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失敗だらけのCEO 成功だらけのCOO

CEOとCOOの経験論的生態学 #4

株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長 蔵元 二郎(くらもと じろう)

INOUZTimes編集部
失敗だらけのCEO 成功だらけのCOO

突然、CEOが突拍子もないことを言い出してCOOがアタフタする―。こんな話を耳にすることは珍しくないですよね。会社の運命がかかっているCEOとCOOの足並みが乱れているように見え、心配になってしまいます。でも、400名以上のベンチャー経営者を輩出するなど、数多くのベンチャー企業やその経営チームの“生態”を見てきたBNG代表の蔵元さんによれば「それこそ会社のエネルギー」と話します。どんな深いワケがあるのか、CEOとCOOがまっとうすべき役割をのぞいてみました。

目次 ◆「無謀なチャレンジ」をするCEO”
◆CEOは無責任
◆「業績レース」の最終勝者は…
◆ダメモトのリスクはCEOしかとれない
◆戦い方が違うだけ

「無謀なチャレンジ」をするCEO

苦心の末、あなたは新しい商材を開発しました。イノベーティブでイケてる商材です。そして、有望な営業先を100件リストアップして「これで世の中を革新する」。こんな決意を胸に、勇んで営業に出かけました。

しかし現実は、どこに行ってもお断り。最初の10件くらいなら「まぁ、よくあることだよね」でしょう。でも30件まわっても手応えゼロ、50件を超えても誰も興味を示さない。さすがに焦りますよね。

でも、お断りはまだまだ続きます。70件、80件、90件ー。どこに行ってもダメ。ついに最後の100件目。残念ながら小説やドラマのような一発逆転劇は起きず、あえなく沈没。リストアップした訪問先をまわり尽くし、結果は全滅です。こんな時、どうしますか?

「100件まわってダメなら、しようがない」。こんな結論をひとまず出して、商材を見直したり、そもそもの販売をあきらめる。フツーはそうですよね。

でも、世の中にはフツーではくくれない人たちがいます。「100件まわってダメだったら、101件目に行けばいいじゃん」。こんな風に考える。それが“CEOという生き物”です。

なぜCEOは圧倒的に不利な、ムダにすら思える「101件目のトライ」ができるのか。今回はそんな話からCEOとCOOの生態を解剖します。

CEOは無責任

まず、誤解しないでいただきたいのですが、100件まわってダメでも101件目に行くべし、と言いたいのではありません。むしろ、ビジネスの常識で考えれば行くべきではない。だって確率論で考えれば、100件まわってダメなものは101件目でも断られる可能性が高いのですから。業績に責任をもち、効率化のミッションがあるCOOの大多数も、きっとそう考えるでしょう。

では、なぜCEOは「ムリでしょ」と思える101件目の営業にトライするのか、それができちゃうのか。理由はふたつあります。

ひとつは明確なイメージがあるから。「この商材は世の中を“こんな風に”革新する。これを導入した企業には“こうしたメリット”がある」といった具体的な未来のカタチがくっきりと見えています。言語化できているかできていないかに関わらず、まるで映画のように細かなディティールすら見えています。空想あるいは妄想と言っていいのかもしれませんが、細かくて具体的。“未来のゲンジツ”としてCEOの頭のなかで像を結んでいます。

だからこそ「絶対に売れる」という確信があります。なぜなら、“未来のゲンジツ”のなかではそれを買って使っている人がたくさん存在するのですから。だからこそ、どれだけ断られようと、「そのうち100%の確率で売れる」という解になってしまう。

でも、これってほとんど理屈が通用しない世界観とも言えます。合理性を追求しているCOOにとっては大迷惑ですよね。その商材の価値や魅力は理解できたとしても「そのうちって、いつ?」「売れたとして、利益はどうなるの?」。こんな疑問が浮かぶはずです。

でも、CEOにもそれはわかりません。これはしようがない。本来、マーケティングといった実務的な戦略はCOOの仕事なのですから。CEOにその回答を求めるのはムリだし、スジ違いでしょう。

でも、実務的な話になると「それはわからないよね」というCEOの姿勢は業績に責任をもつCOOからすれば無責任に見えても不思議ではありません。「いつ売れるか、利益がどうなるか、よくわからないことをやる意味ってあるの?」。そんな疑問が頭のなかで渦巻きそうです。

「業績レース」の最終勝者は…

僕がHRベンチャーを共同創業し、会社のNo.2であるCOOとしてオーナー社長のCEOと“二人三脚”で経営していた時もそうしたことが頻繁にありました。

「くらもっちゃん、こんなことをやりたいんだけど」。CEOが思いもよらぬ斬新かつ画期的でユニークなビジネスアイデアをCOOである僕に披露されます。斬新かつ画期的でユニークというのは、言葉を換えるとトンデモない非常識なアイデア、ということなんですけれど。当然、僕の頭のなかは「????」でした。「いま、ウチの会社がそれをやる意味があるんですか」。そんな質問形式を借りた否認を口走ったことも再三ありました。

では、CEOという生き物はムチャ振りしたがる非常識な人たちなのでしょうか。答えはイエス。COOをしていた当時はわかりませんでしたが、それこそCEOがCEOたる所以、重要な存在意義。いまでは思っています。

どういうことか、CEOとCOOの“業績レース”のたとえ話で説明しましょう。CEOは自分がイケると思ったビジネスを、COOも伸びると考えたビジネスをヨーイドン、でスタートさせました。3年後。おそらくCOOがやっている事業のほうがうまくいっているでしょう。5年後、10年後でもCOOの事業のほうの売上が高いと思います。

なぜなら、COOが選ぶビジネスは“いまのマーケット”の延長上にあるビジネスを選びがちだからです。100件営業に行ったら半分以上からは反響があるような、安全・確実なビジネスです。一方でCEOが選ぶ事業は、まだ誰も見たことも、やったこともない、画期的でユニークなビジネス。いわゆる“ゼロイチ”のリスキーなド新規ビジネスです。

さて、業績レースの勝負はまだついていません。30年後、50年後、100年後。果たして、どちらのビジネスが勝っているでしょうか。否、どちらが生き残っているでしょうか。想像力をちょっと働かせればわかると思います。

マーケットは絶えず変化しています。だから、10年間、形を変えずに生き残っているビジネスはきわめて少数です。もっと長期のモノ差しで測りましょう。30年間、そっくり続いているビジネスは皆無と言っていいでしょう。いまから30年前はエクセレントと言われた大企業がいまたどっている運命は非常に残酷なものすらあります。

奈良時代に創業したと伝えられる老舗中の老舗、羊羹の虎屋さんは常に時代に合わせて製法や原材料の配合などを変え続けてきたそうです。成功体験にこだわらず、リスクをとって絶えざる挑戦を続けてきたことが、老舗の暖簾を守り続けられた秘訣なのでしょう。いまの延長に未来はなく、いまの否定のなかに未来を切り拓くエネルギーがあるんです。

こうした長期の視点で考えると、最終的にはCEOがやる“ゼロイチ”の事業の方が勝っている確率が高いと僕は感じます。

いまは存在していないものが未来を創る。たとえば電話もそうですよね。手紙しか通信手段がなかった時代にグラハム・ベルは電話を発明して未来を創り、やがて電話は一家に一台が当たり前になりました。しかし、そんな電話も、いまやベルの時代にはなかったスマホに取って代わられました。

イーロン・マスクが取り組んでいる民間宇宙ビジネスも、いまでこそ採算観点では成立していません。しかし、10年後、20年後はどうか。いまのスマホのような、超巨大産業になっている可能性がありますよね。

さらに、短期的にもCEOが選ぶ事業の方が、ある部分では勝つ確率が高いと僕は思っています。ヨーイドンで始めて5年後の利益額は、COOの事業を上回っていてもおかしくない。既存事業に比べてCEOが選ぶようなゼロイチの事業のほうがカテゴリーNo1になれる可能性が高いですから。

ダメモトのリスクはCEOしかとれない

CEOは、なぜダメとわかっている101件目の営業にトライすることができるのか。ふたつめの理由をお話ししましょう。それは、CEOにとっての失敗は失敗ではないからです。

誤解を生みそうな表現ですね。決して「CEOは、失敗を失敗と認めない裸の王様」ということではありません。CEOは会社のなかで、唯一、失敗することを仕事の一部としているんです。そして、そうしたCEOの失敗のうえで会社としての成功があるんです。

なにやら哲学的な表現となってしまいましたが、その理由はとてもシンプル。CEOはその会社をつくった創業者。失敗してもクビを切られることはありません(前提として、ここでのCEOは非公開のベンチャー企業の創業オーナーに限定しています)。最悪、会社をツブすことはあっても、CEOを解雇できる人はいません。ある意味、オールマイティ。だから、会社のなかの誰よりも失敗のリスクをとることができ、失敗のリスクを引き受けなければならない役割を担っているんです。

ベルの話を先ほど書きましたが、もうひとりの偉大な発明王、トーマス・エジソンは「失敗は成功の母」という言葉を残しました。どんな企業、どんな事業も成功し続けることはあり得ません。失敗をしなければ改善はありません。失敗した数だけ、会社と事業を鍛え、磨きあげるチャンスは拡大します。101件目の営業のたとえ話で言うと、ダメモトのリスクをとれるのはCEOしかいない。だから、CEOは役割をまっとうしようとするんです。

99.9999…%、ダメだとわかっていることにトライするのは、COOの観点で見ればムダ、でもCEOの観点で考えれば「でも100%ダメなわけではない。もしかしたら、万分の一でうまくいくかもしれない。そうしたリスクをとれるのはCEOである自分しかいないので、やるしかない」。そんな気持ちです。このように、CEOとCOOが立っている戦場は、同じようでいてちょっと景色が違うんです。

戦い方が違うだけ

CEOだって失敗したくてリスクの高いことをしたがっているワケではありません。COOも失敗を恐れていては成功の果実を手にできない、未来を切り開けないことはわかっています。CEOもCOOも同じ成功という目標に向かって戦っています。

ただ、戦い方がちょっと違うだけ。COOは着実に結果を出していかなければならない役割を担っているので、性能が確かめられている武器を使う必要がある。それに対してCEOは、誰も見たことがない、つまり性能は未知だけど、もしかしたらすごい威力があるかもしれない光線銃で戦うことが求められている。そんな違いです。

でも、戦い方が異なるこのふたつが互いを補いながら前進すれば、無敵になれそうだと思いません?

CEOが失敗を仕事のひとつとしているのに対して、COOの仕事を一言で表現してしまうならば、それは成功を積み重ねること。日常の業務に失敗があっては前に進めません。COOがとてつもなく失敗のリスクが高いことにチャレンジすると、COOにあわせて現場も動きますから、会社全体が大きなリスクにさらされる可能性が高い。それは非常に危険です。

それにCOOが失敗続きでは現場はついてこなくなり、組織から活力が奪われます。成功体験を積み重ねているCOOの存在があって、初めてCEOはリスクテイクすることができるのです。

ですから、COOには成功の確率が高いことにチャレンジしてもらい、着実に成功してもらう。そうしてCOOを成功者たらしめる。それもCEOの仕事の一部だと言えます。

蔵元代表インタビュー別記事
INOUZ TimesのBNGパートナーズ蔵元さん関連記事です。こちらもご覧ください。

ベンチャー経営者の評価スキルをめぐる “不都合な真実”

※過去の人気連載「CEOとCOOの経験論的生態学」
CEOとCOOの「超えられない一線」「超えてはならない一線」

「“経営者”を辞めたいCEO」と 「“経営者”になりたいCOO」

仕事をしないCEO 仕事しかしないCOO

ロマンのCEO ロジックのCOO

失敗だらけのCEO 成功だらけのCOO

※新連載、「デキる社長の方法論」。あなたはダメ社長?
「実務が大好き」だから あなたは“ダメ社長”

「人が足りないから採用する」だから あなたは“ダメ社長”

【PROFILE】

蔵元 二郎(くらもと じろう)

株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長

鹿児島県出身。九州大学卒業後、大手金融機関にて採用・経営企画に携わった後に、ベンチャー企業にて新規事業の立ち上げに従事。2002年、27歳で株式会社ジェイブレインを共同創業し、取締役最高執行責任者に就任。2009年、34歳で株式会社BNGパートナーズを創業、代表取締役社長に就任。2016年、代表取締役会長CEOに就任。
◆PHOTO:INOUZ Times

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