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収益性と生産性を2倍以上向上させる「エンゲージメントの正体」

最先端組織の実践者が語る改革の処方箋 #1

株式会社アトラエ 代表取締役 新居 佳英(あらい よしひで)

INOUZTimes編集部
収益性と生産性を2倍以上向上させる「エンゲージメントの正体」

2018年9月、「ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス」が開催されました。「働き方改革」を推進している企業のキーマンや「働き方改革」をサポートしている専門家のみなさんが、その実際を語りました。
※本記事はアトラエ代表の新居氏の講演パートから抜粋、編集したものです。

[概要]
ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス
2018年9月19日
主催:イシン株式会社
協賛:アトラエ、あしたのチーム、Chatwork、ヒューマンキャピタルテクノロジー、INTLOOP、AKASHI
協力:日本経済新聞クロスメディア営業局

[基調講演]
「成長企業が取り組むエンゲージメント経営とは?」

[スピーカー]
アトラエ 代表取締役 新居 佳英氏

※働き方改革カンファレンス (2018年9月)で行われたセッションより抜粋・構成しました。

日本企業が軒並み国際競争力を低下させた“敗因”

みなさん、こんにちは。アトラエの新居と申します。よろしくお願いします。さっそくですが、簡単に自己紹介をさせていただきます。私は、2003年10月24日に設立したアトラエという会社を経営しています。2018年6月には、東証一部に市場変更。事業内容は「HRテクノロジー」と呼ばれる領域で、人事・人材の採用・組織という領域を、テクノロジーでいかに改善させるかをテーマに事業運営しています。「ネットベンチャー企業」ということでご理解いただけたらと思います。

本日は、「成長企業が取り組むエンゲージメント経営とは」というテーマでお話しさせていただきます。まず、日本の置かれている環境について触れたいと思います。アメリカの調査会社であるギャラップが実施した調査によると、日本の仕事への熱意度は139ヵ国中132位という結果が出ています。これは発展途上国も含めての調査結果なので、経済大国かつ先進国である日本がこの数字というのは、非常に低いものであると言わざるを得ません。

また、公益社団法人日本生産性本部調べによると、日本の生産性は先進国のうち最下位であるとの結果が出ています。さらに、IMF(国際通貨基金)によると、日本の一人当たりのGDPは先進国中、最下位だそうです。こういった事実があって、昨今、政府主導で進められている「働き方改革」につながってくるのであろうと。「いま、日本は非常に厳しい状況に置かれている」という認識で間違いないと思います。

次に、世界の企業の時価総額を見てみましょう。平成元年と平成30年を比べると、元年の「世界のトップ時価総額ランキング」は50社中32社が日本企業でした。しかし平成30年には、トヨタ自動車だけが唯一ランクインしている状況です。他国の企業の時価総額は右肩上がりです。とくにアメリカ企業と中国企業の成長は目を見張るものがあり、この30年間で大きく飛躍しています。日本企業の衰退について「失われた20年」といわれていましたが、もはや「失われた30年」というところに、いよいよ足を踏み込んでいるのではないかと思っています。

この30年間、なぜ日本が成長していないのかについては、諸説あると思います。経済学者の方もさまざまなことをおっしゃっています。私からは「組織」もしくは「働き方」という観点からお話ししたいと思います。まず元年は、「ピラミッド型の多重下請構造」が日本企業の主流で、いくつもの会社と会社が取引をしているという業態が大半を占めている時代でした。

当時の日本を支える産業は、製造業を中心とした産業構造でした。その労働内容は、基本的には肉体労働が多く存在していました。そのような事業体においては、オペレーションの効率化こそ競争力の源泉になっていたのだと思います。一方で、30年経った現在は、インターネットの普及により消費者と生産者が直接的につながる時代になってきました。また、産業においても情報通信産業へとしだいにシフトし、製造業も情報通信産業の影響を受けるような時代に変化してきました。労働内容についても、知識労働へと移り変わり、創造性と革新性を発揮することが組織に求められる時代に突入しました。日本企業が衰退したいちばん大きな原因は、この30年の流れについていけなかったことだと思っています。

「管理型マネジメント」の時代は終わった

Photo:INOUZ Times

インターネットは、基本的な概念として「自分たちで独立していること(自立)」「離れていること(分散)」「互いに作用していること(協調)」という3つの特徴をもっています。逆にいえば、権利をもっている人、管理する人、コントロールする人がいない。これが、インターネットがインフラたるゆえんです。じつはこれはインターネットだけでなく、「組織にも適用する必要があった」といわれています。インターネットの存在によって世の中のビジネス構造が変わってきているので、組織もそれにあわせて変わらなければならなかったのです。しかし日本の組織は、残念ながらこの30年間、変化に対応できなかったわけです。

その一方で、現在の世界時価総額ランキングで上位に位置する企業は、変化する時代において大変柔軟に対応しています。Amazonは全社員がリーダーシップであったりオーナーシップであったりというプリンシパルをもち、全員が徹底してそれを追求し、評価制度にも組み込まれています。Googleは情報をオープン化していて、全情報に全社員がアクセスする権限をもたせています。またFacebookは「move first」という言葉を会社の理念として掲げ、「よいと思ったら早く動くために現場で判断しなさい」という運営をしています。このように、現代においては自立分散型の組織をつくることにたけた会社が、世界のトップ企業に名を連ねています。

簡潔にいうならば、「マネジメント」という言葉が指す役割が、この30年間で大きく変化したこということです。平成元年のマネジメントというのは、業務遂行をしっかりと管理し、オペレーションを効率化することで生産性を向上させ、なおかつミスが出ないようにする、ということでした。それが、創造性や革新性を重視しなければいけない現代の組織におけるマネジメントは、管理したりチェックしたりするということではなく、社員の意欲を高めて創造性を発揮させる、ということに変わってきているのです。

変化の速い業界では「自立分散型組織」しか生き残れない

昨今、組織に関するビジネス書が売れています。とくに「ティール組織」や「ホラクラシー組織」についての本は、非常に多くの方が参考にしていると聞いています。これは、マネジメントの変化ないしは組織変化の必要性という課題において、多くの日本のビジネスパーソンやビジネスリーダーの方が「組織の新たな形」を模索しているということのあらわれだと考えられます。

ビジネスモデルが変わり、産業構造と競争環境が変わったことにより、組織も大きく変わる必要があります。いままでのヒエラルキー型の組織ではなく、より自立分散型のホラクラシー組織が注目されつつあるということです。自立分散型の組織というのは、センターで誰かが権限を持っていてそこから命令が下される組織ではなく、権限が現場に委譲されていて、現場が自分の主体性をもって能動的に動ける組織体というイメージです。このホラクラシー組織というのは、「階層がなくフラットな組織」と言われています。アメリカの学者が最初に提唱し、ここ5年くらいで急速に注目が集まっている新しい組織の在り方です。

当社も上下関係がないフラットな組織運営をしています。さまざまな取材で聞かれるのは、「どんな企業でも、ホラクラシー型組織を導入するべきでしょうか?」という質問です。私自身は、組織形態に正解の形はないと考えています。Amazon、Google、Facebook、いまの世界時価総額ランキングにランクインしている企業を見ても、組織のあり方や運用の仕方、ルールのつくり方は各社でまったく異なっています。いろんな組織体があってしかりです。

いちばん重要なことは、環境、業務、人材という要素にもとづいて、各社が適切な組織形態を選択していくことです。たとえば、変化のスピードが非常に遅い環境でビジネスをしている業界の会社、または業務がオペレーション中心で回っている会社、あるいは抱えている人材のタイプが保守的な方が多い会社。それならば、ヒエラルキー組織のほうが社員にとって幸せな環境で、生産性の向上も期待できます。

一方で、当社が属するようなインターネット業界については、変化のスピードが大変速い環境でビジネスを展開しています。また、労働集約的な業務内容は少なく、クリエイティビティの高い業務が多くあります。そのような業界ですから、採用している人材も「意欲が高くて挑戦的な人間」という特徴をもっている人が多くなります。こういう会社においては、フラットに近い組織体のほうが、自分たちの知恵もしくは創造性、革新性をイキイキと発揮できるといえます。どの企業も、このヒエラルキー組織とフラット組織の間でグラデーション的に配置されていくべきです。各社・各業界によってまったく答えは異なるものだと思いますので、経営リーダーの方が中心となって模索し続ける必要があるでしょう。

業績・創造性・革新性と明確な因果関係

そんななか、いちばん大事な要素をあげるならば、「あらゆる企業が社員の意欲を高め、知恵や力を最大限活かすこと」です。そしてそれは「社員のエンゲージメントが高い状態をつくりあげること」と同義であるということです。それでは次に、このエンゲージメントという概念についてお話しします。エンゲージメントとは日本語で、「組織や仕事に対する自発的な貢献意欲」あるいは「当事者意識」と訳されるケースが多いです。自らが積極的に組織や仕事に対して意欲をもって取り組むさまを表しています。

「モチベーション」や「従業員満足度」といった言葉とは異なります。まずモチベーションというのは、個人が感じる「動機」の部分です。たとえば、「家族のために仕事をがんばろう」というのは動機です。これによって「生産性とか革新性、創造性が増す」という事実は、データとして確認されていません。モチベーションは、あくまでもひとつの重要な要素です。

また、「従業員満足度」というのは「職場環境や給与、福利厚生などへの満足度を示す指標」です。そして、組織が従業員に一方的に与えるものでもあります。従業員満足度調査をわかりやすく言うと、職場環境を整えて給料を少し上げ、福利厚生を整えて社食をつくるなどすれば必ずスコアは上がります。残念なことに、これによって生産性が上がるというデータも一切ありません。どちらかというとコストアップ要因になるので、営業利益率が下がる傾向にあります。組織としてなにか実現したいことが実現できるようになるかというと、そうではありません。

日本の会社は長い間、この従業員満足度を大事にしてきました。しかし我々は、これからいちばん重視すべき要素はエンゲージメントという概念だと考えています。エンゲージメントとは、従業員が仕事に対して「主体的かつ陽気に取り組んでいるか」という状態をスコアリングしたものです。「エンゲージメントが、業績、創造性、革新性と明確な因果関係にある」ということが、複数の研究機関で明らかになっています。

ギャラップ調べによると、エンゲージメントが企業に影響する項目について、収益性が22%、生産性が21%、EPS(1株当たり当期純利益)が47%、顧客満足度が10%ほど向上することが確認されました。一方で、品質の欠陥は41%、事故は50%、欠勤は37%減少することが判明しました。すなわち、エンゲージメントは直接的に会社の生産性であったりミスのレベルであったり従業員の定着率に対してポジティブな影響を与えるということがわかっているのです。

欧米においては、約15年前からエンゲージメントという言葉が使われてきたそうです。昨今は、日本においても「働き方改革」というキーワードが企業経営者の方々を中心として広まり、エンゲージメントというものが注目を集め始めています。我々は、エンゲージメントを測定するアンケートツールを提供している会社です。実際、400社以上の企業が我々のツールを使い、エンゲージメントを組織やマネジメントに活かしています。多くの日本企業がいま、組織やマネジメントのあり方、従業員の意欲を高めることに対して課題意識をもっているということのあらわれでしょう。

青学陸上部との共同研究でわかった“事実”

じつはエンゲージメントは、スポーツの世界でも注目を集め始めています。我々は、青山学院大学の原晋監督が率いる陸上部の方々と、エンゲージメントとスポーツのパフォーマンスの関係性について共同研究を開始しています。すでに青学の陸上部の方やほかの運動部の方も含めていろいろな調査をしていて、「強いチームはエンゲージメントが高い」ということがわかっています。

実際、連戦連勝している青学の駅伝チームについて、これまでさまざまな分析をしたにもかかわらず「強みが何なのか全然わからない」ということがありました。しかし我々が調査したところ、エンゲージメントスコアが明らかにほかのチームより高いというデータが浮上しました。エンゲージメントは、スポーツの世界でも大きな影響があると考えられます。とくに日本人は、チームにおいてベストなパフォーマンスを出すというケースが多々あります。昨今のサッカーの日本代表、陸上男子、女子カーリングなど、日本人選手はチームになった瞬間に高いパフォーマンスを発揮するという特徴があります。これはまさにエンゲージメントと関係性があると捉えられるのです。

#2 「エンゲージメント経営」に舵を切った成長ベンチャー企業たちへ続く

新居 佳英(あらい よしひで)

株式会社アトラエ 代表取締役

1998年上智大学理工学部を卒業後、草創期のインテリジェンスに入社。
アントレプレナーシップならびにビジネスパーソンとしての基礎を学ぶ。
入社3年目には26歳にしてグループ子会社の代表取締役に就任。
その後2003年にアトラエを設立し独立。2016年6月には東証マザーズに上場、その後2018年6月には東証一部への市場変更を果たす。
現在は、求人メディア「Green」、組織改善プラットフォーム「wevox」、ビジネスマッチングアプリ「yenta」の3事業を展開。『世界中の人々を魅了する会社を創る』をビジョンに掲げ、全ての社員が誇りを持てる理想的な組織作りに創業以来こだわり続けている。

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