組織の機能を麻痺させる
私たちがご相談を受ける多くの企業様に「位置ずれ」という事象があります。これは、本来自身が位置する場所と意識上の場所が異なっている事を指します。
例えば、部下が上司からの指示に対して
― 「それをやる意味を教えてください」
― 「それをやっても意味がないと思うのですが・・・」
というような言動に表れます。また、言葉に表現しなかったとしても、実行することが遅い、実施していない等の行動で表われる事もあります。
「位置ずれ」は、部下の意識上で
「直属の上司と同等、もしくは自分のほうが上に位置している」という錯覚が起因しています。これらは部下自身が原因となり発生することもありますが、多くの場合、リーダーの言動が引き起こしているのです。
意外に思われるかもしれませんが、こうした「位置ずれ」が散見される会社は珍しくありません。非常に多いです。
なぜ「位置ずれ」が起きるのか、その理由はいくつかありますが、その一部分を解説しましょう。
課長の指示を吟味・評価する社員をつくる
人は特定の人物との距離感で自身の位置を認識します。
例えば、社長との間に部長・課長という”間”がいて、そして、担当者の自分がいるということ、これを正しく認識できるかが、位置を正しく認識することになります。
ところが、それを誤解・錯覚させるリーダーの言動の1つに、“間を飛ばしたコミュニケーション”というものがあります。言い換えると、社長や部長から担当者へダイレクトなコミュニケーションのことです。
社長や部長から指示を受けた担当者は、どのような感覚になるでしょうか?
「自分は社長や部長から直接指示をもらい、報告もできる関係である」すなわち、=距離が近いと思うでしょう。距離が近い=本来の担当者ではなく、さらに上位の位置の距離感と感じていることになります。
この経験が積み上がっていくと、少なくとも部長から本来指示を受けるべき課長と同等、もしくは、社長からの指示も受けていれば、部長と同等=課長より上という意識がうまれるのです。
しかしながら、本来の位置は担当者であり、課長と同等ではありません。
ところが、冒頭に表現したような言動に表われ、課長からの指示を吟味する言動を行ってしまうのです。
―(直接の上司からの指示に対して)社長(部長)は本件ご存じでしょうか?
こうなると、中間管理職の存在価値がなくなってしまいます。末端の社員が直属の上司を飛び越えて社長に直接指示を仰ぐようになるからです。こうなると「自分は中間管理職の上司と同格」との錯覚を社員に与えてしまい、中間管理職が組織をマネジメントできなくなってしまいます。
では、どうすればいいのか
単純に直接の配下の部下以外には指示をしない事を徹底すればいいのです。
そうしてしまうと、時間が遅くなるということを言う方がいます。
ところが、実際にはそのような事はありません。確かに ”今”この瞬間だけの時間を見れば、直接指示を出した方が早いかもしれません。しかしながら、中間管理職が機能しないロスを想像してみてください。その瞬間の時間の比にならないほどのロスを発生させてしまうのです。
いわゆる“飲みニケーション”も「位置ずれ」を引き起こす元凶のようなもの。社長が気を利かせて「今日は無礼講だ」などと言って宴会を盛り上げることがありますが、昨日の夜は社員が上司に“タメ口”をきいても社長が率先して「無礼講だ。やれやれ」とはやし立ててくれたのに、日付が変わった途端、ゆるんだ気持ちを切り替えられるものでしょうか。無礼講では許されていた「距離感」の感覚を引きずってしまうのが人間の感情なのではないでしょうか。
「経営者は孤独だ」と言いますが、その孤独感に耐えられない社長ほど社員との距離を詰めたがり、“飲みニケーション”を肯定しがちです。しかし、自身の孤独感を埋めるのではなく、誤解・錯覚させない組織運営を優先して実践することが経営者としての責任ではないでしょうか。