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「このCEOについていこう」 そう思った理由

研究「No.2の流儀」

株式会社ウィルゲート 専務取締役COO 共同創業者 吉岡 諒(よしおか りょう)

株式会社キープレイヤーズ CEO/代表取締役 高野 秀敏(たかの ひでとし)

INOUZTimes編集部
「このCEOについていこう」 そう思った理由

ウィルゲート専務取締役COOの吉岡さんに自身の経験に基づいたNo.2論を聞く連載。今回は「No.2はどうやって生まれるのか」についてです。フランスの哲学者・ボーヴォワールは「女に生まれるのではない、女になるのだ」と言っています。No.2も肩書で決まるのではなく、獲得していくものなのかもしれません。ナビゲーターはベンチャー企業の経営チームに詳しいキープレイヤーズ代表の高野さんです。

目次 ◆信頼関係と当事者意識
◆倒産の危機
◆No.2のモラル、No.1の器
◆高野's EYE~かけ算の分担

【回答する人】

吉岡 諒
吉岡 諒(よしおか りょう)
株式会社ウィルゲート 専務取締役COO 共同創業者
1986年生まれ。慶應義塾大学在学中の2006年6月に株式会社ウィルゲートを小島梨揮氏(現・同社代表取締役CEO)とともに設立。
https://www.willgate.co.jp/

【ナビゲートする人】

高野 秀敏
高野 秀敏(たかの ひでとし)
株式会社キープレイヤーズ CEO/代表取締役
1976生まれ。株式会社インテリジェンス入社。2005年1月、株式会社キープレイヤーズを設立。
https://keyplayers.jp/

信頼関係と当事者意識

―今回は小島(ウィルゲート代表取締役CEO小島 梨揮氏)さんとの役割分担についてお聞きしたいと思います。

事業面は私、新卒採用や人事、経営企画は小島という役割分担でやっています。キャッシュフローや預金などの財務については、創業フェーズや倒産危機の時期を除いて、私はほとんど気にしたことがありません。新卒採用についても小島にまかせきりにしています。一方で小島は営業活動や顧客対応はほとんどしてないですね。

―倒産危機のお話はのちほど聞きますが、「まかせきりにしている」というのは、要するに小島さんが担当している業務に吉岡さんは関与できないということですか。そうではなくて、あえてタッチしていないということですか。

後者です。当然、小島から資金面や人事採用などの情報共有はありますし、私も事業の進捗報告はしっかり行っています。情報を独占することで、おたがいに相手を排除しようとしているとか、我関せずで興味がないということではありません。

気になることがあれば、おたがいに意見を言い合うし、意見を求めたり、求められたりすることもあります。それでも、意図的に活動領域が重ならないようにしているんです。

―最初からそうだったんですか。

そこは起業したときから意識していましたね。ウィルゲートのように創業者がふたりいる会社って、エンジンがふたつあるようなもの。だったら活動領域を重ねないほうが推進力は強いはずだと。

―確かに、翼の片側にエンジンがふたつあるよりも、右と左にひとつずつあったほうが速く、高く飛べそうですよね。でも、一方で硬直化というデメリットもありそうです。どちらかがボールを拾わなければならないのに「それってCEOの仕事ですよね」「いやいや、COOの業務だよ」といった“大企業病”的な官僚化や、最悪の場合、責任のなすりつけ合いみたいなことになりかねません。そこはどうやって回避してるんですか。

役割分担をするためには、深い信頼関係と当事者意識が欠かせないと思います。相手を信頼できなければまかせられないし、当事者意識が欠けているとパスの出しあいばかりでゴールをする人がいない。そんな状況になりますよね。

僕と小島の場合、前回でお話した、小学1年生からの親友だったという歴史があります。それが、信頼関係の基礎をつくっていることは否定しませんが、それ以上に私が小島の人柄や人としての器に惚れ込んでいることが大きいですね。

ただ、No.1とNo.2が幼馴染や親友同士だからといって、それが必ずしもプラスになるとは限らないと思います。会社に対して当事者意識をもっていなければ、ただの馴れ合いになってしまうでしょう。ここで言う強い当事者意識とは「会社で起きることは、全部自分の責任だ」と考えているかどうか、ということです。

倒産の危機

―だけど、意地悪く言うと、口ではなんとでも言えますが、意識のあるなしの証明って難しいですよね(笑)。

確かに(苦笑)。僕の場合は、努力して当事者意識をもつようにしているのではなくて、創業期の危機を通じて染みついている、というほうが正しいかもしれません。

―なにがあったんですか。

会社が赤字になり、危機的な状況になって、会社を救うために小島が背負った1億円の借金を一緒に負うことを自分から提案したんです。

倒産危機のきっかけは設立2期目。エンジェル投資家の4名の方々から1億円を調達し、「短期間で会社を成長させて、最年少上場するぞ」と調子に乗って一気に中途採用で人を増やしたんです。30名まで増員したにもかかわらず、全然売上が伸びず、採用にともなう固定費で月700万円の赤字を垂れ流す状態に転落。それでも、人員を整理する勇気がなかったんです。そうやって判断をためらっているうちにキャッシュアウトして「もうお金がない」「どうするんだ」という状況になりました。

投資家の方々とも大モメしました。「資金調達した後、なんの報告もないし、やっと来たと思ったら『会社が潰れそうです』だなんて、ありえない!」と責められましたね。当時の私たちの振る舞いや状態は、怒られて当然だったと今では激しく反省していますが、まだ21歳だったのでそういった“世間の機微”をまったく理解していませんでした。

そのときは、デッドとエクイティの2本立てで資金調達していました。それで怒り心頭の投資家たちから「デッドは即返済しろ。エクイティも買い戻せ」という要求を突きつけられたんです。本来は買い戻す必要はないんですが、「人生賭けてもお返しします」ということで買い戻すことにしました。

―となるとエンジェルからの調達資金と同額、1億円のお金が緊急で必要になったんですね。どうしたんですか。

結論から言うと、小島の家の隣に住んでいたことがご縁で株主になってくださった方に事情を説明したら、最悪の状態だったにもかかわらず、「小島くんを信じるよ」と1億円をポンッと貸してくれたんです。ドラマみたいな話ですが。

で、お話ししたいのはここから。小島はその借金を全部、自分で背負うつもりだったんです。でも、そうなったらもう「私と小島は対等な関係ではなくなる」と思ったので、借金の一部を自分の名義でも借入することを申し出ました。ただ、借金の額が小島よりも少ないのはフェアではないと感じたんですね。そこで自身で借金を負うことに加えて、私は小島の借金の連帯保証人になることにしたんです。

そこからの5年間は家賃も払えないような生活。当時は学生だったにもかかわらず、生意気にスポーツカーに乗って代々木の高級マンションに住んでいたのですが、車は処分し、マンションも解約しました。たまたま学芸大学にあった祖母の家に居候して、ひたすら働き、借金を返済する。そんな日々でした。

No.2のモラル、No.1の器

―小島さんは1億円の借金を自分ひとりで全部背負うと言ったんですよね。「じゃあ、悪いけど、お願いします。私は背負いません」となるパターンの方が多いと思います。

積極的に借金を負いたがる人はいないので、普通はそうですよね。小島は倒産危機に陥ったときに、「吉岡は会社を辞めて、就職活動すればまだ人生やり直しがきく。全ての責任は自分が負うから、船から降りていいんだよ」とも言ってくれました。当時はまだ大学生だったので、小島の言うとおり、会社経営を諦めて就職活動をするという選択肢もあったんですよね。

―だったら借金を背負わず、堂々と会社を辞めることもできたわけですよね。なのに、自分名義で借金したうえに小島さんの連帯保証人になるなんて、なぜそんな心中覚悟のようなことができたんですか。

全部自分のせいだって、やっとそのときに気づいたからです。

会社の経営が悪化したのは自分のせい。だったら沈みゆく船に小島をひとり残して自分だけ逃げ出すなんて、そんなひどいことはできない。実績もないのに信用して仕事を発注してくれたお客さま、夢が実現できると信じて入社してくれた社員。そんな人たちを置き去りにしてサッサと逃げ出すなんてことは、人としてあり得ない。そんな意思決定をしたら、残りの人生をずっと後悔して過ごすだろうと思いました。

それと「船から降りていいよ」と小島が言ってくれた時に、逆に小島に一生ついて行こうと決めたんです。正確には、「自分が沈みゆく船の船長になって全ての責任や借金は負うから、もうお前はこの船から脱出して光の人生を歩んでくれ」と言われたんですよね。すさまじいことを言うなとも思いました(笑)。

―なかなか言えないことだと思いますけど、だからといって吉岡さんのように負う必要のない借金や連帯保証を申し出る人はほとんどいないでしょうね。「あざっす」と言って逃げる人の方が多数だと思います。なぜ、会社を辞めて人生を出直してほしいという小島さんのメッセージに応えなかったんですか。

まず、「自分のせいだから逃げ出すわけにはいかない」という自分のなかのモラルの問題。それと、小島の仏のような人徳に触れたからですね。それが会社にとどまり、自分も借金を負うことを決意した理由です。

創業期の危機を一緒に経験し、ふたりで乗り越えたことで、私と小島の信頼関係は強固になったし、No.2とはいえ誰にも負けない当事者意識をもてるようになりました。よく「経営者にとって会社はわが子同然」と言いますけど、私も「会社は自分自身」と思っています。

結局、命を懸けても頑張ろうと思えるかどうかは、No.1の器の大きさにかかっているのかもしれません。私も人間なので、尊敬できない人のために頑張りたいとは思えないじゃないですか。

―(続く)―

高野's EYE~かけ算の分担

ほとんどの企業は「経営陣で役割分担しています」と話します。でも、多くの場合は「Aさんの業務はこれ」「Bさんの仕事はこれ」という単なる業務分担ではないか。そんな疑問が前からありました。本来の役割分担とは、経営陣がそれぞれの強みや得意を発揮し、それ自体が相互補完となって経営チームを一体化させ、パワーアップさせることなんじゃないかと。業務分担も役割分担も、どちらも企業成長には欠かせない分担なのだけれど、業務分担は“タスクの割り算”、役割分担は“バリューのかけ算”ということです。

「役割の分担」がいつの間にか「業務の線引き」に矮小化してしまうケースもあります。そうして、たとえば経営危機から抜け出すといった、業務としては明確な線引きのしようがない出来事が発生したとき、No.1と一緒になって戦ってくれるNo.2の不在があからさまになる。こんな悲劇に見舞われないためには経営チームの信頼関係が大切という吉岡さんのお話には、うなずけるところが多かったと思います。結局、No.1のふるまいがNo.2をつくり成長させる、ということについても。

とはいえ、おたがい人間。どんなに信頼し合っていても、時には意見対立することもあるでしょう。次回はNo.1とNo.2の“コミュニケーションの取り方・あり方”について聞いていきます。

ウィルゲート代表、小島梨揮さんの著作『ウィルゲート~逆境から生まれたチーム』では“CEOのホンネと想い”が赤裸々につづられています。
詳しくはコチラ

連載:研究「No.2の流儀」 -株式会社ウィルゲート 専務取締役COO 吉岡 諒-

1.だから私はNo.2を自ら選んだ

2.「このCEOについていこう」 そう思った理由

3.「言いたいことを全部言う」という覚悟

4.トップはNo.2に選ばれる

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