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VCばかり見ていませんか?

「会社とおカネ」に精通するプロが教える資金調達の「意外な落とし穴」

あいわ税理士法人 代表社員/公認会計士・税理士 石川 正敏(いしかわ まさとし)

VCばかり見ていませんか?

企業経営に大きな影響を与えるのが資金調達。有利な条件で資金調達できれば成長スピードをぐっと加速させることができるが、失敗すれば、最悪、会社を失う場合も。多くのIPOを支援し、上場を目指す成長ベンチャー企業の“懐事情”に精通するあいわ税理士法人代表の石川氏に、成長ベンチャーの経営者が知っておくべき資金調達ノウハウを聞いた。

【あいわ税理士法人とは】 1992年に設立したIPO支援などで定評のある税理士・公認会計士で構成する税理士法人。上場企業グループ約170社、IPO準備企業約80社、ベンチャー企業など非上場企業約170社のクライアントをもつ。2015年は8社のIPO支援実績を持つ。

VCからの資金調達で金利より高い資本コストが発生する場合も

―成長ベンチャーが資金調達を行う際に、気をつける点を教えてください。

石川 マイナス金利など異次元緩和が続く金融環境ですが、ベンチャー企業を取り巻く金融環境は、銀行の有担保主義をはじめ、本質的な部分では変化していない点に注意が必要ですね。また、従来からも言われていることですが、ベンチャーキャピタル(以下、VC)などを利用したエクイティファイナンスについて「返済不要の無利子の資金」というメリット面だけを拡大解釈している経営者が最近増えているのが気になります。十分な検討なく安易にVCなどから資金調達した場合、資金調達の内容や状況によっては、将来の経営にマイナスの影響を及ぼすこともあるのだ、ということにも注意してほしいですね。

―その理由を教えてください。

石川 エクイティファイナンスには資本コスト(企業が資本を調達・維持するために必要なコスト。株式などの自己資本に関しては配当金やキャピタル・ゲインが代表的)がかかるからです。それも、一般的には銀行融資の金利よりも高いとされています。

 また、初めてエクイティファイナンスを行う際に会社の価値である時価総額を決定しますが、それにより柔軟な資金調達がしにくくなる場合があります。たとえば、1億円を10%の株式発行で資金調達できた場合。逆算すれば時価総額は10億円となりますが、必ずしも時価総額は高ければいい、というものではありません。根拠なく最初のファイナンス時の時価総額が高い場合には、事業計画どおりに行かなくて追加で成長資金が必要になっても、根拠のない高い時価総額(高い株価)がネックとなり、追加の資金調達ができないこともあります。仮に経営者が「時価総額が半分になってもいいから当座の資金が必要」と思ったとしても、そうなると今度は最初に出資したVCなどの株主の理解を得るのが難しく、簡単には話がまとまらないでしょう。このようなケースは、投資経験があまりないコーポレート系のVC(CVC)が出資している場合などに見かけることがあります。せっかくエクイティファイナンスで資金調達しても、まとまった資金調達額ではなく、事実上短期の“つなぎ資金”にすぎなかったということになると、案外、時価総額の高さはメリットとはなりません。

 さらに、契約条項にも“落とし穴”があることが少なくありません。

―それは、どのような条項ですか。

石川 よくあるのが買い戻しに関してで、特に買い戻し額がすごく大きくなる条項などですね。契約は交渉ごと。契約条項には買い戻し条項の他、資金使途や取締役派遣など、様々な内容が盛り込まれています。そのため、契約条項をサッと斜め読みして、すぐハンコを押しちゃうのは最悪です。条項をひとつひとつ吟味、検証して、自社に有利になるよう交渉すべき。ただし、相手はVCという“金融のプロ”なので、エクイティファイナンスにかんする経験と知識が豊富な弁護士、公認会計士、税理士などの資格をもったプロの専門家をつけるべきでしょうね。

銀行の「3つ視点」と「呼び水」として利用できる場合もある政府系金融機関

―なるほど。返済不要といっても、さまざまなリスクがあるんですね。一方で金融機関からの借入はどうでしょう。

石川 結論から言うと、先ほど述べた資本コストの面から考えても、銀行から借りられるのなら、借りたほうが得策ですね。ただし、期間据え置き一括返済というケースはほとんどなく、毎月の分割返済なので、キャッシュフローがある企業以外は銀行からの資金調達はしにくいでしょう。もっともキャッシュフローが潤沢なら借り入れる理由はあまりないので、まさに矛盾なんですが(苦笑)。さらに、銀行の融資姿勢は昔と変わらず保守的で、たとえば設立5年以内のベンチャー企業が与信を受けるのは非常にハードルが高いといわざるをえません。とくに金利が低い局面では、ますます融資姿勢は保守的にならざるをえません。

―その理由を教えてください。

石川 たとえば100万円を年利11%で10社に貸し出す場合、1社倒産しても銀行はペイします。しかし、100万円を1%金利で10社に貸し出すと、1社返済不能になっただけで銀行に損失が発生します。低金利で銀行はリスクテイクしにくくなるため、格付けの高い、安心できる企業を中心に融資しがちになります。ただし、銀行は3つの視点で融資を実行するので、その条件を満たしていれば銀行から資金調達できる可能性が高まります。

―その内容を教えてください。

石川 2期連続赤字ではないこと、実質純資産がマイナスではないこと、債務償還年数(主に借入金を何年で返せるか)が長くない、といったことです。なお、民間の銀行以外に、日本政策金融公庫など、政府系金融機関の制度融資を利用する方法もあります。まとまった金額の調達がしにくいというデメリットはありまが、資本性ローンなどの制度融資を活用することで、民間銀行が融資しやすくなるケースもあります。ですから、政府系金融機関の制度融資を利用する場合は、メイン手段というよりは補助的に使うのがよいでしょう。

―結局、銀行とVCでは、どちらがよいのでしょう。

石川 どちらが絶対によい、というものではありません。結局は自社の状況にあわせて、(安易にではなく)十分に検討したうえで、銀行とVCを使いわけるしかありません。銀行は基本的に過去の実績や現在の状況(いわゆる格付)、さらには担保があるかないか、をもとに資金を出します。一方VCは、事業の将来性に対して資金を出します。それぞれの融資・投資スタンスや考え方、メリット・デメリットを忘れずに臨めば、おのずと失敗は防げるでしょう。

1960年、東京都生まれ。1983年に法政大学経営学部を卒業。同年、新光監査法人に入社。1992年に藍和共同事務所を設立。2002年にあいわ税理士法人に組織変更し、代表社員に就任。

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