第一部の基調講演で最初に登壇したのは、USEN-NEXT HOLDINGS代表の宇野氏。これまでの30年におよぶ経営者人生のなかで、3つの会社のIPOを実現させた経営手腕のもち主だが、「寝るのが怖いくらい、嫌な夢を見ていた時期もあった」という。講演では、それぞれの会社をIPO企業へと導けた原動力とともに、その間の「奮闘ぶり」についても語られた。
時代の流れを見通した戦略で、バブル崩壊の危機を乗り切る
宇野氏はまず、25歳のときに企業の新卒採用をサポートするインテリジェンス(現:パーソルキャリア)を立ち上げた際の意気込みを述懐。「売上高1,000億円、社員数1,000名、10年以内の上場」という大きなビジョンを、4名の創業メンバーで打ち立てた。
当時のバブル経済の波にも乗り、事業が順調に拡大した状況を説明。しかし、ほどなくしてそれが泡と消え、積極的に新卒採用していた企業が採用枠を一気に縮小したことで、同社の業績悪化につながった。それを打開したのが、当時はまだ認知が進んでいなかった「人材派遣」や「中途採用」といった事業へのシフトだったという。「これからは、経済動向などの外部環境に左右されにくい人材の活用方法が、企業で浸透する」という時代の流れを見通した戦略だった。
その後、同社はこの分野のパイオニアとして市場をけん引。会社設立から10年10ヵ月で上場し、事業を引き継いだパーソルキャリアは、グループ全体で売上高9,000億円以上、社員数4万5,000名規模の会社となった。
いきなり大企業の社長に就任、社内改革を次々と進める
続いて、創業者の父親が病気で亡くなり、35歳のときに大阪有線放送社(現:USEN)を引き継いだ話を披露。当時同社は、全国に700ヵ所の拠点をもつ社員数1万名規模の大企業で、「社員は『よく知らないバカ息子が来たが、大丈夫か』と思っていたはず」としたうえで、同社を切り盛りするために選択した経営手法は「完全なトップダウン型」だった。「会社は大きな負債を抱え、全社員に不安感が広がっていた」という当時の状況下では、「リーダーの強い信念とリーダーシップ」こそが求められると信じたからだという。その後、「未来のある会社に生まれ変わらせる」という強い信念のもと、社内改革を次々と進め、その結果、多額の負債を解消したばかりか業績のV字回復を遂げ、社長就任から3年での上場を果たした。
その後、リーマン・ショックによる世界的な不況で再度大きな経営危機を迎え、金融機関からは「もう、あきらめたほうがいい」といわれるほどの苦境に。しかし、「『借りたお金は必ず返す』『事業は最後までやり抜く』と絶対にあきらめなかった」といい、そのなかでも、インターネットによる動画配信サービスは、「将来性が高いという確信があった」ことから、2010年の会社分割による「U-NEXT」の立ち上げへとつなげた。
サービスが浸透しない時期も、全社員が価値を確信していた
動画配信サービスのU-NEXTだが、2010年の立ち上げ当時は、「金融機関にサービス内容を説明しても、将来性をまったく理解してもらえなかった」状況について言及。それでも、事業を推し進めることができたのは、「当時いた約300名の全社員が『消費者が動画配信を当たり前に使う世の中になる』と、強い信念でがんばってくれたから」だと振り返った。
動画配信が世の中に浸透するにつれて競争は激化し、とくに難敵は、資本力のある海外勢だったという。そのなかで宇野氏は「地道な訴求戦略をとった」といい、「自宅にいながらさまざまな映画を視聴できるメリットを、イベントなどで直接説明する取り組み」などを数多く行い、「海外勢にはできない、日本企業だからこそできるマーケティング戦略」でシェアを着実に拡大していったと語った。
宇野氏は最後に、30年間の経営者人生を振り返り、ときには、業績の拡大に追い詰められて「寝るのが怖いくらい、嫌な夢を見ていた時期もあった」というが、「今後も、自分が考えたサービスがいかに社会から求められ、大事にされ、愛されているのか。それを確認しながら経営を続けていきたい」と締めくくった。
成功する経営者に共通していることはなんでしょう。
時代の変化にあわせて、いま手がけている事業やサービスの「取捨選択」が正しく行えていることだと思います。とくに時代の変化が目まぐるしいいま、事業がいつまで受け入れられるかがわかりにくい状況です。取捨選択の判断を行うにあたっては、時代がどう変化しているかを「感性」と「カン」によって、とらえるようにしています。
経営チームをつくるうえで重視していることは。
自分に不足している能力のもち主を集め、「強いチームをつくること」を考えています。たとえば、インテリジェンス時代には、自分よりも「分析能力」「コミュニケーション能力」が高い仲間が一緒でした。経営チーム内での信頼関係が薄れてしまうと、会社組織全体に大きな問題が生じます。そのため、経営チームのメンバーとは、腹の底から話し合える関係づくりをいまでも努力して行っています。