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仕事をしないCEO 仕事しかしないCOO

CEOとCOOの経験論的生態学 #2

株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長 蔵元 二郎(くらもと じろう)

INOUZTimes編集部
仕事をしないCEO 仕事しかしないCOO

CEOとCOOという“経営2トップ”の性格や志向性が違う会社ってありますよね。あまりに違い過ぎて「ウマが合わないんじゃ…」と逆に心配になってしまう場合すらあったりしませんか? でも、400名以上のベンチャー経営者を輩出するなど、数多くのベンチャー企業やその経営チームの“生態”を見てきたBNG代表の蔵元さんによれば「CEOとCOOの行動原理は違うのが当たり前なんです」とのこと。CEOとCOOが日々向き合っている “深い相克”について解説してもらいました。

目次 ◆CEOとCOOは“相容れない”
◆「水と油」がよい
◆でも“待った”は禁じ手
◆「相互理解」よりも「相互信頼」

CEOとCOOは“相容れない”

カン違いには笑ってすませられるものと、そうではないものがあります。全身全霊を傾けて働いているのに「アイツ、全然、仕事してないなぁ」と見られているとしたら…。怒り心頭で「っざけんじゃねぇよ!」ですよね。

こんな溝の深いカン違い、錯覚にとらわれやすいのがCEOとCOOという厄介な生き物。CEOはCOOのことを「コイツ、視座が低いな。もっと先を見ろよ」と思いがちだし、逆にCOOはCEOのことを「少しは仕事らしい仕事をしてほしい」と考えがちです。

ベンチャー企業のCOOとCEOの両方を経験した僕から言わせると「CEOはCOOから見て仕事らしい仕事はしていないが、誰よりも大きな仕事に取り組んでいる」し、「COOはCEOの目からは先を見ているようには映らないが、きちんと手は打っている」のです。

ただ、結論を先に言うと、CEOとCOOがお互いに抱くカン違いを解消する方法はありません。なぜなら、CEOとCOOは“相容れない関係”にあるからです。

でも、「カン違いが起きやすい」ということさえわかっていれば、「いま自分はCEO(あるいはCOO)に対してこう感じているが、これはカン違いなんだな」と客観視することができるし、「もっと向き合う必要があるんだな」と自らをかえりみるユトリも生まれます。

ですから、この記事がカン違いを起こしているCEOとCOOが歩み寄ったり向き合うきっかけになれば、僕の本望です。

まず、なぜCEOとCOOの間ではカン違いが生まれやすいのか。そこから説明しましょう。

「水と油」でよい

僕がHRベンチャーを共同創業し、会社のNo.2であるCOOとしてオーナー社長のCEOと“二人三脚”で経営していたことは、この連載プロローグでお話ししました。そのとき、こんなことがありました。

オーナー社長のCEOは行動力や好奇心が旺盛。シリコンバレーに長期視察に出かけたり、政治家と昵懇になったり、財界人が出入りするような銀座の有名老舗クラブ(しかも、かなり高級!)に通ったり。時々、そうした人たちと僕を引きわせてくれたりもしました。

そのひとつに、どのようにして知り合ったのかはわかりませんが、書道家やスピリチュアルな絵を描く画家、といった文化人の方たちもいました。

正直に言いましょう。政治家、銀座の有名ママさんと引き合わせてくれても、「これで業績が上がるわけがない」と内心、辟易していましたし、書道家、画家との付き合いとなると、まったくもって意味不明。「オーナーの会社なのだから好きなようにやってもらってかまわないけど、あまりムダなお金は使わないでね」。そんな風に思っていました。

でも、僕のこんな考えは打ち砕かれます。自分の足らざるところを感じさせられもしました。こんなことがあったんです。

―あるとき、CEOがこう言い出しました。「書道家の先生、画家の先生の力を借りて、ノベルティの日めくりカレンダーをつくろう。経営者の金言を書にして、印象的な挿絵を入れてもらう。そんな“日本を元気にする”カレンダーを。どう思う?」と。

そんなことを聞かれたって、僕にとっては「?」がいくつも頭のなかに浮かぶ話。HRベンチャーの本業とは無関係だし、業績への貢献度は未知数、というかほとんどゼロ。わざわざお金をかけて、そんなノベルティのカレンダーをつくる意味がわからない…。

でも、いざつくってみると、ものすごい人気になったんです。「おもしろいものをつくるね」と顧客企業などから大評判になりました。

CEOが書道家や画家の方たちとお付き合いしていたのは、決してカレンダーをつくるためではなかったはずです。いろんな人脈をつくることで、それまで自社ではできなかったことができるようになる。つまり、会社の将来を広げるために、多様な人脈づくりに勤しんでいたんじゃないかと思います。少なくとも、自分の日々の仕事しか考えていない人間には持ちようがない感性、考え方です。

Apple創業者のスティーブ・ジョブスは、技術陣が自信満々で持ってきたiPhoneの試作機を水槽に放り込み、試作機からブクブク浮かぶ空気の泡を指さしながら「もっと小さくできるはずだ」と一刀両断したそうですね。アップルの技術陣は、あらゆる知見を総動員し、「今の技術では、これ以上は小さくできない」と確信していたはず。しかしジョブスは、「iPhoneの理想の姿は、これじゃない」と、こともなげに突き返したわけです。

「今の技術」を磨きに磨き、その極大化を目指したアップル技術陣と、「理想の実現」以外には興味関心がないジョブス。この対立軸は、未来を考えるCEOと日々の業績と格闘しているCOOの関係性に似ています。

“待った”は禁じ手

いまCEOになった僕がやろうとしていること、しようと思っていることの多くが、当時のCEOがやっていたこと、発言していたことと重なります。当時の僕が「どうせ道楽」と思っていたようなことを、いま自分の手で実行しようとしているのです。

なぜ、そうなのか。行き着いた答えのひとつが、「未来を考えているCEOにとっては、COOが必死になっているような“今日明日”はあまり意味がない」ということ。たとえば、ある程度、売上が目標を上回っても、ちょっと調子を落としても、COOのように浮かれたり、深刻には受け止めない。「そんなこともあるよね」です。

水と油という言葉がありますが、CEOとCOOの「モノゴトの見方・感じ方」には、それくらい大きな隔たりがあるのです。

では、混ざり合わない水と油は、どのようにして折り合いをつけるべきか。向き合って、信じるしかありません。なぜなら、混ざり合わない、つまり相互理解できないのですから、向き合い、信用することでしか折り合えないからです。

だけど、ありがちなのが、超長期の視点で考えられたCEOの戦略にCOOが“待った”をかけてしまうこと。これは最悪。まさに当時の僕がそうでした。

CEOから「こんなことをやりたいんだけど、どう思う?」と聞かれたら、「それが何年後にいくらの売上になっているんですか?」「それは変数が大きすぎます。むしろ会社のリソースをもっとこちらの方面に回すべきじゃないですか?」と反論することがたびたびあったんです。「会社のためを思って」の反対意見、のつもりでした。

でもそれは、まさにとんでもないカン違い。なぜならCEOとCOOでは見ているものがまったく違うからです。

重視している「経営指標」も異なります。いわばCOOは“P/Lオタク”。売上に責任を負っているのですから、損益計算書をなによりも重視します。P/Lを「自分の通知表」とも思っています。

一方のCEOは、1年という短期の結果を記録しただけにすぎないP/Lには、実はさほど関心はありません。もっと大きな関心を払っているのは、自社の企業価値。上場会社なら時価総額が企業価値を測る尺度になりますが、非上場会社の場合、「影響力」がそれにあたるでしょう。

「いい会社」と言われているか、爪痕を残すような仕事ができているのか、取引先やユーザーから信頼されているか。そうしたことです。

そもそも創業オーナーは、自分の理想を実現するために起業したのですから、「理想の実現に向かって着実に前進しているかどうか」に最大の関心があるのは自然なこと。“P/Lオタク”であるCOOにとっては「理想でメシが食えるのか」ということですけど、そもそも企業という存在についての認識が異なります。COOにとっての会社は、P/Lという「自分のミッションを高いレベルで達成するための場」であるのに対し、CEOにとっては「自分の理想を実現する手段」なのです。

映画で言えばCEOは「主役兼監督兼脚本家」といったところでしょうか。いわば「世界の北野」ことビートたけしのような存在。COOは名脇役といったところ。用意されたセリフを監督が期待する演技でこなせれば合格です。しかしCEOは、キャスティングはもちろん、映像も音楽も衣装も小道具も、すべてにおいて自分の世界観を貫き表現したうえで、観客を感動させなければ満足できない。

こう考えれば、CEOとCOOがかみ合うわけがないし、COOがCEOに“待った”をかけるのは、脇役が「監督、それはこう撮らなきゃ」と言うのも同じ。まさに禁じ手、ですよね。

同じことはCEOにも言えます。「COOの視座が低い」「COOが先のことを考えない」なんていう“不満”は持つべきではありません。なぜなら、視座を高くし、先の先を考えることこそ、CEOの仕事であり、役割なのですから。

もし、自分より視座が高く、先のことを深く考えられるCOOが現れたら、どうぞ経営の一線からお引き取りください。それが会社のため、でもあります。

「相互理解」より「相互信頼」

また、たとえ相談されたとしても、COOが取り組んでいる目先の仕事にCEOが口出しするのはもってのほか。なぜなら、「不確実な未来」を見据えることに専心しているCEOが、「マーケットのいまの姿」を100%正確にウォッチできているワケはありませんから。

ごくまれに私もいまの会社のCOOから「どうしましょう?」と相談されることがあります。そんなときは「こんな本が役に立つかも」と推薦書を紹介したり、「ドラッカーがこう言っていたよね」と示唆したり。踏み込んだ具体的なアドバイスを求められたら「頼むから、絶対に鵜呑みにしないでね」と断りを入れつつ、「もしも、仮にいま話してくれた情報がすべてだったとしたら、自分ならこう考えるかもしれないけど」と話したあとに「絶対に、頼むから鵜呑みにしないでね」と念を押します。

なぜなら、どれだけクリティカルな状況か、正確にはわからないですし、説明された情報以外にいろいろな要素がからみあっているはず。それらが見えていない自分に正しい判断ができる自信がありませんから。

将来の戦略を考えるプロ経営者がCEOなら、COOは短期の業績を上げるプロ経営者。同じプロですけど、サッカー選手と野球選手のように、やっている競技が違うんです。ですから、お互いの戦っている世界に踏み込んだアドバイスはできないし、すべきではない。だけど、リスペクトし合い、信頼し合うことで、強力な経営チームができるはずです。そのうえで、お互いに結果責任を負う。それ以外の関係の結び方は、ありません。

私が尊敬しているある創業経営者は、以前はよく一緒にゴルフやテニスに行っていた会社のメンバーをCOOに就任させて以来、その人とは一切、プライベートな交流を断ったそうです。

「もちろん嫌いになったわけではない。しかし、プライベートの交わりをすることでなれ合いが生まれ、お互いの“プロ意識”が欠如するリスクを感じる。だから、一緒にお茶をするなどしてコミュニケーションは積極的にとっているが、それ以外のプライベートな交流は絶ったんだ」と話していました。

プロ意識を強く保ち続けようとしているその姿勢に、僕はとても感銘を受けました。

実力があり、高い人気を保ち続けている漫才の名コンビにも、そうしたパターンが多いそうですね。デビュー前の素人時代は大親友だったのに、いまではお互いのプライベートは一切知らないし、関与しない。楽屋も別々。顔を合わせるのは舞台上だけ。お互いの携帯やメールも知らず、どうしても会話が必要になったときはマネージャーを介してやりとりする―。

それでも名コンビが名コンビであり続けられる理由とは、お互いがお互いをプロとして認め合い、信用し、尊敬し合っているから。「相互理解」ではなく、「相互信頼」をしているからなのでしょう。

「CEOのことがよくわからない」とお嘆きのCOO、「COOはもっと会社の将来を考えてほしい」と願っているCEOは、一度そこに驕りやカン違いがないか、向き合ってみてはいかがでしょうか。そして、お互いがお互いを「よくわからない」と認め合ったうえで、それでも信頼し合えるのか、リスペクトできているのか。それこそが問われているのだと思います。

【PROFILE】

蔵元 二郎(くらもと じろう)

株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長

鹿児島県出身。九州大学卒業後、大手金融機関にて採用・経営企画に携わった後に、ベンチャー企業にて新規事業の立ち上げに従事。2002年、27歳で株式会社ジェイブレインを共同創業し、取締役最高執行責任者に就任。2009年、34歳で株式会社BNGパートナーズを創業、代表取締役社長に就任。2016年、代表取締役会長CEOに就任。
◆PHOTO:INOUZ Times

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