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「ダメだ、このおっさん」と思われながら結果を出してきたんです

エステー鈴木会長の「社員や取引先の心をつかむ経営術」

エステー株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長(CEO)  鈴木 喬(すずき たかし)

INOUZTimes編集部
「ダメだ、このおっさん」と思われながら結果を出してきたんです

「消臭ポット」「消臭力」「脱臭炭」…。快適な生活を演出する商品を開発し、新市場を切り拓いてきたエステー。会長の鈴木氏は1990年代後半に業績が低迷していた同社を回復へと導いた立役者だ。改革に反発する幹部を押しきって、工場や在庫をスリム化。自ら旗振り役となってヒット商品を生み出し、2005年に創業来最高益を更新。現在も売上を伸ばし続けている。独自の経営スタイルをもち、即断即決で経営の舵取りをきめる鈴木氏。巨大な国際企業が激しい競争を繰り広げる日用品業界で埋没せずに独自の輝きを放つ理由はなにか。その “勝負哲学”を聞いた。

役員には「家に帰ってしばらく寝ていてくれ」と声をかけた

―1998年の社長就任から6年で悪化していた業績を立て直し、2005年3月期には創業以来最高益となりました。その要因はなんでしょう。

 小さな失敗はいっぱいしてきましたけど、致命傷になるような失敗はなかった、ということでしょう。会社にとって致命的なのはバランスシートが不健全なこと。つぶれる会社は借入金が多かったり、不動産投資をしていたり、在庫がたくさんあったりと、ぶよぶよになっています。

 社長に就任したころのエステーもそうでした。だから、就任してすぐ掲げたスローガンは「コンパクトで筋肉質の会社」。具体的には商品の絞りこみ。販売品目を890から280まで削減した。5つあった工場も3つに集約しました。役員は猛反対。それを押しきって断行したんです。

―どうやって反発をおさえたのですか。

 役員には「家に帰ってしばらく寝ていてくれ」と声をかけ、数を半分に減らしました。ケンカするなら相手が少ないほうがラクですからね。相手が半分になったら抵抗も弱くなりました。

 社員に対しては、業績悪化を招いた責任を問わないこと。たとえば在庫減らし。「不良在庫を捨てろ」と命じても、最初は誰も実行しない。売れない商品をつくり、放置していた責任を問われるのがこわいからです。「責任追及なんてしないから」といっても信じてくれない。

 そこで、自ら倉庫に行って、在庫の商品ケースを床にたたきつけた。「早く捨てろ」って、どなりながら。そんなパフォーマンスのおかげで、ちらほら捨てる例が出てくる。なんのおとがめもない。それでみんな安心して、後に続く。こうしてようやく不良在庫を一掃できたんです。

「女神の夢」の大芝居をした

―スリム化しただけでなく、売上を伸ばしていますね。その秘訣を教えてください。

 就任後2~3年のうちに成功事例をつくれたことです。

 コンパクトで筋肉質に変わるだけでは、会社は元気になりません。そこで勝負に出たんです。1年間に発売する新商品は消臭芳香剤の「消臭ポット」だけにしぼると。みんな反対しましたよ。毎年、60アイテムくらい新商品を出していましたから。

 仕方がないので、全国に200名ほどいる営業スタッフを集めて大芝居を打ったんです。「朝方夢を見た。女神が出てきて『鈴木喬よ、この消臭ポットでエステーは救われる』と3度言った。明け方の夢は正夢だから大丈夫だ」。

 社員もきっと「ダメだ、このおっさん。これは途方もない大バカものに違いない」と感じたでしょうね。あきらめて「消臭ポット」を売るしかないと。

 結果は大ヒット。それまで1年間に300万個売れたらヒットといわれていましたが、「消臭ポット」は初年度で1000万個の目標を達成した。新任の社長は社員の心をつかまなければいけません。次に卸や小売の人の心をつかんでいく。そのために、まず新製品を当てなきゃダメなんですね。

『まだまだいける』っていったのは、オレと同じ名前と顔の別人だ

―なぜ売れたのですか。

 機能性を重視した消臭剤ばかり並んでいるなか、ひときわ目立つポット型のカワイイ商品だったからです。液体を使わず、消臭ポットは透明感のあるゼリー状。手にとってみると、ぷるぷる震える。消臭剤を買うのは、圧倒的に女性だから、「絶対に売れる」と。

 開発からネーミング、テレビCMの企画づくりまで、自分が率先垂範してつくっていった。その後もいくつか、同じようなやり方で、うまい具合にとんとんと当たったんですよ。たとえば冷蔵庫のなかのにおいをとる「脱臭炭」。いまではアメリカのウォルマートのほとんどに入っています。また、お米の防虫剤「米唐番」は世界シェア75%を獲得しています。

―商品開発において「グローバル・ニッチ・No.1」を掲げています。どうやって世界トップシェアの商品を生み出しているのですか。

 市場を定めて、新商品を生み出し、固定客をつくっています。エステーは「消臭ポット」や「脱臭炭」をつくっているのではなく、お客さまをつくっている。そのために戦う市場を選びます。

 いくら私が大ボラを吹いても、当社は年商約500億円の中堅企業です。それに対して、国内最大の同業者である花王さんは約1.4兆円、世界最大の同業者P&Gさんは約10兆円。こんなライバルとまともに戦ったら、まずやられてしまいます。だから、大手の参入しにくい市場をねらいます。たとえるならメダカがいる池に入って、それをエサにして小さな池のクジラになるようなイメージです。

 そこに革新的な商品を開発して投入します。なにが当たるなんてわからないので、昔から開発やマーケティングの社員と飲んで「こんなものをつくれ」とよく居酒屋で話していましたね。

役員会で「必ずこれをやれ」といったことを翌週には撤回することだって必要です。この間も怒られたね、「引き返し不能でございます」なんて。「引き返し不能っていったって、オレが逃げろというんだから逃げろ。こないだ『まだまだいける』っていったのは、オレと同じ名前と顔の別人だ」なんて、とぼけて返したんだけど(笑)。

―中堅・中小企業の経営者へアドバイスをお願いします。

 あまり思いつめずに、ニコニコしてください。そうすれば、たいていなんとかなります。たかがビジネス、命までとられるようなことはありません。肝っ玉を太くして、なんとかなると思っていたほうがいいですよ。

 事業にはいいときも悪いときもあります。悪いときにシケた顔をしていたら、ツキもやってこない。逆にうまくいったからといって調子に乗らないほうがいいですな。

 やれ不景気だ、円安だと顔をしかめていてもしょうがない。そのうち次の案がでてくることもあれば、再び円高になって解決することもあるんですよ。短絡的に見て泣いたり怒ったりしないほうがいいですよ。心がリラックスした状態でないと、適切な経営判断はできませんから。

 それから、あまり自分のせいにしすぎるのもいけません。社長はよく「すべては自分の責任だ」と思いつめてしまう。そんなプレッシャーをしょっちゅう感じてたら、つぶれちゃいますよ。

鈴木 喬(すずき たかし)

エステー株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長(CEO) 

1935年、東京都生まれ。家業の日用品ディスカウンターの仕事を戦後間もない小学生のころから手伝う。1959年に一橋大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。40代で法人営業部門を立ち上げ、年間契約高1兆円以上のトップセールスマンとして活躍。1985年にエステー化学株式会社(現:エステー株式会社)に出向し、1998年に代表取締役社長に就任。バブル期の負の遺産を処分し、「消臭力」をはじめとする商品開発によってヒットを連発。2012年より代表執行役会長を務める。

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