何もなければリタイアするかもしれません(笑)。
30年後に世界を変える若者を育てる。それがエンジェル投資家のミッション
―島田さんのように、経営者育成のスタンスでエンジェル投資をする経営者や経営者OBはこれから増えそうですか。
増えてくれればいいなと思いますね。いまだに日本の納税額トップ10の業種は40年前や50年前と代わり映えしません。時価総額ランキングに顔を出す企業も、ほとんどが常連企業。
経済に新陳代謝を起こし、社会の構造を変革するには新しい企業、新しい若い経営者がたくさん登場してこなければいけない。その仕組みづくりができるのは、エンジェル投資家だと思うんです。エンジェル投資家なら、今はお金も経験もないけれど30年後にものすごい事業をつくっているであろう人をつぶさずに育て、引っ張り上げていけるのですから。
―最後に、失敗例も聞かせていただけますか。投資がうまくいかないときもあると思うんですけど、そんなとき島田さんはどうするんですか。
一緒にダメになっていくのを見届けるだけです。大袈裟に言うと、なにもしません。
目利きが間違っていたとか、ビジネスモデル自体がワークしなかったとか、いろんな理由がありますけど、自信をもって目利きをして、自分にできることをやってもダメだったときには、傍観するというか、ジタバタせずになにもしない、というのが僕のポリシー。損をしたくなくて、いろんな手を打つ投資家もいますが、僕は何もやらない。それもあって少数株主であることを基本にしているんです。
だって僕には株主権限を行使する考えはありませんから。あくまでも勝負するのは経営者。そのスタンスは今後も変わらないでしょうね。
―うまく行かなかったら黙って塩漬け、というわけですね。それもある種の社会還元ということでしょうか(笑)。
完全にライフワークですね(笑)。
編集後記
エンジェル投資家として成功し、多額のキャピタルゲインを得たであろう島田さんの「収益リターンを一義的な目的にしていない」という言葉に驚いた人は多いのではないだろうか。そこには、ご本人が語っていたように、「社会還元」という矜持があるのだが、もう少し違った角度で解説をくわえてみたい。
株式会社の“生みの親”が創業者なら、投資家は“育ての親”。投資先企業の「成長の記録」は株式評価額として刻まれる。しかし、「身長180cm、体重70kgにしたい」と思って子どもを育てている親はまずいないだろう。「リターンを目的にする」とは、サイズをゴールとした子育てと同じ。無理があるし、うまくいくはずがない。そう考えると「リターンのみを目的としない」との島田さんの言葉は、「エンジェル投資家として成功するための金言」のひとつとして深く納得できる。リターンは、あくまでも結果論。それを目的にしたいなら、別の資金運用をすればいいだけの話しだ。
取材後、島田さんがU-NEXTの特別顧問に就任したというニュースが飛び込んできた。同社のリリースによれば、経営基盤強化や一層の企業価値向上を支援するため、マネジメントレイヤーとしてU-NEXTの経営に参画するという。インタビューでの言葉通り、 島田さんは“プロ経営者”としての活動も再開させた。60歳をひとつの区切りと考えている島田さんにとって、それはこれまで積み重ねてきた経験・知見をギュッと凝縮したものとなるだろう。どんな経営を若い経営者への“お手本”として見せてくれるのか。この面でも今後の島田さんの活躍が楽しみだ。
(INOUZ Times編集部)