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あなたの会社は「昆虫型」? それとも「脊椎動物型」?

組織論から見た「経営者分類法」

株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長 小笹 芳央(おざさ よしひさ)

INOUZTimes編集部
あなたの会社は「昆虫型」? それとも「脊椎動物型」?

PHOTO:INOUZ Times

「伸びるベンチャーと伸びないベンチャー、違いはどこか」―。経営者なら誰でも関心をもつ“永遠のテーマ”ですよね。「それは経営者が決めています」。こう指摘するのはリンクアンドモチベーション代表の小笹さん。企業は「昆虫型」と「脊椎動物型」の2つに分類でき、それを決めているのは経営者なんだそうです。あなたの会社はどっち? 殻を突破できる企業とできない企業の「生態の違い」を組織論の観点から小笹さんに解説してもらいました。

組織のPDCA

―AI、IoT、フィンティックなど、時代を変革するさまざまな技術革新が生まれるなか、新しいベンチャーも次々と誕生しています。

僕らの若い頃と比べ、いまは本当に起業の追い風が吹いていると思います。技術的な側面もそうですし、資金調達の面でも。若い人たちの間で「いい大学に入って、有名大企業に入って」という従来の固定観念が崩れてきているのもいい傾向ですよね。

ただ、時代の変化のなかでたくさんの起業家が誕生しているのは喜ばしいことですが、プロダクト側に寄っている人が多いのは心配。ビジネスは、社会とのコミュニケーション行為であり、会社はメッセージの発信基地、商品サービスはメッセージを伝えるためのメディアです。「AIやスマホのアプリでこんなのができました」と話している経営者に「で、そのプロダクトを通じて社会に何を言いたいの?」と問いかけた時、明快に答えられる人は意外と少ないんじゃないかなぁ。

また、事業のPDCAには熱心ですが、組織のPDCAをおざなりにする経営者が多いように感じています。ただ、事業のPDCAを回しているだけでは、すぐ成長の壁にぶち当たります。事業と「コインの裏表」の関係にある“組織のPDCA”を回さなければ、どんな企業もいずれ停滞します。

会社勤めをすることなく起業したとか、勤めたとしても1、2年で独立した若い経営者ほど組織のPDCAを苦手にしていることが多いですね。そうした経営者は、「事業が主で、それを推進するのが組織や人材」と考えている場合が少なくありません。そのため、社員や従業員のことをプロダクトやサービスを売ったり広めたりするための“機械の部品”のように見てしまいがち。非常に危険です。

―なぜ危険なんですか。

極端に言うと、どんなに事業が素晴らしくても、例えば30人の会社で、30人全員がこぞって「明日、辞めてやろうか」と言って辞めた瞬間、その会社は終わっちゃうじゃないですか。だから、組織のPDCAをないがしろにするのは危険なんです。

それに、事業と人はコインの裏表と考えるからこそ「こういう人材がいるから、こんなプロダクトができる」「この人材の強みを活かすにはAではなくBのプロダクトの方がいい。その方が会社も成長する」。こうした多様な経営の選択肢が生まれ、組織が活性化し、柔軟かつ力強く成長戦略を進めることができるんです。

「優秀な経営者」ほど自戒すべき

―“ベンチャーあるある”ですけど、突然、会社の幹部が辞めたとかいう話も珍しくありません。そうした問題の根っこにも、経営者が組織のPDCAを回していないことが関係していそうですね。

そうであることが非常に多いですね。経営者がビジネスモデルやプロダクトばっかり考えている間、組織を束ねてきた会社のナンバー2、3、4が反旗を翻してガサッと辞めてしまう。優秀な幹部が部下を引き連れて事業部ごと脱藩する。そんな例も珍しくありません。ヒドイ場合だと不祥事があったり、金銭面の不正が発覚したり。

こんなメチャクチャ痛い目にあってから、ようやく「裏表の関係にあることがよくわかりました」と気づく経営者が実に多い。問題が起きてから、幹部との信頼関係がそもそもできていないことや、エンゲージメント(企業と従業員の相思相愛度合い)が低いことの重大さに気づき、後悔するわけです。

―なぜ、問題が起きる前に「組織は大事だな」「事業と人は裏表」と気づけないんでしょう。

皮肉な言い方になってしまいますが、優秀だからだと思いますよ。小学校のクラスにも1人、2人はいたじゃないですか。「なんで、こんな簡単な問題が解けないの?」って言っちゃうような、頭は良いけど人の気持ちがわからないような子が(笑)。

“人間の幅”が狭いと、えてして人の気持ちがわからない。マンガとかで「中高生の頃は不良をやっていて、一念発起して猛勉強して東大に」といった主人公が登場しますけど、成功だけではなく、葛藤したり悩んだり、挫折も経験しながら人間は成長するもの。多様な経験が人間の幅を広げ、人の気持ちがわかり、人のやる気を引き立てる方法がわかる人間を育てるんです。

でも小さい時から優秀で成功一直線だった場合、逆に多様な経験を積む機会に恵まれないという弱点を抱えてしまう。ですから、東大卒で学生時代から起業して成功しました、なんていう優秀な経営者ほど、自分の人間の幅によくよく気をつけ、「事業と人はコインの裏表」であることを理解したほうがいいですよ。

― 一方でそんな痛い目にあうことなく、節抜けして飛躍するベンチャーもありますよね。組織面から見た成長企業の共通項ってありますか。

たとえて言うと、昆虫として生きるのか、脊椎動物として生きるのか。その選択を経営者が意識的にしている、ということですね。

小さな最強か、限界なき成長か

―ムシ…。どういうことですか。

昆虫をバカにしてはいけませんよ。地球上でもっとも繁栄している生物は昆虫なんですから。

企業も昆虫的に生きていく方法があります。それは、経営者が一から十まで、組織をすみずみまで全部、ひとりでマネジメントすること。いわば、経営者が会社を覆いつくすのです。硬い甲殻で体を守っている昆虫の姿とそっくりでしょう?

でも、昆虫は一定規模以上の大きさにはなれません。硬い殻が内臓を圧迫するので、成長の限界があるわけです。つまり昆虫的な企業とは、一定程度の規模で成長は停止するけれども、繁栄し続けることはできる。そんなイメージです。

さらに大きくなりたければ、昆虫的生き方を捨てなければなりません。より大きくなろうと思ったら、甲殻を捨て去り、脊椎をつくり、伸ばしていくしかありません。

―企業が脊椎動物になるとは、つまりどういうことですか。

組織をつくるということです。企業における脊椎とは、ミドル人材のこと。つまり、ミドルを活かし、神経を通し、それぞれの筋肉をつけ、さまざまな自律した組織をつくっていく、ということです。組織の頭脳をつかさどるのがトップ。脊椎動物になることで、果ては数千人、数万人規模の“恐竜”へと成長できるんです。

脊椎動物になるには、昆虫時代とは成長のベクトルを大きく変容させ、パラダイムシフトを起こす必要があります。でも大体、みんな昆虫のまま大きくなろうとするんですよ。昆虫のまま100人、1,000人の企業になろうとする。

しかし、社長ひとりで100人の社員をマネジメントするのは不可能。せいぜい30人とか50人くらいまででしょう。ですから、昆虫的な会社では甲殻が邪魔になるので、社長がマネジメントできる規模を超えてしまうと、どれだけ人を採用しても次から次に辞めていきます。だから一定規模以上には成長できないんです。

―なるほど。起業家たるもの脊椎動物を目指せ、ということでしょうか。

いやいや、僕は脊椎動物でも昆虫でも、どっちも悪いと思わないんです。むしろ、いつも経営者に「大きくならなくてもいいじゃないか」「昆虫も非常に強いよ」と進言しています。

大事なのは、どちらでもよいので経営者が意識して選ぶこと。ただし、上場を目指すなら脊椎動物になるしかありません。

でも、多くの場合は無自覚ですよね。たとえば、10人ぐらいの会社なのに「ウチにはミドルが少ない」と悩んでいたり。10人くらいだったら昆虫でいいだろう、ミドルは要らんやろ、っていうのにね(笑)。逆に社員数が100人もいるのに、それでも昆虫的な生態を続けていたり。

人材を成長させる3つのステップ

―昆虫から脊椎動物に変わっていくときに一番大切なことはなんですか。

経営者が自分のブレない使命感、社会的役割、この企業で何を成し遂げたいのかということについてチューニングできる分身を何人つくれるかということです。それをしっかりやっておかないと、組織がグッと拡大していくときにスキルや経験値が高い“職人タイプ”の人材を重用してしまうことになり、結果、停滞を招いてしまいます。

職人って、仕事にプライドや強いプロ意識をもっている半面、人の育成には興味がなかったりするんです。だから、職人タイプの人材に組織マネジメントをまかせても、あまりうまくいかない場合が多い。

最近、若い経営者と話をする機会が多いのですが、アカツキの塩田さん(代表取締役CEO)、PLAN-Bの鳥居本さん(代表取締役)、ラクスルの松本さん(代表取締役)、フロムスクラッチの安部さん(代表取締役)なんかは、組織のPDCAについて学ぶ姿勢があり、驚くほど吸収力が高いですよ。掘り下げて掘り下げて、しつこく聞いてくる(笑)。

―組織のPDCAを回し、会社を成長させていくため、ほかに留意すべきことはありますか。

人材の成長を促すための正しいステップを踏むことです。でも、寓話の『北風と太陽』の北風のように、「変われ」「成長しろ」と一方的に言っているだけの場合が少なくありませんね。それでは人は成長しません。なぜなら、基本的に人は変化を恐れるからです。

人材を成長させるためには、新しい行動を引き出さなければなりません。そのためには「アンフリーズ・チェンジ・リフリーズ」の順番で態度変容を促すことが必要です。まず、変化に対して氷のように身を固くしている状態を溶かし(アンフリーズ)、次に方向性を提示して変化を促し(チェンジ)、そして変化が後戻りしないように再度固める(リフリーズ)のです。

このなかで、もっとも大切なのはアンフリーズ。凝り固まった視界や時間観から解き放つため、「そういう考え方もあるんだな」といった揺らぎを最初に与えなければなりません。

―うまくアンフリーズするコツを教えてください。

この7月に刊行した本を書くため、松下幸之助さんについてさまざまなエピソードを調べたのですが、松下さんはまさにアンフリーズの名人。日々の業務に追われる現場に向けて、「オレたちの会社は10年後にこんなことをやっていよう」「50年後にはこうなっていよう」と問いかける。現場の業務に集中しているかわりに、今日明日のことしか見えていない社員たちからすると、まさに時間・空間が切り替えられ、アンフリーズされるんです。

「経営の神様」と言われる松下さんほどの経営者になると、みごとなタイミングと言葉でアンフリーズを働きかけるんです。つくづく感心しました。

―特に印象に残った松下氏のエピソードを聞かせてください。

いくつもあるのですが、固定観念を疑い、視点を変えることが大きなチャンスを創りだす。そのことに気づかせてくれるエピソードをご紹介しましょう。

…ラジオの総需要が30万台ぐらいの頃のことです。ラジオの営業部長が、いろいろとデータを調べ上げ、松下さんに「現在、全国のラジオの総需要は30万台です。そこで松下では10万台は売り、シェア3割を目指します」と販売目標を報告しました。それに対し松下さんは「なぜ総需要は30万台と決めてしまうのだ。そういう固定的な考え方では、いつまでたっても伸びんで」。この言葉がヒントになって「一家に2台、ナショナルラジオ」というキャッチ・フレーズが打ち出されたそうです。

販売目標の前提となっている「総需要こそ疑え」というメッセージは、固定観念にとらわれていた視界を広げるアンフリーズです。固着状態に陥らせないようにしないと、だんだんと日常がルーティーンになり、そこに情熱も熱意も注げられなくなってしまいます。常に組織に刺激を与え、揺らぎを与えることこそ経営者がすべき仕事。それは組織のPDCAを回す上で欠かせない要素のひとつでもあります。


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小笹 芳央(おざさ よしひさ)

株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長

株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長 小笹 芳央(おざさ よしひさ)
1961年生 大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。2000年に株式会社リンクアンドモチベーションを設立し、同社代表取締役社長に就任。2013年同社代表取締役会長に就任。現在、グループ13社の会長を務める。

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