個人の成長=会社の成長につなげる
株式会社JAM 水谷 健彦(以下、水谷)
後編は「人材の育て方」編です。単刀直入におうかがいします。人材を育てる秘けつは、ズバリなんなのでしょうか。
and factory株式会社 小原 崇幹(以下、小原)
まず「個人の成長=会社の成長」という意識をもつことです。個人の夢を実現するフィールドを用意することで、会社の成長にもつながっていくんです。たとえば、アプリ事業の責任者をやっているメンバーの話でいうと、彼の夢は、「電車に乗って、座ったときに隣の人がぼくらのつくったアプリを使っている。そういう光景を日常にしたい」といったものでした。「じゃあその夢を実現するためには、どれぐらいの月間アクティブユーザー(MAU)とかダウンロード数が必要だろう」とか「それを目標とするときにねらえる市場はこれだよね」とか。目標にフォーカスをしたうえで会社として細部を決めて事業を成長させていったんです。
水谷
その責任者の成長は会社の成長にもつながったんですか。
小原
ええ。もういまでも、日本市場におけるナンバーワンに近い位置にいるんですよね。ダウンロード数とか MAU でいうと何百万人以上の方々が私たちのアプリを使ってくれている。だから、もうかなり彼の夢にも近づいていますし、会社の成長にもつながっています。「目標がぶれないっていうのは事業の成功にこれだけ直結するんだな」って実感しましたね。
水谷
でもそれって幹部レベルだと実現しやすそうですが、メンバーのみなさんについてはどうですか。
小原
メンバーでいくと、事業に対する目標やモチベーションというよりも、エンジニアだったら「スペシャリティをもちたい」とか、デザイナーだったら「賞を取りたい」とかっていうのがあるんですよ。で、そういった目標に対して会社として日々アクションで返している。結果、3名がグッドデザイン賞を取っています。エンジニアに対しては、勉強会への参加だったりセミナーへの登壇だったりとかでモチベーションを満たしていくアクションを起こしています。
ただ、みんなのもつ目標って到達点がない場合も多いんです。たとえば、「スキルを高めたい」。明確な到達点ってないので、会社がスキルアップできる環境を与えるとか。目に見えるカタチでそれをどう表現するかっていうのを一人ひとりに対してやっていますね。
水谷
なるほど。ただ、いまの世の中、目標や夢がボヤっとしている人が増えていますよね。and factoryの場合、採用の段階で目標が明確な人材を選んでいるんですか。
小原
そうでもないですね。採用時に明確な目標の話が出た人でも、結果、モチベーションが落ちる人もいますし、入社後に目標がぶれていく人もいっぱいいます。なので、モチベーションの高い雰囲気のなかで働けるよう、会社としてモチベーションの平均点をあげるような施策をいろいろとやってきました。たとえば、けっこう早い時期からお昼ご飯を無料にしました。社員が一人ひとりネットで注文してそれが無料で届くんです。で、そのランチの時間が、みんなと夢を語らうきっかけになる、という。そういう細かい施策をたくさんやってきました。オフィス環境とか福利厚生の充実って、なにかにつけてモチベーションの平均点をあげるのに役に立つんです。
なので、そういうところから満たしていって、その人に本質的な目標ができた場合に、かなえられる環境を用意できるんだったら用意する。用意できないんだったら順序をつけて、「用意できるようになるまで、当面、こういう成長ができるかもしれないよね」っていうのをちゃんと伝える。それをおりまぜているのが現状です。
水谷
なるほど、環境によってモチベートされているっていうことですね。ただ、環境整備がかえって甘やかしになってパフォーマンスにつながらない場合も多いと思います。そのへんはどうですか。
小原
甘えにはなると思いますし、導入したものがなくなるとダメージが大きいですよね。なので、なくすときも導入するときも、必ず理由を全部伝えています。ちゃんと伝えることでじゃあしょうがないねって受け入れられる可能性は高まるかなと思っています。
水谷
なるほど。夢を気軽に語りあえて、こういう成果出たらこう近づくよ、みたいな話が日常的にとびかう環境があるわけですね。いうなればちょっとパラダイス感があると。ただ、どうしても人間って日々努力することが失われていったりする動物じゃないですか。
小原
ええ。でも、当社では本当に失われずにいるんです。たとえば、アプリの事業部長はだれよりも働くんです。だれよりも働いて部下のミスもカバーして、つねに前線に立って、すべてのものごとを動かすんですよね。そうなると、部下は「この人と人間的な感じでつながっている」という気持ちになる。なので、「この人ががんばっているから自分もがんばろう」っていう。会社の立ち上げ当初は、夜中2時3時にミーティングするとか、めちゃくちゃ働いていました。
でも、いまは普通に残業1~2時間ぐらいでみんな帰っていますよ。たまに残っている人たちがいたら、ピザを振るまうとかして(笑)。
水谷
なるほど、ありがとうございます。
社員と向き合うことで離職率を1.5%に
小原
あと、人材を育てるために欠かせないのが、全社員面談です。社員の現状に対する不満なんかをしっかり聞いて、会社としてできることならすぐにアクションを起こしていく、という繰り返しです。
水谷
やりたいことをかなえている社員さんってたくさんいるんですか。
小原
まだかなっていない人もいますね。かなうことがないというか、終わりがないモチベーションのほうが多いんですよ。ただ、いま、社員が「会社を辞めてない」っていうのは私の自信につながっています。
水谷
and factoryの離職率、1.5%ですもんね。
小原
職場の雰囲気がよくて楽しく働けて、働いた結果に対して称賛される文化がある。言葉にしちゃうと簡単なんですが、個々人にとってフィット感がある職場っていうのが重要な部分かなって思いますね。
あとは、社員の目標や不満に対して経営層がアクションをしっかり見せていって、社員に納得感があるっていうのが私たちが成功した要因だと思っています。アクションの一環として、ウチはイベントが多いんですよ。春は花見をしたり、夏は屋形船でご飯食べたり、そういう一つひとつの積み重ねなんですよね。そうやってつくってきた環境が、規模が大きくなってもワークしているっていうのはやっていてよかったなと思います。
水谷
そもそも、小原さんはなぜ会社をつくったんですか。
小原
やりたいことをやるためには個人のチカラだけでは限界がありますから。じゃあ組織のパワーが必要になったときに、「居心地のいい仲間とつくりたい」っていうのでつくったのが当社です。で、仲間たちの目標をかなえ続けていったら、いまになったみたいな感じです。
水谷
自分たちの心地よい場所をつくったらそれは会社でしたって感じだったんですね。だからこそ、個人個人の夢をかなえることがとても大事っていうことですよね。
小原
個人のモチベーションは本当に事業に直結する。それを、私はすごく痛感していますし、多分、経営者のみなさんが痛感していることだと思います。社員の人たちって、経営者や上層部がどういう想いでなにをしているかって、細かく見ているし、評価もしているんですよね。その評価は彼らが判断することなので、アクションの積み重ねで感じてもらうしかないんですよ。それをすごく痛感するできごとが多くありました。
水谷
たとえば、どんなことですか。
小原
設立当初、たまたまタイミングがあわずに、私との会話の時間が少ない人たちがいたんです。となると「社長はぼくらの事業には興味ないんだ」とか「仲間を集めてはじまった会社だから、その仲間とぼくらでは対応に差があるよね」みたいにいわれて。しかも、いちどそう思われてしまうと、モチベーションの源泉をそぐことにもなるし、「働かされてる感」も出てきちゃうし、これはダメだなと痛感しましたね。
水谷
その状態の人たちは結果どうなったんですか。
小原
結果、辞めずに活躍してくれています。その状況はダメだと思ったので、「たまたま時間なくて会話する時間が減ってしまったんだよ」っていう説明をしっかりいいました。その人たちの不満をしっかり聞いて、それに対してアクションを起こしていきました。人って結果と行動で判断すると思うので、実際に起こしたアクションで評価をしてもらう、っていうのを積み重ねていまにいたる感じです。
水谷
離職率1.5%ですもんね。そういう人たちさえ、なじんでいくわけですか。
小原
たとえば、ITベンチャーっていうとリモートワークを導入するところが多いと思うんですけど、ウチはまったくしていなくて。それに対して不満をいう人もいるんですけど、結果、退職してないですね。リモートワークじゃ解決できない問題が起こったときに、みんながいるから解決できた。そういう体験をいっぱいしているので。そういうので文化を感じとってもらって残ってくれているのかなと思います。
会社の雰囲気や風土、なにをめざしていくべきか、っていうところは社員に浸透していて、「ウチの会社ってこうだよ」っていうのを文化として伝わっていっているので、いまの会社の雰囲気があるんだと思います。
水谷
ありがとうございます。and factoryはそういうスタイルで経営して上場したわけですよね。上場あるあるとしては、投資家に向けた数字づくりに意識が行ってしまって、社内で「このクォーターあといくら」みたいな会話が増えてしまうことがあります。and factoryはそのあたりはどうでしょう。
小原
IoT とアプリケーションは、日々の運用の積み重ね。なので、一瞬だけがんばってもなにも変わらないんです。上層部が市場との対話と現場の調整をミスらなければ成長できると思っているので、上場したからといって社員になにか強く求めたり変わったりしてもらうことはありません。
数年先の未来をイメージしそれを繰り返す
水谷
なるほど。会社の成長に対してはどのくらいの時間軸で考えていますか。
小原
大事にしているのは数年先のイメージですね。そのぐらいのスパンで、社員が描く未来が手に入れられるような会社であったらいいなっていうのは思っています。そのためには大前提として会社が伸び続けていて、みんなが居心地のいい会社を3年先も保ちたい、それをずっと続けている感じですね。
水谷
なるほど。3年先ぐらいを見て社員がうちの会社イケてる、うちの会社雰囲気がいいなって思い続けることをどう実現していくかを考えているってことですね。
小原
そうです。ウチはいま、リファラル採用がすごく増えていて「ウチの会社、居心地いいし成長しているし楽しいし来なよ」って社員が知り合いにいってくれるんですよ。なので、たぶんうち採用教育費は他社に比べて圧倒的に少ないです。しかも、上場企業のなかでは珍しく離職率を計画に盛り込んでないんですよ。採用教育費を多めに積まなくていい環境はウチの数字に対して大きなインパクトを与えています。リファラル採用には奨励金をつけていますが、それでも転職エージェントを使うよりはるかにコスト効率いいですし、私たちが信じている仲間が「この人だ」っていって紹介して入ってきてくれるので、クオリティが担保しやすいと感じています。
水谷
ありがとうございます。では、最後に経営者のみなさんへのメッセージをお願いします。
小原
いろいろ偉そうにお話しをさせていただきましたが、正直、まだ私も試行錯誤でやっていることのほうが多いです。ただ、社員がどれだけ多くなっても、一人ひとりが集まっているのが会社なんだっていう部分を理解してアクションを起こすっていうのが私たち経営層がいちばん伝えられるメッセージですし、社員っていう仲間に対して時間を投資するっていうことが会社の経営効率をよくするいちばんの投資かなと思います。ぜひ、そういうところは経営層の仲間として一緒にチャレンジできればなと思います。今日はありがとうございました。