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プロ経営者が語る「おてんとさま理論」

日本人プロ経営者・松本カルビー会長

カルビー株式会社 代表取締役会長 兼 CEO 松本 晃(まつもと あきら)

INOUZTimes編集部
プロ経営者が語る「おてんとさま理論」

円安、少子化の営業で頭打ち状態の菓子市場のなかで、7期連続の増収増益を達成したカルビー。その立役者がジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(日本法人)の代表取締役などを歴任し、同社にスカウトされた会長兼CEOの松本氏だ。日本人の「プロ経営者」のパイオニアのひとりである松本氏に、増収増益を実現できる理由や経営者の持っておくべきスキルを聞いた。

複雑な経営指標は現場を混乱させる。帰納的に、シンプルに

―経営トップに就任以来、増収増益を続けています。どのようなアプローチで打ち手を考えたのですか。

 まず業績が低迷している原因を人に求めず、仕組みに着目しました。前任者を否定して人事を刷新する経営者もいますが、なんの意味もありません。

―増収増益を実現させた仕組みについて、具体的に教えてください。

 まず集中購買によって、単価を下げたり、ムダな購入を減らします。購買コストが下がれば利益が出ますが、すぐにとりこんではいけません。コストを下げたら、商品価格を下げてお客さんに還元するんです。

 すると市場シェアが上がり、工場の稼働率が上がる。稼働率が上がると、固定費が下がる。その利益は自社に取りこむ。簡単な理屈ですよ。最近は仕組みをくわしく説明するのが面倒になって「集中購買でコストを下げました」なんて言っていますが、はじめから理屈を組み立てていました。それにそって当たり前のことを、ただ粛々と実行しているだけですよ。

―工場の稼働率を上げれば、利益率も上がるわけですね。

 稼働率と固定費の相関関係をみなさん意外とわかっていないようです。多くの人は、たいてい変動費をいじりたがります。

 もともとカルビーは営業利益率が低い体質でした。目標は食品企業の世界標準15%ですが、いっぺんに上げるのはムリ。まずは10%を目標にして、それを達成する方法を考えたのです。もし目標まで30%離れていたら、すべての工場をフル稼働しても足りません。目標が10%だからこそ、この手法を実行しました。じつに帰納的でシンプルな思考法です。

数字は正直。なにかあれば必ず理由がある

―目標をひとつにしぼったこともポイントですね。

 ええ。アレもコレもといっぺんに指示を出したら、従業員が混乱します。だから、いちばん大事な利益にしぼる。なかでも営業利益率がわかりやすいでしょう。

 カルビーも一時期は「コックピット経営」なるものをやっていました。事業ユニットごとの膨大な数値データをグラフ化して毎週更新。全従業員に共有して、さまざまな判断に活かす手法です。理論的には間違っていませんが、複雑すぎます。ジェット機内のようなたくさんの計器は読めません。いまは指標を減らした「ダッシュボード」に変えました。車のダッシュボードは計器が少ないですよね。ドライバーが確認しているのは、スピードメーターとガソリンの量くらいです。

―とくに注意深くチェックしている項目を教えてください。

 各指標の成長をみています。利益の成長、売上の成長、EPS(1株あたり純利益)の成長。あとは工場稼働率、製造原価率、マーケットシェア。それくらいですよ。指標が多すぎると知恵が出てきません。

 数字は正直です。急に増えたり減ったりする現象には、必ず理由がある。それはなんなのか。自分で仮説を立てて、現場に行って検証する。仮説が正しければ、それにそってアクションを起こす。これも単純なことです。

経営者の頭は〝中の上〟くらいがいい

―数字を分析して、どのようなことがわかりましたか。

 たとえば、地域別・商品別の売上を分析するなかで〝売れる理由〟がわかってきました。

 まず当社の商品でいちばん大事なのは「おいしさ」。しかし、これは必要条件にすぎません。十分条件は「価格」です。くわえて、店舗に商品を置いてもらう「営業力」がないと、なかなか売れません。

 以前は「モノがよければ、黙っていても売れる」という考えが社内にありました。しかし、これはおごりでしょう。いい商品をつくる、買いやすい値段にする、それをしっかり売る。当たり前のことですが、この基本を徹底することが重要です。

―松本さんが考える、経営者に必要な条件を教えてください。

 わたしは、次のように考えています。まず、すべての基盤になるのは倫理観。わかりやすく表現するなら、「おてんとさまが見ている」と考えることですね。たとえば、制限速度が時速50㎞の道路を51㎞で運転してもいいでしょうか? たとえ人が見ていなくても、おてんとさまが見ているのでルール違反はいけません。法律は国によってバラバラですが、基本的な倫理観は世界共通です。

 2つめは、地頭。学力や学歴とは関係ありません。むしろ、みんな頭が良すぎるから、経営を複雑にしてしまう。すると、理屈を従業員が理解できず、戦略が実行できません。だから、私みたいに〝中の上〟くらいの頭が経営者に向いているんです。理屈をシンプルにすると、従業員が納得してついてきてくれます。

―みんなが納得し理解できる倫理観とシンプルな理屈が組織を動かすのですね。

 そうですね。そして、3つめはコミュニケーション力。話の上手下手ではなく、人から好かれることです。4つめは、トラックレコード。過去に圧倒的実績があると、成功する確率が高い。5つめは、論理的思考力。相手を納得させる力です。これは地頭が悪くても、身につけられます。

 そして最後は〝徳〟。「あの人のためなら」と周囲に思わせられるような高い人間性です。

経営者は理想を言っていても、結果がでなければクビ

―それらを実践してきたから、国内市場の縮小と競争激化という悪条件のなかでも増収増益を達成し続けることができたのですね。

 もともとカルビーという会社にポテンシャルがあったからです。私はそれをちょっと引き出しただけ。だから、6期連続の増収増益はなんでもないこと。少なくとも、あと30年は続けないといけません。

―御社は2011年3月に株式を上場しましたが、グループビジョンにはステークホルダーの最後に株主が記されています。なぜ株主第一主義ではないのですか。

 上場企業として、最終的には株主への利益還元をめざしています。でも、そのためには最初から株主利益を追い求めたらうまくいかないんですよ。その理由は、短期的視点におちいって中長期の戦略を実行しづらくなるから。もうひとつは、不祥事を起こす可能性が高まるからです。株主のために今期の利益向上だけをめざしていると、いつか不祥事を隠したり、粉飾決算をしかねません。あとは結果ですよ。「従業員が大事、コミュニティが大事」なんて理想を語っても、結果が出なかったら経営者はクビ。それは株主が決めることです。

松本 晃(まつもと あきら)

カルビー株式会社 代表取締役会長 兼 CEO

1947年、京都府生まれ。1972年に京都大学大学院 農学研究科修士課程を修了後、伊藤忠商事株式会社に入社。1993年にジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル株式会社(現:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)に入社。代表取締役社長、最高顧問を歴任後、2009年6月にカルビー株式会社の代表取締役会長兼CEOに就任。

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