合わない人にはお金を払って辞めてもらう
―ところでチーム制で組織運営していると、社内にセクショナリズムが生まれたりしませんか。
山田
5つの委員会をつくって横串を通しています。メンバーは全員、必ずどこかの委員会に入らないといけない。各委員会のメンバーは各チームからアサインしているので、普段は仕事上の接点がないメンバーが同じ委員会に所属することになり、それが横串になっています。小学校の時に給食係とか飼育係とかあったじゃないですか。あれは「教室という組織の運営をみんなでしましょう」という学びだと思うんですが、それと同じように「会社の運営はみんなでやりましょう」ということなんです。
高野
どんな委員会があるんですか。
山田
コミュニケーション委員会、クリーンネス委員会などがあり、たとえばコミュニケーション委員会には「会社のコミュニケーションを司る」という役割があって、毎朝の朝礼でやるゲームの企画と運営などを行っています。月替わりで内容は変わるんですけど、この前は抽選で人を選んでサイコロを転がして出た目の話をしてもらう、というゲームをやってました。お昼のテレビでやっている例のあれのパクリですわ(笑)。みんなでちゃんと「何がでるかな」とコールして、出た目によっては朝からエッチな話になったり(笑)。「とっさのアドリブ力を鍛えましょう」という名目があったりしますが、いちばんの狙いは「朝は笑いと拍手でスタートしたい」ということ。そうすると、いい1日になりそうな気がするじゃないですか。ほかの委員会も同様で「会社を楽しい場所にする」というミッションがあるんです。
高野
確かに楽しそうですね(笑)。ただ、どれだけ厳密にスクリーニングをしても、いざ中に入ると思っていたのと違った、ということは起こり得ますよね。とくにやっていることが非常に独自なので、合う人はハマると思いますけど、合わない場合は難しそうです。それはどうなんですか。ちょっとマイナスな話題になっちゃいますけど、たとえば離職率とかは。
山田
新卒採用を始めて5年目になるんですけど、新卒は1人も辞めてないですね。20何人新卒入社のメンバーがいますけど、1人も辞めてません。一方、中途入社のメンバーの場合「どうしても合わない」とか、頭ではわかっていてもコアバリューに反してしまう人が出てきます。そんなときは、お金を払って辞めてもらっています。
高野
あぁ。それは素晴らしいですね。
山田
そうしないと周りのメンバーに伝播するし、その人にとっても会社にとっても、いいことはなにもないんで。
高野
僕はいつも不思議に思うんですけど、どんなにいい会社でも、そういう不満分子って出てくるじゃないですか。なんでこうなるのかなって思いますけど。ともかくそれが現実なワケで、でも山田さんのように「お金を払ってでも辞めてもらう」という毅然とした決断ができる経営者って、意外と少数なんですよ。
山田
そのメンバーのことを本気で思っているんだったら、「ウチじゃない会社に行った方がいいよ」とアドバイスすべきだと思うんですよ。実際「こんな会社はどう?」と紹介したこともあります。だから、ケンカ別れにはなりません。いまでも辞めたメンバーとはフツーにやりとりをしています。
高野
ベンチャーの場合、いつも人手が足りないので「アイツは腐ってるけど、いま辞められると困るよな」みたいなこともあって、割り切れないケースがあると思うんですけど。
山田
それはあるでしょうね。ウチでも離職者が出たチームは大変です。でも、長期的に考えれば、やっぱりいてもらうよりは、その子のためにもならないので辞めてもらうべき。メンバーもそう理解してくれています。
トニーの条件「オレを熱狂させろ」
―ホラクラシーな組織でなんでもチームで決めているということですが、会社っていいことばかりじゃなくて、いろんな問題も起きますよね。そうした場合、フラットな組織では「誰が責任者なんだ」という問題が起きそうです。そこはどうなっているんですか。
山田
「役職なし」「肩書なし」「フラット組織」「みんなで組織運営」と言うと、よく「じゃあ、誰が責任取るんですか」と聞かれます。大学のサークルみたいな組織で責任の所在がはっきりしないんじゃないかと。でも、いままで社内でそんな話になったことがないんですよ。どんな問題であれ、責任は担当しているボードメンバーが取り、最終責任は僕が取る。だから「これ、誰が責任取るの?」みたいなことは起きたことがないですね。
チームでも委員会でも、組織運営で自主性を重んじているのは、言い方を変えると「他責にしない」ということ。他責の組織では誰も自らボールを捕りに行きません。「あいつの守備範囲だよな」とみんながみんな思っているので、自分が追いかければ簡単に捕れる凡フライでもポテンヒットになっちゃう。「誰が悪い」とか「システムが追いついていないからできません」とか、これって全部他責。「会社が悪い」「親が悪い」「社会が悪い」「国が悪い」。そうかもしれませんが、「自分は悪くない」と主張しても、なにも生まれないし、変わらない。そうじゃなくてできることは自分の責任でやりましょう、自分でボールを捕りに行きましょうと。そのうえで責任はボードメンバーが取り、最終的には僕が取る。そこはハッキリさせています。
高野
ボードメンバーの体制を教えてくれますか。
山田
いま僕を含めて6人いて、そのうちのひとりは新卒5年目のメンバー。ベンチャーが好き、ベンチャーで働きたいという理由でウチに来たヤツです。あとほかの4名は外部からスカウトした人材で全員、Eコマースの業界で社長を経験した人材という体制です。
高野
社長経験者5人と新卒5年目でボードをやってるんですね。ほぉー。
山田
そうです。この新卒5年目のボードメンバーが「お前らオッサンや」って言うんですよ(笑)。僕を含めたほかの5人は、EC業界の経験が長いだけに、どうしても考え方が固まってしまいがちになる。そこを鋭く突かれるワケです(笑)。
ほかのボードメンバーを何名か紹介すると、COOをやっているのはジョニー。あ、僕らはイングリッシュネームで呼び合っているんです。僕のイングリッシュネームは「ジャック」。うちのメンバーは全員、新卒1年目の子も僕のことを「ジャック」と呼び捨てにしてます。
で、ジョニーはEコマースでIPOを経験した人間。CFOはトニー。こいつは上海の通販会社の総経理をやっていて、日帰りで上海に行って僕が口説きました。その時、トニーが出した条件が「オレを熱狂させろ」ということ。「わかった。熱狂させるから絶対来い」と。CTOをやっているアントンは、彼の会社の共同代表に土下座して来てもらいました。「てっちゃんをください」って。アントンの入社前の呼び名は「てっちゃん」だったんです(笑)。全員、報酬は前より下がっています。
ボードメンバーじゃないんですけど、独立の挨拶に来たのに入社してもらった、というメンバーもいます。僕とジョニーと3人で飯食いに行って「独立しました」と言って新しい名刺を差し出してきた。するとジョニーが名刺をポイっと放って「はい、この会社は今日で終わり。明日からウチに来い」って(笑)。そしたら、ホンマに来たんですよ。
「人生を賭けるに値する」と胸を張れる
高野
う~ん、勝ってる会社はそういう信じられないようなところがありますよね。お金じゃないところで人を口説ける。社長が魅力的で、やっている事業もおもしろい。やろうとしているビジョンにも共感できる。だから、条件が下がってもみなさん引き受けたんじゃないかな。社長の魅力×事業領域の魅力×プラスα。これがそろわないと、こんなことは難しいでしょうね。
山田
その際、「会社が小さいから」とか「ウチはベンチャーだから」といった理由で自らあきらめたらダメやと思うんですよ。失うものなんてなんにもないんだから、当たって砕けろというか。それを去年の新卒採用で改めて痛感させられました。なんとウチみたいな会社に京大の子が2人入ったんですよ。先代が生きてたら、さぞビックリしたやろなぁ
高野
どんな方法で採用できたんですか。
山田
僕と採用担当の新卒2年目の女の子で京大に行ってナンパしたんですわ(笑)。ウチは新卒採用は新卒がやるって決めていて、大学に行って「ちょっとナンパしてこい」って。するとその新卒2年目の採用担当者が「何回生ですか」「何回生ですか」そう聞いて回る。4回生だと聞くと「今日はウチの社長が来てるんですよ」って言って、それで会ってくれたのが7~8人いたんです。そのなかから2人、採用できました。
高野
自ら限界を設定してしまってはダメ、という教訓ですが、それで採用できるのがスゴイですよね。ちょっと言い方が悪いんですけど、京大に行ってナンパしようと考える社長も社長ですけど、入る方も入る方ですよね(笑)。
山田
ちゃんと話して、将来性があるとか、自分が成長できるとか、なにかを感じてくれたらベンチャーにも来てくれるんですよ。
学生の考え方も変化していると感じています。いま、大きな曲がり角に立たされている名門大企業がいくつもあるじゃないですか。昔なら大企業に入ると「あそこの息子さん、さすがやね」みたいな話だったのに、いまじゃ「あそこの会社にお勤めなんやて。ホンマ可哀想」みたいに変わってる。だから「ウチみたいな会社に来るはずない」って決めつけるのは、やっぱりアカンなぁと。
―独自で明快な価値観と社風が強い組織を生むんだなと感じましたが、組織運営で経営者として気をつけていることはありますか。
山田
組織づくりはウチの会社の大きなテーマ。これで完璧というのは絶対にないと考えています。これからも試行錯誤を続けるし、試行錯誤を続けなければいけないと考えています。それと、会社のアクセルを踏むタイミングと力を蓄えるタイミングで事情は全然違うので、状況に合わせてボトムアップとトップダウンを適切に使い分けることに気をつけています。トップダウンにすると、答えを教えるので話が早い。でもそうするとメンバーが育ちませんね。自分で考えなくなっちゃうんですよ。一方でボトムアップにすると自分で考えさせるためメンバーは育つんですけど、企業としての成長のテンポは遅くなります。答えがわかっているのに、あえてそれを言わずに考えさせるワケですから。ボトムアップだったらスピードは出ないけどメンバーは育つ、トップダウンだと成長は速いんだけどメンバーは育たない。どちらも一長一短があり、その使い分けを間違えると会社がおかしくなってしまう。いまはアクセルを踏むべきか、力を蓄えるべき時か。そこは全責任を負う経営者として慎重に見極めていきたいですね。
高野
もうひとつ、山田さんの経営者としての信念に「会社は楽しくなければいけない」「仕事はおもしろくなければならない」という価値観があるように感じたんですが、その理由を聞かせてもらえますか。
山田
おもしろい、楽しいと感じられることに自分の人生を賭けたいからです。「仕事が苦しい」「会社がつまらない」と思いながら働いていると、「自分たちの仕事で世の中を良くしたい」とか「日本一になる」といった目標や志は絶対に生まれてきません。それは僕、問屋をやっていたときにすごく思っていました。仕事がおもしろいから、会社が楽しいから大きな目標にチャレンジできるんだと思います。
今は僕らがやっているビジネスは人生を賭けるのに値するビジネスだと胸を張って言えます。きっと社員もそう思ってくれているという自信もあります。けれど、現状に満足しているわけではありません。果たして本当に自分たちは人生を賭けるに値するビジネスをつくれているのか、提供できているのか。いつもいつも自問自答しています。
高野
やっぱり山田さんは突き抜けていますね。