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「エンゲージメント経営」に舵を切った成長ベンチャー企業たち

最先端組織の実践者が語る改革の処方箋 #2

株式会社アトラエ 代表取締役 新居 佳英(あらい よしひで)

INOUZTimes編集部
「エンゲージメント経営」に舵を切った成長ベンチャー企業たち

2018年9月、「ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス」が開催されました。

「働き方改革」の推進に成功させている企業のキーマンや「働き方改革」をサポートしている専門家の皆さんが、その実際を語りました。
※本記事はアトラエの新居氏のパートです。

[概要]
ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス
2018年9月19日
主催:イシン株式会社
協賛:アトラエ、あしたのチーム、Chatwork、ヒューマンキャピタルテクノロジー、INTLOOP、AKASHI
協力:日本経済新聞クロスメディア営業局

[基調講演]
「成長企業が取り組むエンゲージメント経営とは?」

[スピーカー]
アトラエ 代表取締役 新居 佳英氏

※働き方改革カンファレンス (2018年9月)で行われたセッションより抜粋・構成しました。

「組織改善」と「事業改善」は同義

Photo:INOUZ Times

前編では、「エンゲージメント」という新たな指標について、概要をお話ししました。後編では、エンゲージメントの具体的な活用例についてお話しします。まず、我々が提供しているサービス『wevox』についてご紹介させてください。独自のサーベイによって組織の状態を可視化し、問題点を特定していくことで組織改善をはかるプラットフォームです。会社組織だけでなく、NPOや教育機関の方々にも活用いただいており、導入数は400社・団体を超えています。

『wevox』によるエンゲージメントのスコアリングは、たった3分程度のアンケートに答えていただくのみです。従来の従業員満足度調査というのは、「1年に1回」というようにタームが非常に長いアンケートでしたが、『wevox』はどちらかというと「パルス型サーベイ」といって、頻度高く定点観測をしていくことでその変化をウォッチしていくという使い方を推奨しています。

基本的には1ヵ月に1回程度という頻度で定期的にアンケートを取っていき、その変化を測定していくという仕組みです。会社によっては「2週間に1回」「3ヵ月に1回」という頻度で使用しているケースもあります。しかし80%弱の会社が月1回の頻度で定点観測をしています。また、さまざまな企業に使っていただいていますので、類似した業界の会社とのスコアリング比較や、同じ規模感の会社とのスコアリング比較も可能です。

ダッシュボードでは、チームの様々な状況が数値となって見えてきます。これは犯人捜しをするということではなく、会社のどのチームがどういう状況なのかを把握して改善に活かしていくための機能です。事業のKPIについては日々真剣に追っていても、組織のKPIとなるとほとんどの会社が把握していません。しかしじつは、組織を改善していくことと事業を改善していくことは、会社を運営するうえではほぼ同義です。組織を改善するうえで、エンゲージメントという概念を使っていただければと思っています。

離職防止や定着率向上の効果を確認

具体的に『wevox』を通してわかってきたことをお話しします。よくある従業員満足度調査で、「給与への納得感が低い」という結果が出たとしましょう。それに対して、「給与や労働分配率を上げたらいいんじゃないか」という議論をしている会社がある。ところが、我々のデータ上で見ると、エンゲージメントスコアが低くて日ごろの業務やモチベーションへの影響度が低いものについては、改善しても会社のパフォーマンスの向上にはつながりません。

「経営陣への信頼」や「自己成長への支援」という、影響度が高くてスコアが低いものこそ、優先的に取り組むべき経営課題だと考えるべきです。「どこを変えていったら会社は伸びていくか」「どこを変えたら従業員のエンゲージメントが高まるか」ということをしっかりと理解し、優先順位をつけて改善してもらうというのが、このサービスのねらいです。

「会社全体のエンゲージメントや生産性が低く意欲がない」と思っていた場合でも、実際には部署や役職ごとにスコアが異なる場合がほとんどです。さらには、「若い人ほどエンゲージメントが低い」と思われていても、我々のデータ上では逆だったりします。部長クラスないしは課長クラスという管理職層のエンゲージメントが低い会社も、じつはかなり多く存在します。

エンゲージメントを計測するひとつのファクターとして、「経営陣に対する信頼」という項目があります。本来であれば経営陣にいちばん近い存在である部長が、経営陣といちばん強い信頼関係を構築しているはずでしょう。でも、ある会社のケースでは「経営者に対する部長の信頼度がゼロ」という結果が出ています。このような事実は、データをとるまではほとんどわからなかったことです。しかし、それを理解することにより、「まずは管理職と経営陣の信頼関係構築をねらい、コミュニケーションの強化をはかる」という策を打ち出し、課題解決に取り組むことができます。

『wevox』の定点観測によりエンゲージメントを計測することで、離職の防止や定着率の向上につながるという効果も確認されています。今回は、複数の会社の新卒の社員の方々のエンゲージメントのデータを集計したものをご紹介します。「意欲満々で入社した新卒の方々のエンゲージメントはゴールデンウィークあたりから1回低下し、10月にはもう1段階下がる」という傾向がすでに出ています。企業がそのタイミングで新卒を対象としたアンケートを取ると、「部署に配属されてから、上司から職務上の支援をしてもらえていません」などの声が浮上してきたりします。そのタイミングで人事や経営陣がフォローアップすることで離職率を下げ、定着率を向上させることができたケースもありました。

さらに、営業1課・営業2課というように同じような職務内容のチームを抱える会社で、チームごとにエンゲージメントは全然異なるという結果も出ています。例を出して説明します。ある会社において、同じ人数で同じ商材を売っている3つの営業チーム(A、B、Cチーム)があり、いちばんパフォーマンスが高い営業Aチームが、いちばんエンゲージメントスコアが高いという結果が出ました。おそらく、エンゲージメントを高めているマネージャーがいて、それによってパフォーマンスが上がっているのだと思います。実際、エンゲージメントが低いBチーム、Cチームというのは、Aチームに比べてだいぶパフォーマンスが劣っていました。Aチームのやり方やノウハウをB・Cチームに伝承することで、パフォーマンスは向上していくでしょう。

「マネジメント能力の向上」という恩恵も

エンゲージメントスコアは、「マネジメント力の均質化」をはかるという目的においても活用されています。多くの企業において、マネジメントはマネージャーの能力や力量にゆだねられるケースが見受けられます。マネージャーの能力やマネジメントの進捗状況というのは経営陣の方も判断しづらく、どうしてもパフォーマンスだけを見がちです。

『wevox』を使って経営改善をはかっている会社では、マネージャーの方々が横軸でマネジメントスコアを共有し、スコアが低いチームについて全マネージャーでディスカッションして解決策を練っていく、という形態をとっています。また、スコアが高いチームのマネージャーが、「自分がふだん、どのような取り組みをしているか」とか「業務を推進するうえで、どういったところに気を配っているか」ということをほかのマネージャーに共有することで、全体のマネージャーの能力の向上ないしはマネジメントレベルの均質化をはかっていくことができます。

さらに、「マネジメントレイヤーを巻き込める組織は、エンゲージメントが改善する傾向にある」ということも判明しました。その一方、役員や人事だけでデータを保有して管理している会社は、エンゲージメントの改善につながっていないというデータも出てきました。これは、組織を変えていくうえでは、現場のリーダーの方々が必死になって努力をすることが重要だということを意味しています。

そのために、年に1度の従業員満足度調査ではなく、月1回の頻度でエンゲージメントスコアを計測して、改善にむけて取り組むことが大切だと思います。エンゲージメントを計測するツールは世界にいくつかありますから、必ずしも我々のツールを使う必要はありません。エンゲージメントを正確に測り、その結果を共有するなり改善していくことがいちばんの早道だと考えています。

創業100年を超す老舗企業もエンゲージメント改革

ここからは、具体的な取り組みを紹介していきます。まずはLINEさんの事例をご紹介します。同社では、執行役員やマネージャーが中心となって『wevox』を使っていただいています。本体だけでなくグループ会社でも導入されています。スコアの低い会社の評価を下げるということではなく、「なぜスコアが低いのか」をマネジメントレイヤーの方々が徹底して共有・議論しています。それにより、チームの運営の仕方のレベルを底上げしていくことをねらっているのです。

また、株式会社福井さんという創業100年を超す老舗企業も『wevox』を導入しました。会社が100年続いたことにより、「どうしても古い体質を脱せない」ということで、「世代が変わったタイミングで本格的に改革したい」と相談をいただきました。『wevox』を組織改革の目玉として使ってもらい、「社員が自信をもって知り合いに入社をすすめられる会社」をめざし、組織改革に取り組んでいます。

一方で、ゲーム大手のコロプラさんは経営の意思決定にエンゲージメントを活用していて、『wevox』の結果をもとに行動テーマを策定しています。その結果、全社的に「挑戦する風土を高めていこう」というスローガンを打ち出し、会社が変わり始めました。また、名刺管理システムで有名なSansanさんは、エンゲージメントを高めるために社内制度を策定されています。『wevox』を活用し、なにが社内に足りないのかという問題について人事を中心として明らかにしていき、そのデータをもとに新たな福利厚生制度などを発案。「休暇制度を導入することで社員のエンゲージメントが高まった」ということです。このように、いろんな形でエンゲージメントを活用している組織があります。

大切なことは、エンゲージメントを高めるために外部の力を使うことではありません。「組織をよくすること」というのは、基本的には自社で継続的に終わりなき戦いをしていく必要があります。「事業」を運営することと「組織」を運営すること、基本的にはこの2つの両輪を回すことが会社経営です。そのうえで、事業側のKPIだけでなく組織側のKPIとしてエンゲージメントを把握して改善していくことが、これからの知識産業社会においてカギになっていくと考えています。

給与は平均レベルでも「離職者がほぼゼロ」の理由

Photo:INOUZ Times

最後の事例として、私が運営するアトラエという会社について紹介します。我々の組織づくりのコンセプトは、「意欲ある人が無駄なストレスなく働ける組織」です。概念としては、「ルールは最小化にして、倫理観を重視する」というものです。また、管理・干渉するシステムではなく、「性善説にもとづく運営」をめざしています。多くの方から「上場したらできない運営だ」といわれてきましたが、我々は若輩ながらも東証一部に上場できました。我々が掲げているコンセプトは、決してムチャなことではなく、現実的なものだと考えています。

それでは、我々の取り組みのなかから代表的なものについて説明します。まず、「出世・肩書」を完全撤廃しました。部長、課長、マネージャーという役職が存在しない「ホラクラシー型」と呼ばれるフラットな組織を運営しています。上司という概念がないので、評価制度については「360度評価」を軸として給与を決定しています。上司がいないなかで、全従業員が自ら能動的・自立的に判断して行動する必要があるので、従業員間での情報共有が重要になってきます。ですから、アトラエのもっている情報はすべての従業員の間で同じレベルで共有しています。

また、上場企業ですから当然ながらインサイダー情報があります。インサイダー情報については、基本的に全社員が保有しているので、株式の売買については全社員が私と同じレベルで規制されているという状況です。また、全社員がアトラエの株を保有しています。これは「特定譲渡制限付き株式」というもので、欧米では基本的に経営人向けのインセンティブとして出されるケースがほとんどだと思いますが、我々はこれを全従業員対象に出したという点で「日本で初めて」の会社です。

譲渡制限が解除されるまでには3年間の勤務が必要になるので、その間は譲渡できません。でも、配当権・議決権については分配されたタイミングから保有できることになります。ストックオプションと誤解されることが多いのですが、「インセンティブのような要素」というよりは「株主の目線になってほしい」「オーナーシップ、当事者意識をより強くもってほしい」という思いで、このような制度を導入したのです。

このように柔軟でユニークな組織づくりを心がけた結果、我々の会社の離職率は「年間で1人辞めるかどうか」という低さを実現しています。おそらく上場企業では唯一、予算計画のなかに退職対象人数を見込んでいない会社です。昨今のIT業界は流動性が高く、従業員の定着化が難しいという相談を多く受けます。その際は、「従業員のやりがいがある組織づくりをしていくと従業員は定着していくものだ」とお答えしています。

こんな話をしますと、「給料が高いんじゃないですか?」といわれます。でも、給与は平均的なレベルです。また、「まだ50人程度の従業員数だから、そんなことができるんじゃないか」と言われることもあります。しかし、従業員数が20人のときは「50人を超えると厳しいよ」といわれました。いまは「100人を超えると厳しいよ」と言われます。実際には、ヒエラルキー型の組織のほうが大きくなるにつれて弊害が増えていくと思っています。我々はどちらかというと、フラットで自立分散型の組織なので、基本的にはアメーバ的に拡大していくことが可能です。そのときのいちばんの問題は、「情報共有の徹底をいかに行うか」ということです。また、全体としての評価方法や給与の決め方について、透明性をもつことが肝心です。

「生産性向上」という難問を解く鍵

「民主主義的に意思決定が出来る仕組みをどうつくっていくか」ということについて説明します。我々の会社でも、どこかの会社を買収するとか新規事業を立ち上げるなど、いろんな意思決定が必要になってきます。これを50人全員で議論するのはなかなか難しいので、現段階では「プロジェクトリーダー」という役割を定め、プロジェクトリーダーを中心とした「意思決定委員会」のような組織をもうけています。全社のなかで「この人たちが意思決定をすべき人たち」「この人たちに任せておけば、大きくはズレない」という認識で、我々を代表して意思決定を行っています。その意思決定をした内容については、全社員にフィードバックをして共有されます。そこに異論があれば、当然差し戻されます。このような仕組みですが、いまのところまったく問題なく運営できています。

ただ、我々は試行錯誤しながら、ここまでたどりついています。「もっといい評価制度があるんじゃないか」という考えで半年ごとに改善しながら、オリジナルの評価制度をつくっています。終わりがない戦いです。社員のエンゲージメントを見つつ、エンゲージメントが下がったら原因をつぶしにいきますし、エンゲージメントが高いときは「維持するためにどう取り組むか」を念頭に運営しています。結果として、8期連続で一人当たりの生産性が向上し、高いパフォーマンスを出せる環境を維持することにつながっています。

私は、会社組織というのは「かかわる人が幸せになるためにつくりあげた仕組み」だと思っています。人生の大事な時間を投資して働く人こそが、いちばん大事なステークホルダーです。ただ、欧米型の時価総額経営をもち込んだことで、かつての日本企業の指針が少しゆるんできているような状況も散見されます。改めて、働く人がイキイキと働ける会社をつくっていってもらえたらと願わずにはいられません。日本の働く人たちのエンゲージメントが高まることで、日本が大きく成長していくチャンスはまだ十分にあります。日本企業全体が、「社員のエンゲージメントが高い組織づくり」に取り組んでほしいと考えています。

#1 収益性と生産性を2倍以上向上させる「エンゲージメントの正体」

新居 佳英(あらい よしひで)

株式会社アトラエ 代表取締役

1998年上智大学理工学部を卒業後、草創期のインテリジェンスに入社。
アントレプレナーシップならびにビジネスパーソンとしての基礎を学ぶ。
入社3年目には26歳にしてグループ子会社の代表取締役に就任。
その後2003年にアトラエを設立し独立。2016年6月には東証マザーズに上場、その後2018年6月には東証一部への市場変更を果たす。
現在は、求人メディア「Green」、組織改善プラットフォーム「wevox」、ビジネスマッチングアプリ「yenta」の3事業を展開。『世界中の人々を魅了する会社を創る』をビジョンに掲げ、全ての社員が誇りを持てる理想的な組織作りに創業以来こだわり続けている。

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