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【書籍】生涯投資家|村上世彰

とある経営者の書評
INOUZTimes編集部
【書籍】生涯投資家|村上世彰

衝撃の記者会見

もう10年以上前のことなのか。

夜遅く家に帰ってテレビをつけると、ひとりの男性が記者会見で叫んでいる。
ものすごいマイクの数と、ものすごい量のフラッシュを浴びながら、

「めちゃくちゃ儲けましたよ!お金儲けのなにが悪いんですか!?」

そのグリっとした眼光、理路整然かつ抑揚ある口調、ただものではなさそうなオーラ。
2006年、村上世彰氏が記者会見に応じていた光景はいまも鮮明に残っている。

ライブドア事件に村上ファンド事件。IT銘柄や投資ファンドという響きそのものが、世の中を独特な空気に包みこんでいた。そして、あらゆる側面でエスタブリッシュメントたちを敵に回した新人類は、巨大な権力に一瞬で“ねじ潰されて”いった。

元通産官僚が仕掛けた敵対的買収。ライブドアのニッポン放送株取得の裏で暗躍したファイナンスのプロ。「聞いちゃったといえば、聞いちゃった。」と語り、結末は証券取引法違反容疑での逮捕。

村上世彰という人物に対するあなたの印象は、どのようなものであろうか。

その彼が今回、“告白本”を出した。
当時の生々しい描写を織り交ぜながら、彼が成し遂げたかった自らの正義を思う存分に展開している。

幼少期から父親に受けた投資の英才教育。小学三年生のときに初めて経験した株式投資。
そして行き着いた独自の投資ロジックである“期待値理論”。1を上回ることのないものは、心が揺らいでも投資しない。宝くじは0.3、カジノは0.9強であり手を出さないという。

本書の途中に展開される経営者たちとの思い出もおもしろい。楽天三木谷氏、GMO熊谷氏、USEN宇野氏、サイバーエージェント藤田氏など、ITバブル前後のベンチャー経営者たちとの交流録。サイバーエージェントの大株主になった際の藤田氏との緊張感ある交渉シーンや、最終的に仲裁を買って出たUSEN宇野氏とのやりとりなど、現在も第一線で活躍している経営者との会話録もあり、同じ経営者として自分が当時、その渦中にいたならば瞬殺されるんじゃないかと無駄な想像をしながら、三木谷氏や熊谷氏、藤田氏、宇野氏の野生感や胆力をみて、いまの活躍にある意味納得させられる。

「文化」と「正論」

株主価値向上のため、上場企業は徹底的にROEを向上させよ。それは当期純利益/純資産であり、純利益をあげることのほか、さもなければ配当や自己株取得によって高めて価値還元せよと。どこからどうみても正論である。上場している以上、投資家からROE向上を求められるのは当然であり、その手段を述べているだけである。

コミュニティにおける共通の“価値観”を文化と呼ぶならば、村上氏の正論はニッポンの経済文化、そして社会文化につぶされたということなのか。彼は、圧倒的なKYくんとして、めちゃくちゃに干された。株式取得というルールに則った権利拡大をともなって主張しても、それがいくら正論だとしても、エスタブリッシュメントの頂点たちは“干す”方法を知っているということなのか。

あれから10年と少し。
ファイナンスの世界は、完全に国境を越えた同質化が進んでいる。企業統治の在り方も日本基準で通用しない。戦後編み上げてきた日本の経済“文化”が、むしろ世界的に自らを後退させているのではないかという指摘は周知のところだ。そんな状況だからこそ、本書を通じて村上氏を再評価し拍手を送るひとも多く出てくるかもしれない。

ただ、彼は事実として犯罪を犯した。
そして今回、自身が掲げる正義を一方通行の書籍でメッセージしていることも事実である。

そんなことを考えながら、本の最後にたどり着く。村上氏が今回、出版を決めた理由。
それを読んだとき、自らの客観性をガラガラと崩されてしまう。自分も子どもを持つ親として、同情を超えた感情。
誰かが言った「事実はひとつだけど、真実はいくつもある」というフレーズを思い出す。

先週、いまの村上氏の写真をネットで見つけた。すっかり白髪姿の初老で、だいぶ目つきも柔らかくなったような。かつてエネルギッシュだった父親が、一気に老け込んだときに覚えた独特の寂しい感情を思い出し、少しだけ愛おしい存在にうつった。


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