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ワークスアプリケーションズ・牧野氏の 「正しさ至上主義」という“わが闘争”

~プリンシプルを持たない経営者は失格だ~

株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者(CEO) 牧野 正幸(まきの まさゆき)

INOUZTimes編集部
ワークスアプリケーションズ・牧野氏の 「正しさ至上主義」という“わが闘争”

利益を犠牲にしても成長投資をし続ける―。勇ましい経営判断ですけど、これを有言実行できる経営者はそう多くないでしょう。「経営者にとって大切なのは利益を出し続けること」。そう考えている人のほうが多そうです。でも、ワークスアプリケーションズ代表の牧野さんはかつて「利益か成長か」の二択で、MBOによって、迷わず「成長」を選択しました。そこにあったのは「正しきことを貫く」という想い。同社代表の牧野さんに「正しさ至上主義」に傾倒する理由を聞きました。継続成長のための知恵が詰まったインタビューです。

トータルでバランスをとる

―ワークスアプリケーションズさんは、2011年にMBOを実施、非上場化を実行しました。それ以降、今日まで、経営者として大変なこともあったのではないですか。

大変だったとは思わないが、大きな変化はあった。ライフスタイルを完全に仕事に寄せたことだ。特に、新製品を打ち出した以降のこの2年間は、仕事とプライベートの比率を9:1にしている。

経営者になる以前の20代、圧倒的な成長を遂げたかった若い時も仕事とプライベートの比率を9超:1未満に設定していた。30代以降は7:3、40代では5:5にした。

そして、50代になったいま、20代の時のようにまた9:1で仕事中心に戻したというわけだ。だが、60代になったら仕事の比率は3割くらいにするつもりだ。ある時期は仕事に時間を割き、ある時期はプライベートに集中する。トータルで人生のバランスをとるのだ。

―いまは仕事中心ということですが、プライベートも意外と重視しているんですね。

なぜ意外なのか。人生は仕事とプライベートでできている。プライベートをないがしろにするのは、人生の半分を捨てることと同じではないか。

カン違いすべきでないのは、プライベートは休憩ではない。私は仕事もプライベートも必死に集中している。どちらでも“主役”であり続けるためだ。仕事では活躍しているけれど、プライベートは家でだらだらして家族から“粗大ゴミ扱い”される。そんな人生より、仕事でもプライベートでも主役であり続ける。そんな生き方をしたいとは思わないか。私は、仕事もプライベートも、人生を面白く語れる人になりたい。

しかし、時々いるんだよ、仕事を主にしている人でプライベートは休憩だと考えている人が。それは間違いだ。時間配分は時々で違っていていい。当社の社員にいつも言っているのだが「プライベートが主だ」という人がいたっていい。どちらも集中し、本気であるならば、という絶対条件がつくが。

仕事のためにプライベートを捨てる、逆にプライベートのために仕事は我慢して耐えるなんて、私にとっては地獄だね。プライベートを休憩だと思ったら粗大ごみ扱いされる。逆にプライベートを重視するあまり、仕事を単なる金儲けの手段だと思ったら、その瞬間から仕事は辛いものになるだけだ。

もちろん、人生には休養も必要だ。私も海外のビーチでのんびり本を読んで過ごすこともある。しかし、時々だからいいのであり、毎日、浜辺でぼんやりしていなければならないのだとしたら、そんなのはまっぴらだ。私にとって、休憩、休養は寝ている時間だけで十分だ。

社員の平均報酬を30%上げた

―生き方を自ら律しているんですね。ところで、あらためてMBOに踏み切った理由を教えてください。

MBOに踏み切ったのは2011年。その2年ほど前から成長率が5%くらいに落ちていて、これはよくないと思っていたからだ。

低空飛行となった短期的な要因としてはリーマン・ショックによるIT投資の落ち込みなどがある。しかし、本質的にはそういうことではない。日本の株主は投資先企業に利益と成長の両方を求める。それに私が経営者として応えようとしたためだった。

成長しつつ利益を出し続ける。理論的にはそのとおりだが、実際には利益を重視すると成長性を犠牲にせざるをえないことがある。もちろん、成長しつつ利益を出し続けている勢いのある会社もある。MBO以前の当社もそうだった。だが、戦略的に考えると、成長投資するか、それとも投資しないで利益を担保するのか。それはトレードオフの関係にあるのだ。

しかし、自分のなかでは株主の期待に応えて利益を上げたい気持ちが強かった。そうすると、成長のアクセルも踏んでいるのだが、アクセルを踏みつつ利益重視でブレーキもかけるという状況が絶えず起きる。こんな中途半端な状況を変えるきっかけとなったのがリーマン・ショックだった。

―どんなきっかけになったんですか。

単純な話だ。リーマン・ショックのあとだったから、そんなに利益が出なくてもどのみちまわりからなにも言われない(笑)。その機をとらえて一気に投資にシフトし、中期的な成長を目指すことを決断したのだ。

しかし、いくら「中期的に成長する」「中期の成長のために短期の利益を犠牲にする」と説明しても、当たり前のことだが短期的に成長するわけではないので、株価は下がり続けた。さらに投資を継続していくと、赤字も十分にありえた。中期成長のために投資をすると株主の価値がどんどん毀損される。そんな状況だった。

だから、非上場企業として利益を考慮せず、成長のための投資をしていくことが正しい。そう判断し、MBOに踏み切ったのだ。

―利益よりも成長を重視すべきだということですね。なぜですか。

日本だけではなく、世界に革新をもたらすためには、いまの規模では小さすぎるからだ。グローバルで戦っていくためには、長期的な視野で研究開発を行い、売上高を上げ、さらに研究開発投資の規模を大きくし、より売上高を上げていく。そんな循環をつくり、企業規模を大きくしていく必要がある。だから利益よりも成長なのだ。

もうひとつ、私が成長を重視するのは、優秀な人材を集め続けるためだ。優秀な社員たちを成長させるためには、彼らを興奮できるフィールドに置き続けなければならない。成長しないということは停滞するということだ。停滞したフィールドに成長はないし、興奮もない。

当社は創業以来、優秀な人材だけを集めることで成長してきた会社だ。だから、より成長することで社員たちを刺激し続けられる会社であることは、当社にとって生命線でもある。優秀な人材は停滞している会社には集まらない。より自分が成長できる環境にしか優秀な人材は集まらないからね。

―優秀な人材が集まれば、会社も成長するということですか。

半分は合っているが、半分は正確ではない。優秀な人材を集めたうえで、彼らがプロフェッショナルとして自由に、自分の意思で働ける環境を経営者はつくらなければならないのだ。そうでなければ、彼らは引く手あまたの人材なのだから、あっという間に辞めて行ってしまう。

報酬もきちんと処遇すべきだ。シリコンバレーに比べて、日本の場合、優秀な人材に支払っている報酬は低すぎる。これでは定着しようがない。能力を正しく認めて、適正な報酬を支払うべきだ。

―具体的には、どれくらいの報酬にすべきなんですか。

当社の場合、ここ3年ほどで社員の平均報酬を30%上げた。

シリコンバレーでは、スタートアップの時こそストックオプションなどを駆使しながら、給与は抑制されているが、ある程度の規模になると急激にハネ上がる。少なくとも日本のように、生涯賃金がいつまでも大企業より絶対的に低いベンチャーは存在しない。

こんな現実を是正せずに優秀な人材を集めても、いつか会社を離れていく。そこはシビアに考えなければいけない。

不自然体であれ

―お話を聞いていると、経営の美学を追求しているというか、ある種のダンディズムを感じます。

私自身はダンディズムという言葉を使ったことはない。経営者やそこで働いている人がどう考えるか、という問題だ。ただ、私は経営者にはプリンシプル(原理原則、主義)が絶対必要だと考えている。それがないと経営は成り立たないからだ。私のプリンシプルは“正しい”ということだ。

ただし、プリンシプルは他人に強制すべきものではない。私はこう思う、ということに過ぎない。たとえば、ウルトラマンがそうだ。

―ウルトラマン、ですか。どういうことでしょう。

ウルトラマンは正義であり、正義の味方だと私は思う。しかし、人によってはそう見ない人もいるだろう。変身したらすぐにスペシウム光線を放って怪獣をやっつければいいじゃないか。なのに、なぜ怪獣を投げたり蹴ったりするんだ。そのせいでビルが破壊されるではないか。ビルのなかに人がいたら、大変ではないか。そう言うわけだ。

しかし、怪獣が暴れまわったら地球は滅亡する。それを防ぐために戦っているウルトラマンは、だから正義なのだ。それでも「いや、ウルトラマンは必ずしも正義ではない」と主張する人もいるだろう。そうした意見も私は尊重する。考え方は人それぞれだ。ただし、私は私が正しいと思ったことだけを貫く。それが私のプリンシプルだ。

―プリンシプルをもつというのは、他人の批判も受け入れて、それでも貫き通すということなんですね。なかなかしんどそうです。

その通りだ。確かにしんどい。そもそもプリンシプルをもつ状況こそ、不自然な状況、不自然体だ。いついかなるときも、プリンシプルで自分を律し、縛らなければいけないからね。

逆に、「自然体でやりましょう」とかいう言葉もあるが、それはプロ中のプロだけに許されることだ。いつもは不自然体で自分を鍛え、勝負所では自分の能力をすべて発揮するため自然体で臨む。それがプロの戦い方だからだ。

一方で、普段は自分を律していない、不自然体で自分を鍛えていない人が言う自然体とは、私から言わせると「ただサボれ」「努力なんかしなくていい」「楽しければいいんだ」と言っているようにしか聞こえない。

もちろん、自然体でみんな仲良しこよしでやっていくのも悪くない。そういう考えの人が集まる集団だったら、それはそれでいいだろう。しかし、多くの人に与える影響というものを考えたとき、私はそのやり方が正しいとは思えない。ひとつの方法としてはありえるかもしれないが、99.9%の会社が自然体の仲良しこよしになったら、世の中は潰れてしまうだろう。

―正しいと思ったことを貫き通した結果、失敗することもあるんじゃありませんか。時には現実に迎合したり、妥協することも成功の確率を高めるためには必要なんじゃないでしょうか。

その通りだ。正しいジャッジをすればいつもうまく行くとは限らない。迎合し、妥協すれば成功の確率を高められるんじゃないか。と思うことも往々にしてある。しかし、それでも私は自分の考える正しいジャッジをしたい。迎合や妥協はせずに、正しいことは何かを考え、それだけを選びたいと思っているのだ。

私が正しいと考えたジャッジをした結果、失敗したこともあった。だが、それで損をしたとは思っていない。失敗も含めて、全部、得をしたと考えている。失敗した結果、苦労するのは自分だ。苦労すれば、その分、楽しい話ができるじゃないか。成功談より失敗談の方が楽しいものだ。

…そういえば、このインタビューの冒頭で「MBOをしたことでどんな変化があったんだ」という質問があったな。言い忘れていたが、仕事中心のライフスタイルにシフトしたことのほかに、もうひとつ、大きな変化があった。それは葉巻をやめて、シガリロにしたことだ。仕事が忙しくなり、やたらと海外出張も増え、太い葉巻をゆったりくゆらせる時間がなくなったからだ。

しかし、シガリロは私にある問題を突きつけている。すきま時間を使ってくゆらせることができるのがシガリロのメリットなのだが、そうなると「ちょっと一服」といったタバコ感覚に近いものがあるのだ。そんな安っぽい感覚をもつことは、自分の生き方として受け入れられない。正しくない。崩れている。

自分を律しているつもりでも、人間はどこかで崩れてしまうものだ。崩れていることに気づいたら、また努力をすればいい。その繰り返しを続けることが、正しいのだ。

牧野 正幸(まきの まさゆき)

株式会社ワークスアプリケーションズ 代表取締役最高経営責任者(CEO)

1963年、兵庫県生まれ。大手建設会社に入社後、システム開発会社を経て、1996年、株式会社ワークスアプリケーションズを設立。2015年2月から文部科学省の第8期中央教育審議会委員を務めた。ワークスアプリケーションズの2016年6月期の売上高(連結)は407億8,600万円、従業員数は5,631名(2016年6月末時点、連結)。

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