【PROFILE】
田中 邦裕(たなか くにひろ)
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長
1978年、大阪府生まれ。1996年、国立舞鶴高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業。1999年にさくらインターネット株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2005年に東証マザーズへ上場。2015年11月に東証1部に市場変更。
冨田 和孝(とみた かずたか)
株式会社INTHEFOREST 代表取締役
1975年、東京都生まれ。明海大学を卒業後、IT関連会社に入社し、2005年に株式会社ぐるなびに入社し、Webシステムのデータベースエンジニアとして活躍。2011年に株式会社INTHEFORESTを設立し、代表取締役社長に就任。「生きづらさ」の原因
冨田(株式会社INTHEFOREST※以下、INTHEFOREST)
私が起業した背景には、「エンジニアオリエンテッドな会社をつくりたい」という想いがありました。「エンジニアの評価はエンジニアにしかできない」という想いがあって、非エンジニアがマネジメントする組織の中で働きながら、いつもある種の生きづらさを感じていたんです。
組織の階層が経営に近くなると、重要な役職をまかされるのは営業やファイナンスなどの社員。エンジニアはある階層から上には行けなくなりますよね。別に出世したいわけじゃなかったんですが、エンジニアのトップの上にエンジニアを正しく評価できない経歴の人が立つことで仕事がやりにくくなってしまう。そんな状況は、多かれ少なかれ、現実にあると感じます。
特に、新しいことに挑戦しようとしても、費用対効果などを理由とした“経営の視点”でやりたいことが中途半端なカタチになったり。
田中さんは高専時代に起業し、私のようなサラリーマン経験はないわけですけど、どのような考え方でエンジニアのマネジメントをしているんですか。
田中(さくらインターネット株式会社※以下、さくらインターネット)
日本の企業の場合、エンジニアの評価が低いのは同感ですね。だけど、必ずしもエンジニアが上に立たないといけない、とは思いません。そうなると、一部のスーパーエンジニアしかマネジメントに携われなくなってしまいますから。
おっしゃることは理解できます。要は、ITエンジニアなどの技術系メンバーと非技術系メンバーの両者の関係性が分断していないか、そこにリスペクトがあるかどうか、ということがエンンジニアを取り巻く困難を解決する手がかかりになるんじゃないかと思います。
冨田(INTHEFOREST)
技術の知識、経験がない上司の場合、納期やコストだけで判断しがち。しかし、それだと議論の余地がなく、エンジニアにはストレスがたまります。
非技術系の人がプログラムやコーディングができないのは当然ですが、それでもテクノロジーやエンジニアの働き方に興味や関心を持ち、エンジニアならではの知識、経験をリスペクトしてくれれば、ずいぶん感じ方は違うと思いますね。
会社が社員を信頼する
田中(さくらインターネット)
これは当社のメンバーではないあるエンジニアから聞いた話ですが、日本の会社では非技術系のマネジメント層はエンジニアに対して「何ができるか」「いつまでにできるか」を聞くだけで、「何をしたいのか」は、ほとんど聞かないと。
冨田(INTHEFOREST)
なるほど。エンジニアをツールとして見ているんですね。そこにリスペクトする気持ちがあり、ビジネスを創造するパートナーだという意識があればいいんですけどね。
当社の場合は社員が5人、経営者である私自身も現役エンジニアなので、社員それぞれの知識、経験、仕事ぶりを同じ目線で見ることができていると思っています。でも、さくらインターネットさんくらいの大規模組織になると、いろんな属性の人が混在していると思います。社内コミュニケーションのあり方について、苦労することはありませんか。
田中(さくらインターネット)
実はこの3年、組織のあり方についてずいぶん考えました。そして、役員や人事とワークショップを繰り返し、たどり着いた基本スタンスが「会社が社員を信頼する」というポリシーなんです。
たとえば、タイムカードを押さなくても特に申請の必要はなく、出社時間も、連絡すれば当日でもフレックスで変更できる。そんなことから始まり、複雑で多岐にわたっていた社内ルールをシンプル化し、さまざまな裁量を社員に与えていったんです。もちろん、自由とルーズをはき違えてもらっては困るので、ペナルティを科すこともあります。
でも、会社が社員にペナルティを科すのは最後の最後の手段。できる限り、発動したくありません。なぜなら、社員と会社の立場では、圧倒的に会社の方が力が強く、会社がペナルティを発動することで社員に“恐怖政治”を感じさせるリスクがあるからです。そうなると組織が委縮し、自由で新しい発想のアイデアは生まれにくくなる。働いていてもつまらない。
ですから、「会社にペナルティを発動させないよう、社員個人の裁量が大きく、働きやすい“いまの環境”を、みんなで大切にしていこうね」と呼び掛けています。
冨田(INTHEFOREST)
会社が社員を信頼するのはマネジメントの理想だと思います。私自身、管理されたくない人間なので(笑)。「成果だけ見てほしい」というのが現場のエンジニアたちの本音だとも思います。
それでも、経営者の立場になってわかったことですが、やはり管理というか、メンバーがいまどんな状況なのか、なにか支障や困ったことがないかを管理する意味でのコミュニケーションは必要だと痛感しています。
田中(さくらインターネット)
コミュニケーションはとても大事だと思います。当社でも上司と部下が月に1回以上の面談を行うことを制度化しています。
上司と部下の関係だと、会社で交わすのはほぼ仕事の話で、部下と上司が1対1で話す場面というのは、たいてい上司が部下を叱る時か、起きたトラブルについての部下から上司への相談。これでは人間関係は深まりません。
そこで、会話の質は重要ですが、質よりもまず量からということで、月に1回以上の面談を義務化したんです。話の内容はなんでもよく、ヒザを突き合わせて話す場をつくるのがねらいです。
残業禁止
冨田(INTHEFOREST)
それによって、会社と社員の信頼関係をより深めていこう、というわけですね。
田中(さくらインターネット)
会社は社員より強い立場にいます。そうした位置関係のなかで会社が社員を強権的に管理しないようにするには、社員とのコミュニケーションが必要なんです。
冨田(INTHEFOREST)
当社のような小規模組織では、毎日、経営者と社員がヒザを突き合わせて頻繁にコミュニケーションをとれます。それがスタートアップやアーリーベンチャーのよさだったりしますが、規模が大きくなるにつれて、その「よさ」を失う会社が少なくないように感じます。
さくらさんの場合、制度化することによって、そうした「ベンチャーのよさ」を継続させていこうとしているように感じます。
田中(さくらインターネット)
よく「報連相」といいますが、あれは部下の義務ではなく上司の義務ですね。報告・連絡・相談しやすい関係を構築するのは上司の務めであって、そのためにも毎月の面談は効果的だと思っています。
面談は私も行ない、月に15人。副社長とは週に1回と決めているので、1回1時間として月に約20時間。ほぼ2日分の営業日をあてます。
経営層は号令を出すだけで、実施は中間管理職に押し付けるケースがありますが、制度から風土として浸透させていくには、経営層が率先して動かなくてはいけません。
冨田(INTHEFOREST)
組織が急拡大してなかで社内の“官僚化”を防ぐには、トップが「ベンチャーらしさ」を貫く覚悟と行動が必要なんですね。
残業の考え方についても聞かせてください。当社は基本的に残業禁止、定時になったら社員は帰らせます。残業できるのは役員以上の特権なんですよ(笑)。もし就業時間内に一定の成果を出せないのなら、残業ではなく仕事の量を見直します。
エンジニアの世界は長時間残業が当たり前。そんな風潮がありますけど、そもそも長時間労働には意味がないと思うんですよね。人間が集中して仕事ができるのは6時間、長くても8時間が限界。それ以上、引き伸ばしても生産性を下げるだけだと思います。
田中(さくらインターネット)
私も長時間労働は意味がないと思います。残業はしないほうがいい。残業を行うのだとしたら、トラブルなどで緊急対応しなければならい時だけであるべき。残業が常態化している職場は、どうかと思います。
冨田(INTHEFOREST)
働き方というところで、産休・育休についても聞かせてください。
女性の出産・育児は「今、そこにある課題」で、日本の会社は一般的に女性エンジニアでも出産を機会に退社するケースが多い。これは非常にもったいないですよね。
田中(さくらインターネット)
同感です。当社では出産・育児をする女性社員の全員が育休をとり、職場復帰しています。男性も半数は長期の育休をとります。その間、完全に仕事を離れたくない人はリモートワークを併用しています。
冨田(INTHEFOREST)
エンジニアの世界は半年、1年のブランクが短いようで大きい。長期の休職をした後に復帰しても、元のペースに戻せるのか、不安視する人もいると思います。
田中(さくらインターネット)
もっともですね。でも業務に携わらないまでも、今はスラックなどを使って、何がどう進行しているのかをキャッチアップすることができます。
ですから、経営層がそうしたツールを意識して取り入れていくことが、女性の活躍を含めた新しい働き方を推進するカギになっていくでしょうね。
ITスキルは「技術」から「個性」に変わる
冨田(INTHEFOREST)
パソコンやスマホの普及で、いまは誰もが30年前のエンジニアと同じくらいのITスキルを持っている時代です。個人的な感想ですが、これからはエンジニアか非エンジニアか、IT企業か一般企業かという、二元論的なものの見方や考え方は無意味かもしれない。そう感じています。
非エンジニアのエンジニア化、一般企業のIT企業化が進み、やがてその境界は、いまのように断絶したものではなく、溶け合っていくんじゃないかと。それによって、マネジメントスタイルも変わっていくし、変えていかざるをえないんじゃないか。そんなことを考えています。
田中(さくらインターネット)
ITといえば以前はコストダウンの手段でしたが、今はビジネスの根幹を支えるもの。経営者がITをまったく知らないなんて、あり得ないですしね。「ITのことはわからない」「エンジニアのことは理解できない」と言っていて許されるような時代ではありません。
そこで現れるのは、「得意・不得意」といった、個性のようなもの。基本的なITスキルを全員が持った上で、プログラムが得意な人、営業が得意な人がいる、というイメージです。また、そういう組織にならなければグローバル時代の戦いには勝てないと思います。
冨田(INTHEFOREST)
個性を認め合い、お互いにリスペクトすることが、競争力のある組織をつくり、働きがいのある会社をつくっていくのは間違いないと思います。当社はこれから人員の拡大期を迎えますが、そんな会社づくりを今後も目指していきます。
本日は貴重なお話し、ありがとうございました。
田中(さくらインターネット)
こちらこそ勉強になりました。