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「性悪説」「子どもあつかい」が働き方改革を失敗させる

働き方改革を推進した当事者から学ぶ「落とし穴」#2

ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 本部長 長崎 健一(ながさき けんいち)

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 澤 円(さわ まどか)

Chatwork株式会社 CLO 働き方経営研究所 所長 田口 光(たぐち ひかる)

SponsoredChatwork株式会社
「性悪説」「子どもあつかい」が働き方改革を失敗させる

2018年9月、「ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス」が開催されました。「働き方改革」に成功している企業のキーマンや「働き方改革」をサポートしている専門家のみなさんが、自身の体験を語りました。

#2では、働き方改革の「運用方法」や「未来の結果」について、ソフトバンクの長崎さん、日本マイクロソフトの澤さんに、両社のケーススタディなどを話していただきました。モデレーターはChatworkのCLOで「働き方経営研究所」所長を務める田口さんです。

[概要]
ケーススタディから学ぶ働き方改革カンファレンス
2018年9月19日
主催:イシン株式会社
協賛:アトラエ、あしたのチーム、Chatwork、ヒューマンキャピタルテクノロジー、INTLOOP、AKASHI
協力:日本経済新聞クロスメディア営業局

[パネルディスカッション]
働き方改革を推進した当事者から学ぶ「働き方改革の落とし穴」

[スピーカー]
ソフトバンク 人事総務統括人事本部本部長 長崎健一氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 澤円氏

[モデレーター]
Chatwork CLO 働き方経営研究所所長 田口光氏

※働き方改革カンファレンス (2018年9月)で行われたセッションより抜粋・構成しました。

社員を信じて、新制度をまず実践

運用方法の指針である「性善説」と「社員を大人扱いする」とは?

田口

#1では働き方改革で直面しやすい3つの壁のうち、「誰もわからない『具体的な打ち手』」について、ソフトバンクと日本マイクロソフトの具体的な施策などをお話いただきました。さらに#2では、残る2つ壁、すなわち「経験のない『運用方法』」と「初めてだからこそわからない『本来の結果』」について、おうかがいしていきたいと思います。

それでは、新たな制度を導入して具体的に進めていく際、上手に運用する方法はなんでしょう。今回、出てきたテーマは、「性悪説vs.性善説」と「社員を大人としてあつかえるか否か」。まずは、1万7,000人の社員を抱えるソフトバンクでの「性悪説vs.性善説」というのを教えてください。

長崎

「自由を与えると仕事をしない人が出てくるんじゃないか」というのがマネジメント側の不安です。一方で、結果としての事実では、自由を与えたところで仕事をサボるような人はほとんどおらず、いままで通り、あるいはいままで以上に仕事がしやすくなってパフォーマンスは落ちない。

「その作業が終わったら必ず報告しよう」「翌日昼くらいに出社予定のときは前日に報告しよう」など、上司と部下の間のルールとして、最低限のガイドラインを出しておけばいいんです。「大人のフレックス」という考え方で、「この通り運用できなくてまわりに迷惑をかけたら、あなたには自由を選択する権利はありませんよ」ということにしています。でも、実際にはまったく発動していません。「まずやってみよう」と取り組める企業文化により、うまくいったのだと思います。

社員を「大人」として扱う

田口

ありがとうございます。それでも根強く残る性悪説。澤さん、120ヵ国で事業展開しているマイクロソフトで、性悪説があるのは日本だけですか。

ほかの国もないことはないと思います。ただ、マイクロソフトの場合にはKPI化がものすごく進んでいて、サボるとバレます。サボるというのは「あいつ、1時間タバコ部屋から出てこない」ということを指しているのではありません。「結果を出せない」というのが「サボっている」=「最大限の努力をしていない」とみなされるんです。人事であろうと経理であろうと、どの役職であってもパフォーマンスが全部KPI化されていて、それを満たしてなければサボっているとみなす。それが全世界で完全にオペレーションされています。だから逆に、それさえ満たしていれば、やり方は問わないという考え方なんです。

社員というのは会社に対して「貢献をする」という契約をしているわけだから、それに対してコミットするのは「大人の考え方」ですよね。プロとしてあつかうということは、大人としてあつかうということです。なぜ「大人」なんてキーワードを出すかというと、「日本は社員を子どもあつかいする国」といわれているからです。

アメリカのMBAのクラスには、「日本企業をマネジメントするときの方法」というような講座があります。そのなかで、次のように教えているそうです。そもそも日本人というのは、学力のピークが18歳程度だと。小・中・高と「日本流の詰め込み教育」をてし、そのたくさん詰め込んでる正解を試験会場の答案用紙にザーッとこぼして、それがポコポコっと答案用紙にいっぱいハマるといい大学に行けて、いっぱいこぼれるとイマイチの大学に行く。

でも、大学に入った後は、みな同じ運命をたどります。大学4年間は長い夏休みになりますから、学力は急降下。大学を卒業するころには白紙の状態になって、みなさん見事なまでにパッパラパーになる。そして一括採用があって「いっせーのーせ!」で4月からキャリアがスタートします。そのぶん、企業がたっぷりと時間をかけて育ててくれる。終身雇用といわれていたころは、40年もの時間をかけて企業文化のなかで一人前にしていくという流れ。安心して仕事に集中できるし、会社のことは凄く好きになるから、みんな仲間になるだろうし、とてもいい流れです。

ただ、その流れは子育てにそっくりです。1つの会社にとどまる時代ではなくなって、グローバル経済も発展したいま、これまでの取り組み方では通用しなくなりました。日本特有の古い固定観念のまま仕事に向かいあっていたら、日本は取り残される。いままでよりは少し早めに社員に育ってもらわないと困る時代になっています。

右から、日本マイクロソフト 業務執行役員の澤さん、ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 本部長の長崎さん、モデレーターを務めたChatworkのCLOで「働き方経営研究所」所長の田口さん Photo:INOUZ Times

田口

性悪説って、なんではびこってしまったのかは話もつきないでしょうが、これをどうにかして外していかなきゃいけないですよね。

そうなんです。なんだかんだいっても、日本で働いている方はすごくまじめに働く方が圧倒的多数で、わるさをする人は少ない。企業に対してコミットして働く人の割合は高い。性悪説というところを重視しなくても大丈夫だと思いますよね。

田口

そうすると、変えなきゃいけないのって、もしかしたら管理職のやり方なのかもしれませんね。

長崎

そう。ずっと日本独自の世界で育ってきて成果をあげてきた人がいまの管理職ですから、そこを変えるのは相当大変だと思います。

田口

マイクロソフトでは、マネージャーの視点が変わったターニングポイントというのは、なにかあったのでしょうか。

まず、「目の前にいないとマネージできないというようでは、スピードを落とすことにつながる」ということが数字でわかっていたので、それは変える必要がありました。それにくわえ、マネージャーが部下からの評価対象になるので、向いてない人はマネージャーから降ろされるという環境が大きかったと思います。マイクロソフトの場合はマネージャーとプレーヤーが並列なので、昇格してマネージャーになるわけではない。学校でいうなら、学級委員長です。同じクラスの誰かがなるわけですから、より向いている人を選べばいいわけです。

イメージした将来像から今を導き出す

「働き改革」になにを求めて、なににコミットしていくべきか?

田口

さて、3つ目です。どうやって、なぜ「働き方改革」に取り組んだのか。なにを求めて、なににコミットしていったのかという点について語っていただきましょう。

長崎

本日のスライドには「逆算志向だけが救い」と書きましたが、私たちの場合は将来のソフトバンクの事業構造をイメージするとともに、必要なスキルとか働き方とかをイメージし、そこから「いまやるべきこと」を導き出してスタートしました。まさに逆算的な発想での取り組みでした。KPIをどこに置くかが難しいので、どうしても「会社での滞在時間を減少させる」といった計測しやすいことを考えてしまいがちですが、そうした案は可能な限り出さないようにしました。

新制度を導入して1年経ったころ「Smart & Fun!」という働き方をどれくらいできているかを社員に聞きました。1年前と比べて「生産性は上がったか」「自己成長に取り組めているか」「Smart & Fun!を体現できているか」「イノベーティブ・クリエイティブな取り組みをできているか」を問うアンケートです。約7割の社員が「1年前より生産性が向上し、『Smart & Fun!』な働き方ができている」と回答してくれました。部門によって若干の凸凹があるので、その凸凹を各部門にフィードバックするとまた刺激になっていきます。

「新しいことをするのはいいことだ」という風潮が社内にできあがれば、新たなことを始める際の抵抗は小さくなります。最初から目標をどこに置くかを決めずに、まずは始めてみて、半年くらい経ってからゴールを設定すればいい。走りながら決めたって、何も遅いことはありません。

AIが予想する未来の上を行くのが人間の仕事

ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 本部長の長崎さん(左)と日本マイクロソフト 業務執行役員の澤さん(右) Photo:INOUZ Times

田口

マイクロソフトの場合はどうでしょう。

社内の事例ですが、当社の経理部門は2年ほど前からAIを取り入れて、営業の売上予測をAIにやらせるという実験を進めました。ひたすらいろんなデータを与えてAIを賢くしていき、自動的に売上予測ができるようにAIを育てました。結果的に、人間とAIが競争するとAIが勝つように成長させました。正確性が人間より上になり、人間は自分の仕事を減らしました。

「過去のデータの延長線上に未来がある」というのはAIの基本的な概念ですから、「通常通り過去の延長線上でやっていたらこうなる」というところまでは自動的に見えてきます。私たちはそこから、「このAIが打ち出した予測をこれくらい上振れさせるためにはどうすればいいか」というところに踏み込みました。経理部門も一緒に入ってアイデアを出していくんです。要するに、過去の延長線上を裏切るために人間がパワーをかけるという挑戦をしているんです。これが「未来を創る」ということです。だから、私たちはサラリーマンではありますが、「イノベーションを起こし続けている」という感覚が強い。「いままでになかったアイデアを出し、ゼロからイチをつくって、予想を上まわる結果を得る」という概念です。

こうなってくると、「経理の人も売上責任を持つ」という考え方になる。これはたまらないですよ。ものすごい楽しいでしょう。自分たちが働く報酬が「楽しい仕事」なんて最高ですよね。「自分はできる」と思ったら、人はよりよい環境に移ろうとします。だから会社は、つねによい環境とよい報酬を提供するよう努める。よい循環が生まれます。

田口

今日はいろいろとうかがいました。「とりあえず新たなことに挑戦してみようとする姿勢が大事だ」ということがわかりました。また、大きく舵取りする必要はなく、「いつでも後戻りできる」というようなスモールスタートで問題ないということですね。おふたかた、本日はありがとうございました。

#1『他社をマネるだけでは失敗する! 2社が推進した独自の働き方改革』

長崎 健一(ながさき けんいち)

ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 本部長

1992年に日本テレコム(現ソフトバンク)入社。カスタマーサービス部門を経験後に人事部門へ。2004年に同社がソフトバンクグループ傘下に入り、M&Aを機に一体運営となった当時の国内通信3社(ボーダフォン日本法人、ソフトバンクBB、日本テレコム)の人事制度統合プロジェクトをリード。2014年よりソフトバンクの人事本部長。人事部門として急速な事業変化に対応しながら、全社フリーエージェント制度や働き方改革推進などの人事施策を実行。

澤 円(さわ まどか)

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。2015年2月より、サイバークライムセンター日本サテライトの責任者も兼任。

田口 光(たぐち ひかる)

Chatwork株式会社 CLO 働き方経営研究所 所長

早稲田大学大学院商学研究科(MBA:戦略的人材組織マネジメント)修了。大手人材サービス企業・エンジニアリングサービス企業にて、事業開発・事業戦略・上場準備・M&A・人事総務・人材開発部門長を経て独立。組織コンサルタント会社Learning Strategy Partnersを設立。2015年9月にChatworkにジョインしCLOに就任。人事総務部長・コーポレートサポート本部長を経て現職。

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