目次
◆「超えられない一線」と「超えてはならない一線」
◆ CEOとCOO、それぞれがまっとうすべき仕事とはなにか
◆ COOには成果を出すことと同じように方針を理解する責任がある
【PROFILE】
蔵元 二郎(くらもと じろう)
株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長
鹿児島県出身。九州大学卒業後、大手金融機関にて採用・経営企画に携わった後に、ベンチャー企業にて新規事業の立ち上げに従事。2001年に株式会社グッドウィル・キャリアに入社、事業開発部長・人事部長、社長室長などに従事。2002年、27歳で株式会社ジェイブレインを共同創業し、取締役最高執行責任者に就任。2009年、34歳で株式会社BNGパートナーズを創業、代表取締役社長に就任。2016年、代表取締役会長CEOに就任。「馬鹿(B)が日本(N)を元気(G)にする。」を理念に掲げ、これまで400名以上のベンチャー企業経営者を輩出。著書に『出来ない理由に興味はない!―蔵元二郎の仕事論』(STUDIO CELLO)。◆PHOTO:INOUZ Times
「超えられない一線」と「超えてはならない一線」
会社のトップと幹部の間には「超えられない一線」「超えてはならない一線」がある。ここが意識されていないと、幹部マネジメントはうまくいかない―。
多くの経営者は経営幹部に関する悩みを抱えています。どうすれば幹部は採用できるのか、育つのか。僕が経営している会社の本業は幹部採用支援なので、それを突き詰めるのが仕事のひとつだ。ただ、単なる仕事ではなく、僕の場合、そこにはある特別な想いがあります。
…今から15年前、僕はHRベンチャーを共同創業。会社のNo.2であるCOOとして、オーナー社長のCEOと“二人三脚”で経営していました。27歳の時です。CEOは次々と破天荒な戦略を打ち出し、COOの僕は辣腕を振るってそれらを実現していく。自分で言うのもなんですが、すごくイケてるベンチャーでした。
しかし、リーマン・ショックで暗転します。一世を風靡した人気企業から、一気に下り坂をくだることになりました。
以来、僕は「なぜ、失敗したのか」「どんな本質的な間違いがあったのか」をずっと考え続けてきました。そして、ある時「COOである自分が、本来まっとうすべき仕事をスポイルしていたからだ」。こんな正解が頭の中に浮かび、腹落ちしました。つまり「会社をダメにした犯人は自分だ」ということです。
なぜ僕は、本来まっとうすべき仕事をスポイルしてしまったのか。その原因こそ、冒頭に述べたトップと幹部の「超えてはならない一線」「超えられない一線」を曖昧にしていたことでした。
僕はこれまで3,000社のベンチャー企業にかかわり、400名以上のベンチャー経営者を輩出してきました。そして、この「トップと幹部の一線」が意識されていないせいで幹部育成や幹部マネジメントがうまくいってない。そんなケースを数多く見てきました。
これから数回にわけて、ベンチャー企業のマネジメントチームのあり方について、自分の経験談を交えながらお伝えしたいと思っています。COOとCEO、両方の立場を経験し、大きな失敗もした僕だからこそ、お話しできることがあるかもしれない。そんな想いです。
プロローグは「CEOとCOO、それぞれがまっとうすべき仕事とはなにか」についてです。CEOとCOOという語句は、読者のみなさんの会社の実情に合わせて、社長と幹部、トップとNo.2など、適宜、読み替えてください。
CEOとCOO、それぞれがまっとうすべき仕事とはなにか
「No.2としてCEOを支えつつも、肝心な時にはノーと言うのがCOOの役目」という言葉はよく耳にしますよね。お恥ずかしい話ですが、かつての僕はそんな“カン違いCOO”でした。
なぜ、これがカン違いなのか。中長期の戦略は、えてしてすぐに売上利益には直結しません。5年先、10年先を見据えた打ち手なのですから、すぐに収益を生むはずがありません。しかし、だからといって中長期の戦略をないがしろにしていると、将来の果実の芽を摘むことになり、やがて会社は沈滞、もしくは先細りするかの運命です。
例えるなら、“100キロ先を見て進むべき道を提示している人”に、“100メートル先を見てる人”がブレーキをかけることは、「議論が噛み合ってない」のです。
逆に言うと、100キロ先を見ているCEOには100メートル先への進み方は見えていないのです。東京スカイツリーの頂上から富士山は見えても、スカイツリーの足元の風景は見えないのと同じです。
「CEOとCOOが同じ視点に立って…」と言えば、言葉は綺麗に聞こえますが、それは完全に相互依存。野球で言うところの「お見合いエラー」が発生します。経営は戦場です。お互いが360度を見ながら戦って勝てるような甘いものではありません。それぞれが持ち場のプロフェッショナルとして機能するのが、勝てる組織なのです。
「CEOは孤独である」。そう思って、“カン違いCOO”だった僕は、CEOに寄り添い、一緒にビジョンを描くことに努めました。しかし、CEOに寄り添った分だけ、現場の執行が不十分になり、ときにCEOにも執行を手伝ってもらっていました。
これこそが相互依存、相互職務怠慢の実例です。お互いが助け合っていると言うよりは、お互いがサボりあっているというのが正しい認識です。
先ほどのスカイツリーの例で言うと、真ん中あたりに居るべき僕は、頂上のCEOの場所に行き長期視点を議論している間に、足元で起きている事故に気づかず、被害がひどくなったらCEOと一緒に真ん中あたりまで降りて行った。そして、ふたりで富士山の風景が変わっていることを見過ごしていた。そんな感じです。
「CEOは孤独」ですが、「COOも孤独」なのです。いえ、ある意味、プロフェッショナルであるということは、どのポジションであっても一定の孤独さと向き合わなきゃいけないのです。
そもそもCOOはCEOの方針に「ノー」を唱えるべき立場にありません。その役割は担っていません。CEOの方針をキャッチアップし、その方針に従って結果を出す立場にあります。COOに許されているのは、結果を出すためのやり方。そこは高い自由度が保証されるべきです。
逆に言うと、COOの方法論という「実務」にCEOは口出ししてはいけないということです。CEOは、その役割は担っていません。そして、CEOが実務に没頭すると、中長期の成長戦略を描く人が誰もいなくなってしまいます。
しかし、どう考えてもCEOの方針が賛同できるものではない。そんな「無茶ぶり」だったりする場合がありますよね。そうした時こそ、後回しにせず、イの一番で「無茶ぶり」に取り組み、どうにか成果を出そうとすべきです。
COO時代の僕も同じような経験がありました。成果が出始めたときに、ようやく「CEOにだけ見えていた風景」が僕にも見えてきたこともありましたし、まったく成果が出ないこともありました。
成果が出なかったときは、その後どうするかはCEOが決めることです。「自分の方針は間違っていた」と方向修正をしても良いですし、「君には任せられない」と言って他の人をCOOに任命しても良いのです。
もしも「成果が出せなかった」という理由でCOOを降格させられた場合、自分にはそこまでの能力しかなかったということ。また頑張ればいいだけです。
先ほど、「COOは結果を出すためのやり方については高い自由度が保証されるべき」と書きましたが、もうひとつ、COOには保証されている“自由”があります。それは会社を辞める自由です。これによりCEOは「COOには辞める権利がある」という緊張感をもちながら、自分の方針を厳しく自己検証しなければいけません。
「なぜ、CEOとCOOの差は埋まらないのか」の決定的な原因もここにあります。COOには会社を辞めるという選択肢があるのに、(オーナー社長であるという前提ですが)CEOには会社を辞めるという選択肢がありません。この「立場」の違いがあるからこそCEOとCOOは見ている風景が異なっていて当然なのです。
COOには成果を出すことと同じように方針を理解する責任がある
かつての僕は、CEOの方針をきちんと理解しようとせず、「会社を支えているのは自分だ」とうぬぼれていました。「アメリカへの長期出張だ、著名経営者とのゴルフだ、政治家の講演会だと、CEOには遊んでもらってもいいけど、せめて会社の業務の邪魔だけはしてほしくない」などと思いあがっていました。
実務家であるCOOから見て、戦略家のCEOがやっていることは売上利益に直結しないので、“お遊び”にしか見えないことが往々にしてあります。でも「そうじゃないんだ」ということが、CEOをやるようになった今にしてわかります。
現在は有能なCOOに恵まれ、方針に関して意見を求めることはあっても、「最終的に責任を持って決めるのはCEOの役割だ」と理解してくれています。また、執行方法について僕が意見をすることがあっても「執行方法を決めるのはCOOの役割であり、CEOに決定権はない」ことも理解してくれています。
余談ですが、「売上だ利益だと、すぐに数値で計測できる日々の実務に没頭できる立場は、うらやましいなぁ」なんて思っています。現場の実務に取り組んでいる方が達成感は得られやすいですからね。一方、僕がやっていることは、すぐに成果に結びつかない悶々とした時間も多いですし、日々の実務に邁進しているメンバーからは、きっと“お遊び”にしか見えないこともあるんだろうなと(笑)。
次回より、より具体的なエピソードを交えながら、CEOとCOOのリアルな生態をお届けします。CEOに対するCOOへの無理解、逆にCOOに対するCEOへのカン違いによって、成長が止まっていたり、もっと成長できるのに足踏みしているベンチャー企業は少なくありません。この連載が、そうした課題を打開するヒントとなれば幸いです。
蔵元代表インタビュー別記事
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