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「小さな夢」に満足した瞬間から始まった“天才起業家”の挫折

「監獄レストラン」で一世風靡した“虎の懺悔録”

株式会社外食虎塾 代表取締役社長 安田 久(やすだ ひさし)

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「小さな夢」に満足した瞬間から始まった“天才起業家”の挫折

“勝者と敗者”、その両方を経験した経営者がいます。たとえば、かつて「監獄レストラン」で一世を風靡し、投資リアリティ番組「¥マネーの虎」の審査員としても活躍した安田さん。東日本大震災後に事業破綻し、いまは「自分と同じ過ちを経験してほしくない」との想いから、後進の経営者の育成や上場支援などに汗を流しています。そんな安田さんに成功と失敗を分けるポイントを聞きました。『山月記』のごとき“虎の咆哮と悔恨”です。

(2018年3月12日追記)
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「やりやり過ぎる」でちょうどいい

―本日は振幅の激しい経験のなかで安田さんが目の当たりにした“経営の成否を分ける決定的なポイント”を聞かせていただければと思います。

なぜ、どこで私が躓いたのかを話せばいいんですね。どうぞ、なんでも聞いてください。

―ありがとうございます。では遠慮なく…。まず、安田さんは六本木でオープンさせた「監獄レストラン アルカトラズ」で大成功するわけですが、当時、どのくらい儲かったんですか。

いきなり生々しい質問ですね(笑)。オープン初年度で月商3,000万円、年間では3億円くらいの売上がありました。1店舗の売上としては、当時はもちろん、現在も外食産業ではギネス級なんじゃないかな。

その後、同様のレストランを2店舗オープンさせます。3店舗あわせて10億円くらいの年商がありました。

―月商3,000万円ということは1日あたりの売上(日販)は100万円ですね。かなりの繁盛ぶりだったんでしょうね。

想定していた客層は都心部で働く若いサラリーマンやOL。土日の来店は期待せず、稼働は平日のみという計画だったので、実質的な日販は100万円以上でしたね。客単価は3,000~4,000円くらい。連日満員御礼で、予約困難なレストランの代表格でした。

―大成功したポイントを聞かせてください。

“エンタテインメント・レストラン”という、それまでになかった新しい市場を創り、そのニッチトップになったからです。

外食産業の成否を決めるのはメニュー、料金、味、立地。この4つの要素だとされています。客層にあわせたメニューを用意し、おいしいものを、便利な立地で提供する。サラリーマン相手にガード下で、飲んで食べてひとりあたり2,000円前後で新鮮な焼き鳥を提供する繁盛店を想像すればわかりやすいでしょう。

しかし、この4要素を守れば成功するのかというと、それも難しい。なぜなら、所詮、大手資本にはかなわないからです。資本力や規模の差は大きく、同じことをしていても大手資本の壁に跳ね返されます。

たとえば、どこよりもうまいハンバーガーを提供するハンバーガーショップを起業したとしましょう。しかし、マクドナルドなどの大資本が壁となり、突き抜けることはできません。

―だから新しい軸が必要だと。

ええ。新しい軸を自らつくり、小さくていいので新しいマーケットをつくる。そして、そこのニッチトップになる。そうすることで大手資本や他社のキャッチアップを許さない牙城をつくれるんです。その一例が「アルカトラズ」でした。

―しかし、すぐに2匹目、3匹目のドジョウが現れるのが世の常ですよね。

だから、やるからにはフツーではダメなんです。ぼくは「やりやり過ぎ」と言っているんですが、広告でもなんでも、パンチがあって、やり過ぎるくらいやらないと誰も振り向いてくれないし、簡単に真似されます。

「アルカトラズ」をやった時に、ぼくは「刑務所がコンセプトだから拳銃だ」と思い、水鉄砲からお酒を注ぐ趣向を考え、スタッフに水鉄砲を買ってきてもらいました。スタッフが用意したのは、100円くらいで買える子どものおもちゃのような水鉄砲。これではダメなんです。ぼくは「値段なんか気にするな。その店でいちばん大きい機関銃のような水鉄砲を買い直してこい」と指示しました。

小さな水鉄砲でチューチューやっても、誰もびっくりしません。機関銃のような水鉄砲でダーッとやるから「おーっ」となるわけです。それに、自分たちでいちばん大きな水鉄砲を用意すれば、競合他社はそれより大きな水鉄砲は用意できない。「やりやり過ぎる」くらいがちょうどいいんです。

外部環境の変化のせいにするな

―その後、東日本大震災の影響などによる外食不況などにより事業破綻するわけですが、いま振り返って、何が失敗の原因だったと感じていますか。

大きく2つあります。まず、目指す目標が小さかったこと。東日本大震災が起きる数年前に上場を目指して動き始め、売上1,000億円とかの目標を立てましたが、どこか現状に満足している自分がいました。

ぼくは秋田の貧しい田舎で育ち、成功したらいい家に住みたい、いい車に乗りたい、いい服を着たいなど、すごく単純な夢を胸に抱いて上京しました。「アルカトラズ」などで成功した後、「上場するぞ」と口では言っていても、田舎から東京に出てきたときの夢をすべてかなえられたことに満足し、現状の生活を失いたくない。心のどこかで、そう思っていたんだでしょう。そうなると人間、リスクをとれなくなってしまいます。

上場によって継続経営の可能性は高まります。人材採用が強化される、資金調達の手段が増える、知名度が上がるなどの効果があり、会社をもっと大きく成長させることができます。そんなことはわかっていたんですが、「でも、いまのままでもいいや」という心があった。だから上場できなかったんだと感じています。

―東日本大震災の影響による客離れも大きかったんじゃないですか。

問題の本質は外部環境の変化ではありません。上場を目標にするのではなく、上場後の成長を目標にしていたら違った結果になっていたはず。そんな後悔があります。

目標を立てても完全には達成できないのがフツー。目標の半分も実現できたらいいほうでしょう。であるなら、上場後の成長を目標にすべきでした。現状を守りたい心がどこかにあったから、口では上場したいと言いながらも、たどり着けなかったんです。上場したいなら、上場後の成長こそを目標にすべきです。

また、周囲の人を大切にしなかったことも、失敗の大きな原因でした。

PHOTO:INOUZ Times

人の成功経験や失敗体験に耳を傾けてほしい

―どういうことですか。

ぼくは自分のアイデアとチカラで成功した“ワンマン経営者”の典型。社員の意見を寄せつけず「オレの言うことを聞いておけばいいんだ」というスタンスで接していました。社員は“工場の手足”みたいな扱いを受けていると感じていたんじゃないかな。

1年目から社員旅行は全員で海外に行き、テレビの「マネーの虎」に出て、どこに行ってもチヤホヤされました。来る人、寄る人、みんな「すごいですね」「天才ですね」と言ってくれる。自分もソノ気になっていました。でもダメになった瞬間に、ほとんどの人はみんなサーッと逃げて行った。

そんな地獄を見て、初めてわかったことがありました。失敗するのは誰かが、なにかが悪いわけじゃないんですよ。自分が悪いんです。「オレはすごい」という自分のカン違い、「これでいいんだ」という現状に満足する慢心が失敗を招くんです。

―最後に、成功を目指す起業家へのメッセージを聞かせてください。

たくさんの起業家に会い、その成功体験や失敗経験に耳を傾けてほしいですね。そうすることで自分のカラを破り、より大きな目標を見出すことができたり、「こんなことをしていてはいけない」と自分を戒めることができるはずです。

いろんなものを失いましたが、最後に残ったのも人でした。なにかわからないことがあると、ぼくはすぐ人に連絡してアドバイスしてもらいます。同じようになにか頼まれると、自分にできることがあればすぐに対応するよう心がけています。

そんな関係の起業家、経営者の仲間に囲まれたおかげで、後進の起業家の役に立ちたいという夢の実現に、いまチャレンジできています。

それと、軸をブラさず、チャレンジし続けてほしい。外食産業では、ダイヤモンドンダイニング(DDホールディングス)代表の松村くん、鳥貴族代表の大倉さんは、軸をブラさず、現状に満足することなく大きな目標にむかってチャレンジし続けている経営者の東西の横綱だと感じます。おやりになっていることは、ある意味、両極端ですけど、徹底的に軸がブレないという点が共通しています。

突き抜けた起業家を目指し、突き抜けた会社をつくるためには、おふたりに学ぶべき点は非常に多いと感じますね。

安田 久(やすだ ひさし)

株式会社外食虎塾 代表取締役社長

1962年、秋田県生まれ。1997年、株式会社エイチワイジャパンを起業し、社長に就任。「監獄レストラン アルカトラズ」で脚光を浴びる。株式公開を目指すも2011年に破産し、全店舗を売却。現在は外食コンサルタント・プロデューサーとして活動しているほか経営者塾「外食虎塾」を主宰し、後進の経営者の育成や上場支援などを行っている。

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