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ベンチャー経営者の評価スキルをめぐる “不都合な真実”

~30代の若さで年収の天井を打つ社員が続々生まれそうなワケ~

株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長 蔵元 二郎(くらもと じろう)

INOUZTimes編集部
ベンチャー経営者の評価スキルをめぐる “不都合な真実”

イラスト:INOUZ Times

画期的な新技術やビジネスモデルも時がたてば陳腐化は避けられません。だからこそ、自ら変化を起こすチャレンジャーをいかにして集めるか。このことにベンチャー企業の経営者は日々、奮闘しています。しかし「やってくれる」と期待した人材の“陳腐化”は大丈夫でしょうか? HRベンチャーを創業、 400名以上のベンチャー経営者を輩出してきたBNG代表の蔵元さんは「いまベンチャー企業で“痛い人”が増えている。このままでは『30代で年収ピークアウト』なんていう残念なことが当たり前になるかも」と警鐘を鳴らします。直視したくないかもしれませんが、放っておくワケにはいかない“不都合な真実”をお届けします。

目次 ◆ ひと回り下の世代より成長していない
◆「自分は勝ち組」とのカン違い
◆ 休日返上で頑張るヤツなんか評価するな
◆ ビビる経営者の「甘やかし」も悪い
◆「マネージャーなりたい」「年収を上げたい」なんて小さな目標を掲げるな

【PROFILE】

蔵元 二郎(くらもと じろう)
株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長
鹿児島県出身。九州大学卒業後、大手金融機関にて採用・経営企画に携わった後に、ベンチャー企業にて新規事業の立ち上げに従事。2001年に株式会社グッドウィル・キャリア入社に入社、事業開発部長・人事部長、社長室長などに従事。2002年、27歳で株式会社ジェイブレインを創業し、取締役最高執行責任者に就任(現・非常勤社外取締役)。2009年、34歳で株式会社BNGパートナーズを創業、代表取締役社長に就任。「馬鹿(B)が日本(N)を元気(G)にする。」を理念に掲げ、これまで400名以上のベンチャー企業経営者を輩出。著書に『出来ない理由に興味はない!―蔵元二郎の仕事論』(STUDIO CELLO)。
◆PHOTO:INOUZ Times

ひと回り下の世代より成長していない

―蔵元さんは27歳でHR系ベンチャー企業を創業し、400名以上のベンチャー企業経営者を輩出するなど、ベンチャー企業の経営者や人材の変遷を長く見つめてきました。

蔵元さんと呼ばれると調子が出ないんで、いつもみなさんから言われているように“ぢろさん”と呼んでください。

―では遠慮なく。そうしたぢろさんから見て、最近のベンチャー界隈の人材はどう映っていますか。

ふたつの変化があると感じています。ひとつは良い変化。最近の若いベンチャー企業の経営者やそこで働く人たちについてです。

もうひとつは、いまベンチャー企業で働いている30代の人材の気になる現象。そうした人材をここでは“ベンチャー30代”と呼ぶことにしますが、一定の成功に満足し、若い世代に比べて学習意欲が鈍い。このままでは30代で年収がピークアウトする可能性が高いということです。

―そうならないためにはどうすべきかを聞きたいところですが、その前に、まず「良い変化」について聞かせてください。

はい。お世辞を言うわけではありませんが、最近の若いベンチャー企業の経営者やメンバーは、東大や京大を出た人材が増えるなど、学歴としても優秀なうえに、勤勉で素直で、行動力もある。そう感じます。

若くしてVCから資金調達したり、場合によってはイグジットに成功し、何度目かの起業をしていたりもする。「いつまでに売上をこうして、このくらいにはバイアウトする」など、ビジョンも明確。頭も良くて、性格も良くて、行動力もあり、ここまで非の打ちどころがないと「なんなんだコイツら」とムカつくくらいだったり(笑)。

「自分は勝ち組」とのカン違い

「自分は勝ち組」とカン違いしているようでは30代で年収がピークアウトするのが当然
PHOTO:PAKUTASO

―一方で、ベンチャー30代については、どのようなところが気になっているんですか。

ベンチャー界隈での30代と言えばビジネスマンとして、いちばん脂が乗る頃。プロ人材として大きく成長する年齢です。

しかし、私から見ると、20代の努力で獲得した小さな成功のうえに満足している人が散見するように感じます。たとえば、次のようなシーンは珍しいことではないと思います。

…2000年代にITベンチャーに新卒入社した30代の先輩Aさん。リーマン・ショックも乗り越え、会社の成長とともに自身も成長してきました。Aさんはいまマネージャーをしています。

一方、20代の後輩Bクンは2~3年前に創業したAIスタートアップの創業メンバー。会社は数名規模ですが、創業間もなくVCから資金調達し、アライアンスを組んだ大手企業とのプロジェクトの責任者を務めています。業界内での知名度はあるものの、世間的にはまだ無名の存在です。

そんな後輩Bクンが先輩Aさんと久しぶりに会食し相談しました。先輩Aさんは「それはオマエ、こうすればいんだよ」と上から目線でのアドバイスを長々としています。それに対しBクンは「ふむふむ」と熱心にメモを取っていました…。

自分がAさんだったら逆にBくんを質問攻めにし、情報収集して自分の知見を広げようとしたでしょう。ビジネスの世界において年齢はあまり関係なく、年上だから教える側、年下だから教わる側という決まりはありません。

―確かに、AさんはBクンからいろいろ学べる点があったように思います。しかし、先輩から後輩に「教えてくれ」というのは、ちょっと気が引けますよね。

その気持ちはわかります。でも、自分が成長できる機会があったら貪欲に食らいつく。それがプロ人材です。

しかし、今のベンチャー30代には、「名の知れたベンチャー企業でマネージャーになれた」「自分は勝ち組だ」とカン違いしているかのような人材が少なからずいるように感じます。

それでいて、多くの人は会社の業務以上のことは学んでいない。こんなことでは30代で年収がピークアウトするのが当然です。

休日返上で頑張るヤツなんか評価するな

イラスト:GATAG いらすとや INOUZ Times

―なぜ、そうしたカン違いが生まれるのでしょうか。

いろいろあると思いますが、一つの理由は経営者の評価スキルにあると思います。プロであれば、成果で評価すべきなのに、「夜遅くまで頑張ってるから」とか「休日返上で一生懸命だから」とか、成果以外の頑張りも評価している。こうしたベンチャーは少なくありません。

ここで言う成果とは、単なる売上目標に対する達成率などではありません。経過点、つまり売上はいくらで、KPIは何%、利益率はこうで、クレーム件数は何件といった道筋が明確に設定され、そうした経過点を通ったうえでのゴールのこと。自由にやって、数字だけ達成していればいい、という荒っぽい評価のことではありません。

成果で評価するためには、たどりつくべきゴールへの道筋を経営者が明確に見通せている必要があります。こことここを経過してゴールにたどりついてくれと。もちろん営業職だけではなく、企画職やエンジニアも、同じ考え方で評価されなくてはなりません。

大切なポイントは、成果に時間は関係ないということ。残業せずに毎日定時で帰ろうと、成果を出していれば高く評価すべきだ、ということです。

また、理想とする厳しい経過点が設定されていれば、これまでのやり方では通用しないことがわかり、常に新たな手段やテクノロジーの情報収集といった「学習」が主体的に生まれるのです。

その厳しい目標や経過点を設定するためには、経営者自らが貪欲に学習することが求められます。

―休みもとらずに頑張っている社員も高く評価したい。そう思っている経営者は多そうですね。

長時間働くことがいいことであるかのように、毎日残業していたり休日返上している人材を評価する。確かにそんなケースは多いですよね。

でもその行き着く先は、ゴールへの具体的な道筋を示さないまま、とにかく「もっと頑張ろう」とか「過去最高を目指そう」といった、“気合いと根性”のマネジメントです。

人材をプロとして扱うには、成果でのみ評価すべき。それができないために成果よりも“気合いと根性”の非効率な長時間労働が称賛され、給与はほとんど差のない横並びとなってしまう。

その結果、メンバーは「学ぶ習慣」を習得せず、30代で年収がピークアウトしてしまう。こんな悪循環が生まれるんです。

余談ですが「女性の活躍」が進まないのも、成果ではなく、働いた時間で評価されていることが大きな阻害要因になっていると思います。

しかし、こんなおかしな慣行は、いまの若い優秀な人たちが変えていくでしょうね。ぼくら世代が社会人になったときもそうでした。

―どんなことがあったんですか。

僕が入社した時(1997年)はオフコンからPCへの移行時期で、はじめて一人一台のPCをもたされた世代でした。でも、僕もPCを操作するのは初めてでほとんどわかりませんでした。先輩社員に教えてもらおうにも、先輩社員たちもPCのことがわからない(笑)。

むしろ「若いのだから教えろ」と言われる側で、やむを得ずワード、エクセル、ハイパーリンクなどを自分で勉強しました。

それと同じように、「先輩たちに聞いてもしょうがない」と思った部分は、若い世代が反面教師にしていくものです。そして、それについていけない大人たちは老害となっていくリスクに直面します。

ビビる経営者の「甘やかし」も悪い

―経営者の評価スキルの問題以外に、ベンチャー30代に特有の課題はありませんか。

じゃあ自分はどうだったんだ、ということですけど、私が30代のときも、常に最新のテクノロジーを学ぶのは当然のこと、すぐには必要ではない企業再生や法律の資格取得、先輩経営者が判を押して進める歴史の勉強に励むなどしていました。しかし、そうしている30代は少数派でした。

いまではそれが通用しないどころか、格差が拡がりつつあるように感じます。学ぶ習慣を身に着けないと確実にステップアップできない時代になっているのに、どこかでそれを受け入れず、目を逸らしているように感じます。

―なぜ、そうした空気を変えようとしないのですか。

人材獲得が過熱しているので、「社員が辞めるリスク」に怯えている経営者が多いと感じます。

でも、優秀な人材を獲得しているのは、高い理想を掲げ、厳しい目標を実現しているベンチャー企業で、そういう会社には「学ぶ習慣」というのが定着していることが多いです。

「社員が辞めるリスク」を恐れて、「企業が成長しないリスク」を受容している。それでは企業としても本末転倒ですし、そこで働く社員も結果として成長しないので不幸になります。

たとえば、新卒入社にも格差があっていいとぼくは思っています。すごい実力をもっている新卒だったら、年収1000万円でもいいじゃないですか。そもそも、トップで内定をもらった人材と、当落線上でギリギリ内定になった人材が同じ給与、同じ評価なのが不思議とも言えます。

プロスポーツの世界であれば初任給なんてなくて、1年目から高額報酬をもらう選手も、そうでない選手もいます。日本では受け入れられるまで時間がかかるかもしれませんが、出発点から横並びというのも、見直すべき頃なのかもしれません。

日本も格差社会になりつつあると言われますが、ほんのちょっぴりグローバルスタンダードに近づいただけ。世界的にみると、ほとんど差がない方だと言えるでしょう。

「マネージャーなりたい」「年収を上げたい」なんて小さな目標を掲げるな

大事なのは明確であることより、大きく描くこと
PHOTO:INOUZ Times

―最後に、ベンチャー30代へのエールがあれば聞かせてください。

「いつまでにマネージャーになる」「いつまでに年収をいくらに」なんていう小さな目標ではなく、「人生を懸けて何を成し遂げる」を考えて欲しいと思います。

それで、実際に実現している人と自分の違いを分析していくと、大きな違いは「習慣」の違いだということに気付くと思います。

大事なのは明確であることより、大きく描くことです。大きく描けば、多くの変化すべきことが存在することに気付くはずです。そうして、その実現に向けて取り組めば、多くの成長をすることになり、結果として30代で年収がピークアウトするということはなくなるでしょう。

ちなみに僕は、日曜の夜は21時にベッドへ潜りこみます。本を読んだりして就寝は22時くらいになるんですけど。

「日曜の夜は21時にベッドに入る」と言うとちょっとした変人扱いをされます(笑)。だけど、プロのアスリートが大切な試合の前になるとお酒も飲まず、早くに体を休めるじゃないですか。それと一緒なんです。朝になって月曜になるとまた激しい戦いの日々が始まる。その戦いに備えて、体力・気力を蓄えなければいけない。ビジネスとは、かくも厳しいものだと、ぼくは思っています。

若く、優秀で、行動力があって、そのうえ性格もいいという、腹が立つほど(笑)非の打ちどころのない若い人材がすぐ後ろに迫ってきています。そこに危機感をもってほしいですね。

―「ベンチャー企業の競争力は人材」だとすれば、ベンチャー30代年収ピークアウトは、ベンチャー企業そのものがピークアウトする予兆なのかもしれません。それを避けるための蔵元さん独自の処方箋をまた聞かせてください。

そうですね、書き溜めたものもありますし、機会があれば。それと、どうも調子がでないので、 “ぢろさん”と呼んでくださいね。

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