自治体のほうからアプローチしてきた
INOUZTimes編集部(以下、司会)
本日は自治体や官公庁における公共入札マーケットの攻略方法をお聞きするということで、実際にマーケットに参入しているコロプラの酒井さん、そして日本最大級の入札マーケットサービスを手がける、うるるの桒田さんをお招きしています。さっそくですが桒田さん、そもそも公共入札マーケットに参入するメリットはなんでしょうか。
桒田
入札市場の魅力はなんといっても「市場規模」「案件量」「信頼性」。この3つでしょうね。
まずは「市場規模」。スマホやコンビニの市場を超える年間20兆円の市場規模。しかも不況に影響を受けづらく安定的であることはなによりも魅力です。また入札というと、どうしても橋の建設など「工事」をイメージする人が多いのですが、約6割程度は工事ではない、システム開発や観光調査、イベント運営など、さまざまな案件なのです。
「案件量」も年間175万件と非常に豊富。近年は中小企業庁などが主導して案件を小わけにして発注しているために、中小企業でも参入しやすい市場になっていますね。
3つ目の「信頼感」について。ホームページなどに取引先実績として官公庁や自治体を載せるだけで、会社信用度が変わってきます。さらに国や自治体が相手ですので、支払いの遅延がないことから、マーケット自体に高い信頼性があるのも魅力ですね。
司会
魅力的なマーケットですね。それでは実際に公共入札マーケットに参入しているコロプラさんにお聞きします。まず、コロプラさんというと『白猫プロジェクト』や『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』といったゲームのイメージがあって、公共分野で事業展開しているのは意外でした。どういうことをやっているのでしょうか。
酒井
位置情報ビッグデータを活用した調査・コンサルティング業務がコアになっています。おっしゃる通り、コロプラはいまでこそゲーム事業が有名ですが、もともとは位置情報を活用するエンジニアリングを保有する会社。ですので、その技術力を自治体向けサービスに適用しているんです。
たとえば「観光」でいうと、どこに隠れた人気の観光スポットがあるか、お昼はどこで食べているか、など観光客の動態を調査して次なる施策に結びつける、といったサービスです。さらに、一昨年あたりからは「交通」や「まちづくり」など東京オリンピック・パラリンピックに向けての混雑緩和や渋滞対策の分析も手がけています。
おかげさまで、これまで手がけた自治体向けの案件は150件以上。6月には国立大学法人琉球大学工学部附属地域創生研究センターさん、株式会社OTSサービス経営研究所さん、沖縄セルラー電話株式会社さん、沖縄セルラーアグリ&マルシェ株式会社さんと連携して、沖縄のビッグデータ活用に向けて動いています。
司会
なるほど。では、そもそもなぜコロプラさんが入札マーケットに参入したのでしょうか。なにかきっかけはありますか。
酒井
なんといっても東日本大震災ですね。当社は位置情報技術を活用したゲームを開発。人がたくさん歩くと、ゲーム上の通貨がたくさん手に入る仕組みをつくり、「ゲームを通じて外をどんどん歩こう。お出かけを活性化しましょう」ということをめざしていました。ところが震災をきっかけに、お出かけが自粛ムードになってしまった。コロプラとしてはどうするべきか困ってしまいました。
そこではじめたのが位置情報を活用して、お出かけの客観的なデータを発信すること。たとえば「東北自動車道の復旧後、東京から岩手・宮城・福島3県への人の移動は震災前の水準に戻った」といったデータです。これにより「東北は壊滅してしまった…」といった風説の流布や風評被害をなくすことにもつなげようと。
これが評判になり、メディアに連載記事を書かせてもらうようになると、自治体からの問い合わせが来るようになりました。「一緒になにかやれませんか」という話をいただいたのが最初のきっかけでしたね。そこでできることを検討していくなかで、「自社の資産である位置ビッグデータを活用すれば、観光調査やまちづくりで自治体の役に立てるのではないか」と気づいたのです。
初案件を突破することがなによりも重要
司会
桒田さんにお聞きします。一般的に参入のきっかけは、どういった理由が多いのでしょうか。
桒田
一般的にはコロプラさんのようなきっかけはまれです。「官公庁や自治体から連絡が来る」ということはほとんどありません。「売上を伸ばしきれない」とか「新規を開拓しきれない」と課題を感じられた企業さんが、新しい販路として入札市場に自ら取り組むケースが多いですね。
製品やサービスによってはなにも工夫することなく入札市場に参入できるケースも意外に多いんです。とくにシステム開発や広告プロモーション、動画制作、イベント運営などは、新しく自治体向けにサービスを刷新する必要がありません。いまあるサービスをそのまま入札のマーケットに広げればいいのです。変えるとしても製品の名称を自治体向けにあわせるぐらいでいい。
司会
既存の製品・サービスの新しい販路として入札市場を選ぶケースが多いんですね。では、実際に参入するなかでぶつかる壁はなにかありましたか。
酒井
最初の案件を確保することでしょう。入札はなにより1案件の実績をつくることが重要です。1つ案件の実績があれば信用となって次に広がっていくので、その1案件の確保が大きな壁となります。
当社の場合、自治体向けにすでに実績のある旅行会社さんと大手代理店さんとともにパートナーシップを組みました。先進的な取り組みを行う自治体はいくつかあって、そうした自治体とパイプをもつ会社と連携することが大事でした。こうして最初の壁はタッグを組んで突破していきましたね。
ただ、販路を広げようとしたときに出てくる次の壁は「情報収集」です。自治体の施策のトレンド、予算のつけ方、過去どういう自治体さんをどこがとったのか、という情報を網羅的に把握したい。でも、それを自社で調査するというのは非常に困難です。そこで、うるるさんの『NJSS』のような入札情報サイトを活用しています。検索において大量のデータを保有しているので大変ありがたいですね。
司会
そもそも、なぜ自治体の情報収集は、そんなに難しいのでしょうか。
桒田
そうですね、地元の役所さんのホームページをイメージしたらわかりやすいかもしれません。ひかえめにいっても使いやすくはない(笑)。あのホームページから入札の情報を探すというのは、かなり手間なんですね。
さらに、世の中どれくらい発注機関があるのかというと、自治体や官公庁、外郭団体含めると7,600以上あります。7,600ものわかりにくいホームページを網羅的に見るというのは、現実的ではありません。それに、入札結果などの情報は、少し時間が経過すると消えてしまっている状況です。こうした環境により情報収集が難しいので、当社の『NJSS』のような情報サイトが必要になってきます。
発注案件のトレンドは数年で変わる
司会
すでに150件以上の公共案件の実績があるコロプラさんだからいえる、「自治体と仕事をするうえで気をつけるべきこと」はなんでしょう。
酒井
まず、自治体の求めるテーマがすぐに変わってしまうことですね。「一昨年にこういう商品がヒットしました」といっても、その翌年にはテーマが変わっています。だから、ニーズの変化をとらえる必要があります。
たとえば、当社が参入した最初の数年間は「観光」や「ビッグデータ」、「調査」といったタイトルの案件で検索ができましたが、2015年あたりから「観光振興計画の策定」、「観光プロモーションの策定」と、もう一歩踏み込んだテーマが増えてきました。
そして、いまでは観光・ビッグデータの調査から「交通」や「まちづくり」の分野で、渋滞対策にビッグデータを活用する案件が出てきています。自治体のそうした変化をとらえていくのが大切ですね。
そのほか、入札マーケットは繁閑の波があることも注意するべきです。自治体は年度末が3月なので、「2月と3月で年間の6割から7割の売上が立つ」という、かたよりがあるビジネスモデルになっている。人員の配置調整など組織設計も気をつけなければなりません。
もうひとつ、自治体担当者との関係構築もおろそかにできません。自治体はローテーションがあって担当者も2年に1度くらい異動してしまいます。代理店やコンサルティング会社ではそのつど、新任の方に「よろしくお願いします」と関係継続の挨拶ができますが、当社のように全国各地に支店がない事業者はそうした接点が十分にできません。だから、代理店や旅行会社などのパートナーシップとの柔軟な連携も大事ですね。
司会
ありがとうございます。参入の段階では、自治体の担当者へ向けた、メディアや広告を通じたアプローチは効果的なのでしょうか。
酒井
自治体に対してウェブプロモーションだったりするのは、現状ではなかなか効果が見えないと思います。効果的なのは「近隣自治体で導入している」という実績がやはりいちばんいいですよね。
そのほか、本日主催のイシンさんが発行する『自治体通信』さんのような紙媒体も効果があります。自社サービスを集中的に取り上げる別冊版をつくって全自治体に配本したり、紙媒体に記事広告を出すだけでも変わってきます。あとは、パートナーの代理店やコンサルティング会社の提案書や商品紹介に入れてもらって、宣伝したりすることも大切ですね。
司会
そのほか、入札マーケットにおいて一般的に気をつけることはなにかありますか。
桒田
はい。意外と単純ですが「入札資格の申請漏れ」はよく耳にしますね。入札は基本的に入札資格が必要になりますが、1年で切れるものもあれば3年ぐらい継続できるものがあったり、さまざま。大丈夫だと思っていたところ入札の直前になって期限が切れていたというケースはよくあります。とくに自治体ではそれぞれ入札資格の期限が異なったりするので、エリアを広げていくには、社内でサポートチームを整えるなど、しっかり準備をする必要がありますね。
司会
地域的に「まずはこの地域から行ったほうがいい」という戦略はありえますか。
桒田
エリアの広げ方について、よくあるパターンをいくつかご紹介します。まずは本当に自分が行きやすいところから攻めていくというパターン。実際に現地に足を運んで担当者と顔を合わせることはやはり有効ですよね。
次によく聞くのは少し離れたエリア、東京から見たらたとえば山梨や茨城、筑波などを攻めていきます。応札する企業が少ないエリアは落札しやすくなるので、少し都心部から離れたエリアから案件を広げているというケースです。
あとはコロプラさんのケースのように先進的なサービスでは、積極的に新しいものを取り組んでいる首長さんもいるので、そういった自治体さんへアプローチしていく必要があるでしょう。
司会
入札マーケットでは、競争入札を行わず任意で契約を交わす「随意契約」、「落札方式」、公募による「プロポーサル」など、いろいろありますが、コロプラさんでは実際のところどれに的をしぼっているのでしょうか。
酒井
基本的に、入札案件は公募案件であることがほとんどを占めます。なので、当社ではしっかりと情報収集をしていきながら、適切な公募案件を探すことに注力をしています。
案件を獲得していくために、提案における戦略戦術の磨き込みや、提案書の作り込みは常に意識をしながら行動をしていますね。
公募案件では企画提案力が必要になってくるため、当社なりに工夫をしていきながら、過去の実績をしっかりと伝えることなども意識をしています。
また、最近は比較的しっかりと競争しましょうという流れなので、どこかの会社さんと直接契約を結ぶ随意契約は少なくなっているようです。
桒田
一般的には今コロプラさんがおっしゃったことが多いかなと思います。また、最近は比較的しっかりと競争しましょうという流れなので、どこかの会社さんと直接契約を結ぶ随意契約は少なくなっているようです。
逆にいうと、これまでどこかの会社さんしか絶対に落札できなかった案件が減少しているので、新たに参入する企業にとってはチャンスが増えてきています。ですので、しっかりと価格競争になっても勝てる準備をしておくことは、今後は重要だと感じています。
司会者後記
今回、「ゲームの会社」、つまりBtoCの会社というイメージが強かったコロプラさんが自治体の入札マーケットに参入できているお話をうかがい、いまは公共系の仕事をしていないベンチャー企業や中堅・中小企業でも、十分に参入できることを再確認できました。自治体の入札マーケットというと、「地元企業優先」というのが、従来の常識でした。しかし、人口減少によって多くの自治体が消滅の危機にさらされているなか、「地元外のベンチャー企業であっても、知恵を貸してほしい」というのが自治体のホンネです。『NJSS』のような情報収集ツールを活用し、この好機をぜひ、企業成長に役立ててください。