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2017/3/6

出世の概念がない「ホラクラシー・ベンチャー」の働き方

[前編]「アトラエ流」プロチーム論

株式会社アトラエ 代表取締役 CEO 新居 佳英(あらい よしひで)

出世の概念がない「ホラクラシー・ベンチャー」の働き方

PHOTO:INOUZ Times

今年も桜の花芽がふくらみ始め、間もなく新年度入りです。経営者にとってこの季節は新しい年度を勝ち抜くための人事構想の断行が待っている重要な時期。経営力の腕の見せ所です。しかし、「コイツを上げればアイツが腐る」などと気を揉んでいる経営者も多いのでは。では、もしも役職が存在しない会社があったとしたら? 実際、会社法で規定された取締役以外の役職がなく、出世という概念がない急成長企業があるんです。昨年6月、東証マザーズに上場したHR Tech領域の注目ベンチャー「アトラエ」がそう。生温かい学生サークルのような会社なんじゃないかって? いえいえ、「フツーより厳しいと思いますよ。私だって、いつ戦力外通告されるか」。同社創業者でCEOを務める新居さんはそう語ります。会社から出世を引き算したら、どんな組織ができあがるのか。究極のフラット組織、ホラクラシー(holacracy)を標ぼうする「アトラエの働き方」をウの目タカの目で取材しました。

「役割」を果たせなくなったら引退

―まず、アトラエのことをよく知らない人のために事業内容や会社の特徴を教えてくれますか。

私達はAIやビッグデータ解析技術などを活用したHRTechベンチャーで、「ヒトと企業」のマッチングプラットフォーム「Green」の企画・運営などを行っています。特徴は出世や役職という概念をなくしたフラットな組織運営に挑戦していること。それが企業成長の原動力であり、私達のアインデンティティです。

そのほうがメンバーの知恵を最大限経営に反映させることができ、意思決定のスピードを高速化することを可能とし、チームとしてのパフォーマンスを最大化できるからです。

上司が現場で起きていることを吸い上げ、判断し、現場に指示を出す。これが従来の会社の意思決定のあり方ですが、それよりも現場でサクサク意思決定したほうがスピードは速いですよね。ホウレンソウすべき上司が近くにいなくて連絡も取れないなんていう場合、さらにスピードは遅くなる。

それに現場のことは現場のメンバーが一番詳しいわけで、一番詳しいメンバーが必死になって知恵を絞り、考え抜き、議論し、意思決定するほうがサービスもよくなると思います。上司の判断がいつもベスト、なんてことはありえませんし。

―具体的には、どんな組織なんですか。

非常にシンプルで、肩書きは取締役と社員のみ。取締役も会社法で必要だから置いているだけで、ヒエラルキーの上位にいる役職ではなく、単なる「役割」にすぎません。役割ですから、それが果たせない人は評価されないし、役割を担えそうなほかの人に交代してもらうことになります。

それはCEOである私も同じ。CEOの大きな役割は、この会社の3年先、5年先のあるべき姿や競争優位の体質を戦略的に築くこと。いまのところ、こうした役割について、この会社のなかで私が一番適任だとみんなに思ってもらえているのでCEOを続けさせてもらっています。

そんな役割を私が果たすことができなくなったり、もっとCEOにふさわしい人材が現れたら、ウチの社員のことですから「ちょっと引退してください」って言ってくると思いますよ。

―それは戦々恐々ですね(笑)。でも、日々いろんなことが起きる組織運営については誰かがリーダーシップをとっていかないと機能不全を起こすんじゃないかと思うんですけど。そこはどうなっているんですか。

現場の意思決定はチームの話し合いで決めています。私は基本的には関与していません。各チームごとにプロジェクトリーダーがおり、そのリーダーが最終決裁権や意思決定権を持っています。

ただしプロジェクトリーダーも単なる役割で、そのプロジェクトの中で一番偉い人でも、最も給与が高い人でもありません。新卒1年目のメンバーにプロジェクトリーダーを任せているケースもあります。

社内のルールなども現場主導で議論する中で決まるケースも多く、私はそこにも関与していないことも多々あります。時には後から知ることもあります。たとえば「エンジニア陣は毎週金曜日は既存の事業と関係しないことに挑戦しましょう」といういわゆる20%ルール。

金曜日になると、みんな、いつもと違う席に座っているから「何やってんのかな」と思っていたんですけど、通常とは異なることをやるために席を移動していたんですね。

このルールは3~4カ月続いたものの、結果的には「これはあんまり会社の成長に貢献しないね」という結論に至ったようで、いまはもうやっていません。このように、私が知らないうちに新しい社内ルールができたり、なくなったりということが頻繁にあったりします。

―会社としての意思決定はどうしているんですか。どんな新規事業領域に投資していくとか、今年の新卒採用は何名にするとかについては。そこはやっぱり最高経営責任者である新居さんがジャッジしているんですか。

いえ、会社として影響力の大きな意思決定に関してはボードメンバーミーティングという会議体が中心となって行っています。これは取締役に加え、先ほど触れたプロジェクトリーダー2名から構成されています。わたしもボードメンバーミーティングのひとりにすぎません。

もちろんボードメンバーミーティングでの意見が割れてしまったときなどについては、CEOである私が最終判断を裁定することになりますが、これまでに意見が割れたことはほとんどありません。

成果を出せるなら寝ててもOK

PHOTO:INOUZ Times

―失礼な言い方になっちゃうかもしれませんけど、あまりにも経営者としての権限が少ない気がします(笑)。役職がないので、トップの伝家の宝刀である人事権もないわけですし。それって創業者として寂しくないですか。せっかく会社をつくったんだからもう少し権限がほしいなぁ、とか思わないんですか。

それはないですね(苦笑)。私は理想とする組織をつくりたくて経営者になったのであって、経営者としての、なにか利権や権力などが欲しいとは全く思ってないので。

―ところで、昇格・昇進は自分の実力や会社からの期待値を測るモノサシ、とも言えますよね。だけどアトラエでは役職という組織内における自己のポジションを確認できる標識がないワケで、励みをどこに見いだせばいいのか見えにくいというか、結構、長く働いていくのが辛くなる場合もあるんじゃないのかな、なんていう心配があったりするんですけど。

まず、アトラエには社会に対する価値創造に本気で取り組みたい人が集まっているんですね。そうした働き方をしたい人にとっては、フラットな組織のほうが動きやすい。命令されたことではなく、自分が本当に正しいと思うことを成し遂げることのみに全力を傾けられますから。

また、その人のチームのなかでの貢献度合いや影響度合いはキチンと評価していて、それらが高まれば適切に評価され、給与があがるような制度を導入しています。逆に取締役だからといって高給なワケではなく、取締役より高い給与の社員もいます。

励みについては、その目安としてリーマン・ショック後の2010年から新卒採用を再開したんですけど、そこから計算した新卒の離職者数は2、3名。辞めた理由はさまざまですが、会社がイヤで辞めた、やりにくいから辞めたというメンバーはいなかったですね。この2年間で見れば、離職者はゼロです。

―それは少ないですね。新卒採用ではどんなところを見てるんですか。

スキル的な側面も見ますし、価値観についての相性は当然見ます。それと私達はチームでパフォーマンスを最大化していくというスタイルですから、チームプレーヤーかどうか。わかりやすくいうと利己的でないかどうかという点はよく見ますね。

―スキルのことで言うと、アトラエは技術進歩がハイスピードなIT業界でプレーしていますよね。IT業界あるあるで言うと、若いうちは新しい技術をキャッチアップできても、ベテランになっていくとそれが難しくなってプレーヤーではなくマネジメントに回りたいという人も出てくると思います。そうした場合、どうするんですか。

「新しい技術をキャッチアップするのが厳しくなってきているから、うまくプロジェクト管理しながらみんなに貢献するので技術の先端のほうは若いメンバーに頼む」という役割分担も成り立ちます。

チームとしてそういう組織体制を取ることでパフォーマンスが上がるのであれば、おそらく自動的に一番年配の優秀な人間が役割分担としてマネジメントをし始めるでしょう。そんな働き方もOKです。

私はアトラエのメンバーにはプロスポーツ選手が期待されていることと同じものを期待しています。役割をきちんと果たし、パフォーマンスをあげてくれれば働き方は自由。子育てをしながら働いているメンバーも多くて、毎日3時までしか働けない人もいますし、6時になったら退社しなければいけないメンバーもいます。

その人が最高のパフォーマンスを出せる働き方であれば、それで全く問題ありません。今日は睡眠をとるべきだと判断したら睡眠をとってもらって構わないし、今日は夜間練習をしたいというならそれを止める理由はありません。

逆にどれだけ長時間働いても役割を果たせない、パフォーマンスを出せないなら、先発レギュラーはムリだし、ベンチ入りだって厳しい。なにより他のメンバーから相手にされません。そんな人には重要な仕事はまかされないでしょうね。そこはハッキリしていて、厳しいですよ。

―役職の軽重ではなく、自然とデキる人が中心となってシンプルに実力や成果を軸に組織運営されていくんですね。


そんなアトラエの組織運営の詳細は後編で。
【後編】メンバー全員が会社の株主。言い訳できない相互評価

新居 佳英(あらい よしひで)

株式会社アトラエ 代表取締役 CEO

1974年生まれ。1998年に当時未上場だった株式会社インテリジェンスに入社。2003年10月に株式会社アトラエ(当時の社名は株式会社ユビキタスコミュニケーションズ)を設立し、代表取締役就任。IT/Web業界の求人メディア「Green」、人工知能を活用したビジネパーソン向けのマッチングアプリ「yenta」、組織におけるエンゲージメント(愛着心・信頼など)などを定量的に可視化することで、組織改善を可能とするツール「wevox」を展開。2016年9月期の売上高は13億1,200万円、営業利益は3億9,000万円。過去3年で売上高は2.3倍、営業利益は4.3倍に急成長。2016年6月に東証マザーズに上場した。

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