【9月28日】半期が終わって…
今年度も半期が終了。月日が経つのは本当に速く、今年の記録的な酷暑も刹那のできごとに感じる。社長老い易く、業績また成り難し、だ。
人は多様でみな個性がある。とは言え、みんな活躍してくれるだろうと思って採用したメンバーも、半期などの締めともなれば数字となって差が現れる。数字は事実しか示さない物言わぬモノサシだ。
思った以上の成果を出して得意満面のメンバーがいれば、そうではなくて気まずそうなメンバーもいる。結果には運・不運がある。ビジネス人生は長い。刹那の数字に一喜一憂すべきではない。本来の本人の力量と数字は必ずしも直結しない。問われるのは、結果を次にどう活かすか、だ。
だが、それにしても、なぜ成果に差があるのだろう。要領や行動量、隠れた部分での努力など属人的な要因や運・不運とは別に、たとえば組織活性化策など、経営上の要因はどうだっただろう。
成果を出した人材と残念ながら及ばなかった人材の境目を経営観点から突き詰め、オペレーションに問題があれば改善する。そうして全体を底上げすることこそ、経営者の仕事のひとつだと思うのだが…。
【10月13日】モヤモヤ
働く人のヤル気やモチベーションを引き出す方法について、改めていろいろ調べ直してみた。今日の論調を総合すると、給与や評価体系、福利厚生のあり方、働き方の見直しなどに解決策は行きつくようだ。いわゆる『新しい働き方』。理屈はわかる。だが、なにかモヤモヤしたものを感じる。
昨夜、ある先輩経営者と会食した折にも何気なく「給与体系や福利厚生なんかが、やっぱり会社を活性化するんですかね?」と聞いてみた。先輩経営者は「う~ん、それはね…」と一瞬言葉を呑み込んだ後に悪戯っぽい笑顔で「これを読んでみたらどうかなぁ」と、ある本の名前を教えてくれた。
その本のタイトルは『私、社長ではなくなりました。』。著者が安田佳生さんであることを聞いて、うっすらとした記憶がよみがえった。安田さんは1990年に人材コンサルタントのワイキューブをつくった起業家。急成長ベンチャーとして注目を集めるとともに、ワインセラーやバー、ビリヤード台などを設置したおしゃれなオフィス、高額な給与体系、独特の福利厚生なども話題になった。そして、2011年、リーマンショックの影響で倒産したことも…。
なぜ、この本を推薦してくれたのだろうか。先輩経営者の考えをいぶかしみながら、帰宅後、ネットで早速注文した。送り先を会社にしようと思ったが、2秒考えて宛先は自宅にした。
【10月24日】優秀な“反面教師”
新しいサービスと価値が社会に受け入れられて急成長し、結局、ムリがたたって民事再生という最悪の結末を迎えた―。本のあら筋を簡単にまとめるとこういうことだ。激しい起伏のディティールを淡々と、ときには悔恨の念を込めて経営者自ら語る。いち読者としては、おもしろい企業ドキュメントだった。
一方で、次々と悪手を打っていく様子には経営者として嫌悪感すら感じた。派手なオフィス、給与体系、福利厚生には「優秀な人材を集める」という経営者としての狙いが安田さんにはあり、それらを成長投資と考えていたようだ。だが、リターンの方程式が描けない投資は浪費だ。結果、リーマンショックという外部環境の変化で瞬殺。安田さんは「当時はわからなかった」としている。だが、厳しく断じれば、視線が社内に向いていたから外部環境の変化を読めなかったのだろう。
一方で、ワイキューブの施策ひとつひとつは、いまではほんとんど当たり前になっていることすら多い。ITベンチャーを中心におしゃれなオフィスを持つ企業は多く、バーカウンターやカフェスペースなど、社内にリラックスできる空間をつくることは社員のヤル気とモチベーションを高める投資のひとつとされている。給与についても、年収1,000万円を超える新卒社員が生まれてもおかしくない給与体系を敷いているベンチャーも存在する。
ワイキューブは「時代の先を行っていた」とも言える。だとすれば、安田さんのミスとは、一見、贅沢に思える社内投資ではなく、社長の考えと現実とをすり合わせられる経営チームを組めていなかったことではないか。それさえできていれば、違う結果になっていたのかもしれない。
私が経営する会社にビリヤード台やバーカウンターは似合わないし、給与体系や福利厚生についても利益相応のことしかできない。しかし、オシャレでも派手でもなく自分なりのスタンスにならざるをえないが“人への投資”は行っていきたい。
そこまで考えて気づいた。それは「給与や福利厚生をいじれば社員のヤル気やモチベーションが高まるかもしれない」と思ったのは、私自身、ブレていたからではないか、ということ。
給与や福利厚生にすぐ原因を求めるのは責任回避だ。課題解決の手段としてベストな方法やツールであればそれらに着手したり導入すべきであって、順番が逆になったら会社がおかしくなる―。この本を進めてくれた先輩経営者が呑み込んだ言葉とは、こんな叱咤だったのではないだろうか。
本のなかに心にひっかかったフレーズがある。それは「十年後の将来が決まっていないことよりも、十年後の自分がみえてしまうことのほうが頭がおかしくなりそうだった」という安田さんの言葉。「今日の続きが10年後」だとしたら、10年後に迎えるのは老化だ。「思ってもいなかった10年後をつくるために今日はある」という想いが人を“進化”させる。
いつもとは違う視点で自分を振り返る刺激になった。懸命に悪戦苦闘した結果の失敗事例は優秀な“反面教師”である。
とある経営者の書評コラム
・佐藤航陽(著) 『お金2.0』
・松下幸之助(著) 『商売心得帖』